82 / 140

第82話 最終日とその後 タカ×優一

「ッはぁッ!!はぁッ!!」  「んぅーーッ!!ッァアァア!!もぉ!イっちゃうよぉ!」 「優一、ッ、ン、イって」  「ッ!?ッアァッ!!ッァアァアーーッ!」  小さな身体をガンガン揺さぶって吐き出しても興奮が治まらない。顔を真っ赤にして身体を震わせ、必死に呼吸する恋人を解放しなければと思うのに、頭が沸騰したように熱い。  「タカ…さ…んっ、もぉ、むりぃ…っ」  「ん…ごめんな…無理させた…」  「あんっ、やだ、触んないでよぉ、ゾクゾクするっぅ、」 少し触っただけで、ビクビクと跳ねて気持ち良さそうな顔をするから、たまらない。  「タカさん…ッ!やっぱり…ッ、おさまんないよぉ!」  助けて、と泣きながらすがりついてくる。優一も興奮が冷めなくて、でも明日のことを考えて、と頭がぐちゃぐちゃになったようだ。  「泣くな。明日腫れるぞ」  「好きっ、タカさん、大好き、愛してる」  必死に口づけながら伝えてくれるのに、心の中で謝って、もう一度中を攻めた。  「開場しまーす!!」  「タカ、そろそろ起きて」  シュウトに起こされて、ぼんやりと場所を確認すると楽屋だった。ここまで来た記憶がないほど眠気がすごかったが、眠ったことで体は回復していた。  「こんな騒がしいところで眠れないタイプなのに。珍しいね、大丈夫?」  「あぁ。スッキリしてるよ。…うーん!頑張ろう!」  「ふふっ!肌ツヤツヤー!」  「だろ?そういうお前も!サクラさん見に来てるの?」  「うん!モモも。モモが大きい音大丈夫かが心配だけど…」 シュウトは意外にも同棲に落ち着いていて調子もいい。オープニングのために、衣装に着替えてスタンバイをした。オープニングが終わると、バンドまでひたすら待機することに始めは怠かったが、出番まで爆睡していた。  「タカ、起きろ。そろそろだ。」  「ん…翔太さんありがとう」  「大丈夫か?喉の調子とか、変な感じは?」  「全くない。調子いいかも」  良かった、とにこりと笑い、行ってこいと送り出してくれた。 ダンスチームがセンターステージで踊っている間にバンドセットが組まれる。はじめはサナの持ち曲である、あのアニメソングの2曲伴奏だから気が楽だ。このアニメは当たりに当たり、サナは多忙になり、自信もついてきた。このコンサートにかなり気合が入っていて、安心の仕上がりだ。  「よろしくお願いします!」  サナの声と共に、ライトアップされ、タカの作った楽曲からスタートした。声量もあがり、会場から大きな歓声を浴びていた。2曲目のイントロが流れると更なる大歓声で、優一の狙い通り、掛け声もあり会場の熱が上がり、難しい分、演奏していても楽しかった。サナが頭を下げて、袖に捌けると、キーボードの場所からセンターのマイクスタンドに移動する。誰とも目を合わさず、自分のタイミングで歌い始めると、問題なく音が入ってくる。ライトが強く当たると、ビリビリと大きな歓声が伝わる。  (たまんねぇな…)  衝動がテーマな曲は、いまの感情を乗せるには十分だった。バラードの時には使わない、エッジをきかせた声も使って、マイクスタンドからマイクを抜いた。完全に音に酔って、気持ち良すぎる感覚に浸った。間奏部分を長めにして全員の紹介をする。それぞれのソロ演奏パートを作り、目立つようにした。中でも優一のギターソロには、会場が沸いた。雄の目つきで客を煽るようにギターをかき鳴らし、頭も振って、普段の可愛い優一はどこにもいなくなっていた。男の歓声が大きい気がして、ギターの音に酔いながら優一に近付き、後頭部の髪を鷲掴み、思いっきり舌を絡めてキスをした。  『キャーーーー!!!』  カメラにバッチリ抜かれていたキスに、予定していたかのように見せて、その場をやり過ごしたが、優一からの更なる挑発を受けて間奏が長くなる。