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第83話 最終日とその後 誠×大河

(困った……)  リハーサルから色気たっぷりの恋人に悩まされている誠は、大河のそばを離れずに監視するも本人はテンションが高く、絡みついてくる。  「マコ、緊張してんの?」  耐えようと黙っていると、下から上目遣いをしてくる。顔も近いし、腕も触るしどうしたらいいですか、襲っていいですか、と天使に聞くと、ダメだよ、と言われ、悪魔は抱いてあげなきゃ可哀想だろ、なんて言ってくる。  「マコ?おーい、まぁこ?」  甘さを含んだ呼び方に舌打ちすると、眉を下げて泣きそうに目が潤む。 「マコ、怒ってる?」  (ああ!もう!!!)  可愛くてムカつくという初めての感情に苛ついて強く抱きしめて、見ないようにしてため息を吐いた。  (もたないよー!頑張って俺の理性) 「ん…マコ、落ち着く」  胸の中でそう呟き、衣装の上からリングを噛む大河に倒れそうだった。 ベースを持ってスタンバイをする。少し震える手を握ってサナとジンのタイミングを見る。音がなればあとは指が勝手に弾いてくれる。ダンスよりもベースが好きで、ジンと目が合うとニコッと笑ってくれて、楽しくなってきた。 サナが笑顔で頭を下げて、タカがセンターに立つ。  ざわざわした会場が一瞬無音になり、タカの息を吸う音が聞こえた。  ゾワッ  鳥肌がたって、曲のコンセプト通りにがむしゃらにベースを弾いた。ハイになりそうなほどの気持ち良さを味わってドラムのジンに笑いかけると、色気たっぷりの顔で微笑まれた。すると、タカがマイクスタンドからマイクを抜いて優一に近付いた。こちらからはタカの後頭部しか見えなかったが、バックスクリーンに濃厚なキスシーンが流れ、思わず音を間違えそうなほど驚いた。会場は大騒ぎで、ラストサビはその盛り上がりのまま、メロディーラインをキープした。 「あれ、優くんは?」  「タカに連行されてた…全く…。タカはこういうパフォーマンスするキャラクターじゃないからお客さんも一気に沸いたね!ま、いっか!」  「そーですね!パフォーマンスと思えば!」  気持ち良さをそのままに楽屋に戻ると、ドアを開けた瞬間お腹に大河が飛び込んできた。  「大河さん?」  「マコっ!お疲れ!」  「うん!ありがとう!」  「かっこよかったぁ」  下から見上げる笑顔は、初めて見る顔で満面の笑み。思わず唇を奪って、ソファーに押し倒す。服の中に手を入れて、胸の粒を強く刺激すると甘い声が聞こえた。  (やばい…やめなきゃ、やめなきゃいけないのに)  頭とは違い、身体は鼻息荒く、大河の首を舌で擽る。鼻に抜ける声が、大河も理性が飛んでることがわかる。  (ダメ、ここでシちゃダメだ)  歯を食いしばって、手を止めて見つめると、泣きそうな顔で、触って、やめないでと縋り付いてくる。ここまで素直な大河は見たことなくて、このステージに興奮が抑えられていないようだった。 (こんな据え膳なのに…) 「ごめんね、大河さん。あと少しだから…頑張ろう?」  「やだよ、マコ、お願い」 「ダメだって…俺も我慢してるの」  「我慢なんかいらないだろ…?」  大河の誘惑を必死に躱していると、勢いよくドアが開いて慌てて離れた。ドアを見ると、タカと優一。大河同様にとろんとした顔でタカの服を握る優一を呼んで座らせると、今度は大河が優一の膝の上に向かい合わせで座りキスし始めて急いで大河を回収した。タカは優一の手を引いて何処かへ行った。 「こら!ダメでしょ!!」 「あ?うるせーよ。