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第86話 告白

今回のコンサートは楓にとってやることが盛り沢山だった。ブラックパールのデビューがかかった集大成、ダンスチームでのパフォーマンス、78でのパフォーマンス。その裏でロスでのダンスレッスン、コウに触発され、センターとしてどう見せるか、と自分のことも考えなきゃならなかった。  (ルイが異常に落ち着いてるな…)  楓とコウだけがロスへ行くことに泣いて怒ったルイだったが、戻ってくると別人のように落ち着いていた。リクも驚いていたが、本人は無自覚だった。そして、ロスから帰ってきて驚いたのはもう一つある。  サナからの着信履歴とメッセージの数。目を通すとだんだん不安になってるのが分かって苦笑いした。ダンスに夢中だった楓は慌ててメッセージを返すと、すぐに返信がきた。  サナ:嫌われたかと思いました。  サナの気持ちには気付いている。「私を見てください」と言った期限はこのコンサートまでだった。正直余裕がなくてあまり見てやれなかったが、サナの一途さには気づいていた。  今までの彼女は、インスピレーションで、目があってお互いが挑発して、クラブを抜け出して身体を重ねてから付き合っていた。どの子もスタイルが良く、美人でノリがよくサバサバした女性たちだった。 (新しいジャンルだな…どう対応していいか分からねぇ)  落ち込みやすくて単純。一生懸命なところは、フォローしたくなるし、いじりたくもなる。女として見ているかと言われればまだ分からなかった。  サナのステージはカッコよく迫力があった。いつものふわふわ系ではなく、ギャップが凄かった。打ち上げの後に会いましょうとメッセージが来て、どうしようか、と迷った。  78でどんちゃん騒ぎをして、カウンターにいるサナに気付かないフリをしていたが、チラチラと見ている視線や、周りに仲良しのRINGがいなくなってもチビチビと酒を飲んで待っていた。楓は気になって酔えず、ついにサナを呼んだ。  「よぉ、お待たせ」  「いえ!大丈夫です!」  酒ではなく、自分を見て顔が赤くなるサナを素直に可愛いと思った。廊下に出て、近くのソファーに腰掛ける。  「あのっ、今日までお疲れ様でした!」  「うん、ありがとう。お前もな」  「あ、はい!…楓さん…あの、私のステージ、見てもらえましたか?」  「あぁ。だいぶ雰囲気違うな、迫力あった」  正直に褒めようと思って口を開いた。 「あの歌難しいだろ。すげーな。バンドの生音だし、それでもバンドに負けてなかった。お前はよく頑張ったよ」  「ありがとうございます!」  目を潤ませて嬉しそうにしてくれるのに、つられて笑う。  「楓さんのことを想って準備しました。」  「っ!」 「楓さんに見てもらうために努力しました。」  「…」  「私…楓さんが好きです。…付き合ってください。」  垂れ目が必死に、真剣に訴えてくる。こんなに思ってくれた人はいたのだろうか。そう思うと大切にしないと、と思った。答えない楓に、サナは不安になったのか、頑張って笑顔を作り始めた。  「う…うやむやには、したくないので、よかったら、今日でお返事もらいたいです。つ、次に進むためにも、背中を押して欲しいですし。」  泣きそうな顔で、気を遣い、楓が断っても変な空気にしないように取り繕っている。消えてしまいそうなサナを楓はそっと抱きしめた。  「正直さ、余裕なくてあまりお前のこと見れてやれなかった。」 「…はい」  「でも、お前の気持ちには気付いてたから、きちんと、見れる時は見てたよ。」  「ありがとうございます」  「俺はさ、ダンスが1番。これは変わらないし、今後変わることはない。次は78。俺は人生を賭けてるから。恋愛はその次、3番目になる。だから、優先もできないし、もしかしたらそばにいたい時に、いてやれないかもしれない。」  「…」  「それでも、俺がいい?」  「楓さんがいいです。3番目でも、構いません。私の中で楓さんが1番なのは、変わらないです。」  「俺のファン、怖いよ?バレたら叩かれるかも。