もう一度キスしてすぐにラストサビで、この衝動を全部歌に乗せた。いつまでも収まらない歓声を浴びながら袖に捌けると優一の手を掴んで廊下を歩く。  「コラ!タカ!お前なにやってんだ!」  「ユウもだぞ!」  2人のマネージャーが仁王立ちで待ち伏せしていたが、タカは翔太の耳に囁いた。  「冷静になるためにこいつと頭冷やしてきます。」  翔太は頭を抑えて、伊藤の呼ぶ声を無視して、一番遠いトイレの個室に入りひたすらキスをした。  「んぅっ、ん、ふぅっ、んっ」  「はぁ、んっ、ん、」 お互い焦ったように下を脱いでお互いのをくっつけて握り合う。 「ぅあああんっ!ーーっ、っ」  「さすがにっ、声は、抑えろ」  「んぅ、んっ、んぅ、っ、ん!!」  ガクガクと優一の足が震えて、手の動きが緩慢になる。我慢出来ずに吐き出したのを指で絡め、狭い個室で中を慣らし、抱き上げ、優一の背中を壁に押しつけ、腰を打ち込んだ。  「ァアァア!んっ!あ!ぁああ!」  「優一、っ、ん、っ、声っ」  「ッぁああ!あぁー!!っあんっ」  理性が飛んでるのか、場所を忘れて喘ぐ優一の口に舌を絡め、さっさと落ち着こうと腰を振ると、狭い奥に入り、優一の目が見開いた。  「ッァア!アァ!ァアァア!!」 (あ、やば、優一のイイところ…)  ぎゅっと締め付けられ、ぐぐっと、優一が頭を振りながら肩にしがみつく。その後、小さく早い呼吸をした後、優一が顔を上げて、あの大好きな表情になった。  「ッ!ッァアァアーーーーッ!!」  「くぅっ、っ!!」  「ふうっ、ーッ、はぁっ、ぁっ、ぁっ」  慌てて抜き、優一のお腹に吐き出した。優一も余韻に震えて、必死に肩にしがみついている。  「優一、行かなきゃ」  「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ヤバイ気持ち良すぎる」 「優一?大丈夫か?」 「はぁ、ぁ、っ、どうしよ、気持ちい、タカさん足りないよぉ」  「家まで我慢しろ。今からステージだろ」 ぼんやりした優一の身体を拭いて、隠すように支えて歩く。RINGの楽屋を開けると、泣きそうな顔した大河と誠が慌てたように離れた。  「悪い、こいつ頼む。出番以外に絶対楽屋から出すなよ」  「あ、はい!分かりました!」  タカの服を掴んで入ろうとしない優一に困ったが、大河と誠がおいで、と呼ぶとフラフラとソファーに向かった。タカも歯を食いしばって耐えている中、優一は潤んだ目でこちらを見てくる。 (堪えろよ、優一)  (タカさん、無理だよ、シたくて仕方ない)  目で会話しながらドアを閉めようとすると、優一の甘えた声が聞こえて慌ててドアを開ける。  「大河さん、マコちゃん、触ってよぉ」  「ユウ…」  「我慢できない…っ、おかしくなりそっ」  「こら!大河さん!」  「ユウ、俺もぉ…お前ならいいよ」  「んっ、んぅ、んっ」 「優一!!」  大河が妖艶に笑って優一の膝に乗って唇を合わせた。タカはブチンと切れて誠に大河を回収させ、優一をブルーウェーブの楽屋まで引き摺った。  「あー!タカ!やめてよ、楽屋ではダメだよ」 「分かってる!」  「お前全然冷静になってねーじゃねーかよ」  「翔太さん、もう優一、手に負えないよ。伊藤さんは?」  「呼んでくる。」  タカは少し焦ってソファーに寝かせた。優一はぼんやりと周りを見てニヤッとした。 「ジンさーん、お疲れ様でした!かっこよかったぁ」  「優一くんもかっこよかったよ!もう…タカが我慢できなくてごめんね?明日の話題になるね」  「ジンさん、頑張ったから頭撫でて?」  「あははっ!可愛いねぇ!はーい、お疲れ様ぁ!」  優一はカナタとタカの存在を忘れて、ジンに甘えた顔をする。 