シないくせに文句言うな」  先ほどの可愛い大河はどこへ?というほどいつも通りになり、大きな目がギロリと睨みつけた。ビクッと怯えると、寝る!と大声で宣言し、パーカーのフードを被り、マスクをして不貞寝してしまった。  「大河さん、分かってよ…」  「……。」 「俺だって…本当は俺だって…、でも…」  「分かってるよ。ごめん。お前は悪くない。怒ってないから…少し、反省して頭冷やすな?」 こちらを見ないまま声がして、しばらくすると寝息が聞こえた。  「RINGさんスタンバイです!」  全員が集中するこの瞬間。円陣を組んで声を出し、それぞれの持ち場につく。大河の煽りで一気に会場が沸くのが興奮して堪らない。グリーンで彩られた客席はイルミネーションみたいに綺麗。このライトの一つ一つが、応援してくれているのだと思うと愛しくて仕方なかった。  「マコーー!」  客席からの声に出来るだけ全部答えるように、手を振ったり、ウィンクしたり忙しい。でも、喜んでくれる笑顔を見ると本当に幸せを貰えるのだ。他のメンバーのうちわを持っている子にも、ありがとうね、と伝えるとそれも嬉しそうでほっとする。ファンの中には、メンバー同士をカップルとして、好きでいてくれている人がいて、内輪を見つけるたびに、メンバーと絡むようにした。  『レイマコ 大好き』  (よーし、レイさん…いた!!)  たまたま近くでラップをして、終わった瞬間抱きつくと、笑って頭を撫でてくれた。チラッとその子を見ると顔を真っ赤にして嬉しそうだった。  (レイさん、見て?)  (あぁ、それでか。じゃあこれは?)  急にレイが後ろからハグしたと思ったら、イヤモニをとられ、息をかけられゾクゾクする。  『キャーー!!』  「あっははは!マコ!大成功!」  「レイさん!やりすぎ!」  リハーサルまで緊張していたはずのレイは、いつも通り楽しそうにステージを駆けた。  客席を見ていると、今まで多かったのは、青木と優一、誠と大河、レイと誠だったが、大河と優一が目立ち始めて首を傾げていた。  (まぁー小動物コンビだしね。俺たちも大男トリオだもんね)  そうは言っても多すぎて、大河と優一が近づくだけでも悲鳴が起こり、画面を見ると大河の顔がエロい目で優一を見ている。  (は?大河さん??)  楽屋での、優一の上に乗ってキスしたのも思い出して少しだけイライラしたが、我慢して笑って、客席に手を振った。  RINGのラストは話題の新曲。イントロが流れただけでも会場の声はすごかった。青木のラップは日に日に上手くなっていく。78のメンバーにアドバイスを聞きに行っていただけある。レイの歌唱力もあがり、負けないようにしなきゃと気合いを入れた。大河と優一の掛け合いには、会場からの声が止まらない。  (あぁ…これでか)  昨日と同様に、大河が優一の髪をガシッと掴み、おでこを合わせて叫ぶように歌い、それに優一も大きな目がものすごい眼力で負けずに歌う。その後に出る自分も気持ちを作っていたが、目の前の小動物コンビは、急に目が変わり唇を合わせた。  (はっ!!?)  内心驚いたが1拍も待てない自分の大事なパートで思いっきり苛立ちを乗せて、初めてがなってしまった。  『キャーー!!』 振り払うように2人を引き離してその顔をカメラドアップに抜かれていた。  暗転して捌けると、青木がかっこよかったと褒めてくれたけど複雑だった。レイと先に戻った大河は楽屋でぼーっと座っていた。  (出し切ったんだね、お疲れ様)  誠が隣に座っても、ぼんやりと前を見ていた。衣装のジャケットを脱がせて、そっと横に倒すと、大きな目は開いたまま、放心状態で横になった。  