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第87話 過ち
『シンガーソングライターのリョウが本日結婚を発表しました。相手は元女優で元芸能事務所取締役の本郷美奈子さん38歳。』
「うわ!すごい!マコ!マコ来て!」
大河は朝のニュースに驚いて誠を呼んだ。誠もニュースを見て、おめでとうだね、って微笑んだのに頷いた。リョウの幸せそうな顔が浮かんですぐにメッセージを送ると、幸せだぁ!と返信が来て笑った。誠の作った朝ごはんを食べながら、美奈子にもおめでとうございます、と送ると、ありがとうと絵文字まで付いていた。
「タカさんも安心だね…。本当にリョウさんだから落とせたのかもしれないね」
「たしかに!リョウさんめげないし、常に楽しそうだし!」
「俺も安心!大河さんを狙ってると思ってたから…。」
「もう…。お前の嫉妬深いのどうにかならないの?」
そう言うと困ったように笑って、ごめん、と言うのが寂しそうで箸を置いて抱きしめた。
「俺はマコだけだよ」
「んふふっ!はぁ〜嬉しい!!」
恥ずかしそうに笑う顔に満足してペロリと平らげた。
今日の収録はリョウもいる音楽番組。この番組は音楽に関する知識が増えていくから楽しみだった。リョウへの結婚祝いのプレゼントを買って、タクシーで現場に向かうと、ちょうど美奈子の車からリョウが降りてきた。
「新婚さーーん!」
「お!大河!美奈子、大河!」
リョウが呼ぶと、運転席から降りるだけでも画になる美奈子。サングラスを外してニコリと笑う。
「メッセージありがとう」
「これ!お二人に!!」
お花と写真立てを渡すと、2人は喜んでくれた。嬉しくて、それぞれにハグすると、美奈子に可愛いと言われ少し照れた。美奈子を見送ってリョウと楽屋に向かってると柚子の大声が聞こえた。
「関係ないやろ!口出しせんといて!」
「俺じゃない。優一が気になるって言うから。俺はお前に1ミリも興味ねぇよ」
「ならユウの連絡先教えてや」
「教えるわけないだろ」
またこの2人か…と見ていると、柚子が急にタカに抱きついて泣き始めた。
「柚子…」
「なんやねんもう…ぐちゃぐちゃや。」
「柚子」
「消えたい…っ」
タカの服を握って漏らした言葉に、リョウも大河も心を痛めた。フォローに入ろうとすると、柚子が背伸びしてタカにキスをした。
「っ!!?」
タカは慌てて、距離を離すも、今度は首に両手をかけて、全体重をかけた。バランスを崩したタカに必死にキスしている。
「しんどい…っ、もう、っ…っ、もう嫌や」
パタパタと涙がタカの顔に落ち、タカは唖然と見つめている。
「なぁ…?今日は…そばにいとって…?」
見ていたこちらも、ドキッとする顔でタカに言うと、タカは何も言わずに抱きしめた後、ため息を吐いた。
「ここは、タカさんに任せよう」
「うん、分かった」
そっとしておこうと、その場を通りすぎる瞬間に見たのは、2人が濡れ場かと思うほど濃厚なキスをしていた。
「待って、リョウさん。」
「ん?どした?」
「ユウのためにも、見逃せない!…タカさん!柚子!!」
「「っ!!」」
「……なんやねん…」
「打ち合わせ始まるよ!急いで!」
そう言うと、柚子は涙を拭いてタカから離れ、さっさと向かった。
「タカさん…」
「……」
「タカさん、その優しさはユウを傷つけます。内緒にするんで、柚子はほっといて下さい」
「……そうだな。悪かった。ありがとう」
この日の収録はは柚子とタカの調子が悪く、何度もリテイクを重ねた。少なからず動揺しているのがわかる。柚子に至っては大きく音を外したり、ギターの弦が切れたりしていたが、その度にタカがすぐに声を掛けていた。
(あの2人…おかしい)
それはあずきも見ていて、いつも笑顔なあずきが真顔だった。いつもは柚子にベッタリくっつき、タカを見ると悶えるのだが一切なく、淡々とベースを弾いていた。