「んぅっ、ん、手ぇおっきい、気持ちいい」  「っ!?…た、タカ、パス」  ジンは慌てて手を離してカナタの隣に座った。カナタは複雑そうな顔で2人を見て眉を下げた。  「おーい。優一、いい加減にしろ。今からステージだぞ。」  「タカさんが興奮させたくせに…ズルイ。もう我慢できないもん。」  色気だだ漏れの優一に困ってため息を吐くと、伊藤がすみませんでした、と回収してくれた。ほっとひと息吐くと、ジンもカナタも安心したように笑った。  「タカ、よく我慢できたね?」  「本当に!めちゃくちゃエッチしてから戻ってくると思った」  「…や、シたかったよ。でも、あいつらが努力して準備したステージを俺が台無しにするわけにはいかない。」  「成長したねー!!偉いよ!」  「カナタさん、俺、このステージ本気出すからついて来てね」  「うん!楽しみ!」  ビリビリするほどの欲をステージにぶつけようと耐えた。  RINGのステージを舞台袖でスタンバイしながらモニターを見る。初日よりも遥かに仕上がっていて、タカでさえ鳥肌がたった。気迫がものすごくて、こちらもテンションがあがる。  『キャーー!!!』  昨日もあった大河と優一のカット。いい演出だな、と思った瞬間、2人の目つきがエロいものに変わって唇を合わせた。  『キャーーーー!!!』  割れそうなほどの大歓声。次のパートの誠が引き裂くように前に出て、たぶん怒っているだろうという感情をそのまま乗せ、がなるようなアレンジが新鮮でさらに上がる。  (へー、マコちゃんこんな歌い方できたのか。そうとう怒ってないか?)  カメラに抜かれた優一は気持ち良さそうに笑った後、いつもにはないアレンジでフェイクをした。それに呼応した大河の迫力もどんどんあがり、それをレイがしっかりと支えて今まで以上に良かった。  鳴り止まない拍手の中、スタッフからGOサインが出でステージに行く。一面がブルーに染まって綺麗だった。4人で目を合わせ、ふわっと笑った後、自分の全てを出し切った。  ステージを歩けば、普段はしないが、あの時優一が喜んでくれたのを思い出し、花道の途中で座って、ファンを見つめて歌うと、優一みたいに涙を流して喜んでくれた。手を振ったり、笑いかけたりしただけで喜んでくれるのが嬉しくて客の一人一人を見た。関係者席を見ると、見慣れた顔があった。  (あ、柚子みっけ)  唖然としてこちらを見る柚子に、全身全霊を込めて、歌った。思わず閉じていた目を開けて、柚子を見るとボロボロ涙を流していてニヤッとした。  (勝ったな)  そして、リョウの隣には美奈子を見つけたが、もうどうでも良かった。自信しかなくて、今度は美奈子にだけ思いを乗せて歌った。  (俺は、ここだから、こんな歌が歌えています)  しばらく憎しみとか恐怖心しかなかったが、今幸せを感じていることを伝えようと笑った。タカのパートが終わって、遠くでカナタが歌っている中、美奈子に笑って手を振った。隣のリョウが大きく手を振ってくれて、口パクで美奈子さんも、と言うと目を見開いて泣いたのをリョウが支えていた。  (お幸せに)  口パクで言うと、リョウがありがとー!と叫んでいて、ニカっと笑い返した。曲が終わっていて、のんびりとメインステージに戻った。  「皆さん、今日はタカのテンションが上がっています。珍しくファンサービスをもらった方、激レアですよ」  「これからやっていこうかな?」  「そうだよ、やりなよ」  「シュウトもやるそうです!」  キャーーと嬉しそうな声が届いてシュウトと目を合わせて笑う。  最後の新曲は、自分も泣きそうになるほど想いを込めた。カナタと目を合わせてハモる最後のところで、カナタの目から涙が落ちて、会場が沸いた。  