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第94話 家族としての繋がり
久しぶりのソロでの撮影。
優一は少し緊張しながら、伊藤にべったりとくっついていた。
(うー…2件も取材ある…。舞台なら主演に聞いて欲しい…ギターの話なんか無いよ…)
文字で残るのが苦手で、あまりインタビューには答えないようにしている。
「こーんにちはっ!優一さん、はじめまして高嶋です!」
元気よく声をかけてくれたのは、音楽専門誌の高嶋聡太。見た目は髭があってワイルドで怖そうに見えるが、メガネの奥の垂れ目は優しいそうで安心した。
「こんにちは、高嶋さん。あの、この間の打ち合わせでお話ししましたが…」
「ああ!もちろん、マネージャーさんはお隣にいてください!優一さん、話したくないことは、話さなくていいからね?」
「ありがとうございます」
始めようか、と録音を始め、緊張する。
「緊張していますか?」
「少し…」
「今日は、新しいユウさんのイメージを提案できればと思います。可愛い担当と言われているユウさん、コンサートでのギター演奏に驚きました」
録音をはじめた時から、「優一さん」から「ユウさん」に変わり、優一も切り替えのきっかけになった。コンサートも細かくみてくれていて、何より安心して話ができた。いつの間にか笑って、いつも通りにベラベラと喋ってしまった。
「ありがとうございました!」
楽しい時間はあっという間で、取材が終わっても話し続けた。優しい相槌と、引き出す力、言葉がでないところをさりげなくフォローしてくれたり、と初めて取材でここまで話すことができた。個人撮影でも最後までみてくれて嬉しかった。
「高嶋さんと、またお仕事したいです!」
「嬉しいなぁ!また取材お願いしますね」
頭を撫でられて、にこりと返す。次の取材があるので、とアッサリ帰っていった高嶋にほっとした。
「ユウ、大丈夫だったな。よく話せていたよ」
「不思議…。緊張したのは最初だけだった。高嶋さん話しやすい」
「さすがプロだな!事前にお話しした時も物腰柔らかくてユウも大丈夫かなって思ったんだ。よかった!」
伊藤も安心したようで、また一つできることが増えて、優一はご機嫌で家に戻った。
「ただいま!…あれ、タカさんでかけちゃうの?」
「あぁ。ラジオ前に母さんのところ寄ってくる。」
「え?どうして?」
「青木ママが元旦那を店に連れてくるらしい。…翔太さんが青木ママを口説いてるからな…気が気じゃ無いらしい。」
お世話になってるから協力してやんねーと、と靴を履くタカの背中に抱きついてピアスを甘噛みした。
「んっ…?なに、どうした…?」
「もうちょっと、一緒にいれない?」
「っ!……はぁ〜〜…。断れるわけないだろ?」
「やった!」
どうしても甘えたくてわがままを言うと、少し時計を見たあと、困ったように笑った。
玄関でそのままキスして、触って欲しくてタカの手を自分の内腿に持っていって誘う。
(タカさん…シたい…)
目で訴えると、苦笑いして優一のものを刺激してくれた。
「っ!ーーっ、っ、っ」
「いいよ?声出して」
「でも、っーーっ、玄関、だから」
「このフロアに誰も来ねーよ」
「っでも、恥ずかしいっ、っ!」
「へー?お前にそんな感情あんの?…あ、時間ヤバイ」
タカは優一に激しいキスをして、グチュグチュと音を出す手の動きを早める。優一の腰が浮き、大きく跳ねた。
「ーーっ!!」
キスに飲み込まれた声に、タカはご馳走様でした、と笑い、ハンカチで優一と手を拭いたあと、洗っといて、と立ち上がった。
「タカさん、俺もいく」
どうしてもタカといたくて、バーにまで付いてきた。オープン前のお店に、不自然に思われないよう、優一はお店の仕込みを手伝い、タカは生演奏を行った。少し緊張した様子の薫を、麗子は心配そうに見ていた。
カランカラン
ギィィ
「いらっしゃいませ」
「少し、早かったかな…?」
入ってきたのは、白髪が混じった髪をオールバックにした、お金持ちそうな人。身長が高く、ベージュのスーツがよく似合う。
(あれが…青木のパパ…)
優一は厨房からこっそり覗き、様子を伺った。
「カウンターへどうぞ。薫ちゃん、ドリンクは?」
「あ、これからお仕事ですか?」
「いや、今日は終わらせてきた」
「はい、ウイスキーでいいですか?」
