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第90話 惚れた弱み

我慢なんてできないタイプ。  嫌なものは嫌だし、飲み込むなんて考えたこともなかった。  「「ごめんなさいっ!」」  2人揃って頭を下げたのは、彼氏と、親友。  なんの遊びかと、きょとんとした。またこいつらは俺をからかって、と流そうとした。  「「一夜の過ちを犯しました」」  こんなこと、ある?  最初に出たのは「せめて隠してくれよ」という情けない言葉だった。代わりに青木が怒ってくれて、2人のためにもお仕置きをして終わった。  震える手は気付かれずに済んで、いつも通り誠も甘えてきて膝枕をしてやると寝息が聞こえた。それでも、ザワザワした中で後ろの席の内緒話。 「まこちゃん、上手かったよ」  叫びたかった。聞きたく無いと、泣き喚きたかった。でも、グッと堪えて脅して黙らせた。後ろからの寝息と、レイのイビキが奏でる車内には、だんだん自分の心臓の音だけが響いているように感じた。  (嫌だ、嫌だ。何もかも嫌だ。)  (マコ?許したと思ってんの?そんな物分かりいいやつじゃないよ、悲鳴に気付けよ)  (なんで、なんで俺がいたのに、ユウだったの)  (俺じゃダメなの?)  (やっぱりお前は、ユウといた方が…)  「っ!」  視界が潤んではっとすると涙が止まらなかった。周りを見て、バレてないことにホッとして前を向くと伊藤と目があった。優しい言葉に涙が止まらなかった。  「伊藤さん…っ、マコの隣にいて、いいのかな」  「いつから見てもらえてなかったのかな」  「あのトークのあとも、もしかしたら2人で…」  「辛いよ…苦しいよ…っ、嫌なんだ…どうしても…どうしても嫌だ…っ、我慢しなきゃなのに…なんで出来ないんだよ…」  「俺のマコ…とらないでよぉ」  「ユウには勝てない…俺は…マコの隣にいる自信がない」  伊藤には弱音を吐けて、全部吐き出すと少し楽になれた。気を失うように眠って、次に起こされた時はマンションに着いていた。  「大河さん、どこ行くの?」  「今日は…部屋に行く」  思いっきり泣きたくてそういうと、ダメと腕を引っ張られて無理やり誠の部屋に入った。  (俺の気持ちも知らないくせにっ!!)  キスしようとした誠の頬を思いっきり叩いた。いい音が鳴って、目の前がぼやけた。  「俺にっ、触るなっ」  「……。」  「ユウを…抱いた…手で…触られたくないっ!」  「……。」 「指輪が、無いだけで、不安定になる関係なら…もう、いい。」  「大河さん!!ごめんなさいっ!やめて、言わないで」  「お前と、別れる」  「大河さんっ!嫌だ!別れたくない!ごめんなさい!」  テーブルに置いてあるリングが馬鹿みたいだと思った。外しただけでこんなにも脆いのかと。こんなもの要らない、こんな関係もいらない、高いプライドはやっぱり許せるほど大人ではなかった。 「俺にはさ、自分だけみろって言って、お前はよそ見かよ…。お前はさ、追いたいタイプなんだよ…だから、手に入れたらゲームクリア。俺や元カノ達はゲームだ。もうわかっただろ?…お前の本命はずっとユウなんだよ!!さっさと気付けよ鈍感野郎!!」  「ちがう!ちがうよ!」  「早く奪ってこいよ!お前の大好きなユウを!タカさんに取られてブチ切れてたもんなぁ!?あれがお前の本音だろ!!俺も、青木も、俺たちはピエロだ!最初っからお前達の中には入れなかったんだ!」  今までのを思い出せは出すほど、青木や自分は2人の障害でしかない。  「バカみたいだ…っ、お前の手の平で転がされてたんだな…。楽しかったか?プライドの高い俺を独り占めするまでのゲームは。」  「大河さんっ!!」  「気安く触んじゃねぇよ!」  大好きだった大きな手も、触られたくなくて振り払い、泣き崩れた。 「ごめん…」  「もう…こんなダサくて惨めなの…耐えられないよ…。お前が好きだった…好きだったから…ウソだと言って欲しかった。こんな謝罪聞きたくなかった…。…なぁ、何のために言ったの?俺がいいよって許すと思ったの?」  「悪かったことの…自覚があったから…隠すことは…もっと裏切ることになるから…」  「そんな…の、お前ら2人が…スッキリしたいだけだろ…っ!?なぁ!!?