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第78話 熱

いよいよ大イベント、事務所所属グループやタレントが全員出演するコンサート準備が大詰めになる。チケットは即日完売し、立ち見席も完売した。 RINGは新曲とデビュー曲、ライブで披露したダンスナンバーと、バラード曲の4曲を披露する予定だ。個別の仕事が多かったが久しぶりにメンバーが揃う仕事に全員が安心して楽しむ余裕さえあった。様々な困難を乗り越えたRINGは自信しかなかった。ただ、今回は自分たちのファンだけではない。1番ファンが多いAltairをはじめ、ブルーウェーブ、78、サナ、ダイアモンド、そして、このステージでデビューかどうか決まるブラックパール。それぞれのファンのみんなが受け入れてくれるのか、大河は少し緊張していた。  (まぁた熱…)  大河は例の如く、熱を出して楽屋のソファーに横になった。 「大河さん、無理しないで」  「大丈夫。いつものことだよ」  楽屋から一歩も出ない優一はピタリと大河のそばにいて、寝息を立て始めた。はじめてのコンサートの時は大河と優一が率先してステージの演出や確認を行なっていたが、今は青木と誠がステージの導線やライトや音などを確認してくれている。レイは相変わらずテレビ局に引っ張りだこだ。  (ユウ、緊張してんのかな)  大勢のスタッフが投入され、裏も表も人が多い。時々無表情になるのが気になっていた。  (こんな時期にタカさんは、ツアーだしな)  ピアニストとの共演に優一も喜んで、演奏会を見に行っていたが、爆睡してしまった、と顔を赤くしていた。大河はぼんやりと、優一の寝顔を見ていると、突然目を開け、ガバッと起き上がり、ギターを抱えた。  (降りてきた??)  目を閉じて、コードを探るような仕草、そして音を鳴らす。  大河も思わず起き上がって優一を見た。滑らかな音に、大河も目を閉じて聞き入った。  「〜〜〜♪」  何となく、メロディをつけてみる、声に出す気は無かったが、ゆっくり目を開けて優一を見ると、蕩けるように笑って頷き、先を促しているようだ。嬉しそうな顔に癒されて、横にゆっくり揺れながらしばらく音に乗せた。  「うわぁーーい!大河さんっ!できた!」  「おいおい、適当だよ?」  「同じ!同じだったぁ!すごいっ!すごくない!?」  「いや、分かんねぇけど」  大興奮する優一は、イメージしていたのと、大河が口ずさんだメロディが一緒だったと、鼻息荒く語って、大河は大爆笑だった。そこからご機嫌になった優一はまこちゃんを探す、と外へ出て行った。  (静かになった…)  しん…と静まり返った楽屋に、はっとする。ドクドクと心臓がうるさくて胸を掴む。  (なんだよ…今更。もう大丈夫だろ?)  冷や汗が出てきて動揺する。この間は、気持ちを分らせるためとはいえ、自分からタカの唇を奪ったというのに、景色があの頃とかぶる。   (いい加減にしろ…もう、俺もタカさんもあの時から進んだんだ…っ!)  「…ムカつく…」  手が冷えてきて歯がカチカチとなりそうになるのを食いしばって顔を腕で隠す。  ガチャ  「ひいっ!!」  「どうした、大河、大丈夫か?」  「レイ…」  「汗だく…。」 察したのか苦笑いしてタオルで拭いてくれる。悔しくてレイに抱きついた。  「まだ、越えられてないんだな?」  「越えたし!」  「はいはい。強がりはいいから。…しりとりでもする?」  「しないよ!バカ!」  ははは、と笑うのに安心して、先程のメロディを口ずさむと、レイはリズムに合わせて背中を叩いてくれた。  「ん…ぅ。」  寝返りをうって目を開けると、思わぬ人にビックリして飛び上がった。  