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第88話 嫉妬

『タカさんとキスしてもチャラ』  柚子の言葉に、優一は誠と柚子が付き合った瞬間がフラッシュバックして、怖くなった。  (また…柚子に好きな人を…)  柚子は可愛い。素直で甘えん坊で美人でスタイルもいい。なにより一途だ。自分がこうしたいと思えばなりふり構わず、向かっていく。その人に大切な人がいたとしても、振り向かせてみせるという野心に溢れている。  (どうしよう…どうしよう…)  タカの部屋までが長く感じた。あんなに柚子を嫌っていたのに、キスをしたという事実がありえない。  コンコン  少し震える手でドアをノックすると、タカがドアを開けて驚いたあと、おいでと愛おしそうに笑った。  (心はまだ、俺にあるよね?)  緊張しながらベッドに座ると、キスしようとしたタカを避けてしまった。  (あ…避けちゃった…でも、今の気持ちのままキスできない)  見上げると、ぎゅっとハグされて落ち着く。ここは自分の居場所だと、改めて思って苦しくなる。  (この場所が柚子の居場所になったら…?)  想像もできなくて、鼻がツンとした。  「優一?」  「タカさん…?…柚子とキスしたの?」  「え…誰から?大河か?」  この言葉が肯定を意味して優一はパタパタと涙が落ちた。  (また…取られちゃう…)  「ごめん、優一…。柚子の様子を確認して、お前に伝えようと思って話したんだ。そしたら…喚いて、泣き出して、柚子が混乱していたんだ…それで…」  眉を下げて謝るタカに、優しい人だから、と思うところもあったが、その方法が辛かった。  「キス…しなきゃ、いけなかった?ハグじゃダメだったの?」  「……助けてって、言われたんだ…あいつの気が済むなら、そう思ったけど、大河に止められた。その優しさはユウを傷つけますってな。その通りだったな、ごめん。」  大河の言葉に感謝して、下を向いて必死に呼吸をした。  「柚子が…キスしたって、言ってた…」  「あいつか…全く…」  「俺は…、っ、柚子には、勝てない…っ」  「は?」  「柚子は、可愛いし、女の子だし、真っ直ぐで素直で一途で、一生懸命で…っ」  落ちる涙をそのままに、必死にタカを見る。タカは困ったように見つめていた。 「優一」  「またっ…柚子に…取られちゃうっ…俺の好きな人は柚子に簡単に落ちるっ!俺がそばにいるのに!結局みんな可愛い女の子がいいんだ!!俺みたいな男は選んでもらえないっ!!」  叫ぶように泣きながら言うと、タカが肩を押して、ベッドに押し倒される。優一は涙を手で拭きながら、必死に抵抗した。  「タカさんはっ、優しくて…、ほっとけない人だから…っ、泣いている人に弱いから…っ俺との最初のキスだって…俺、泣いてたし…っ、恋がはじまる、きっかけになるかもしれないでしょ?柚子が…タカさんを好きになるかもしれないでしょ…?そんなの、嫌だよ…そんな慰め方…やめてよぉ」  「ごめん。ごめんな」  「誰にでも、そうしたら…勘違いするよ…弱い時に大事にしてくれた人には…感情が動くよっ…」  自分が惚れたタカの優しさ。人の心が動くほど世話焼きで支えてくれる人だ。誰にでもそうするところが好きで、誰にでもそうするところが不安だった。 「優一、ごめん。もうしないから。俺が間違ってた」  「タカさんの優しいところは大好きなのっ、ただっ…」  「分かってるよ、ありがとうな。キスは確かに行き過ぎてた。お前を不安にさせたことが辛いよ。泣かないで優一。ごめん」  涙を大きな手で拭いてくれて、しばらく見つめ合い、ゆっくりとキスをした。自分だけのタカであってほしい、と願いを込めてキスに没頭した。  「優一、不安にならないでな?俺にはお前しかないないから…」  「……。」  「優一…、こっち見て」  「嫌だ…。なんか、苦しいもん。」  「嫉妬してくれたの、嬉しいって言ったら怒る?」  「もう怒ってる!浮気だ!浮気!」  「ふふっ、あー…お前なんでこんな可愛いの。浮気なんかしないよ、可愛い子ちゃんが待ってるから」  「柚子に誘われたらノコノコ行ったくせに」  「行ってないよ。こうして戻ってきたろ?」  「大河さんがいたからだろうなぁ…大河さんに感謝。ヤダよ…タカさんモテるから不安だよ」  不安だと言ってるのに嬉しそうに笑うのが悔しくてそっぽを向いた。我ながら女々しいな、と思うと、馬鹿みたいだとププッと吹き出して笑った。  「あははっ!なんか恥ずかしくなってきた!もうおしまい!