「大河さん、お疲れさま」  「……ん?……うん」  スイッチが切れたような大河に笑って、エンディングまで、楽屋のモニターで先輩のステージを見た。  バタン!! 「かぁっっっこいいー!!もうどうしよ!」  「優くん、しーっ!!」  ブルーウェーブのステージを袖で見た後、優一はご機嫌に帰ってきてデレデレしていた。レイも一緒に見ていたが、涙ぐんでいて驚いた。  「レイさん、どうしたの!?」  「カナタさんやっぱすごいよ…」  「感動したねっ!」  「ユウ、お前は感動より、タカさんかっこいい〜、だろ?」  優一とは違う、とレイが睨むと、だってかっこいいだもん、とクルクルターンをしていた。 ぼんやりしていた大河は優一を見て起き上がり、おいでと優一を呼んだ。素直に大河のところに行く優一を大河が手を引いて思いっきり抱きしめた。  「「「大河(さん)!?」」」  優一も不思議そうに背中に腕を回す。  「お前がステージに戻ってきて、こうして一緒に最後まで出来たこと、本当に嬉しいよ」  大河の言葉に全員が胸にくるものがあった。 「っ!!……っ、大河さん…っ、っ、ありがとっ、」  「やっぱ、お前には、ステージが似合う」  「うん、ありがとうっ、ぅ、っ、」  「似合いすぎて、綺麗だった…。マコ、ごめんな、よそ見した」  大河の気持ちを知って、楽屋にいたメンバーが涙を流した。困ったように謝る大河に首を振って、一緒に出来て良かった、と2人を包むと、レイも、大きな懐で抱きしめてくれた。  ガチャ  「えー!!?なになに!?俺も入れてー!」  78の楽屋から帰ってきた青木は、抱きあう4人を見て羨ましそうに入ってきて、さらに上から包んだ。  「あはは!なんだこれ!」  レイが笑い出してそれが全員に連鎖した。 新たなお知らせと共に幕を閉じた事務所の大きなイベント。打ち上げもステージの興奮からみんな盛り上がっていた。お酒に酔わない誠は、大河を優一がいる女子会枠に預け、様々な種類を飲んでみようと、メニューの上から順番に飲んでいた。  「マコ!お疲れ!」  「わ!セナさん!お疲れ様です!」  「音源ありがとう。慣れって怖いよね」  「Altairはベテランですから。楽曲も多いですし。」  Altairでは翔としか話せない誠は、セナの登場に驚いた。陶器みたいな白い肌や銀髪は、芸能人オーラをさらに濃くしていた。綺麗な歯並びと優しそうな笑顔はザ・アイドルだった。 誠はあまり事務所内に仲がいい人がいないため、かなり緊張していた。とりあえず、メニューの6番目のものを頼んで、セナの聞き役に徹した。  (うぅー、緊張するよ。RINGに戻りたい)  浅く広く。その中で合う人と深く。それが誠だった。  「愛希も入れて!」  「こら、愛希、ヒカルがぼっちになるだろ?戻りなさい」  「やだ!愛希もマコちゃんと話したい!ね、マコちゃん、ユウってずっとあんななの?」 Altairのカワイイ担当の愛希は、誠に顔を近づけ、上目遣いで見つめた。ふわふわのパーマが柔らかそうで、まつ毛もくるんと上がっている。  「愛希さん、お疲れ様です。あんな、とは?」  「んー、あざとい感じ」  「え!?」  「自分が可愛いの分かっててやってるよね、アレ!愛希見ててイライラする。」  「こーら、愛希!悪口言うなら向こう行け」  「愛希の方が可愛いもん!なのに、ファンもさ、ユウも可愛いって言うし。なんなの?キャラ被ってるし!マネしないでほしい!」 カルーアミルクを飲んで、酔ってるのか優一の文句を言う先輩に苦笑する。  