「っ!!…なんだよ」  「レイさんと話しにきたらレイさんが呼ばれたんだもーん!ね、ユウは!?」  「知らねぇよ。」  翔と2人きりなんてなったことがなくて、居心地が悪い。それでも出ていくそぶりを見せない。  「なに」  「何ですか?」  「誰もいないから行けよ」  「大河さんいるじゃん」 「あァ!?」  怖っ、とニヤニヤされるのもウザくて、また寝返りをうつ。  「レイさんも過保護だよねー!大河のそばにいてやってって」  「そうか。ご苦労。もういいから。」  「…マコとはどーお?」  「何がだよ」  「付き合ってんでしょ?」  「だったらなんだよ」  「やっぱさ、最近男らしくなったから心配?」  「余計なお世話」  「へー?自信あるんだ?」  苛立って起き上がる。またニタニタしていると思ったら寂しそうな顔で調子が狂う。  「なに。何が言いたいの」  「…どうやったらメンバー相手に近づけるの?」  「は?」  「…分かんない。イライラする」  「知るか。八つ当たりすんな」  「俺のこと好きって言うのに、俺の誘い断るんだよ?」  「誰の話してんだよ。相談相手間違えてんだろ」  「どうやってマコちゃん落としたの」  「なんでそんなこと…」  「分からないんだもん!!!」  大きな目が、ぶわっと潤んでパタパタと流れた。  「ユウも、大河さんも、冷たいよ」  「…ご、ごめん、泣かせるつもりじゃ」  「分からないんだよ、どうやったら進めるの?」  「俺じゃなくて…ユウ、そう!ユウは相談のってやるだろ?」 「ユウは…俺に男同士の話をしない。俺…青木がユウを傷つけた時、そこにいたから。冷やかしと思われてると、思う」  「そっか。」  「大河さん、苦しいんだよっ」  大河は翔の取り扱い方が分からなくて困った。ひたすら泣く翔はやはりセンターなだけあって涙も綺麗だった。  「…相手が…お前のこと好きなら…もう話は進むだろう?」  「一回、振っちゃったんだ…大地に失恋してすぐだったから…」  「はっ!?お前、マコじゃないの?」  「マコと大河さんの間に入れるわけない。…ユウに失恋した大地と…セフレだったけど…俺が惚れちゃって」  「待て待て待て!ちょ、マジか?意味わかんねー。近場でドロドロだな」  「大地がユウを傷つけた時に、もう大地を諦めた。ユウには勝てないって…。」  大河は頭を抱えた。そんなことが起こっていたとは知らず、仲がよさそうに見える翔と優一だったが、優一は少し線を引いているようだった。  「何があったか知らねーけど、好きなら告ればいいだろ?」  「大河さんは待つタイプのくせに」  「俺は、必死に伝えたよ。プライドや恥を捨てて、今伝えなきゃって必死にな。」  驚いている翔に、ダサいだろ?と少し思い出して笑った。意外…と涙を拭いて隣に座ってきた。  「勇気をください」  「はぁ?お前にそんなもんいらないだろ」  「ダメかもしれない…でも、もう、失恋したくない…」  「失恋したくないからそいつなのか?」  「え?」  「そいつが好きだから、じゃなくて、失恋したくないから、なら…お前失恋するぞ」  図星だったのか黙る。相当参っているのだろうか、敵意むき出しだった相手にここまで弱みを見せるのは意外だった。  「そいつを選んだのは、お前を好きと言って確実だから?そんなんじゃダメだ。そいつがお前にとって大切かどうかを考えて、それを伝えればいいんじゃねーの?正直、お前が本気出せば誰でも落とせるだろ」  「マコも大地もダメだった…自信なんかないよ」  「あー…あいつらは特殊というか…」  「大河さんが羨ましい。口が裂けても言うの嫌だったけど、心からそう思うよ。あと、ユウも。