「カナタさーん、泣かないでー」  「ごめっ、本当に、タカの本気すごいね」  「違うでしょ、カナタさんが想いを乗せたからでしょー?」  この新曲制作の時は、ジンとカナタが大変だった時、結ばれるまで必死だった2人。  「ジンさん、パス」  「はぁい。カナタ、お散歩しよっか」 手を繋いで出て行った2人にシュウトとニヤニヤと笑った。  エンディングでは、ブラックパールのデビューか、据置かが発表される。タレント全員と、コンサートの前座で披露したブラックパールがセンターに立ち、一人一人が挨拶したあと、スクリーンに結果が出た。  「秋にデビュー決定です!!」  花吹雪も出て、会場が一気に沸いた。レイが走って来てレナを抱き上げて喜んで、メンバーもハグしあった後、4人は楓さーん!と呼んで、78の楓が出た。  「楓さんが、どんなに忙しくても、私たちを支えて、アドバイスしてくださいました。楓さんがいたから、デビューできました!ありがとうございます!」  楓は泣くのを我慢して笑っていたが、ついに泣き出したのをブラックパールが囲み、会場も感動の涙で包まれた。78のファンが叫ぶように歓声をあげ、かえでー!と名前をたくさん呼ばれていた。  「皆さん、どうか、応援を、よろしくお願いします!」  泣きながら笑って、全員で頭を下げていた。そのままエンディングを迎えようと思った時、重大発表!と画面いっぱいに出た。  『バンドチームBR、野外フェス出演決定!』  『サナ、ライブツアー決定!』  『RINGドーム公演決定!』  『78ダンスバトル日本代表でロスへ』  『翔&大地CDデビュー決定!』  『Altair全国ツアー決定!』  『ブルーウェーブ、ファンイベント決定!』  『ダイアモンド単独ライブ決定!』  一気に出た発表に会場からは歓声が鳴り止まないまま、事務所の大きなプロジェクトであるコンサートが幕を閉じた。  「かんぱーい!!」 打ち上げには未成年のダイアモンドとブラックパール以外が参加し、大盛り上がりとなった。宴会番長の78とレイが盛り上げ、涙が出るほど笑っていた。カウンターにはサナ、翔、優一、篤、カナタ、大河が座っていて女子会枠と揶揄われていた。 席の移動が多くなって、タカはジンと長谷川と話し込んでいると、反対側で盛り上がっていて、見ると、リクと楓とレイが一気飲み勝負になり、リクが圧勝していた。長谷川はニコニコと笑って見て、可愛いと漏らした。  「長谷川さん?」  「うちのリク可愛いでしょ?ガキと同じレベルで楽しんでる…。きっと楓の頑張りが嬉しかったんだろうね〜。見ててね、突然潰れるから。」 またしばらく話していて、ふとリクを見ると見事に潰れていた。ふふっと笑うと、カナタが席に来て、耳打ちした。  「優一くん、連れて帰って」  「え?なんで?」  「マスターに口説かれてるよ」  カナタが持ってきたコースターの裏側に電話番号。慌てて優一を見ると、気付かずに楽しそうに話している。  「酒飲んでる?」 「ううん。大河が阻止してる。」  ゆっくり立ち上がって、伊藤に優一を連れて帰ると伝え、翔太にも声をかけて優一を連れ出した。  「今日はタクシー?」  「ううん、ここのホテル。出待ちもいるかもしれないから。」  ラウンジより上の階に向かって預かった鍵をあける。 「わぁ!夜景が綺麗!」 嬉しそうにはしゃぐのが可愛くて捕まえて抱きしめる。 「優一」  「んぅっ、んっ、ふっ」  後ろからキスしてすぐに腰がぬける優一に気を良くして電気を消して、夜景だけが照らす。ベッドで裸で抱き合って、長い間キスだけをし続けた。 「タカ…さんっ、…は、気持ちい…」  「俺も…、そろそろ、触っていい?」  「うん…いいよ…」  囁くような返事を聞いて、持って来ていたローションを温めて、ゆっくり解していく。