「ただでさえ、ライバル視してるのにダメ出しされて、いい音源までもらったから悔しいんだろ。」  「うるさいな!」  「マコじゃなくて本人に言いなよ。女々しいのは愛希だろ?」  「メンバーなんだから愛希の味方してよ!」 誠は新しくきた日本酒を飲みながら、優一のためにも、と口を開いた。  「優くんは誤解されやすいです。真っ直ぐだから。イイと思ったらイイ。ダメなものはダメ。それはAltairの先輩方にもそうですが、ブルーウェーブにだってはっきり言いますよ」 「え!?嘘でしょ!?」  「本当です。器用なのにやり方は不器用です。1番イイのは、俺みたいに何も意見を言わず聞くだけの方が好かれやすいのに。」  「っ!」  「愛希さん、分かりました?1番辛いのは言われることじゃありません。言ってもらえない、無関心ですよ。そして、性格悪いのは俺みたいに何も言わないヤツです。」  にこりと笑って言うと、愛希は嫌そうな顔をして目を逸らした。 「マコちゃんこわい…」  「はは!ごめんなさい!メンバーの悪口は流せなくて!優くんとは幼馴染でずっと一緒なんです。同意してあげられなくてごめんなさい」  不貞腐れた愛希の頭を撫でてやると、愛希の顔が真っ赤になった。  「愛希さん?」  「うるさいな!なんだよ!年下のくせに!」  「あー…だって、拗ねてるのが可愛いから」  「えっ?」  「ふふっ、大丈夫ですって!愛希さんも可愛いですよ。だからそんな悪口言うと悲しくなります。可愛い人は笑っててほしいです」  「マコちゃん…」  ニコッと笑うと、目を逸らされた。言い過ぎたかなと、苦笑いしていると急にわがままになって、あれして、これして、と言うのを機嫌を取るためハイハイと聞いた。  「愛希さん、飲み過ぎ。セナさん、いつも愛希さんこうですか?」  「いや?2杯目くらいで酔っちゃった〜ってぶりっ子してる」  「セナさんうるさいよ!!もうあっち行って!マコちゃんと2人で飲む!」  「愛希が後から来たんだろ?」  「あ、じゃあお2人で飲んでください。俺は…」  「「座って!!」」  (大河さんと帰りたいよう…)  助けを求めるように大河を見ると、翔と真剣に話をしていた。優一とタカはいなくなっていて、リクは潰れ、78はどんちゃん騒ぎというカオスな空間になっていた。  「マコ、マコはどんな人がタイプ?」  「愛希、馬鹿だなー。大河に決まってんだろ?」  「え!?そうなの?!同性アリ?!…やば、愛希がんばろうかな」  「いやいや、頑張らなくていいです。愛希さんは愛希さんの魅力をわかってくれる人がいますよ」  「マコちゃんは愛希の魅力分かってくれる 人だよね?」  困ってセナを見ると、セナも苦笑いした。答えないことに怒ってさらに酒を煽り、酔ったのか誠の腕に絡みついてくる。やりたいようにさせ、セナの話を真剣に聞き、やり過ごした。  女子会枠のカウンターから翔が席を外すと、セナも席を立った。誠も1人になった大河のところに行こうとするも愛希がグッと腕を掴んだ。  「行かせなーい」  「あ、愛希さん…」  「大河より愛希が可愛いじゃん」  「もう…飲み過ぎですよ、ほらお水にしましょ?」  誠は大河が気になって仕方なく、この場を流してしまおうと必死に愛希をあしらった。 「マコちゃん、今日は愛希のそばにいて?」  「え?」 テーブルのしたの内腿に手が触れ、スリスリと撫でられる手を掴んだ。  「愛希さん、止めてください」  「やーだ」  掴んだ手を愛希が思いっきり引っ張り、柔らかな唇に触れて慌てて距離を取った。  「あ、愛希さん、酔いすぎですって!」  