78が2番だから、何かあれば別れなきゃいけないよ」  「その時は、事務所に従います。アイドルを好きになるのはそういうことですから。」 「お前を…傷付けたくはないんだ。リスクしかないよ」  「それでも、少しの間だとしても、私は楓さんが欲しい…っんぅ、んっ」  堪らなくなって、柔らかい唇に口を重ねた。触れ合うだけのキスから舌を入れると気持ち良さそうな顔をしてドキドキした。  「サナちゃん、付き合うか」  「…はい!!」  嬉しそうな顔して笑うのが可愛いくて、また唇を堪能した。サナのペースに合わさないと、と思うのに、本能でサナに欲情して、2人で会場を抜け出した。サナの家に上がると、全部が小さい気がして、ザ・女の子の部屋に思春期のガキのようにがっつきそうだった。テレビの近くには78のライブDVDが綺麗に整頓されていて嬉しくなった。  「サナちゃん、本当に俺でいい?仕事優先だよ?」  「いいです!」  「スキャンダルあったら…その時は守ってやれねぇよ?」  「大丈夫です!」  「隠れてしか付き合えないし…」  サナを傷付けるかも、ともう一度説明するも、サナは笑って、ゆっくりと服を脱ぎ始めた。  「楓さん、私を女として、見てくれますか?」  「当たり前だろ…こんな誘惑、誰にならったんだよ」  柔らかな肌に触れると止まらなかった。  いい匂いがして起きると、朝食が用意されていて驚いた。  「うわ、すげー。母親感」  「え!?だ、ダメでしたか?!」  「いや?最高。いただきます」  ニコニコと蕩けるような笑顔を見れて、楓は恥ずかしくなった。  (何この幸せ…やば…)  みんな最初は頑張るが、オシャレなものがほとんどだった。こんな白米に味噌汁、漬物に焼き魚と卵焼きなんて庶民的なものを見たことなかった。キッチンを見ると自炊しているのがすぐに分かった。  「楓さんがいるなんて、私、幸せです!」  こんな嬉しいことを言ってくれて堪らなかった。サナの部屋にはキーボードやギター、パソコンも並んでいてシンガーソングライターだったのを思い出した。  「サナちゃんはずっと歌手になりたかったの?」  「はい!…でも入る事務所、間違えたかも。ふふっ、ユウさんから声かけられたときは驚きました!男性が多いアイドル事務所だったから…。でも、ユウさんがずっと育ててくれました。」  「そっか」  「きっと、ブラックパールのみなさんも、私のように、楓さんに育ててくれた恩があると思います。私も、ユウさんに恩返しがしたいってずっと思ってます!…だから、ユウさんが壊れた時、心配で泣きました…。怖かったです、あんな強くて優しい人が壊れることが。」  思い出して辛そうな顔をしたサナに、楓も箸が止まる。  「あの日、ユウさんに相談したかったのに、ずっとタカさんと伊藤さんがそばにいたのを覚えています。…タカさんがそばにいてよかったです。」  「そうだな。あれはビビったよな。俺、ユウとのファーストコンタクト、ブチ切れだからな。…でも、タカさんがいるから大丈夫だな…って、お前どこまで知ってんの?」  「えっ?お2人付き合ってますよね?見てたら分かりますよ!」  ふふふ、と笑い洗い物をしている姿が新婚みたいでくすぐったい。ごちそうさま、と言って食器を片付け、歯ブラシまで貸してもらってひと通り準備をした。  「なんか、新婚みたいだな。」  思ったことを言うと、サナは真っ赤になった。  「嬉しいです…そんなこと…ニヤけちゃう」  「可愛いな」  「そんなことないです…ンッん、」  「はぁ…やば、可愛い」  ぎゅっと抱きしめると、背中にゆっくりと手が回る。  「楓さん、大好きです。」  「俺も、サナちゃんが好きだよ」  「へっ?」 答えるとポロポロと泣き始め、慌てた。  「楓さんが、っ、好きって、言ってくれた」  「あ〜…ごめん!あはは、泣くなよ」  またキスして落ち着かせ、変装してサナの家を出た。 事務所のスタジオで、ロスでのダンスバトルに向け練習をしてると、ルイが走ってきて飛びついてきた。  「楓!楓!サナちゃんとはどうなったの!?」  そのセリフに、リクもお?