突然、何の前触れもなく裏切られた俺の気持ち分かる?分かるのかよ!?」  情けなく泣き叫んで、涙で前も見えないまま玄関に走った。  「行かないで!」  「離せ!どけ!!」  「嫌だ!…いま、大河さんを出したら一生そばにいられなくなる」  「離せ!!」  「大河さんを愛してる!!」  「嘘つくなよ!聞きたくない!嘘つき!ずっと…っ、ずっと好きだって…」  「好きだよ!!大河さんが好き!!大河さんしかいらない!!」  「もうっ、やめてくれっ…!…っ、もうっ…これ以上…期待させないでくれよっ、なぁ、マコ…俺を解放して」  「っ!」  下を向いて2人の靴が並ぶ玄関も、幸せだった日々が思い出されて苦しくなった。 「こんな苦しい恋…もうしたくない。楽になりたい…俺はもう1人でいい…傷つきたくない…お前も、ユウも嫌いになりたくない」  「大河さんっ!ごめんっ!ごめん!大好きだよ!大河さんだけがっ!愛してる!愛してるんだ」 必死な誠にもイライラした。こんなに必死になるなら何故、ともっと苦しくなった。顔を上げると、2人の幸せだった空間。二つの食器やクッション、スリッパ、何気ないもの達が全て恋しくなった。 突然目の前が真っ暗になって、大好きな香りに包まれた。 「大河さんが信じてくれるまで、こうして伝え続ける。大河さん、愛してる」  誠の心臓の音に目を閉じて大きく呼吸をする。先ほどの荒んだ気持ちが徐々に落ち着いてきたのを感じた。  「大河さんを傷つけたこと、一生背負っていく。大河さんを世界で一番幸せにしてみせる。約束する。」  ポンポンと、背中がリズム良く叩かれるのが心地よくて、そっと背中に腕を回す。  「大河さんがもう一度俺を見てくれるように、今まで以上に大切にする。大河さん、ゲームなんかじゃない。こんな弱い俺に、そんな余裕はないよ。弱かったから、過去に押し潰されそうになって、消えたかった。過去の自分を消したくて、昔の想いを叶えたら、消えなくても済むかもって思って、優くんを説得したんだ。」  優一が巻き込まれたことを知って、気の毒だった。誠の弱さがこの状況を生んだのだった。  「昔から、自分が嫌いだった。親にも愛されなくて、友達からもバカにされて、優くんしかそばにいなかった。毎日、怖かった。優くんがいなくなったら1人だって。夏祭りのお話はね、実は幼い頃に優くんに言ったセリフだったんだ。…気付いて貰えなかったけど。諦めてからは必死で優くんの代わりを探した」  「俺は、代わりか?」  「優くんの代わりは誰もいないよ」  優一の代わりにはなれないと言われて、ズキっと胸が痛んだ。潤む目を見て誠が慌てた。  「そうじゃなくて、大河さんの代わりもいない。優くんにはそばにいてほしいのは事実だよ。ただ、大河さんは、愛したいし、愛されたい」  「マコ…」  「初めて見たときから、この人しかいないって。初めてだったんだ、すごく強烈な印象だった。あの感覚を味わったのは後にも先にも大河さんだけ。」  ゆっくりと指が絡む。ドキドキして絆されそうになる。  「大河さんが好き。今回のことは全部俺が悪い。大河さんも優くんも傷つけた。本当にごめんなさい。」  「バカ…もうヤダ…。何でお前選んだんだろ俺…。」  「うぅ…後悔してる…よね?」  「当たり前だろ?まさかメンバーに手を出すなんて思わないだろ。しかも2人揃って謝罪とかもありえねぇし。ここまでアホだとは思わなかった」  そうだよね、と落ち込む誠に苦笑いして、やっぱり自分は誠に甘いなと思った。  (惚れた弱みってやつか…)  「比べたら許さないからな」  「え?」  「今回限り。さっきも言った通り次はボコボコにして捨ててやる」  「大河さん…っ!」 今度は誠が泣き始めて、何でお前が…と呆れた。 「お前、ユウにも謝れよ。あいつはお前にはクッソ甘いから。しかもお前を助けたい一心だろうからことの重大さに気付いてないはずだ。」  「ごめんなさい」  「頼むからしっかりしてくれ。俺は甘えたいタイプなのに、こんなんじゃ甘えるどころじゃねーよ」  「ごめんなさい!努力するから!お願い、捨てないで」  「とんでもないダメ男だな…。見る目ないのかなぁ…」  笑って言うと、笑ってくれた、と号泣しはじめて、世界一ダサくて情けない告白をされた。  「大河さん!一から出直します!