「はい!OKです!お疲れ様でした!」
声がかかると、ほっとした柚子の手は震え、さすがに心配になった。柚子がケータイを見た瞬間にあずきがその手を取った。
「柚子、もうあの人と連絡取るのやめな」
初めて聞くあずきの強い言葉。柚子は、ここでやめてや、と小さく呟いた。その後、2人はどこかへ行った。
「タカさん…柚子何かあったんですか?」
「優一に言わせると、不倫相手だそうだ」
「へ?!」
「柚子が心配。昨日のSNSの弾き語りはもう限界だと思うから、って。優一に連絡取らせないようにしたのは俺だから、様子を見ようと思ったら思いの外深刻だった」
首を突っ込んでしまったのを後悔している様子だった。もともと世話焼きでほっとけない性格のタカは気になって仕方ないようだった。
「キスの合間にさ…助けてって言ったんだよあいつ。何度も何度も。こんなの…ほっとけるかよ…」
タカと控室に戻ると口論と、リョウが止める声が聞こえ、急いで中に入った。
「柚子!!自分で自分の首しめてるんだよ!ねぇ!?あの人のところに行っても、柚子は苦しいだけじゃん!」
「分かってる!!!でも、行きたい…会いたい…あの人しかうちを分かってる人、おらへん。みんな口だけや…」
「あの人の方が口だけだよ」
「あずき!もう煽るな!柚子落ち着け!」
柚子は大声で泣き始めて、しつこくなるケータイを握りしめた。
「奥さんと、別れる言うてくれた…」
「じゃあ何でまだ別れてないの!?そんなの不倫する男が必ず言う言葉だよ」
「でもっ」
「この間が最後だって言ってたじゃん!柚子は利用されてるだけだよ!こんなの私見てられない!お願い目を覚まして!柚子を大切に思ってる人は、こんなことしない!今、止めてくれる人達が柚子を大切に思ってる!!」
あずきの必死な訴えは柚子に届かず、電話に出た。
「今終わった…。ん、すぐ行く」
「柚子!!」
「あずき、ごめんな。うち、こんな奴やねん。」
「柚子、やだよ。行かないで」
「あずきには嫌われたない。だから話した。でも、嫌われてしもたらしゃぁない。でも、いろいろありがとう」
「柚子!」
バタンと閉まるドアを唖然と見つめる。しばらくしてあずきが泣き崩れ、リョウが駆け寄った。
「柚子っ…っ、柚子っ、誰か、柚子を助けて」
その声に、タカが控室を出て行ったのを大河は追った。
「タカさん!!」
「柚子、探せ。」
「タカさん、柚子をどうするつもりですか?」
「とにかく、今日は行かせない。今日のあいつは限界だ。」
「分かりました。見つかったら、必ず俺にも連絡して下さい。」
「分かった。」
局を探し回って、警備のところで柚子を見つけ、引き止めた。
「柚子!!」
「っ!?…お疲れ様でーす」
「今日は、タカさんの家に行こう!そこにユウもいるから」
「え?」
「俺たちが、話聞くから!柚子、今日は自分を癒そう。疲れてる状態で会っても、ベストじゃないだろ。」
「……ほんまにユウおるん?」
「いる!」
「…さっき、30分しか会えなくなったって、連絡きたから…今日はあんたの言う通りにするわ」
大河はほっとして笑うと、柚子の目はみるみる潤んで涙をこぼした。
「ありがとう」
タカに連絡し、内容を話すと、優一にも連絡をしてくれて、3人で家に向かった。柚子は泣き疲れて眠り、車内は無言だった。
「コラっ!!柚子!!だからやめろって言ったよね!」
「ユーウー!!ぅえぇえんっ!」
「もう…言ったのに…、はいはい、よしよし。こっちおいで?」
玄関で仁王立ちで待っていた優一は、タカにおかえり、や、大河にお疲れ様、を言う前に柚子を叱った。安心した柚子は大声で泣いて優一に抱きつき、分かっていたかのように受け止めていた。
「「……」」
突然蚊帳の外になった大河とタカは目を合わせて苦笑いした。