じゃ、柚子のところ行ってくるね!」  泣き腫らした顔を触って、勢いよく立ち上がるも左手を引っ張られ、ベッドに戻った。  「タカさん?」  「堪らなくさせといて放置すんの?」  「え?」  熱っぽく囁かれ、掴まれた手がタカの熱に触れた。  「っ!」  「優一、抱きたい」  「……。」  「好きな人が嫉妬して怒ってくれるの…ヤバイな…マジで…たまんねぇ」  「んぅ!ンッ!!…はぁっ、タカ…さん、みんな、いるから…ッ」  「待てない…ごめん、止まらない…っ」  見上げると、余裕がなさそうな顔で笑う。ドキッとして目を逸らすと、首筋に舌が這い、口には指が入れられて口内を刺激される。気持ち良くなって力が抜けると、服が脱がされ、身体中にキスをされる。たまに合う目は好きだということを伝えてくれて、恥ずかしい。  「タカさん…っ」  「ん?」  「なんか…っ、ドキドキするっ…」  「俺も」  ニコッと微笑まれ、顔が真っ赤になる。  (好きだなぁ)  優一も感情が溢れてタカの服を取った。  「指、入れるよ?痛かったら言って」  もう慣れて痛みなんかないのに、初めてみたいに丁寧にしてくれる。それにもドキドキして、声を抑えられないまま挿入の感覚を受け入れた。  「あっん、んっ、んぅ、」  「大丈夫?痛くなかった?」  「何…?今日…、どうしたの…」  「初心に返ろうと思って。ほら…二本目…どう?きつくない?動かすよ」  「んぅーっ、はぁ、ぁっ、だいじょうぶ」  クチュクチュと鳴らすのが恥ずかしくて、いつものぶつけ合うようなセックスじゃなくて、優一が優先されたものにドロドロに溶かされる。  「可愛い、優一。ほら、締め付けてる。ここ?ここが好き?」  「あっ!ぁん!ッぁ!ぁああ!すきっ、すきっ!」  「優一、ここだけじゃないよな?ここも好きだよな?」  「ッァアァア!!…やだ、も、もう、入れてよっ」  良いところを突かれてもっと強い刺激が欲しくなる。腰を上げて誘うと、可愛いと微笑まれ熱が擦り付けられるもなかなか入ってこない。  「タカさん!!やぁっ、焦らさないでっ、もぅ、欲しいっ、ちょうだいっ、」  「ははっ…、いいね、最高のおねだりだよ」 グググッ  「ッァアァアーー!!っあ、あっ!あっ!あん!あ!」  「はっ、はぁ、中、キスしてくるよ」  「やぁだ!っぁん!やめてよぉ!言わないでぇ!!」  きゅっと後ろを締めると、タカが息を漏らし、ガシッと腰を掴み激しく打ち付けてきて目の前がチカチカした。  「はぁン!?ッぁあああ!あああー!強いよぉっ!!」  「はっはっ、はっ、優一、優一、好きだ」  「ァアァア!!ダメダメッ!出ちゃっ…う!ッぁああーー!!!」  大きく背をそらして、どさっとベッドに落ちて震える身体を落ち着かせる。ドクドクと注がれるのが嬉しくて口角が上がる。  「優一、大丈夫?…何笑ってんの」  「中、あったかい…」  「っ!?」  「…?タカさん…中出して?」  掻き出して、という意味で足を開いて膝を立て、腰を上げると、また熱が入ってきて目を見開いた。  「違うぅっ!タカさんっ、ちがう!」  「お望みどおり、中に出してやるよ」  「ぁあああ!ッぁああ!んっぅ!ッぁああ!」  「はぁ、はぁ、ココだろ?…はぁ、気持ちい?優一、なぁ?気持ちいい?」  「いやぁあああー!っあああ!ぁああ!」  「中の奥でいい?入るよ?奥までいくよ?」  「やっ!ダメダメーーッ!!っあああ!!」  ベッドが激しく軋んで、聞かれたらどうしようと、口を塞ぐも、そんな余裕なくてすぐにタカの肩に掴まった。奥の奥まで届く熱におかしくなりそうで首を振る。容赦なく奥を攻めるタカは大きく腰を跳ねさせて、温かい熱を出した。  「はぁー、はぁー、はぁー」  「はぁっ、ぅ、あ、あ、あ、はぁ、」  出し切るとそっと抜いて、トロトロとシーツへと流れていった。下半身を凝視するタカを止めさせようとすると、また熱を擦り付けてきた。  「た、タカさんっ!もう、ダメ!今日はもうおしまいっ!」  「見て、優一。ギンギンだから。…おさまらない…」  「でもっ、ダメなのっ」  「もう一回だけ」  グルンとうつ伏せにさせられて腰を高くあげられる。はっとした時にはお尻の肉を横に引っ張られ、タカの熱を零すそこに勢いよく入ってきた。  「ッぁああああああー!!」  ギシっギシっギシっ  「ァアァア!!ッぁあああ!!」  (タカさんが…何も言わない…ってことは)  後ろを少し見ると、必死で腰を振って目を閉じて快感に浸っていた。  (夢中になってる…可愛い)  ぎゅっと締め付けるとリズムが少し変わって、ドンドン早くなる。