「うん、酔ったぁ…マコちゃん、愛希を部屋に連れて行って」  また伸ばされた手は触れることなく、愛希に戻った。  「愛希さん、マコに絡まないでください」  「あ…大河じゃん。なんか用?」  いきなりキャラが変わった愛希に驚く。  「マコ、帰るぞ」  「は?先輩と飲んでるのに邪魔すんの?」  「邪魔してすみませんでした。送迎車出るんで」  「マコちゃんは愛希の部屋に泊めるから、大河先に帰れば?」    大河はイラついたようにため息を吐いて、誠を見た。  (帰りたい!大河さん帰ろう!)  必死に訴えると、大河はまたため息をついた。  「愛希さん、お先です。マコ行くぞ」  「仲間ができたからって必死だね?」  「は?」  「Altairに入れてもらえなかったから、RINGに必死にしがみついて…大河らしいね?」  「いけませんか?」  静かに振り返る大河の目には光がなかった。 「ダメじゃないけど〜なんか必死でカワイソウ!マコちゃんもユウも大地くんも今は言うこと聞くかもだけどさぁ、大河の中身知ったら、前みたいになるかもね?」  「……」  「愛希さん、酔いすぎです。」  「マコちゃんも偉いよねー。こんな気分屋の相手して。傲慢で自分中心。メンバーよりも自分の目立つことばっかり。チヤホヤされてさ、天才?ただ歌がうまいだけじゃん」  「……」  「愛希さん、どうしたんですか、言い過ぎですよ」  「いやいや、本当のことだから。大変だったんだよー?大河がいなくなってから一気に話も進んだし、売れたし。大河がいなくてよかったー…」  バシャ!!  「っ!」  「マコ!」  「いい加減にしてください。」  水が滴る先輩を冷たく見下ろす。大河がいなくてよかっただなんて、よくも言えたもんだと怒りが爆発しそうだった。ハンカチを渡そうとする大河の手を止めて愛希を睨む。 「マ、マコ…!」  「よくもここまで言えますね。ガッカリです。俺のメンバーを馬鹿にしないでください。人の悪口言う暇があるなら、スキルアップしたらどうですか?正直、技術でリスペクトするところはありません。でも、経験や経歴で見習うべきところはあるな、と思っていました。けど、今一瞬でなくなりました。」  傷ついたように見上げる目にさえイライラした。1ミリも心が動かないこの先輩に、怒りをぶつけることしか考えられなくなった。 「マコ、もういいから!行くぞ!」  手を引く大河を振り払って、大河にも怒鳴った。 「良くない!!!大河さんの努力も気持ちも何にも知らない人に馬鹿にされたまま引き下がれない!!!」  思わず出した大声にAltairのマネージャーの長谷川が慌ててやってきた。  「愛希、なんだどうした?」  「知らない。」  「知らない?愛希さん、いい加減にしてくだい。大河さんに謝ってください!」  「マコちゃん、大河、何があった?」  長谷川の真剣な目に少し落ち着いて下を向いた。悔しくて悔しくて歯を食いしばった。ステージが終わった後の大河の気持ちを考えると許せなかった。  「長谷川さん、すみません。愛希さんがマコと飲んでるところ、俺がマコを連れて帰ろうとしたから…愛希さんの気分を悪くして…。」  「違う。庇わなくていい。愛希さんは過去の大河さんの話を出して、馬鹿にしたんです。メンバーにこんなこと言われて聞き流せない。」  「そうか、愛希。謝れ」  「愛希悪くないもん。本当のことだし」    ざわつく会場に、長谷川は3人を会場の外に出した。謝るまでは許さない誠と、もう収束させたい大河、謝る気のない愛希。長谷川は廊下に出ると、愛希に言った。  「いいか、酔っていた、だけではすまない。