リビングに行くと、ぎゅうぎゅうと優一に抱きつき、メソメソ泣いていた。優一はやりたいようにさせながら、なんでもないようにテレビを見ているのがカップルに見えた。隣のタカはあからさに傷ついたような不愉快のような顔をしていたが、我慢していた。
「うちな…」
「うん」
「あの人切れへんねんな」
「どうして?」
「ほっとけないんよ。奥さんも不倫してるから、そのたびにぼろぼろになって、うちがおらなあかんねん。」
同じ境遇に心配が絶えないようだったが、優一はばっさり切った。
「自分も不倫してるじゃん。奥さんが先に傷ついたかもよ?どちらにしても自分だって裏切り行為をしてる。それなのに自分だけが辛いなんてあり得ない。…傷ついたなら別れればいいじゃん。柚子を幸せにすればいいじゃん。男からしたらクソ男だね。クソ男のくせに柚子と付き合うとか何様?」
「い、言い過ぎやって…」
「柚子、いい?ヤツの言い分には矛盾点がある。その都度、都合がいいように会う理由を変えているんだ。苦しい、会いたい、慰めて、そんなの、ほっとけない優しい人は、手を差し伸べてしまう。」
この言葉に、タカがギクっと反応していて、大河は思わずクスクス笑った。
「会いたい時に会える、そばにいて欲しい時にそばにいる、ただそれだけなんだ。だから、柚子が会いたい時には、会えない」
「そう!会えない!」
「でしょ?だから相手は自分の欲だけを埋めたいんだ。そのためなら弱いやつを演じる。柚子だってさ、とにかくそばにいて欲しい時は、理由だって簡単でしょ?」
さらにタカが下を向いて、大河は顔を隠して笑った。
「好き同士は、お互いが尊重しあってる。柚子だけが苦しい思いをするなら、俺は意味のない時間だと思う。ヤツだけが幸せで、柚子や奥さん、子どもたちを裏切るような男はこっちから捨ててやりな」
「…できるかな…」
「柚子、もう連絡取らなきゃいい。もし、まだ奥さんにバレてないならすぐにでも切ろう。奥さんにも感情がある、子どもたちだって、家族が壊れるのは辛いだろうから。ヤツには罰が当たるはずだけど…。柚子、柚子はもう芸能人なんだ、万が一世間に知れ渡ったらそれこそ、奥さんも子どもたちも、柚子を愛するみんなも傷つくよ。」
泣きながら優一の話を聞き、分かったと頷いた。連絡先は優一がブロックをし、削除した。
「せめて、最後に別れるって言えばよかったかな?」
「やっと話し合いがついて、柚子と一緒にいられるようになった、あとは手続きだけだから。」
「へ?」
「っていう“ウソ”を言われても切れる?」
「ウソ?」
「うん。ウソ。でも、嬉しいよね、もうちょっと待とうってなるよね。それがヤツの手口なんだ。だから、1番いいのは連絡を取らない。」
分かった、と下を向いてまた泣き始めた。
「ただね、柚子?家庭のある人との交際はリスクがあるの、分かるよね。今切ったとしても家族を裏切ったのは柚子も同罪。それはゆっくり償うしかない。柚子だけが被害者ではない。分かるよね」
「分かってる。」
「いい歌を届けて行こう。それが柚子の心も綺麗にお掃除してくれると思うから。」
ありがとうと、優一に抱きつき、チュッとキスをしたのを優一は笑ってやめて、と逃げた。優一の言葉はすんなりと入るのか、落ち着いた様子になった。ひたすら抱きついて、柚子が寝たのを、優一は自分の部屋に運んだことにタカが慌てた。
「お、送っていかないのか?」
「柚子の家知らないし、もし、ヤツが来てたら揺らいじゃうから今日は泊める。」
「じゃあ、優一は俺の部屋に」
「柚子を1人にはできない。今日は柚子のそばにいる。」
唖然と固まるタカに大河はもう耐えられずに笑い声をあげた。
「大河さん?」
「あはははっ!何でもない!ユウの部屋に俺も泊まっていい?」
「いいよー!わーい!懐かしいね!」
「タカさん、大丈夫ですよ。俺が見張ってますから」
複雑そうな顔をして、よろしくな、と部屋に行った。
(タカさん面白いなー!柚子に絆され、助けてやらないと、って思ってたのに役割全部ユウ取られてたうえに、恋人のユウに、柚子のそばにいてやるってバッサリ言われて…。ユウには敵わないなぁ)