ありがとう、と優しく微笑むのが、青木の話すパパのイメージとはまるで違っていた。薫だけを愛しそうに見つめている。
カラン
ドリンクが出ると、薫も同じものを準備して乾杯していた。タカの演奏する音楽がとても合っていた。
「お元気に、していましたか?」
「あぁ。相変わらず激務だが…」
「大空は帰ってきたんですね?」
「向こうの生活が合わなかったようだ。頭はいいがコミュニケーションが苦手らしい」
「そうでしたか…日本でなら力を発揮できるかもしれませんね」
「コミュニケーションができないのは…正直社員としても厳しいんだ」
グラスを軽く回してコクリと飲み、ため息を吐いた。
「期待…しすぎてしまっていたようだ。大空にも那月にも。」
「……。」
「那月はキャリアウーマンだ。うちの会社を傘下に入れるために、親が結婚を勧めただけだ。私も勘が鈍っていたよ。」
薫は驚いた様子で固まっている。青木のパパの会社が、飲み込まれることになるのだ。
「会長は大激怒さ…関係も危うい。那月は会社を大きくすることしか考えていない…。もちろん、大空のことも何も思っていない…。そして大空は自分への劣等感で今にも潰れそうだ」
「そんな…っ、大空はできる子です!」
「那月は容赦ないから。できないところだけを淡々と永遠に指摘しては論破する…苦しいはずだ」
グラスを置いた青木のパパは、薫の手を握った。
「頼む…。薫が必要だ。そばにいてほしい」
必死のお願いに、そばで見ていた優一ならすぐに返事しただろう。しかし薫は涙目で微笑んだまま、手を解いた。
「私は…選ばれませんでした。」
「ちがう!あれは…」
「もう、精一杯頑張ったつもりなんです…あれでも。これから、また、頑張ることはできません。」
「頑張らなくていいんだ!ただそばにいるだけで…」
「何もできないのに、そばにいることがとても苦しかったんです!」
「薫…」
「薫ちゃん…」
綺麗な顔で、青木のパパを見つめたまま、涙が落ちる。麗子が慌てておしぼりを渡した。
「あなたのために、何にもしてあげられなかった。どんなに考えて動いても空回りで、迷惑かけて、怒らせてばっかりで…。邪魔しかできなくて…、ついには…私と大地を捨てて…幸せそうに3人で暮らしてましたね…。」
「薫…」
「ほっとしたんです…。大志さんが幸せになれたんだって…。あの時に、もう区切りはついています。幸せな思い出のままで、いいんです。」
おしぼりで拭きながら、にこりと笑う。
「ずっと、大好きでした。これからも大空のこと、よろしくお願いします。いつまでも応援しています。辛くなったらいつでもここへ来て下さい。私はここで、待っています。」
「薫…もう、戻れないのか?私はお前を…」
「戻れません。…大志さん、まだ新しい環境に慣れていないだけです。時期に私のことは落ち着いてくると思いますよ?」
「薫…那月なんかより…」
「ダメです。そんなこと、聞きたくないですし、嬉しくないです。幸せな惚気を言いに来て下さい。」
麗子が薫の肩を抱いて、青木のパパ、大志に笑って言った。
「今日はお店の奢りです。好きなだけ飲んで泣いちゃいなさい。」
静かに涙を流す大志に、薫の涙はすっかり止まり、微笑んでいた。プロポーズするために持ってきていたペンダントに、薫は嬉しそうに笑ったあと、ペンダントを大志の手から取った。
「これは、私が預かります。大志さん、新しいペンダントを那月さんにプレゼントしてあげてください。女性はサプライズに弱いんですよ」
にこりと笑うと、薫はピアスを触った。
「今日…、これを頂いたんです。可愛いでしょ?ちょっと若作りですけど…、付けたら可愛いって喜んでくれたんです。…たったこれだけで女性は幸せなんです。」
「彼氏…か…?」
「まだ、お友達ですが、私はいいなぁって思っています。」
その言葉に嬉しそうにタカが振り向いていて、麗子がウインクしていた。
「大志さん、たまには家族サービスも大事です。今日はここまでにしましょう?」
薫が促すと、そうだな、と晴々とした表情で立ち上がった。
「いい店だな。贔屓にさせてもらうよ」
「ふふっ、お待ちしています。」
「ご馳走さん」
出ていった大志を笑顔で見送ったあと、ポロリと涙を流して麗子に抱きついていた。大志のために、と練習していたようだ。それを聞いて優一も涙を流した。タカはピアノのステージから降りて、薫に駆け寄った。