たくさんの人に愛されて、守られて…」  「ユウは守られてばっかりじゃない。自分が傷ついたとしても人の何倍も人を守って、救ってきた。だからみんなユウに手を差し伸べるんだ。助けてもらったから」  パチクリと瞬きをした後、敵わないや、と苦笑いした。大河の膝を枕にして寝転んだ翔の頬を大河はパチンと叩いた。  「どけ。甘えんな」  「厳しい!」  「お前と距離を縮めたつもりはない」  「嫌だ!!俺は今不安なの!先輩なら慰めてよ!」  「なんつー自己中野郎だよ!勝手にしろ!」  大河:ユウ、楽屋戻ってこい  ユウ:はぁい!今行くね!  大河はケータイを置いてため息を吐く。上から見下ろす横顔は本当に整っている。鼻筋がスッと通り、長い睫毛、柔らかそうな茶髪。髪を撫でるとビクッと跳ねてこちらを見た。  「ビックリした…」  「嫌だろ、どけ」  「ううん。もっとして」  「うーわ、お前すごいな」  素直さにビックリして、そのまま髪を撫で続けた。  「大河さん、篤さんが、…っ?!わぁお!どういう状況!写真撮っとこ」  「やめろ!ユウ、代われ」  「うわぁー!さすがセンター!映えるねー!」  まこちゃんに送っとこ〜とニヤける優一は、レアだとロック画面にまで設定していた。  「こいつの悩みきいてやって」  「ん?翔くん悩んでるの?」  「ユーウー!!!」  優一に飛びかかって抱きついた翔に心底安心して、パーカーのフードを被り、イヤホンをして目を閉じた。少し様子を見ようと薄く目を開くと、やっぱり優一は、うんうんと真剣に聞いてあげていた。  「翔くん、セナさんが好きなんだ?」  「うん…そうかも」  「そっか!さっき、セナさんに会ったよ!長谷川さんとめっちゃ英語の勉強してた」  「英語?」  「そうそう!結構上手だったよー!」  「ユウも英語できるの?」  「うーん、高校レベルかな」  不思議そうにする翔に優一は笑った。翔に好きな人ができてホッとした。なにより翔が幸せそうに見えたのだ。誘っても断られるなら何か事情があるはずだ。  「少し、見守ってあげたら?相手が余裕ない場合もあるよ?翔くんも、そうだったんでしょ?待ってあげて」  たぶん、セナが何かを目指して取り組んでいるんだろうと思った。ライブのリハが詰まっている中の勉強だったのだ。  「いいね!恋してる翔くん素敵だよ!キラキラしてる!」  「え、そうかな?」  「うん!ライブも楽しもうね!」  そういうと満足したのか、笑顔で手を振って楽屋を出て行った。優一は、先ほど少し外に出ただけで疲れていた。久しぶりに78の篤と話し、癒されているところに78のほかのメンバーに絡まれ、サナの相手をし、誠を見つけられないまま大河から呼び出された。  (はぁ…疲れた…。早く歌いたい)  気疲れを覚えてタバコを取り出したが、大河のために箱に戻した。  (タカさん…会いたいよ…)  ピアニストとのツアーに、タカは今まで以上に喜び、母さんを招待した、と喜んでいた。麗子からも優一にメッセージがきて、嬉しかった、と共有された。幸せそうな親子の写真に嬉しくて胸が切なかった。  (「ばあちゃんにも見せてやりたかったな」)  元ピアニストのタカの祖母。小さい頃、働く母親に代わりタカと遊ぶためにピアノを教えてくれたと言っていた。優一はそっと天井に向かってありがとう、と呟いた。  カシャ カシャ  「…?…マコ、なんだよ…いたのか…?」  「猫と子犬」  「あぁ!?お前、二度と猫って言うなって約束したろ?」  「ちょっと、大河さん、しーっ!優くん寝てるから」  胸のあたりにあるピンク頭に驚いて息を飲んだ。迎え合わせのソファーではなく、わざわざ床に座り、ソファーに頭を乗せ、大河の近くで眠っていた。 