それだけでも腰がビクビクと跳ね、甘い吐息を漏らす。 「優一、好きなだけイっていいからな?コンサートは終わった。よくやり切った。お疲れさん。」  「うんっ、うん、ありがとう、っ、タカ、さん、も、ぉ、お疲れ、さま」  ふわりと笑う顔にキスして、ゆっくりと熱を入れ込むと、腕に爪を立てられ、背中が浮き、絶叫が聞こえた。  「はぁ、はぁっ、…大丈夫か?…動くよ?」  「ァアァアーー!はぁんッ!ァア!ァア!」  優一は頭を激しく振って、涙を流して快感に襲われていた。名前と、気持ちいいを連呼されて、思わず中に注ぐと、それだけでもイってしまって、中はものすごい蠢きだ。  「優一、っ、ぁ、」  「はぁ、ぁっ、ぁっ、あっ、んっっ、またぁ」  「え?」  「やぁ、ダメぇ、クるっっ!ーーッ!!ッァアァア!!」  動いていないのに、身体を震わせて出さずに絶頂を迎え、荒い呼吸を繰り返す。  (かなり興奮してるな…大丈夫かな)  ペースが早い優一に心配するも、次から次へと訪れている絶頂になす術なく、波に呑まれ、飲み込めない涎が滴る。舌で舐めとって、そのまま口付け、ゆっくりと腰を振ると、また思いっきり締め付けられ、イったのが分かった。  「タカさん…すき、っ…っ、」  「優一?…おい、優一?大丈夫か?!」  意識を飛ばした優一に慌てて抜いて、風呂に連れて行った。 ピンポーン  コンコン  ピリリリリ ピリリリリ  ドンドン ドンドン  騒がしい音にぼんやりと天井を見る。隣を見ると、優一が気持ち良さそうに爆睡している。やっと静かになって、もう一度寝ようと優一を抱きしめて目を閉じると、カチャンとカギが空いた音がして、パチっと目を開いた。  「タカ、何時だと思ってんだ」  「あ…翔太さん…」  ブチ切れそうな翔太にきょとんとして見つめると大きくため息を吐いた。そして、後から伊藤もやってきた。  「あ…何時?」  「14時」  「えっ!!?」  「午前中のは全部ずらした。夜のはさすがに生放送だから調整できないぞ。」  タカは慌ててケータイを見るとものすごい着信履歴。  「…全く。疲れてるの分かるけど、せめて連絡はくれよ。心配した」  「ごめん」  伊藤は優一の頬を叩いて起こそうとするも、嫌がってタカの腰にしがみついて寝息を立てた。  「社長は本当、お前に甘いよなぁ。Altairがやったら1発クビだぞ。もっと責任感持てよ。ユウはセーブしてるから、それに合わせたら大変だぞ。」  「ごめん」  急に翔太がおでこに手を当て、気持ち良くて目を閉じると、ため息を吐かれた。  「伊藤さん、ユウは?」  「あぁ。ユウも熱出してる」  「世話焼けるカップルだな。2人揃って。」  困ったように笑い、翔太は事務所に連絡をし、伊藤は薬を準備した。  「コンサートで出し尽くしたんだろうな、お疲れさん。」  優しい翔太の言葉に安心すると、裸だった身体がぶるっと寒気を感じた。同じタイミングで優一がくしゃみをして2人は慌てて暖房や服を準備し、もう少し寝てな、と出て行った。  (確かに疲れたかも) 引っ張られるように眠りについた。  リョウ:タカさん、美奈子が話したいって。ラジオの後、会えない?  ラジオ前に来たメッセージに息が止まりそうになった。リョウを経由してくれたのがせめてもの救いだった。  タカ:リョウさん、お疲れ様です。俺は、話すことはありません。では、次の収録で!  リョウ:タカ、俺たちのためにも、手を貸してくれないか?少しでいいから時間がほしい。  リョウのメッセージにため息を吐いて、バーで会うことを約束した。  ラジオは気になって集中出来ず、そわそわしたまま生放送が終わった。足取りが重いタカに翔太が不審がっていたので、翔太に相談した。  