「薫さん!翔太さんどうですか?」
「ふふっ、とってもいい人よ。私にはもったいないわ」
「ピアスの話は…?」
「本当です。驚きました…こんなサプライズ。あの人にそっくりでドキドキしました。薫さんの気持ちを伝えられるといいですねって、背中を押してくれました。」
嬉しそうに話薫にほっとしたタカは、翔太が良い人だということを全力で伝えていた。
ラジオから流れるタカの声に目を閉じる。バーから出て、家の前で降ろされ、猛スピードで仕事へ行ったのを見送って部屋に戻り、のんびりと過ごす。
誠との過ちから、苦しいほど躾られ、愛を伝えられた。それからというもの、前以上にずっと一緒にいたいし、声だけでもゾクゾクするほどたまらなくなる。
(…いい声…。熱い…)
痛いほど固くなったものを握りながら、ラジオの声に集中する。呼吸が荒くなっていって、タカの声が聞こえにくくて嫌なのに、自分の声が止まらなくなってきた。
(タカさん…っ、タカさんっ!)
必死に手を動かしても、絶頂が来そうで、来ない。
(イきたいっ!)
服を全部脱いで、タカの部屋に入り、焦ったようにローションと、虐められていたオモチャを取り出す。適当にローションをかけて指で慣らしながら、タカのベッドに顔を埋める。
(はぁ、はぁ、タカさん、タカさんっ)
日に日に変態になっていく自分に、恥ずかしさもあるが、こればかりは我慢ができるものではなくなってきた。
(なんでこんなに…)
抑えがきかない欲情に不安になって、生放送中のタカに連絡するも、もちろん取るはずはない。タカの事で頭がいっぱいになり、気持ちが追いつかずに涙を零す。
「はぁっ、はぁっ、やだ、もうっ…」
ピリリリリっ ピリリリリっ
「っ!!」
近くにあったケータイが震え、ビクッと跳ねた。タカかと思って見ると、知らない番号だった。無視しようとするも長らく鳴らされるのに電話に出た。
「……もしもし」
『やっと出てくれましたねー!』
「え?あの…?」
『なんだ、優一、ラジオ聞いてくれてなかったの?』
「わ!え!?ちょっと!ラジオ!?これ放送されてるの!!?」
ラジオDJの方とタカが生放送中にかけてきたことに気付き慌てる。
『突撃弾き語りです!ユウさんが挑戦したがってると聞いたんです!いやぁ、取らなかったらどうしようと思いました!さぁ!ユウさん、いけますか?』
(え!?、ちょっと、ギターギター!)
全裸で電話を持ったまま、急いで自分の部屋に行き、ギターを取り音をチェックした。
「はいっ!お待たせしました!」
『バタバタゴソゴソ…お前なぁ、部屋が汚いと思われるだろ?』
『あっははは!ユウさん油断してましたね?』
「はい…完全に油断してました…。タカさんすみません!じゃあ、ブルーウェーブのシュウトさんのソロ曲をやります!」
どうぞ、と言う声に目を閉じて歌う。キーが同じだから歌いやすくて先程の不安も全て歌が解消してくれた。
『わぁー!ありがとうございます!突撃なのにこのクオリティですか!!素晴らしい!』
『シュウトの歌を歌えるなんてすごいですよ!前半モタモタしなければ完璧だったな』
「えー…前半見逃してくださいよー」
『ふふ、お二人一緒に住むほど仲が良いですもんね!お互いの意外な秘密とかないですか?』
「スタジオに籠ると2日ぐらい顔を見ないです。」
ラジオ用にサラッと言うと驚かれ、タカも時間感覚がね…と話しやすそうで安心した。
『タカさんからはありますか?今大ブレイク中のRINGのユウさんの秘密』
『こいつの料理は理科の実験です。みなさん、キッチンを綺麗に保ちたいなら入らせないようにしましょう。』
「そんなことないよ!大丈夫だもん!」
スタッフさんも爆笑しているのが聞こえて安心して電話を切った。我に帰ると全裸でギターを弾いて熱唱したのが恥ずかしくて、服を洗濯に入れ、オモチャやローションを片付けて風呂に行った。
歌が気持ちを落ちつかせてくれて、ご機嫌で鼻歌を歌う。響くバスルームに気分が良くなり、湯船に浸かりながら歌う。
(バラードも歌いたいなぁ…。レイさんの入りから…こう…)
想像すると、メロディが浮かんで、脱衣所のケータイで録音した。
(青木のピアノと…そうだ!アコースティックバージョンで。レイさんならリズムもキープできそうだし!マコちゃんはベース問題ないし!)