言葉には気をつけろと言ってるよな」  「大河の話をしたらマコちゃんが急に怒っただけだし。先輩に水をかけるなんて最低。ありえない。」  「お前、ダメ出しされたのが気に食わないんだろ?」  「別に?」  「愛希、時間の無駄だ。さっさと謝れ。」  「いやだ。」  大河が慌てて、長谷川さんもういいです、慣れてます、と言うも、長谷川は愛希を詰める。  「謝らないなら、お前のマネジメントから外れる。聞かないやつをサポートする義理もない。これから一人で頑張れよ」  長谷川は会場内に戻っていくのを愛希は焦って引き留めると、思いっきり蹴られて、誠と大河は息を飲んだ。  「俺がいつまでも優しくやると思ってんのか?俺の気が短いことにそろそろ気付かねぇのかよ。お前と透ぐらいだよ、理解能力のないバカは。」  「っ!!」  「お前らのフォローはもうたくさんだ。勝手にしろ。」  「待ってよ!ごめんなさい!長谷川さん!ごめんなさいっ!!」  「謝る相手が違うよな?」  誠も大河も長谷川の豹変ぶりに心底怯え、謝るなどどうでも良くなった。怖いのはリクだけかと思っていたが、長谷川が1番怖いマネージャーだと思った。 「大河…ごめん」  「いや!大丈夫です!」  「マコちゃんも、ユウにもごめん」  「分かってくれたなら、いいです。お疲れ様でした。」  2人で頭を下げて、早歩きでエレベーターに乗った。  「「こっわ〜!!!」」  ドアが閉まった瞬間2人は声を揃え、思わず笑った。 「…えっと、マコ?」  「ん?」  伊藤の車をロビーで待つ間、大河が下を向いたまま、ゆっくりと話し始めた。  「さっき、ありがとう」  「ううん。」  「愛希さんの言ってること、正しいよ。俺、RINGにしがみついてるし、必死だよ」  苦笑いしてこちらを見た大河は弱々しく見えた。 「そんなの、俺もだよ。それを…それ以外も馬鹿にしてるのが許せなかった。俺にとっては、大河さんは最高で愛希さんに劣るのは何もない。それなのにあんなこと…。」  「マコが俺のために怒ったの、初めて見たかも…。カッコ良かった。怖かったけど…。」  「うふふ。でも長谷川さんが怖すぎ!!伊藤さんでよかったぁあああ!」  伊藤の車に乗り込むと、2人は長谷川が怖かったことを伝えた。伊藤はまたAltairに物申したことで頭を抱えていた。  「頼むよ…俺、また愁くんに謝らなきゃだろ?…マジで怖いよー?」  「伊藤さんにも怖いの?」  「あぁ。あの…時、レイを裏切った時、殴られたよ。忠告されてたんだ。」  伊藤は助手席で爆睡するレイを愛おしそうに、申し訳なさそうに撫でた。 「愁くんは秀才で、頭がキレる。そして、無駄なこと、余計なことをしたり、やるべきことをやらなかったり、あと、リクを傷つけることがあればめちゃくちゃ怖い。リクでも抑えられない時もある。」  「へー!相川さんが見た目怖そうなのに」  「リクは意外にもけっこう受け入れるよ。口は悪いけどね。」  マネージャー事情を聞いて、誠と大河は伊藤であることに感謝した。  「じゃーまた明日ー!大河はお昼!マコは夜ね!」  「「はーい!お疲れさまです!」」  送迎車を降りた瞬間に大河の手を握ると、え?っと見上げる顔が可愛かった。何も言わずに微笑んで、黙ってエレベーターに乗る。  「マコ?」  不安そうな大河の声に、クスクスと笑う。会場に入った時もずっと声をかけてくれてたなぁ、と改めて思う。  (俺が返さなかったら不安そう…)  ついに黙って俯いてしまった大河に、胸が締め付けられるくらい可愛くてたまらなかった。黙ったまま、鍵を開けると、手を離された。  「疲れてるだろ?