「大地さんと翔くんのもいいけど、俺にはこっちがいいな。2人とも安心しきって眠って.可愛い。タカさんにオススメしようかな。優くんならうさぎさんも…」  「お前、変態に磨きがかかってるぞ」  巻き込むな、と呆れていると、優一が近くにいるのにキスしてきて固まった。  「や、やめろって」  「大丈夫、起きないよ」  「そういう問題じゃない…っ、っ」  しばらくキスして、口を離して見つめ合うと微笑まれ、ボンッと顔が赤くなるのがわかった。 「終わった?」  下からの優一の声に血の気がひいた。  「次はRINGさん、リハ入りまーす!」  「「よろしくお願いします」」  頭を下げてステージに行くと、何名かのタレントが客席で見ていた。  「大河、マコが落ち込んでるぞ、どうした?」  「あいつはどこでも関係なく手を出してくるから叱っただけ」  「あっはは!そりゃそうだ!叱られて当然だ!じゃあほっとこう」  レイが笑って誠をみて、慰めに行ってくれた。よく見ると、客席にAltairが全員揃っていた。  (珍しいな…RINGなんか興味ないくせに)  その中で、大河を排除した透を見つけ、今の自分を見せようと思った。リハだけど、真正面から見られるのはなかなか無い機会だからだ。目があったレイに頷くと、察したのかレイも頷いた。大河とレイの空気が変わると、 その雰囲気をみてそれに倣う年下組。新曲リハからと言われ、ニヤリとした。音が流れ、本番同様に煽った。すると優一が本当に幸せそうに笑うから、少し照れ臭くなったが、その世界観にどっぷり浸かった。  歌い終わった瞬間に、優一が音の調整をスタッフに依頼していて、冷静だったことに驚く。  「青木、ごめん、ここのフリのとこタイミングいい?」  「いいよ!レイさんと俺の間で…レイさんちょっといい?」  「あ!大河さんここのフレーズもう一回お願いしていい?」  それぞれが一気に動いたことに、Altairは唖然と見ていた。長谷川は腕を組んで真剣だった。  「ここだと…伊藤さん見え方どう?」  「それだとマコがかぶるかな。」  「ありがとう!そしたら…」  伊藤も真剣に客席から指示を飛ばした。そして、大河と優一は音のチェックを真剣におこなって、新曲リハが終わった。 バラードの曲になると、客席に伸びる花道にあるサブステージに2人、2人、センターステージに1人と分かれた。大河と優一、レイとマコ、そしてセンターに青木。カップルダンスがあるため、身長が近い方が合うとこの分け方になった。青木が何度もリクと楓にアドバイスを貰った緩めで少し大人っぽい振り付けだ。この曲になると、78とリクも集まってきた。そして、リクはレイと誠の所へ、楓は青木の所、ルイは大河と優一の所へと、割り振ったかのように向かった。  (ルイさんだ…)  (大河さん、ルイさんと話したことある?)  (あんまりないよ。たまにシュウトさんに会いにきてるぐらいかな)  2人は緊張してルイを見ると、ニカっと笑うだけだった。  ーーレイマコ  「わぁ!リクさん!よろしくお願いしまーす!」  「はーい。大地にマコちゃん見てって言われてるからな」 「うっそ!ひどい!自分が緊張するからって!」  和気あいあいのスタンバイだった。 「大地今日は緊張しないんだな?」  「リクさんをマコちゃん所にしたので!楓さん、2サビのところ見てて欲しいです」  「うぃー」  全員で頭を下げて音をもらう。大河と優一はこの曲が好きで、ダンスをいれるとのことで優一が少しムーディーに編曲した。2人は絶対に目を逸らさないという約束をして、お互いの大きな目を見つめた。優一が妖艶に表現すれば同じように、笑えば笑う、と鏡みたいに踊って、青木のいるセンターステージに歩いて行く。