「いいかも!!」
「何がだよ…独り言言い過ぎ。」
「わぁ!おかえりなさーい!」
タカが全裸で風呂場のドアを開けた。飼い主が来たかのように嬉しくなるのが止まらない。尻尾があったらブンブン振っていただろう。タカが身体を洗うのを何度見ても飽きない。濡れた髪を掻き上げるのがカッコよくてドキドキしている。
「はい、どっちかに寄って」
ヒノキの香りのお湯が流れていく。広いバスタブでもくっついてキスをする。
「はぁ、んぅっ、んっ、んぅ」
やっと満たされたような気がしてたまらなくなる。
「タカさん…あのラジオの電話の時、1人でエッチしてたの」
「え?…あっはは!それで慌ててたのか!なんで?昨日もシただろ?足りなかった?」
「タカさんの声聞いたら…シたくなった」
タカの手が身体を滑っていく。気持ちいいところはさけて、話を聞いてくれるが焦らされているような気がした。
「青木ママ…岡田さん…選ぶといいね…。青木、パパ…にも…同情しちゃった…けど」
「青木ママ綺麗だよな…手放すなんてもったいねぇ…」
「本当…でも…どっちも、…必死…だったんだね…」
「そうだな…」
「ンっ!…岡田さん…には、言ったの?」
「なにを…?」
「バー…での…っ、こと…っ」
「まだだよ…」
「っ…ぁ、っ…」
前と後ろを同時に刺激されて、もう話すことができなくなって目を閉じた。パシャパシャと水面が揺れて、自分の息遣いがこだまする。
(おっきい声…出ちゃいそう…)
声を我慢して、気持ち良さを追いかける。突然湯船から出され、慌ててバスタブの縁に捕まると大きな熱がグッと入ってきて目の前がチカチカした。
「っぁああああーーー!!」
「はぁ…っ、動くぞ」
「あんっ!!っあああ!」
肌のぶつかり合う音と、息遣い、自分の声が響き、何も考えられなくなる。待ちに待った衝撃と快感にもっともっとと、腰を擦り付ける。
(いつからこんなに貪欲になっちゃったんだろ…。怖いよ…シてるのに、シたくてたまらない!)
「っああ!タカさんっ!タカさん!!」
「っ!…はぁっ!はぁ!」
何も言わない時は集中している時、言葉でいじめる時は酔っている時、苦しい快感を与える時は嬉しい時、心の痛みと切ないほどの快感を与える時は、怒ったあの日。
ーーーー
「いやぁぁあーー!!助けてっ!!」
「お前は俺じゃなくてもイけるんだろ?それで満足したらどうだ?」
「やだ!やだぁあああ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっっ!イっ…ーーっぁああああー!!」
「ほら、イけるじゃん。お前は誰でもいいんだよな?」
「っはぁっ、ぁ、ちがっ、ちがうよぉ!やだぁ!タカさんがいいの!ぉ!っ!やだ、また…っ、止めて、止めてよぉおお!」
前にも後ろにも挿されたオモチャを最強にしてずっと見つめられる。タカは何もせず、悲しそうな、怒っているような顔で見つめるだけ。タカに触られたくて、必死に動くも、しらばれた手首と、力の入らない足では為す術がなかった。
泣いても叫んでも、動かずに見つめるだけ。どれほど傷つけただろう、と涙がこぼれる。柚子とタカがキスをしただけて、心臓が潰れそうなくらい傷ついた自分。今のタカはどうなんだろう。
(あの時マコちゃんに抵抗できていれば、傷付けずにすんだのに)
きっと大河も許してはいないはずだった。大好きな2人を傷つけた行為は後悔以外なんでもなかった。
優一にとっても、過去の自分が夢見ていた繋がり。でも、時間が違えばこうも意味合いが変わるのだと、苦しくなった。
誠の布団に縫い付ける手首を抑える熱い手、余裕なさそうな顔、必死に快感を追う顔、中に入る熱すぎる熱。
「は…はぁ…」
思い出していると、ピタリと全てが止まった。やっと呼吸ができて、ゆっくりと抜かれて、手首も解かれた。
「お仕置き中くらいは…俺でいっぱいになってくれよ…」
「タカさん…」
「お前に、辛かったんだ、って分かって欲しくて…やってるのに…お前は、マコちゃんのこと…考えるのかよ…。」
「タカさん…」
ぎゅっと強く抱きしめられているが、いつもの安心感ではなく、不安が押し寄せる。
(タカさん…?)