「翔太さん…リョウさんと今から会いに行かなきゃいけない」  「熱出てるからって断ればいいだろ?」  「美奈子さんからのご指名だって」  「っ!」 「翔太さん、一緒に行って、待っててくれない?」 「………分かった」 2人で向かったのは高級そうなバーだった。夜景の見える席で、リョウと美奈子は画になるほど綺麗だった。  「お疲れ様です。」  「お疲れー…あ、マネージャーさんも一緒?」  「あ、はい。翔太さんです。」  「…?…あなた、どこかで…」  美奈子が翔太を見て首を傾げると、翔太はポロポロ泣き始め、タカも驚いた。  「美奈子さん…っ、やっと会えた」  「あぁ!!あなた!元気だったの?!ほら、座って!」  美奈子の顔が明るくなり、席に座るように言った。リョウも驚いて2人を見ていた。  「美奈子?知り合い?」  「うふふ、ファンよ。学生だったわよね?立派になったのね」  「ぅーっ、〜っ、」  「翔太さーん!大丈夫?」  タカも思わず笑って、翔太の背中を撫でた。  「どんな作品の試写会にも来てくれて…ありがとうね」  「もう、ぅ、っ、演技はしないんですか?」  「…需要はないわ」  「美奈子さんの、演技、また、みたいです!演じてるときが、楽しいって、言ってくれてました!また、ドラマや映画で、見たいんです!あなたは、表に立つ人です!裏方なんて、勿体無いです!お願いします!戻ってきてください!!!」  翔太が必死に、泣きながら頭を下げるのに、美奈子は唖然と見ていた。隣のリョウは嬉しそうに笑い、美奈子を見た。  「ほら、美奈子。待ってくれてる人がいるじゃん。やってみよ?」  「今更…」  「本当はお芝居好きなんでしょ?」  「私は…」  「美奈子さん!本当に、俺、待ってます!ずっとずっと待っています!」  翔太の熱意にリョウと美奈子は固まった後、ふふっと笑った。リョウが期待してください、と言うと翔太は更にボロボロと泣いた。  「翔太さんのおかげで、ワクワクしちゃった!さて、本題!美奈子」  「…。タカ、今まで本当にごめんなさい」  「えっ!!?」  「あなたの歌にやっぱり助けられたの。助けてもらっていたのに、私は傷つけてばかりだった。あなたの歌を独り占めしたくて、必死だった。必死になればなるほど、あなたも、自分も追い込んで苦しかった。」  リョウが美奈子の手を握り、大丈夫、と言った。  「ママにも泣かれて、怒鳴られて…。でも、許してくれた。ユウちゃんを見守ってほしい、あの子は強くて脆い子だから、とお願いされた。」  「母さん…」  「タカが大好きでした…っ、ぅ、っ、言ったこと、なかった…よね?…ずっと、好きで苦しかった…。他の女と一緒に、なるのが、嫌だった…。でも、他の女が…羨ましかった。あなたに愛される人に…なりたかった。」  綺麗に涙を流し、言葉に詰まる美奈子に隣のリョウも泣いた。  「あなたが…会場で笑ってくれただけで、もう、大丈夫だと、思ったの…。単純な…女よね…。それで…やっと、リョウを受け入れることができた…。そのお礼も言いたかった。」  「え?」  「タカ、やっと、プロポーズ、OKもらえたよ!」 「「え!?」」  2人の左手の薬指にキラリと光るリング。  「美奈子が、一番にタカに言いたいっていうから。疲れていると思ったけど、来てくれてありがとう。明日、マスコミにも情報を出すよ。美奈子が人生で1番愛した人を越えられるように、支えていくから。」  リョウは嬉しそうに肩を抱いて、美奈子の頭を撫でた。  「あ、翔太さん!実は演技のオファーが来ていて…美奈子、迷っていたんです。俺が言っても意地になってたから…翔太さんの言葉があって良かったです!」  「わぁ!本当ですか!嬉しい!!美奈子さん!一生応援します!」  「あなた…ふふっ!本当に一生応援してくれるのね?前から変わらないわ。