真ん中が上がる仕掛けになっている場所に大河、優一、誠が乗る。真ん中は更に高く上がるため、そこには大河だけ。優一のリクエスト通り、がなるような、少し洋楽を意識した歌い方とロングトーンに、優一のハイのハモリと誠のローのハモリ。気持ち良すぎてカメラに笑う。レイの低いメロディーと青木の低音のラップが心地いい。今が本番でもいいと思える程、気持ち良すぎた。  照明が暗転して、ステージがゆっくり下りる間も、大河は余韻から抜けられなくて、力が抜けそうになるのを誠が支えてくれた。  「大河さん…本当すごいな、やっぱり…やばかったぁ…」  「ん…俺も、ドキドキした…今日がリハなんてもったいないね。すごくビリビリする…」  誠も優一も表情が良くて、2人に抱きつくようにステージが下りるのを待った。  「大河ぁ!お前すごいなぁ!」  リクが下から声をかけてくれて、微笑む。ステージが元の場所まで戻ると、いつの間にかAltairはいなくなっていた。  「響くん!この様子なら社長大喜びじゃない?!うわー!ムカつくぐらいすごかった!本当にショーって感じだった!」  「リク本当?リクにそう言って貰えるとすごく嬉しいよ!」  「うん!本番も楽しみだな!…じゃあアドバイス。マコちゃん、レイの動きをコピーすればいいから。フリを覚えようとするんじゃなくて、レイをみろ」  「はい!ありがとうございます!」  誠は大きな声で返事をした。リクは次にルイに話を振った。  「んー、2人はもう世界観に入っているから良いと思うー!あ、ひとつだけ、ここのフリの時に、…こう」  ルイの表情が突然大人っぽくなり、少し裏のビートを取った。  「こうだと、もっとキレが出る気がするよ!ただ緩いだけより決め所があると、もっとかっこよくなりそう!」  ルイのアドバイスに、優一は目を輝かせ、激しく頷いた。そのルイをリクは驚いた様子で見ていた。  「大地は問題ないけど、センターステージにせっかくいるんだから、もっと大きくやればいい。みんなはサブステに2人もいるから狭いけどお前はこんな広い場所に1人だぞ?もっと使える」  「ありがとうございます!」  伊藤も嬉しそうに一緒に頭を下げた。事務所の所属が多いため、すぐに次と代わり、楽屋に戻る中、大河はくるりとステージに戻った。それを見て優一もとことこと付いてきた。  「見学するの?」  「ああ。俺とレイが入る予定だったグループの、リハを見てみたくて。」  「一緒に見ていい?」  「もちろんだ。むしろ、いろいろ共有したい」  客席に座ってリハのやりとりを見ると、ブルーウェーブのマネージャーの岡田と長谷川が熱心に話をしていた。マイクを使って指示するのは岡田。そして、答えるスタッフと、翔。他のメンバーは指示通りに動くだけ。  「こうありたいっていうビジョンがないのかな」  優一は不思議そうに言った。翔以外は意見が全く無いように見えたのだ。見ていても、もっとこうしたら、と思うが翔のやりたいように進むだけだった。  「…良かった。」  「え?」  「俺、レイの足を引っ張ってここにいるんだ。ずっと、不安だった。レイはAltairが良かったんじゃないかって、俺のせいでって。でも、見てたら分かる。数字じゃない。俺のやりたい音楽も、そしてレイの魅力もRINGじゃなきゃ出せない。RINGで良かった。」  優一は目を見開いて、大河を見ていた。それに笑って、また前を向く。見えるのは全員が翔に必死について行くチーム。  「Altairにいたとしたら、荷が重すぎる。あの人数を抱えている翔はすげぇよ。」  心から尊敬した。あの自信はこの実力からだと分かった。