「捨てないで優一…。俺にはお前しかいないんだよ…。頼むよ…」
初めて聞く弱々しい声。
こんな声を出させたのは、裏切った自分。
「優一…俺たち結婚したじゃん…何で…許すの?…お前が、他の男に触られたの…考えただけで…狂いそうだよ…」
ゆっくり、感情を抑えるように零す言葉に涙が溢れた。こんなにも想ってくれている人を裏切った。ありえない自分の過ちに、しがみつくように抱きついて、涙を零しながらタカの言葉を聞いた。
「お前の可愛い顔とか…柔らかい肌とか…イく顔とか…俺だけだと…思ってたのに…なぁ?なんで…何でだよ…。抱かれましたって顔で…帰ってきて…俺、どうすればよかったの…」
「ごめん…なさいっ…ごめんなさいっ」
「浮気されたの…初めてだよ…こんな辛いのな」
そんなんじゃないと顔を上げるも、辛そうに笑う顔が見たくなくてキスをする。全く絡めてくれなくて、やっぱり涙が零れる。
「何で…お前が泣くの」
「こんなっ、顔させて、ごめんなさいっ!…っ、俺っ、俺」
「こんな顔…?どんな顔してる…?情けないだろ?」
「俺のせいで、っ、ごめんなさいっ、大好き!俺もタカさんしか、いないっ!本当だよ!?」
「……」
「ごめんなさい…信じてほしい…っ、マコちゃんが…過去のことで…落ちちゃったんだ。俺が…そのきっかけを作ったんだ。マコちゃん恋愛多かったからネタとしてふったら…人間なんて嫌いって言い出して…。仕事中だったし…責任を感じて…なんとかあげなきゃって…」
「責任…こうしなきゃいけないほどの責任なのか…?」
「…判断が…ちゃんと、できませんでした…」
非しかなくて思わず俯いて黙った。あの時は助けたい一心だった。なりふり構わず、誠が元に戻るなら、としか考えてなかった。
「お前の、優しくて正義感あるところが好きだけど…そういうところが嫌いだよ」
「っ!!」
「嫌い」と言われて目を見開いた。目の前がぼやけていく。
(タカさんに…っ、嫌われた…)
嫌われたことが怖くて、自分が悪いのに泣きじゃくって、嫌いにならないでと泣き喚いた。
「っ!」
「分かった…もういいよ。嫌いにならないから落ち着け。」
「っぅ、ぅぅー、ごめん…なさいっ、大好きなのっ、タカさんしか…いないの」
「分かったから。ほら、ゆっくり呼吸して…大丈夫だから。落ち着け。はい、吸って、吐いて」
呆れたように言うのも嫌で、いつまでも好きだと愛してると伝えた。
「優一、お前を躾けなおすから。ついて来れる?」
「うん!タカさんに認めてもらえるように頑張るっ!」
許してもらいたい一心で返事をしたら、とんでもない日々が待っていた。
こまめな連絡、そして誠との会話禁止。毎日身体を重ねてタカだけを覚えさせられた。日々「好き」が更新されていって、タカで頭がいっぱいになる幸せ。2人きりになると幸せそうに笑ってくれるあの顔がたまらない。局内や事務所ですれ違っても、少し手を絡めたり、目を合わせるだけでもドキドキする。近くにいるだけでゾクゾクして、触って欲しくなる。
ーーーー
「タカっさぁん!」
「ん…?イくっ?」
「大好きっ!」
「っ!はは、可愛い」
「タカさんっ!好きぃっ!好きっ」
「俺も。愛してるよ優一。ほら、イくんだろ?あの顔見せて」
後ろから攻められて絶頂が近い。顔を後ろにむかされて見つめ合う。
(あ…タカさん幸せそう…)
このタカの顔が好きで、ぎゅっと中を締め付けると、気持ち良さそうな声がして、勢いよく腰を振られた。