本当にありがとう」  優しい顔で笑う美奈子を初めて見たタカはすっかり固まった。情報が追いつかなかったが、これだけは伝えたいと思った。  「美奈子さん、リョウさん、ご結婚おめでとうございます!お幸せに!」  「「ありがとう」」  ニコニコと笑う2人は、リングに負けないほど輝いて眩しかった。リョウはテンションが上がり、お酒をハイペースで飲み、子どもも諦めないと言った。  「リョウさん!今子作りしたら、美奈子さんの作品が遅れちゃうじゃないっすかぁ!」  「美奈子はママになった後でも演技はできる!もう避妊しないよ、だって俺は夫だからね!」  「うー!羨ましい!美奈子さんの旦那さんなんて…っ、ぅ、っぅー」  翔太も珍しく酔っ払い、泣き始めたのを、美奈子が困ったように笑って背中を摩った。  「いいもん、美奈子さんに似た女性見つけたもん!」  「え?そんな人いるの!?美奈子みたいな綺麗で優しくて完璧な女性」  「リョウ、もうやめて」  「コンサートに来てたんです。誰かの母親みたいですけど、関係ないです。奪ってでも手に入れます!」  タカはモグモグとつまみを食べていたが、翔太の言葉で咽せた。  「翔太さん、っ、たぶん、それ、青木のママですよ」  「え!?そうなの?」  「若くて綺麗だったって、78が大騒ぎしてた!38歳らしいよ」  「あ、美奈子と同じ年」  「年齢言わないでよ」  「翔太さん年上好き?」  年上というか、と美奈子を見て翔太が笑った。  「努力が見える人が好きです。俺はただ才能があるだけの天才は嫌いです。でも、努力する天才は大好きです。」  その後、翔太はタカの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。  「タカも天才と言われがちですが、ただの天才じゃない。努力がすごいんです。ピアニストとのツアーでも、かなり練習してました。タカを僻んで天才と揶揄する人たちは、愚かだなと思います。目に見えない努力があって初めて天才と呼ばれるほどのものが出せるんです。」  リョウは嬉しそうに深く頷いた。 「努力してる人、自分と何か葛藤してる人、人を尊敬できる人をカッコイイな、素敵だなと思います。だから、年齢じゃないです」  美奈子は照れたように俯いたのを、リョウが頬にキスしてデレデレしていた。  「美奈子さんも、演技はピカイチです!楽しみができたから俺やる気が出ます!タカ!頑張ろうなぁ〜」  「翔太さん、酔いすぎ」  ふふっと笑い、素敵な夫婦に手を振り、自宅へ戻った。冷えピタを貼ってすやすや眠る恋人にキスをすると、んー臭い、と反対側に寝返りを打ってクスクス笑う。  「優一、ゆーう、」  「ん…タカさん、おかえりなさい」  「美奈子さん、結婚するって」  「リョウさん?」  「うん。2人とも幸せそうだったよ」  「良かったぁ…リョウさんも美奈子さんも幸せなんだねぇ…。タカさんも嬉しそう」  「うん…なんか、ビックリして…」  「そっかぁ…よしよし。」  「美奈子さん、俺のこと好きだったって」  「ん、良かった。過去形になってる」  「なんか、変なんだ。優一」  ぐちゃぐちゃの感情に耐えきれなくて優一に甘えると、ギュッと抱きしめられて頭を撫でてくれた。  「タカさん、もうタカさんは自由だよ」  「自由…」  「誰の許可も監視もない。タカさんも幸せ?」  「あぁ!もちろんだ!お前がいるから!」  「んふふっ、おれもぉ!」  ふにゃりと笑う優一にどうでも良くなってきつく抱きしめ、ゆっくりと大きな呼吸をした。  (落ち着く…。幸せだな…)  ゆっくり目を閉じると鼻を摘まれた。  「お風呂いきなさーい!」  悪戯っ子の笑顔で言われ、タカも笑って風呂に向かった。

ともだちにシェアしよう!