…もう一度、俺と付き合ってください!!」  涙も鼻水も出たまま必死に言ってくれたことが嬉しくて、笑った。  「仕方ねぇな。付き合ってやるよ。」  誠は目を輝かせて、ほっとしたように笑って抱きついてきた。 「大河さんっ!!大好き!大好きだよ!愛してる!」  「あっはは!やめろっ、分かった!分かったから!…おわっ!何だよ!降ろせ!」  急に持ち上げられ、ズンズンと歩いて行く。  「ごめん!デリカシーないの分かってるけど、身体でも好きって伝えたいんだ。」  「ウソつけ!お前ヤりたいだけだろ!このムッツリスケベ!金輪際コスプレは許さないからな!」  「はーい!」  聞いているのか聞いていないのか、テンションの上がった誠はベッドに大河を投げ、腕を押さえ込んだ。  「絶景…」  「うるさい浮気者!」  「ごめんっ、失神するほど気持ちよくするからね!」  「はぁ!?それ、俺、損しか…んぁっ、んぅ、」  下着ごと下ろされ、いきなりじゅるじゅると吸い込んで、腰が浮く。あっという間に固くなったのが恥ずかしくて顔を隠して、気持ち良さに集中する。  「大河さんが気持ちいいことだけをするね。何でも教えてね?」  「っぁああ!っあ!んぅ!っあああ、ん!」 ここは?ここ?としつこいくらい聞いてきて、恥ずかしさで嫌になった。  (やっぱ俺、見る目ないかも…)  「ぅあっ!?何だよ!っぁあ!お前!?なにこれ!」  「あ、どう?イボイボついたコンドーム。大河さんと使おうと思って」  「これ…ユウにも、使ったのかよ…?」  最近はナマでしていたことが多く、コンドームの存在に不安になって聞くと、馬鹿正直に答えた。 「優くんには普通のやつ。」  「本当に入れたのかよ!バカ!バカ!」  「ごめん…泣かないで…。」  「お前なんか、タカさんにボコられればいいんだ!!嫌いだっ!お前なんか!」  ポロポロ涙が溢れて、誠のが入っているのに大河は萎えてしまった。 想像してしまって、顔を手で覆った。すると、誠はずるっと抜いて、大河は不安になった。  (マコ…俺が萎えたから…)  優一が選ばれたらどうしようと、慌てて起き上がると、コンドームを捨てて、ケータイを取り出した。  「マコ?」  「タカさん、お疲れ様です。」  「っ!!?バカ!やめろ!!何するつもりだ!」  「タカさんに、謝らないといけないことがあります。」  「バカ!貸せ!!…タカさん、お疲れ様です!何でもないです。」  『大河、マコに代われ。俺も話がある。』  「へ?」  『大河、躾がなってないな。しっかり手綱を持っておけ。放飼にしやがって。』  「あ…え?」  『お前は許したらしいが、俺は許さない。マコに代われ』  ブチ切れてるタカに、優一の確認をすると、お仕置き中だと話した。  「俺だって…許していません」  『そう?なら話は早い。いいか、1ヶ月あいつに触らせるな、優一にも、お前にもだ。それで我慢できれば1発殴るだけで許してやる』  協力してくれ、と言われ頷いた。  「あの、ユウはマコに絆されて…」  『だから浮気していいという理由にはならない。自分は柚子とキスしただけで泣いて怒ってたくせに、まさか身体を許すとは。大河、うちのも躾できてなくて悪かった。』  タカの後ろで優一の絶叫が聞こえ、大河は慌てて誠に電話を返した。ひたすら謝罪している誠の前で、お仕置きを始めようとゆっくり服を脱いで足を開いた。誠は口をあんぐりと開き、怒鳴られている声が漏れる。  サイドテーブルからオモチャを取り出して、黒いオモチャを思いっきり口に入れて頬張り、誠を見ながら舌で愛撫する。目を逸らさないまま、オモチャを舐めながら自分のを育て、ローションで自分で慣らすのを見せつける。  (釘付けになってんな…可愛い…。ん…もうちょっとで入るかな)  先ほど少し誠が入ったのもあり、すぐにほぐれ、足を開き、ゆっくりと中に入れ込む。  (はぁっ、気持ちいっ…)  誠は謝罪するのを忘れて大河を凝視し、さらに怒鳴られている。恐る恐るスイッチに手を伸ばし、ギュッと目を閉じてスイッチを入れる。  ヴーヴー  「っぁあ!やっば!っぁあああ!!」  「はぁ、は、大河さんっ、」  「触んな!…1ヶ月、触るの、禁止っ」  「え!?」  「タカさん…と、お仕置き…っ、絶対触るなよっ、触ったら、別れる」  「そんなぁ!!」  