「っ!!ああああーーーっ!!」
「おっと…大丈夫か?」
「はぁっ、はぁっ、すきっ!タカさん、っ好き!」
支えてもらいながら必死にキスをして愛情を伝えると、あの幸せそうな顔が見えて、こちらも幸せになる。
「タカさん…大好き」
「俺も優一が好きだよ」
「タカさんみたらエッチしたくなる…どうしよ」
「そうやって躾したからな。いい子だぞ」
頭を撫でられて、えへへと笑う。褒められたのが嬉しくて甘えた。
「今日の取材、大丈夫だったか?」
濡れた髪をタオルで拭いてもらいながら、思い出して元気に返事をした。
「うん!また1つできることが増えた!とっても話しやすい人だったんだぁ」
「よかったな!ライターさん?」
「うん!高嶋さんって人!」
「あー!あの人話しやすいよな!すぐ終わるし!」
タカも知っているようで、高嶋さんでよかったと安心していた。
「あの人、バツイチで子ども引き取ってるから偉いよな。男の子だったかな?子育てしながらすげーよ。」
「だからお仕事も早いのかな?」
「そうかもな。とにかく、家族大事にする人はいい人しかいないな。」
「タカさんもだ?」
「そうだな、お前大事にしてるもんな?」
「ふふっ、家族だって」
「あ、飼い主か?」
「どっちでも家族だもーん!」
あははと笑って後ろから頬にキスされてくすぐったい。
「俺の妻だよ。」
「あははっ!俺が奥さんなんだね!」
「愛してるよ、優一」
「愛してるよ、タカさん!」
ーーーー
コンコン…
「大志、この資料なんだけど」
「あぁ!那月!…これ。」
「何これ?」
「那月に似合うと思って。付けてみて?」
「え?パーティーでもないのに。次回の会食の時につけるわね。そんなことより、大志、このデータなんだけどおかしいと思わない?」
すぐに話を変えられ、那月らしくて苦笑いした。資料のデータを確認していると、名前を呼ばれ、顔を上げる。
「どう?似合ってる?」
気の強い那月が少し恥ずかしそうにこちらをみた。首にかかる細いチェーンに、那月を想って買った三日月のモチーフ。
「那月…」
「っ、ガラじゃないわよね、こんなの…」
「可愛い。」
「っ!」
「似合ってるよ。嬉しいよ那月!…してくれないかもって思ったから。」
「…まだ、薫さんかと思ってたから…。こんなサプライズ…正直嬉しい」
「那月っ!」
(薫の言う通りだった。少しのことで喜んでくれた。ありがとう。…薫も幸せに。)
キングサイズのベッドで、何年ぶりかに好きな人を抱いた。
ーー
「薫ちゃん!この和え物、薫ちゃんが作ったんだって!?美味しいよ!」
「本当ですか!?ママ!これ美味しいって!」
「あっはは!ほら皆、もっと薫ちゃん褒めてあげて〜こんな素敵で少女みたいな笑顔!可愛いわねー!」
「最近話しやすいよ〜!薫ちゃんがいるから楽しいなぁ!」
「こら!私だけじゃたりたいみたいにっ!」
「ママ、今日は薫ちゃんの番!」
自分らしくいられる場所。
ここまで心が穏やかな日が嬉しくて、少し切ない。あの人はあれから店に来ることはなく、未登録の番号の着信もない。毎月の振込だけが2人を繋いでいる。連絡のないことを薫はほっとしていた。
(幸せの便り、だと思っています。)
たくさん笑って、息子たちの朝ごはんを考えた。
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