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第95話 悪役

ジンがさんがモテていたことなんて、知ってる。何度も一緒に引っ越して、何度もケータイ番号を変えて。 ジンの相手をした人は簡単には抜けられないのか、どんどんエスカレートしていく。そして、必ず飛び火する。  『このゲイ野郎。ジンから離れろ』  ビリビリに破り捨てて、ジンにバレないように破棄して夕食を作る。前はこんな関係じゃなかったから痛くも痒くもなかったが、今は結構刺さる。近いうちに関係を持ったはずはないが、未だにこうして嫌がらせは続く。それよりも、恐れているのは、前に会ったあの人。  (あの人とはどうなったのかな…)  ジンがそばにいることが当然のように話していた。芸能人だと知っていてもなお閉じ込めて、辞めさせようとさえしていた。  日々高まるジンへの愛情。  進まなかった過去が不思議なほど、今はカナタの方が依存していた。  翔を見れば未だに心が痛む時もある。ジンの舞台初日を見てもやはり圧倒的な歌唱力に魅了された。 急に考えるようになったのは、以前の声優オーディションから、声がかかり、別の作品で初挑戦となる、この作品。切ない恋愛を描いた作品の、結ばれない役柄。欲しくて欲しくて、好きな人を傷つけていく。ジンに選ばれなかった人たちの叫びのような気がしてきた。  (今…どんな気持ちなんだろう)  好きな人が何をしているのかが気になり、後をつけ、何も無かったように偶然を装いばったり出会う。仕掛けておいて運命だと思い、さらにはまっていく。優男に見えて猟奇的、そんな役柄だ。思いの外お褒めの言葉を頂き、自分でも意外に楽しさを感じていた。  「優しいだけじゃない声音がいいよね!カナタさんの声は残るんだよ」  監督から言われ、首を傾げた。岡田は憧れの監督から褒められたことで大喜びしていたが、さっぱり分からなかった。  (残る…のかな)  ジュー  「熱っっ!!〜〜っ!!」  ぼーっとしていたら油が跳ねて手の甲が少し赤くなっていた。 ピンポーン  エントランスからの呼びかけに火を止めてモニターを覗くと、目を疑った。  「っ!!?」  あの日見た、秘書の人が無表情で立っている。  (どうしようっ!どうしよう!ジンさんの居場所が見つかっちゃった!)  しゃがみこんで、震える手でジンに電話をかけた。   『もしもし?もうすぐ着くよ?』  「ダメだよジンさん!今帰ってこないで!」  『え?どうして?』  「あの秘書の人がエントランスに来てる!俺らの部屋番号もバレてる!事務所に行って!」  『…分かった。出ちゃダメだよ?カナタ、大丈夫だから、落ち着いて。』  電話を切ってすぐに岡田に連絡している間もインターホンが鳴っていてパニックになりそうになる。  しばらくして音が鳴り止んだ。ほっとして呆然と座っていると、今度はドアのインターホンが鳴った。  (…うそでしょ…上がってきた?)  ジンなら鍵を持っているはずで、宅配なら宅配ボックスに入れてもらえる。  恐る恐るモニターを見ようとすると、ドアがガチャガチャと動いた。  「っ!!?」 (こんなのホラーだよ!!)  ひたすらドアを見つめていると、ゆっくりと鍵が開錠され、ドアが開いた。  「っ!!」  「カナタ、大丈夫か?」  「岡田さぁあああーん!!!」  安心するその人にしがみついた。 「ジンからあの後すぐ電話があったよ。カナタがパニックになってるって。お前たちのマンションが事務所近くてよかったよ。」  「ジンさんは?!」  「事務所にいるよ。タカとユウと話をしてたよ。」  「良かった…」  「おいおい、腰抜けてんじゃん。大丈夫か?全く…。」  椅子に座らせてもらって、仕込み中の食材を見て旨そうと呟いた。 「岡田さん、秘書の人いた?」  