メンバーに恋をしたと言っていたが、仕事中には一切出さず、大河には誰なのかも分からなかった。そして、翔には圧倒的なセンターの風格があった。  (俺がセンターとしてまだ確立できていないから、Altairに勝てていない。俺が成長すればRINGは一気に上に行ける。)  歌唱力、ビジュアル、ファンサービス、トーク、演技。翔にはできることが多かった。大河は歌唱力以外は全く太刀打ちできるものがなかった。  「大河さん、翔くんは翔くん、だよ。全て完璧がセンターじゃない。魅力的な人がセンターなんだ。センターに引っ張っていってもらうグループと、センターと一緒に走るグループの違いだよ。」  「ユウ…」  「もう、無理はしない!俺は全部頑張ろうとして、全部ダメにしそうだった。でも、1つでも縋り付こうとしたのが歌や音楽なの。だから、音楽だけでいいやって思うとすごく楽になった。だからね、大河さんも音楽だけでいいんだよ?得意なものを伸ばしていこ?」  説得力がある言葉に、そうだな、と笑った。いつの間にかAltairのリハーサルが終わっていた。Altairが楽屋に戻る中、翔がステージから降りてきて、まっすぐこちらへ向かってきた。  「ユウ、大河さん、どうでしたか?」  「「えっ?」」  「もし、ダメ出しあったらください!」  「翔くん…」  「俺たちにアドバイスをくれる人はいません…。でも、満足できないんです。少しでもいいので、何かありませんか?」  真剣な姿に、翔が伸びる理由が分かった。大河はその熱意に応えようと口を開いた。  「2曲目、セナさんと愛希のハモリが合ってないから気持ち悪い」  「あ、たしかに外してたや」  「透さん、振り付け入ってないかも、確認してあげて」  「あー…あの人、覚え悪いくせに練習しないんだよなぁ。天才のふりして、本番にしか本気出さないとか言うんだよ…」  翔は本当にムカついているのかうんざりしていた。  「あと、陽介さんリズム走ってる。晴天さんは導線忘れてるかも…ステージ乗り遅れてたから。ヒカルは目立ったミスはなかった。」  「うぅ…でも課題しかない」  「あと、みんな、つまんなそう」  大河の言葉に、翔は悲しそうに顔を歪め、大河に抱きついた。  「大河さん…あなたの抜けたAltairは、もう立て直せないかも…俺1人じゃきついよ…」  優一も顔を歪めた。そう、翔が1人でやっているようなステージリハーサルだったのだ。  「俺、この仕事好きだから、続けたいけど…俺だけ浮いてるよね?…たまに虚しくなるんだ」  「翔!ここにいたのか…」  「あ、セナさん」  弱音を吐いた顔を隠して笑うのが辛くて、見ていたが、優一の目が据わっていて大河は慌てて止めるも間に合わなかった。  「セナさんお疲れ様です。」  「ユウ、見ていてくれたの?ありがとう」  「はい。でもビックリしました!Altairってもっとレベル高いと思いました。」  「「ユウ!」」  「レベル高いのは翔くんだけでした。俺、めっちゃ勘違いしてました。」  翔は複雑そうな顔をしていた。セナは驚いて固まったままだ。  「俺らのリハーサル見ました?」  「あ、あぁ。」  「どうでしたか?」  「え、あ、みんな動いてるなぁって。」  「そうです。Altairはどうでしたか?何か発言しましたか?」  「いや、何も問題なく…」  翔はため息を吐いて頭を抱えた。大河は苦笑いしてセナを見ていたが、優一が我慢できなかったのか、急に興奮し始めた。  「問題ない!?うそですよね?問題しかないですけど?あの状態でコンサートに出るんですか?トリですよね?…グループというより、翔くんとその他です。」 「ど、どうしてそんなこと」  「分かんないですか?翔くんにおんぶに抱っこ。