思い出してクスクス笑っていると、ベッドで柚子を抱きしめて目を閉じた優一を慌てて起こす。
「ちょ!馬鹿か!女の子にそうやって寝るなよ!セクハラだぞ!」
「え?柚子だよ?」
「柚子がお前のこと好きだったって忘れたのか?!離れろ!お前は俺と床で寝るの!」
「柚子を真ん中にしてベッドで寝ようよ」
「そ!そそそ、そんなことできるわけないだろ!?」
「あー?意識してる?柚子おっぱい大きいから!俺姉ちゃんもおっぱい大きいから見慣れてる。」
「そんな問題じゃねーよ!馬鹿!馬鹿!」
「もう…そんな怒らないでよ…。まこちゃんに怒られるの俺だよ?今、俺にも嫉妬してるからね?分かってる?大河さんがコンサートでキスしたから…」
まこちゃん怖い、と呆れる優一に謝って、ケータイを見るとものすごい着信履歴。
「マコ!」
『どこ?』
「ユウの家」
『なんで?』
冷たい言い方に怯えると、優一は察したのかドンマイ、と笑った。
『今向かうから』
「や、今日は泊まるから…」
『……』
「マコ、あの…」
『浮気だね。許さないから』
「え!?違うよ!理由があって…」
『尿道バイブと、前立腺バイブの刑です。意識とんでもやめないから。じゃーね」
顔面蒼白になりケータイを置くと、優一が心配して顔を覗き込んできた。
「どうしよう…」
「どうしたの…?」
「また変なオモチャ突っ込まれる…」
心底落ち込んで言ったのに、優一はきょとんと首を傾げたあと、大爆笑をした。
「待って!あっはははは!何それ!お仕置き!?やだもうお腹痛い!」
「笑うな!本当にきついんだぞ!!」
「えー?どんなのしたの?」
ニヤニヤと笑う優一に、辛さを分かってもらおうと今までのを話すと、涙を流して爆笑していた。
「まっ、まっ、まこちゃん、最高おお!!あっはははは!変態すぎ!!あはははは!」
「さすがにユウもコスプレとかはないだろ?」
「ないない!!してほしいなら喜んでやるけどなぁ!だってどうせエッチするなら喜ばせたいし。一度バイブ突っ込まれて放置された時は辛かったな…。放置以外ならなんでも許せちゃう!」
「お前すげーな…」
「だってさぁ、余裕のない目とかゾクゾクしない?必死になってるのとか、俺で堪らなさそうな顔をしてくれるのが嬉しい!」
その言葉に誠を思い出すと、たしかに、と顔が赤くなった。
「思い出したの…?」
「うるさいよ」
「俺、大河さんなら入れてみたい」
「はぁ!?そんなんいうなら俺だってお前なら抱けるよ」
言い返すと、ボンッと優一の顔が赤くなった。
「コンサートの時、大河さんの雄の顔見て、俺ドキドキした」
思わぬ告白と、照れたように笑うのが可愛くて、優一の顎に手をかけ、グッと引き寄せそっと口づけると柔らかな感触に夢中になって、舌を差し込む。逃げる優一を追って押し倒すと、顔を真っ赤にしてそらした。
「なーんや。終わり?」
「「っ!?」」
「目の前でボーイズラブ見れるかと思ったのに…あずきに言うとこ。」
「いや!あの、柚子!」
「分かった、内緒な?タカさんにも言わんとくわ。これでうちとタカさんのキスもチャラな?」
柚子が笑うと、優一はショックをうけた顔をして柚子を見た。
「あ、やば。本人いた」
「柚子!ウソだよね?」
「さぁ?タカさんに聞いて」
優一は部屋を走って出て行った。
「自分は大河さんとキスしといて…なぁ?」
「柚子、俺が誘わなかったら、不倫相手か本気でタカさん誘うつもりだったでしょ?」
「だって寂しいもん。タカさん、落とすの簡単そうや」
「コラ!」
「あはは!…あー、なんか久々笑ったわ。ありがとう」
ドキッとするほど綺麗に笑う顔と、少し見える谷間に居心地が悪くなる。
「あはは!大河さんも男やな?…お礼」
「うわっ!」
ぎゅっと抱きしめられ、顔に大きな胸が当たる。
(や、柔らかっ!!!)