ぎゅっぎゅっとリズムを崩すように締め付けていると、タカがお尻を叩いた。  「ッぁあああ!」  「悪戯してる子にはお仕置きだ」  「んぁあ!っあああ!」  ペシンペシンと叩かれるとその衝撃で締め付け、頭がおかしくなりそうな快感に変わる。  (どうしよう!もう、とびそう…っ)  ゾクゾクと駆け上がる快感に体が強張っていく。  (あっ、ダメだ…イっく)  「イかせなーい」  「ッぁああああああー!やだぁ!やだぁ!タカさん!!タカさん!!」  「お仕置きだって、言ったろ」  「ぁああーーッ!!!あっあっあっあっ!」  イってるのかイってないのか分からないまま、強烈な快感になす術なく枕を握って意識を飛ばした。  「優一、起きて。大変なことになった」  「え…?」  「柚子が活動自粛になる。」  「えっ!?…痛ぁっ…ど、どうして?」  「奥さんが週刊誌に売ったそうだ。さっき柚子のマネージャーと社長が迎えにきてた。」  展開の早さに驚いて絶句する。  「柚子は反省してる。今日事務所が先行して情報を出すらしい。」  「そっか…。仕方ないね…。柚子が戻ってくるまで待つよ」  「そうだな」  1週間後に、タカを通して連絡がきた。叱ってくれてありがとうという文字に、柚子の道が戻りつつあるのを感じた。タカにお願いをし、柚子と毎日連絡をした。  『なんかなぁ?めっちゃ楽になったような気がするわ…ほっとしてる…。やっと終わったな…て。ほんまにしんどかった。毎日幸せで毎日不幸やった。1人の時の不安とか罪悪感と、一緒の時の幸せと優越感でもう意味わからんかった…。』  ほっとしたような柚子の声に安心した。 「もうダメだよ、柚子だけを愛してくれる人だけを大切にしな?」  『分からへんよ…。そんなやつおるん?あの人やって、うちを愛してくれてる思てたわ。見えへんねん。うちはその人だけーってなるから…分かるやろ?』  優一も猛アプローチを受けていたから分かる。苦笑いしてアドバイスをした。  「どんなにボロボロの時も愛してくれる人や、そばにいてくれる人を大切にして。人気があったり調子が良い時には寄ってくるけど、落ちた時にはみんな離れていく。でも、その時そばにいる人が、柚子を大切に思ってる。あと、叱ってくれる人とかね。」  そう言うと、柚子は爆笑している。 『それ自分やん!なぁ?やっぱタカさんがええの?』  「うん!初めは嫌いだったんだよ?ふふっ、でも、俺が辛い時にずっとそばで支えてくれた、愛してくれたよ。」  柚子は惚気かい…と黙ったあと、言葉に詰まったあと、意を決して優一に話しかけた。 『ユウ、男好きなん?女にもともと興味ないん?』 「……そうなのかな。あ、そういえば好きになった人は今まで男性かも…。」  『やんなぁ?うち惚れる男間違えてるやん!うちも意外に女いけるんかな?』  「知らないよ…。」  『うちな、もう男分からへんねん。だからもう女の子を幸せにしたろかなって』  「上からだなぁ…。そういうのもいいんじゃない?お互いが幸せなら。」 『せやんな!女の子言うと浮かぶのはあずきやねん!いつもそばにいてくれるし、お姉ちゃんみたいやで。うちに近づく女の子初めてや!』  柚子は女友達がいなくて、いつも男性とつるんでいる。女の子特有の駆け引きが煩わしく、グループも嫌いだと話していた。  『ほんまあずきぐらいやで。あいつは異才だからおもろいねん!めっちゃグロいアニメとか映画とかが好きで、甘党辛党両方持ってるからもう味覚やばすぎていつか死ぬんちゃうかなって』  よほど女友達が嬉しいのか、柚子の止まらない話に興味津々だった。  『会いたいなぁ…嫌われてしもたかな…連絡来ぉへん。うちの不倫を怒ってくれてたんよ。それも無視して…うちアホちゃうか。見てくれたのに…』  落ち込んだ声音に心配になる。唯一の女友達からまた嫌われたのかと不安そうだ。  「連絡したの?」  『した。あずきの言う通りやった、ごめんなって。でも返事来ないから…せっかく気にしてくれたのに…』  「大丈夫!きっと今は柚子のためにそっとしておいてくれてるだけだよ!」  ならええな、と電話を切った。あずきを調べてみようと、動画サイトで見ると声がハスキーっぽくてかっこよかった。その曲のアニメを見ると面白くて、タカが帰ってきたことも気が付かないほど夢中になった。  (どうか柚子をよろしくお願いします)  ミュージックビデオのあずきに向かって頭を下げた。 

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