と近寄ってきて、龍之介や潤もニヤニヤと集まってきた。  「…コンサートの日に付き合って…その日泊まってきた」  「「「おおぉおおおーーー!!」」」  「おめでとう!楓!」  「どーよ、清純派は〜?たまんねぇだろ」  「堪らないっすね!最高の女ですよ」  ルイは羨ましいとゴロゴロ転がり、リクにルイはもうちょい我慢と言われていた。  ルイのケガはだいぶ良くなったが、始まる前とあとにリクのマッサージが必須だった。ルイはいつもすやすやと気持ち良さそうに眠ってしまうのを78の全員が笑って愛おしく見えていた。  「こいつ、本当、少年通り越して赤ちゃんだよな」  リクも笑って言うと、龍之介が同意して寝顔を眺めていた。  「ルイが急に大人になった気がしてたけど、勘違いだったかな!…ふふっ、可愛いやつ」  楓は笑ってルイを見ながら仕事モードに切り替えた。 練習が終わると、サナからの応援メッセージにデレデレした後、思わぬ人からのメッセージに驚いて全員集めた。  「見て!!どうしたのかな!恭介さんから!コウの居場所知らねーかって!コウちゃんに何かあったのかな!」  「おーい、反社会には関わるな。知らないで返しとけ。」  「わかりました!でも、コウちゃんが心配!連絡とってみようかな」  「落ち着いたら向こうから連絡来るだろ。そっとしておけ。そんなことよりロスで一回戦敗退なんてシャレにならないからな!頼むぞ!」  喝を入れるリクにはい!と返事をして、知らないです、と返信すると、やっぱり使えねぇなお前、と返事が来て無事に終わった。  ーーコンサート次の日  国際線ターミナルー  「ニューヨークついたら、彩が待ってるはずだから。向こうでケータイ買ったら連絡して。」  「はい!分かりました!リクさん、愁さん、コンサートの後なのに引越し作業までありがとうございました!」  「いえいえ!あんな高い酒、嬉しいです。頑張っておいでね!リクの分もダンス楽しんで!」  「はい!78の公演みて、今行かなきゃって思いました!リクさん、俺、やってみます!」  「おう!お前のステージ楽しみにしてる!愁と見に行くから!」  そう言うと笑顔で手を振って行った。コウが見えなくなるまで見送って、彩にメッセージを送った。  リク:俺の可愛い教え子だ。よろしく頼むぞ。  彩:任せて!楽しみに待ってる。 コンサート初日の78の終了後に、コウからリクにダンスがしたいとメッセージが入った。 急遽だったのでロスの便が取れず、彩に連絡をすると快く引き取ってくれると聞いて安心し、彩の部屋に居候させて貰うことで話がついた。ビザ関係もすべて彩に任せて、コウには部屋を引き払う準備などをさせた。 最終日は、自分が酔い潰れることを覚悟して、起きてすぐに愁に相談すると、愁が代わりにコウとやりとりをしてくれた。 コウは結構な額を貯金していたため、業者を手配するのが容易だった。 マンションの退去手続きを愁の手配で代行させ、その日はコウに普通に出勤させた。出勤している間に荷造りの業者を入れ、必要最低限を残して、処分や、リクと愁の部屋に運んでもらって部屋を空にした。明日飛ぶことがリクと愁以外にバレないように78のメンバーにさえ言わなかった。  コウ:リクさん、コウです。たった今、彩さんと合流しました。ケータイも契約してくれていました。  リク:良かったな!ニューヨークでもダンスはできるから、落ち着くまで彩にお世話になりな。  コウ:彩さん美人すぎて最高!  どこに喜んでるんだと爆笑し、頑張れよ、と送った。  案の定すぐにバレて探されているコウ。バレずに済んだとホッとする。妹も結婚し、苗字も変わっているから大丈夫だろうと、愁の助言で決心していた。  「リク?どうした?」  「ん、コウ着いたって。彩が可愛いって喜んでる。」  「あははっ!なら良かった。こんな高い酒もたくさん…嬉しいなぁ、どれから飲もうかなぁ」  愁はご機嫌で酒の瓶を見つめた。  (78の心配な奴も一歩進んだな…)  リクはほっとして愁に後ろから抱きついた。

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