茹で蛸みたいに真っ赤になった顔に柚子は爆笑し、可愛いとこあるやん、とまた抱きしめようとするのを逃げた。
(やば!女の子やば!)
一度味わうと何もかも柔らかく見えて、無意識に見つめると、柚子は妖艶な顔になった。
「抱きたくなったら抱かせてあげるで?」
「は!?」
「マコに抱かれる側なんやろ?だから、抱きたくなったらおいで。」
「そ、そんなこと…」
「ユウよりええで?」
太腿を撫でられ、顔が近づいてくる。ざっくり開いた襟元から柔らかなそれが見え、黒の下着さえ見えた。釘付けになるのを振り払って勢いよく立ち上がった。
(ユウ!早く戻ってこいよ!)
トイレを借りる、と、部屋を出ると、タカの部屋から微かな甘い声と、ベッドの軋む音が聞こえた。
(ウソだろ!!帰ればよかった!!)
トイレで緩く反応したのを抑えて、優一の部屋に戻ると、柚子はケータイでゲームをしていて、腹減ったな、なんて何でもないような空気で安心し、ギターの話をしたあと、眠りについた。結局、優一は戻ってこなかった。
「大河さーん、大河さん」
ゆさゆさと揺さぶられ、誠かと思い少し無視していると耳元で大声で叫ばれた。
「さっさと起きんかい!!」
「っ!!?」
柚子のドアップに驚いて固まると、にこりと笑い、ご飯あるらしいで、と手を引っ張られた。リビングに行くとタカが食事を用意していたが優一はいなかった。
「おはよう」
「おはようございます。あれ、ユウは?」
「あー…」
バツ悪そうな顔をして目を逸らすのに首を傾げると、柚子が馬鹿にしたようにニヤニヤと笑った。
「このオッサン、ユウに弁解するのに必死だったあとにユウ泣かして仲直りエッチで抱き潰してしもたんやって。」
「オッサンって言うな。あと、ベラベラ喋るなよ…元はと言えばお前が」
「えー?優しいタカさんは、うちと慰めエッチしそうな感じだったのによう言うわ。そこまではユウに言ってないで。」
「もうお前黙れ。さっさと食べろ。そして二度と来んな。」
イライラしたようにタバコに火をつけ、煙を吐き出した。
「あんなお前…調子狂うからもう見せんなよ」
「はーい。」
「大河、柚子に手ぇ出してないだろうな?」
「も、もちろんですよ!!」
「マコにお仕置きされるらしいで。」
「あら、ドンマイ」
「これも、柚子のせいだからな!」
柚子は悪戯っ子みたいに笑っておかわりしていた。その笑顔にタカも大河もほっと安心した。
(女の子は笑っててほしいな)
ダイニングテーブルに置いた柚子のケータイが震え、大河が声をかけた。柚子はケータイを見た瞬間怯えたようにケータイを投げた。
「っ!?」
「柚子?」
「大丈夫か?」
柚子はガタガタ震えて蹲った。すると着信が止まらない。
「柚子っ?」
「ウソやろ。ウソや…。」
大河がケータイを見ると、画面いっぱいに許さない、と言う内容。非表示設定の電話が鳴ったり消えたりする。その後、たくさんの柚子と、不倫した男の写真。それはベッドの中の写真もあった。
『週刊誌に出します。あなたが壊した家庭です。あなたにも責任を取ってもらいます。法廷で会いましょう。』
柚子はガタガタ震えながら、大河のケータイからマネージャーに連絡をすると、マネージャーと柚子の事務所の社長がタカの家に飛んできた。
「ゆず!!なんてことを!!」
「ごめんなさい!ごめんなさいっ!!」
まだ週刊誌からまだ連絡がないらしく、先に事務所が謝罪コメントと活動自粛を流した。柚子の笑顔はあの一瞬だけだった。昨日みた泣き顔に戻ってタカの部屋を後にした。
「…思ったより罰が早かったな…」
「本当ですね…」