歌もダンスも、導線も音の確認や立ち位置まで、翔くん以外で誰か完璧に把握してます?ちなみにセナさん、音外しすぎです。聞いてられません」  翔は慌てて優一を止めるが、それを大河が止めた。  「愛希さんもズレてるからメロディがわかりません。ハモリパートだし、音が分からなければ歌わない方がいいです。ダンスに徹してください」  ショックをうけるセナに、優一は更に追い討ちをかけた。  「自覚なかったです?誰にも言われたことないですか?…言わないのは優しさじゃない。諦められているんですよ。俺は、セナさんのために…いや、翔くんのために言っています。傷つけたいわけじゃありません、グループとして高みを目指す気がないなら、せめて翔くんの邪魔をしないでください。」  お疲れ様です、と笑って優一は大河の手を引いた。大河は通り過ぎる時に翔に囁いた。  「第三者が言わなきゃ気付かないこともある。」  翔はかなり動揺していた。  「ユウ…」  「悔しいよ、大河さん。翔くんの気持ちや立場に立って考えたら耐えられないよ。でも、まだリハーサルは2日間残ってる。俺は先輩たちを信じてる」  そこから優一は、Altairの楽曲をダウンロードして、真剣に聞き始めた。セナと愛希のハモリを聞いて、音源と全然違うと嘆いていた。誠にセナのパートを聞かせるとすぐにマスターしていた。優一が愛希のパートをやると気持ちのいいハモリだ。大河は激しく頷くと、優一のケータイで、それぞれのパートとハモったパートを録音し、優一が翔に送った。  ユウ:翔くん、セナさんと愛希さんに送って。せめてここだけでもできたらいいなって。  翔:ユウ、大河さんも、ありがとう。俺、RINGが良かった。  ユウ:Altairには翔くんが必要だよ。なんでも相談して。  ふぅっと一息ついた優一に、ありがとな、と頭を撫でてやると気持ちよさそうに笑った。 「大河さんはもう終わりだよね?いいなぁ。俺今からサナのリハーサル。三輪さんいないから全部把握しなきゃ」  苦笑いして、横になった優一にアイマスクを貸してやって裏口から出た。  「大河さん、帰ろ」  誠が待っていてくれて、車に乗る。少しドライブをしてマンションに着いた。部屋に入ると、大きな背中をギュッと抱きしめた。 「マコ…」  「大河さん…?その声…コンサート終わるまでシないって」  「なんか…モヤモヤする」  「する?」  「ん…抱いて」  ゆっくり唇を合わせて立ったまま脱がされて行く。お互いありのままの姿になって深いキスをする。誠の胸のリングをいじった手を取られ、寝室に引っ張られベッドへと沈む。奥がズクズクと疼いて、この衝動を早く解消したくて膝を立てて腰を上げる。見上げた顔は切なそうに、焦れたような顔で幼く見えた。  「大河さんっ、なんか、っ、」  「なに…っ、んっ、」  「なんか、分かんない、けどっ、」  言い表せない気持ちに、2人は焦ったように体を開いていく。  「ッ!!!マコ!」  「大河ッ、はぁっ!気持ちぃっ!」  あまり慣らさないまま入れて、求めていた刺激に背が浮き上がる。  (もっと、もっと、痛いくらいしてほしい)  久しぶりのコンサートで興奮しているのだとしたら、本番の後はどうなるんだと、今からでも恐怖を感じた。  「マコ、ッ、奥が、ッ、もっと、強くして」  「はぁっ!ぁっ!ぁっ、ぁ、大河、」  誠は聞こえてないのか、没頭して腰を振っている。ならば、と大河も誠に合わせて腰を振る。  「くぅっ?!」 「ーーッァアァア!!はぁぅ!!」  「ッ!?」  「アッ、ぁっ、ァアァア!!!」  「ぅ、…きっつ…」  「はぁっ!ン!!ーーッ!?」  「大河、いっぱい出して、」  ビリビリと刺激に身体を震わせていると、前立腺をガンガンと突かれ声にならない声で叫ぶ。  (気持ち良すぎておかしくなりそう) 潤んだ目で誠を見ると、まだ誠は快感を必死に追っていた。  (なんか…切ないよ…)  好きすぎて、気持ち良すぎて、ギュッとなる胸の痛みを落ち着かせたくて、更なる刺激を求める。どうしたらいいのか分からなくて、ひたすら目の前の逞しい身体にしがみつく。  (あ…マコ、イきそう…。あの温かいのが中にかけられる。)  「はぁー、はっ、はっ、大河!大河!」  「マコっーーッ!ゥンッ!っァアァアーー!」  ギュッと抱きしめられて、奥に勢いよく吐き出される。  (はぁ…気持ちいいっ…)  誠の荒い呼吸を吸い取るように、唇を塞いで舌を絡め、また腰を振ると、誠が腰を引いて逃げる。脚でギュッと近づけて、下から思いっきり腰を振る。  「ッ!?大河、待って!」  「待て…ないッ!お願い、まだ、まだ…、壊れるくらいシてッ?ね?」  「大河さんっ!」  「お願いっ!マコ、が、欲しい!俺、おかしいっ、欲しくて、ッアァッ、たまらないっ」  「殺す気?」 「ッァアァアーー!!ッ!ぅんーー!」  ベッドの軋む音が、誠が求めている音のような気がしてほっとする。肌のぶつかり合う音や水音、全てが奏でてる最高の曲を2人で歌っているような錯覚になると、ビクビクと身体が跳ねて堪らなくなる。  「マァコ!!!マコ!!ッァアァア!!出ちゃう!出ちゃう!」  「はぁ、はぁ、はぁ、大河、愛してるよッ」 「俺、もぉ!!ッァアッ!!ダメッ…ァアァアーーッ!!」  「ーーッ!」  ちゃぷん 湯船に浸かると1日の疲れが取れるような気がした。今日はベタベタに甘やかしてもらいたくて頭も体も洗ってもらった。 「マコ…、コンサートの後、覚悟しといて」  「やだ…もう。想像しただけで臨戦態勢になっちゃう」  「やめろって。今じゃない」  「大河さん、今日のバラードの時、イきそうな時みたいだった」  「や、マジで、そのぐらい気持ち良すぎて…本番イったりして」  「あの大河さん見て超我慢したんだよ?褒めて褒めて」  後ろからギュッと抱きしめられ、肩にキスをしながら、頭を差し出してくる誠に笑って撫でてあげた。  「でもさ、俺、自分が本当怖いよ。なんであんなに高まっちゃうのかな…コントロールしねぇと」  「大河さんの色気、すっごいよ!コントロールできるならやってほしいなぁ」  「コンサートでは我慢して我慢して、マコと2人きりになったら出す、みたいな?」 「んぅーー!嬉しい!俺に出してくれるってー!嬉しい!」  悶える誠に向きを変えてキスをして、そっと上に乗る。  「えっ?…んぅ!…はっ…ぁ、大河さん…いいの?」  「マコ…?…やっぱ…おさまんない…俺を解放してよ」  「うん、分かった。掴まっててね」  「ッぁあああ!ンッ!んぅ!ッはぁ!ん、」  涙を流して気持ち良さに浸った。  「大河の熱は本番までかな?」  伊藤がおでこを触るだけで、ンッと声が出て口を抑えた。  「おーい!今のなんだ?…溜まってんのか?…バランス考えろよ」 苦笑いする伊藤に、真っ赤な顔でうるさいと言った。火照ってしまって仕方がない。目は勝手に誠を追う。仕事では切り替えるから許してと、心の中で謝って穴が開きそうなほど誠を目で追った。  「大河さん、いい加減にして。」  「え、あ、マコ、ごめん」  「抱くよ?」  本当にやりかねない顔で言われ、伊藤にしがみついて隠れた。伊藤は苦笑いだったが、優しい顔だった。その後に、大河の向かいのソファーでイビキをかいて爆睡するレイを愛しそうに見つめた。 

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