俺、部屋行くよ」  機嫌が悪いと思ったのか、寂しそうに苦笑いするのに、誠はついに笑ってしまった。  「マコ?」  「あはは!んもー!可愛いーー!!」  「は?疲れてるんじゃないのか?」  「疲れてるよ!だから、一緒に寝よ?」 不思議そうな大河を玄関に入れて、鍵をかけた。  「マコ?」 「ん?」  「機嫌いいのか?」  「うん。どうして?悪いと思った?」  「顔整ってるやつの真顔…怖い」  ぎゅっと抱きしめて呟いた言葉も可愛くて、顔中にキスして、目を合わせて笑うと瞬時に真っ赤になった。  「大河さん、だーい好き」  「っ!」 「やっと2人きりになれたぁ…頑張ったぁ…褒めてよ!俺、我慢できた!」  そう言うと、大河が嬉しそうにふにゃっと笑って、顔が熱くなり、胸がドキドキとうるさい。  「あははっ!我慢してたから真顔だったのか!?マコ可愛いっ!!」  ぎゅっと抱きついてきて、大河からキスを貰った。  「よくできました!」  笑顔の大河が嬉しくて、笑い合いながらベッドに飛び乗る。落ち着く香りにほっとして、お互い裸でキスして身体を触る。大河の上に乗って、笑うと、笑い返してくれる。  「マコっ、俺も、我慢したから…」  「そうだね」  「俺も、褒めて」  「いい子だから、ご褒美あげるね」  露を零す熱をぎゅっと握ると、はっと目を見開いて腰が浮いた。上下に手を動かすと、眉が下がり、はっはっ、と呼吸が荒くなる。  「大河さん、気持ちいい?」  「はぁっ、はっ、はっ、はっ」  腕で顔を隠してコクコクと頷く。裏筋を強く刺激すると、泣きそうな顔でこちらを見た。  「マコ、っ、イきそっ…」  「いいよ、イって?」  「んぅっ、ふぅっ、っぅ、んっン!!まこ、マコぉお!ッーーっッァアァア!」  身体を震わせて欲を吐き出せば、力を抜いて、少し笑う。  「大河さん、大丈夫?」  「はぁっ、はっ、はっ、最高…」  「大河さんっ!!」  色気のある声で微笑まれれば一気に落ちた。抑えていた衝動が止まらない。大河の身体を開いて、中に入り大きく息を吐くと、大河の気持ちいいところだけを攻める。腰を引いて逃げる大河を追い詰め、奥へ奥へと入り込むのを、大河はイヤイヤと首を振る。中でイってるのか、時折ぎゅっと締め付け、大河の表情が変わる。 「アッァアァアーー!!」  「くぅ…っ!っ!ーー…まだいくよ?」  「はぁん!!んっ!!ァア!」  ポロポロ涙をこぼし、されるがままになっているが、中は忙しく蠢き、誠を奥へと誘う。何度も何度も中に吐き出し、そのたびに大河は絶頂を迎える。  「ぁっはぁ、ん、きもちぃ」  「は、はぁ、きもちいの、嬉しいね?」  「ぁっ、んぅっ、ふっぅ、んぁっ、あっ」  堪らなさそうに背をそらして、ビクビクと腰が跳ねた。ふと、今日なら許してもらえそうだと、長谷川に勧められた大人のオモチャを取り出した。全く気づいていない大河はただただ喘いでいる。細い棒にローションをたっぷりつけ、先端を当てるもまだ気がつかない。  (大河さん、もっとヨクしてあげる)  ググッ!  「痛っ!痛いよぉ!マコ!痛い」  泣き始めた大河に、腰がゾクゾクと震えた。  (え、なんで…)  泣き顔がイきそうなほど腰にきて驚く。さらに奥に進めると、痛い痛いと暴れ、無理やり押さえつけて奥まで差し込む。  「はぁっ、とって、マコ、苦しいよ」  萎えそうになった大河を撫でると、また快感に震え、違和感に眉をしかめる。  「マコ、とってぇ…」  「うん」  痛みしかないのかと、可哀想になり、少し入り口に向かって動かすと、大河は目を見開いて腰をガクンガクンと跳ねさせた。  