番組プロデューサーからは、柚子の収録分はカットするとの対応が取られた。世間の柚子への誹謗中傷はものすごく、優一が毎日連絡をとってあげていた。
事務所も記事をもみ消すことは出来なかったらしく、妻の激白と苦悩、と見開きのインタビュー記事と写真が掲載された。妻が不倫していた事実はなく、やはり柚子と会うための口実だった。
しかし、柚子だけかと思われた不倫相手は、調べを進めると、一般人やモデル、芸能関係者など次から次へと発覚した。最長で6年付き合っていて、半同棲とされる、元グラビアアイドルでセクシー女優の名前が上がると、一気に話題は柚子からそこに移り、柚子は公式に謝罪したことと、別れる前提だったことを受けて、次第に批判は少なくなって行った。示談金を事務所が支払い、和解した。しかし、メディアへの復帰はまだ時間がかかるようだった。
「フェスへの参加依頼が来てますが…どうですか?」
「やりましょう!」
リョウが楽しそうに答えるも、柚子が自粛になってから大人しくなり笑わなくなったあずきが、私はできませんと、呟いた。
「柚子がいないのに、やる意味ありますか」
「番組の宣伝になればと…」
「柚子ぐらいのギターがこの中の誰かができますか?」
頑なに頷かないあずにの気持ちを察して、大河は提案した。
「柚子には舞台袖で見てもらいましょう。同じ空間にはいますから…。あとギターですが、正直俺は柚子ほどはできません」
「厳しいと思います。」
「うちの、ユウはどうですか?柚子にも毎日電話をしてあげて、ケアしています。柚子の歌で不倫にも気づいた昔からの仲間だそうです。ユウはうちの事務所のBRというバンドでもその日参加しています。あずきさん、どうですか?」
あずきは驚いたように見ていたが、柚子のケアをしてくれる人と知って、久しぶりに微笑んだ。
「それなら、柚子も喜ぶかもしれない」
番組プロデューサーは喜んでスケジュールを抑えますね、と張り切って出て行った。
「大河、ナイスアイデアだ」
「あのレベルのギター、知り合いだとユウしか浮かびませんでした。」
「俺もできるよ?」
「リョウさんドラムでしょー?」
わいわい賑やかにしてこの日は終わった。
柚子の件があって、誠も優一も柚子のケアを頑張っていた。
だから、大河は忘れていた。
ーーお仕置き
「ただいま」
「おかえり大河さん」
「柚子はどうだった?」
「今日は曲作ったんだってさ。大河さん、おいでー?」
「ん?」
「おまたせしました、お仕置き執行します。」
「はっ!!?」
寝室のドアから逃げようとするも後ろから長い腕が先にドアノブを掴んだ。後ろを向けないまま、ドアをまっすぐ見て固まった。
「逃さないよ?」
耳元で囁かれる声は少し掠れて色気を含んでいた。
「わ、悪いことしてねぇし」
「優くんの家に泊まったでしょ?」
「いいだろ、別に」
「で、柚子と2人で寝たって」
「あれは…タカさんとユウがヤりはじめたから仕方なく…」
「柚子がおっぱいに喜んでたって」
「喜んでねーし!!」
「顔真っ赤にして可愛かったって言ってたよ」
「あいつ、恩を何だと思ってんだ…」
柚子に裏切られた気分で振り返ると、恐ろしく冷たい顔をしていた。
「大河さん、女の子の感触、忘れさせなきゃね?」
手首を掴まれ、乱暴にベッドに投げられる。驚いて目を閉じると、スプリングで少し跳ねた。
「お仕置きは予告した通り、と、もう一つ追加します。」
「えぇっ!?」
「大河さんに女の子になってもらいまーす!」
両手でメイド服を掲げた隙にまたドアに走るもタッチの差でまた捕まった。
「往生際が悪いよ。早く着替えて。下着はこれね。」
「下着はいいだろ、別に」
「ダメ、早く!」