見せつけるように腰を振ると、意識が飛びそうなほど気持ちがいい。  「ぃあああっ!!ッ気持ちいいっ!マコぉ!やっぁ、ああああっ!んぁああ!気持ちっ!」  電話そっちのけで近づいてきた誠は待てをさせられ、タカに適当に謝って電話を切った。  「ごめんなさいっ!大河さん、大河さんを抱きたいっ!」  「はぁっ、っああ!っあ、ダメ!ダメぇ!触んなぁ、別れたくっ、ないなら、我慢しろっ!ッィアアアー!マコぉ!ーーッ!!イっくぅーー!!」  誠に思いっきりかけて、呼吸を整える。オモチャを抜いてローションを拭い取って下着を着た。  「お風呂行ってきまーす」  おあずけされた顔に少し満足して、毎日やってやろうと、ニヤリと笑った。 朝、グロッキーな顔をした誠にクスクス笑って、伊藤にお礼のメッセージを送った。これからの1ヶ月が楽しみだった。  (これで懲りてくれたらいいけど)  事務所での企画会議に行くと、カオスな状態だった。優一はぼんやりと疲れ切った様子で、誠は禁欲生活でイライラしはじめていた。大河は機嫌がよく、会議でもテンションが上がった。  「マコ!帰るぞ!」  「大河さん、もう、許して…限界…」  「俺、お前と別れたくないよ?」  「っ!!そんなの俺もだよぉ〜!!」  相変わらず情けない彼氏だが、やっぱり可愛くて愛しくて堪らない。  「あと25日〜。25日後、最高に気持ちよくしてもらえるんだろうなぁ」  「よっし!頑張る!長いけど頑張る!」  そして、優一はすべての行動を監視されていた。日に日にエロくなる優一に、大河でもドキドキした。  「ユウ、大丈夫か?」  「え?…あ、大丈夫だよぉ、伊藤さん、帰ろ。15時までに帰らなきゃ怒られちゃう」  「全く…束縛しすぎじゃないか?」  「俺が悪いから…」  「とは言え…まぁ、仕事に支障のないようにな」  伊藤が車を取りに行った間に優一の隣に座る。  「大河さん、改めて、本当にごめんなさい」  「タカさんブチ切れてたな。」  「怖かったぁ…。帰ってきた瞬間バレちゃった…。でも、別れないって言ってくれたからホッとしてる。タカさんがいないと無理だから…だから何されても、許してくれるなら何だってする。」  「二度とやめろよ?心臓に悪い」  「ごめんなさい…。」  「マコが言ってたよ、最後まで嫌がってたって。マコが…ごめんな。」  ピリリリリ ピリリリリ  「あ、もしもし。うん、今は事務所。うん、大河さん。まこちゃんはいないよ。うん、あ、かわる?」  ケータイを苦笑いで渡され、受け取って挨拶をすると、淡々としたタカだった。  『よぉ、どうよ調教は。』  「いい感じです。」  『こっちも順調だ。もう許してるがずっと気にしてくれるのが可愛い。』  「惚気ですか?」  『当たり前だろ。世界一可愛いよ。帰ってきたら走って抱きついてくれるし、必死に大好きだの愛してるだのを伝えてくれるしな。正直、マンネリしそうだったからいい刺激だよ。』  「なら良かったですね?」  『お前も楽しんでるくせに。どうよ禁欲。俺マジで別れようって言ったからね。それぐらいキツイよ』  「まーでも、俺もきついんで、そろそろ許してやります。」  隣の優一があからさまに嫉妬してるのが分かってクスクス笑った。  「タカさんと話すと楽しいです」  わざとそう言うと、奪うようにケータイを取って、タカさんは俺の!と叫んで大河は大爆笑した。恐らくタカも嬉しくてたまらないだろう。  笑い疲れて落ち着くと、誠のことを考える。大河と別れないために必死で頑張っている。大河の誘惑にも負けず、大河さんとずっといたいからと頑張ってくれるのが嬉しかった。ケータイを取り出して、撮影中の誠にメッセージを送った。  大河:マコ〜愛してるよ〜  ニヤニヤしてメッセージを送ると、すぐに返信が来た。  マコ:この一言で頑張れる!いつもそばにいてくれてありがとう。大好き!愛してる!キスできる日まであと25日!  このメッセージに、想いが溢れそうになった。ケータイを両手で握りしめて顔が熱くなる。  (結局、好きだから仕方ない)  無意識に誠の写真を見る自分に呆れて、ケータイをしまった。 

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