「ァアァアー!!」  「大河?」  「やっば…これ、いやぁ!やだ!やだよ!」 この反応を見て、もしかしたら気持ちいいのかもしれないと、取ろうとしたものを奥に差し込む。   「もう一回」  「ッァアァアー!やだぁ!やだぁぁあ!」  「はぁ、中もきっつい…」  頭を振り乱して泣き叫ぶが萎えずにギンギンに固いままだ。気持ちいいと判断して、奥まで入れた状態でスイッチを恐る恐る入れた。  「ーーーーッッ!!ッァアァアーーーー!」  「きっつ!ッ、ーーッ!!」  思わず中に放つが、余韻に浸る前に大河の締め付けに搾り取られそうになり、スイッチを切ると、いつまでも体が跳ねて心配になる。  「大河さん…?大丈夫?…大河さん!」  ビクビクと痙攣が治らないのを心配して、ゆっくりと引き抜くとプシャプシャっと潮が飛んだ。  「んぅっ!!アッ!!ァアァア!!はー、はー、はー、」  抜き取ったあと、誠が中から出てもまだビクビクと跳ねる。  「大丈夫?大河さーん?」  「はっはっ、お前、何、したん、だよ…」  訳がわからないままだった大河にオモチャを見せると、顔を真っ赤にして目を逸らした。  「やめろよ、いじめんなよ」  チラッと恥ずかしそうに見た大河は破壊力抜群でまた後ろから攻め立て、大河の意識が飛ぶまでヤってしまった。  ピリリリリ ピリリリリ  「大河さん、大河さん電話!」  起こしても全く起きず、ケータイを見ると伊藤からだった。  『マコ!大河の時間!』  「分かってるんだけど…全然起きないよ!」 『叩き起こせ!』  どうしようと慌てていると、伊藤が部屋まで来て、寝室を案内すると、爆睡する大河にため息をついた。  「大河!起きろ」  「ん…んぅー!やだ…きつい…だるい…」  「大河、収録あるから…きついと思うけど、一本だけ頑張ろう?」  「うぅー…ぅ、おれ、っ、疲れてるのに…」  寝起きはいつも悪いが、泣き出したのは初めてで、伊藤は辛そうに抱きしめて背中を摩った。  「疲れたぁ…行きたくない…」  「ごめんな、一本だけだから、な?」  「ぅぅー…ぅっ、わかったぁ…」  泣きながら風呂に行くのを心配して見送った。  「マコー、頼むよー。」  「ごめんなさい」  「お前コンサート後にこれは無いだろー。」  寝室に転がってるオモチャを見て、伊藤は大河可哀想と呟いた。 「これそんなにヤバイかな?」  「知らないよ、自分でやってみな。リクがこれで次の日仕事にならなかったからな…」  長谷川とリクの会話を思い出し、誠は顔が真っ赤になった。 お風呂から上がると、気怠そうに準備をし、ぼんやりしたまま仕事へと出て行った。  (ヤりすぎた…。ごめん大河さん…でも、これそんなにヤバイのかな?)  興味本位でやってみようと、昨日の大河を思い出し、瞬時に硬くなったものにローションを垂らし、グッと中に入れてみる。  「ッぁああ!?」  (うー!きっつ!これは可哀想なことした!本当にごめん、大河さん)  謝りながらなんとか奥まで入れてみたが、萎えたものに苦笑して、目を閉じて大河を想像する。  (はぁ…可愛かった) また復活したものを握ってオモチャを取り出そうと引き抜くと、腰が勝手に跳ねて一瞬訳がわからなかった。周りを見るといつのまにか吐き出した白濁。呼吸も荒く、イったことがわかった。  (こ、これはヤバイやつだ。)  改めて長谷川の恐怖を感じて、オモチャを消毒し、そっと引き出しにしまった。この日から数日は大河に無視された誠だった。

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