「今頃メイドかよ…」
「女子高生と迷ったけど、制服は優くんが思い出すから嫌だって」
「ユウ??」
首を傾げると、誠はパソコンの電源を入れはじめ、カタカタと何かを打ったと思うと、画面に優一と柚子が映った。
「えっ!?」
「今日はギャラリーもいます!もちろん、衣装見せるだけ。」
「ふざけんな!ぶっ殺すぞ!」
『口悪いよー?大河さん』
『マコ、メイド服にしたん?うちはミニスカポリスかCAさんがよかったんやけど』
『俺はチャイナ服!』
「いいかお前ら、全員黙れ」
「はいはい、怒らないの。」
「ちょっと待て!この下着、どうやって履くんだよ!無理だよ」
『あー、そっちが前。そそそ!合うてる』
「あはは!意味なさそうー!」
『女子力高い系はけっこう持ってるらしいで』
何でもないように話しながら見られるのが恥ずかしくて、涙目で誠に訴えるがニコニコして返された。なんとか下着を着て、ワンピースを着て、長い靴下を履くと、誠がくしで髪をときだした。
「マコ?」
「うわっ、これでも想像以上に可愛い!でも、髪長めだから結ぶね。」
『ツインテール!』
『ポニーテールも似合いそうやな』
「だからお前ら黙れって!」
誠はクスクス笑いながら、ヘアスタイルまでやってくれた。髪を触られるのが気持ち良くて少し目を閉じる。
『うーわ、まつげ長!うちがおったらメイクしてたのに残念や』
『イエーイ!ツインテール!』
「男のロマンだよねー!」
『ほんま合わんわー』
柚子はありきたりや、と不満そうだったが、大河にはどうでもよかった。早くこの公開羞恥プレイが終わればいいとしか思わなかった。
「できた!!はい、こっち見て?ーーッ!可愛いーーッ!!!」
『うわ!女子やん!スッピンでこれは腹立つな!』
『わーお、想像以上…』
「頼むから笑ってくれ!!」
大河は褒められて顔が真っ赤になった。誠が全身鏡を持ってきたが、一瞬誰かわからなかった。
(こんなヤツいそう…)
そのくらい違和感はなかった。誠はくまのぬいぐるみを持ってきて大河に抱かせるとひたすら悶えていて気持ち悪かった。優一と柚子がごゆっくり、と通信が切れてほっとするも、目の前の誠はデレデレしていた。
「マコ、もういい?」
「ご主人様、でしょ、大河」
「は?」
「いけないメイドのしつけをしないとね。」
意味がわからず首を傾げると優しいキスに安心して身を委ねた。
(なんか…この下着…ヤダな)
もぞもぞと足を動かすと、ガバッと開かれ、スカートの中に誠の頭が入って行った。
(えっ!?)
見えない中で、少ない布から飛び出したものを口に咥えられ腰が浮き、大きな声が我慢できずに部屋中に響いた。見えないから、予想も出来ず、ぎゅっとスカートを掴むことしか出来ない。
「あっ!ぁっあ!ッぁああ!ッ!ーーまこぉっ!」
訳がわからないまま高められ、もう出るというところで、敏感なところをグリグリと刺激され、ググッと棒が入ってきて大河は絶叫した。
「ッぁああああーッ!!!!痛ッ!ッッぁああああー!!!」
「はい、膝立ててー!わぁお、絶景。パンツにおさまってないよ?」
「ーーッ、ッ」
「はぁ、マジたまんない…可愛い…。この太もももエロい…」
四つん這いにされ、上から覆いかぶさってきた誠がシャツの生地の上からコリコリと胸を撫で、頭を振った。
「可愛い!髪がぴょんぴょんしてるよ大河は。なんてエッチなメイドさん」
「ぅっ、ぁっ…マコ、取って?お願い」
「ご主人様でしょ?」
「ごしゅ、じん、さまぁ、とってぇ?」
「ならご奉仕して。」
体制を変えられて目の前に誠の熱を出され、パクんと咥えた。
(はっ、マコも興奮してる?)
そう思うと嬉しくて、必死に愛撫していると急に口から出され、顔にかけられた。
「ま、マコ…っ」
「はぁ、はぁ、最高っ」
「マコ、頑張ったから、取って。」
取りやすいように足を開いてスカートを上げると、誠はギラギラした目でローションを手に取り、後ろへと手を伸ばして焦る。
「ちが!っ!まこぉ!やっん!!ッぁああああー!!」
指が気持ちの良いところを強めに刺激して涙がこぼれた。必死に誠の肩を掴んでいたが、力が入らなくてシーツに落ちた。誠は焦ったように荒い呼吸をして、指とは違うものが入ってきて、大河は目を見開いた。
「まぁた!お前!やめろよぉ!」
「お前?誰に口聞いてるの?」
「ぁああ!!ごめ、っ、ごめんなさぁ、い、ご主人、様!ご主人さまぁ!」
許してもらえず、中に入ったものたちが一斉に動き出し、ガクガクと背中が跳ねた。
ヴーヴーヴーヴー
ヴーーー
振動音をかき消すように、叫んで訳がわからずに刺激に耐える。
「ッぁああああああーーー!いやぁああああ!こわいっ!こわいっ!ダメダメダメ!もう!まこぉ!まこぉ!」
「はぁ、はぁ、大河さん!」
「ッぁああああああー!!!」
辛すぎるほどの快感に涙もよだれも流して叫ぶ。どう頑張っても快感に追いつかれ、何度も何度も絶頂を迎えた。うつ伏せにされると、前が刺激されて泣き喚いた。
「マコぉ!助けて!ヤダ!ヤダぁ!!マコ!マコ!」
必死に名前を呼んでこの刺激から解放されたいのに、荒い呼吸しか聞こえない。意識がぼんやりとしてきたところで、背中のファスナーがゆっくりおろされ、体から布がなくなっていく。髪も解かれ、抱き上げられ、前の刺激が先ほどよりは落ち着いて、ほっと息を吐き、誠の胸にもたれた。
「ごめんね、大河さん」
いつもの呼び方に安心して目を閉じると、まだ中におもちゃが入っているのに、誠の熱がググっと入ってきた。
「待って!なかぁ!なかっ!あるから!取ってから!マコ!ッんぅーーッ!ッぁああああああー!!!!!いやぁああああー!!」
「はぁっ、はぁっ、アッ!ぁっあ!ヤバイこれっ!すぐイきそっ」
「いやぁああああー!たすけて、っ!まこっ!たすけて!」
オモチャが、誠が突くたびに奥を刺激して何度も中だけでイく。必死に首を振るが聞いてもらえず、前は上下に激しく動かされ、腰もガンガンぶつけてくるから、奥におもちゃが入り込み、堪らない快感に泣きじゃくる。
(ッダメだ、目の前が…)
「ッぁああああああー!!!」
(う…ぅ、お腹痛い…)
腹痛で起きた大河は目を開くと、幸せそうに眠る誠がそばにいた。幼く見える寝顔に微笑むも、昨日のことを思い出して、オデコにデコピンをした。
「痛ぁ!…大河さん、おはよう」
「お腹痛い…」
「え?!ごめんね!大丈夫?昨日ちゃんと掻き出したのに」
「大丈夫…トイレ行く…」
ドタンッ
「大河さん?!大丈夫?」
「腰たたねぇ…抱っこ」
「ー〜っ!喜んで!!」
大河がトイレに籠るとドアの向こう側で誠が話しかけてきた。
「大河さん…めっちゃ可愛かった。妹とかいたらあんな感じだろうね」
「知らねーよ」
「大河さん、お兄ちゃんいるんだよね?どんな人?」
「ん?…んー。リョウさんみたいな人かな。歳も離れてるし、俺と違って人気者で優しいけど、過保護」
「過保護?」
「あぁ。会ったらお前めっちゃ嫌われると思うよ」
「なんで!?」
「兄ちゃん俺大好きだから。」
懐かしい日々を思い出して思わず笑う。高校から一人暮らしをした兄とはあれ以来あまり会えていない。小学校1年になった大河と、高校生の兄は長くは一緒にきつい時にはいつも助けてくれる。兄が旅立つ時、大河は兄にしがみつき泣きじゃくって家族全員を困らせたのを覚えている。
「お兄ちゃんもカッコいい?」
「うん。カッコイイと思うよー!今は脱サラしてカフェやってる。姪っ子が可愛んだー。…そういや、マコの家族ってどんな人?」
「いいよ、俺の話は。じゃあごゆっくり〜」
ばっさり切られて不思議に思う。優一しか知らない誠の家族。ほとんど優一の家にいたという誠はどういう幼少期だったのだろう。
(マコが話したくなるまでは、干渉しないでおくか)
そう思って水を流した。
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