「いや?いなかったよ。諦めたんじゃないか?」  「そうかな…エントランスからのインターホンしつこかったから」  「え?そうなのか?ちなみに俺は一回しかやってないぞ」  なんとなく、嫌な予感がして岡田に鍵を閉めてもらった瞬間だった。  コンコン  「「!?」」  ピンポーン ピンポーン  岡田がモニターを見て目を見開いた。  「うそだろ…?どうやって上がってきたんだ…」  しつこくなるインターホンに、岡田が応答すると、秘書の小林ですと名乗った。  「何の用ですか?警察を呼びますよ」  『お話があります。』  「事務所に文書を送付してください」  『旦那様は本人を連れてくるよう指示しております。』  「ダメです。お引き取りください。」  『なら、お伝えください。余命半年だと』  「「え?」」  『死ぬ前に会いたいと、そう仰っております』  「そんな…の…」  『ポストに連絡先と居場所のメモを置かせて頂きました。どうか、よろしくお願いします』  モニターの画面から消えた小林を唖然と見送った。 「本当かな…」  「こんな嘘、つくはずないよ。ジンさん、会わせてあげてほしい…」  「でもな…監禁するほどの人だぞ」  「最期だったから…そうしたのかもしれないじゃん…」  「カナタ?なんでソッチ側なんだ?」  「へっ?」  「どうして監禁した側に感情移入しているんだ?」  無意識にそうしていて驚いた。さっきまで恐怖で怯えていたというのに。 岡田がジンに言うと、少し動揺していたが、ジンの結論は「会わない」だった。  まだイラストのない画面に合わせてセリフを言う。ちょうどプライベートのモヤモヤも合わさって、いい芝居ができたと思う。 『最後な訳ないでしょ?これからが始まりさ』  そんなセリフにあの人を重ねて演技をすると監督や周りの声優からも褒められて収録を終えた。 「ジンさん、本当に会わないの?」  「高野さんに?…カナタ、会ってほしいの?」 こんな質問をすると、晩酌していたジンは驚いたようにこちらを見た。何でこんな質問したのかが分からないが、何故か感情移入してしまう。  好きで、欲しくてたまらない人。死ぬ前に会いたいだなんて普通の感覚だと思った。あの日、逃げるように部屋を出た自分たちをどういう気持ちで見送ったのか。余命をなぜ最初に言わなかったのか。同情じゃなくジンにそばにいてほしかったんじゃないかと、思考はどんどん引っ張られた。 「カナタ、カナタの良いところだとは思ったけど、感情移入しすぎ。」  「え?」  「考えてみてよ。閉じ込められたんだよ?そんな人普通じゃないよ!」 「そうだけど…でも、最期なら…」  ジンは呆れてため息を吐いて、酒の入ったグラスをごくりと一気飲みしてゴトンと強めに置いた。  「分かった。会いに行く。」  「……。」  「カナタがそうしてほしいならそうする。」  「……。」  「止めないんだよね?いいよね?行くよ」  「うん、行ってあげてほしい。」  ジンは怪訝そうな顔をして、取っておいたメモに連絡し、向かうことを伝えた。  「明日の朝行ってくる。」  「うん」  「本当にいいんだよね?それでカナタは気が済むんだよね?」  「…ごめんなさい。気になって…」  この日は一緒に寝ることなく、ジンはソファーで寝ていた。 朝食を2人無言で食べて、ジンは何も言わずに出ていった。  「はぁ!!?行かせたのか!?」  「え、あ、うん…。だって最期だって…」  「ジンは会わないって選択していただろ!?なんでわざわざ行かせるんだ!心配じゃないのか!?」  初めて岡田に怒鳴られて固まる。シュウトとタカも驚いたようにこちらを見た。  「カナタ!しっかりしろ!なぁ!?」  「だって、余命半年だなんて…」  「俺だったら、どうしても会いたいなら嘘ぐらいつくね。」  「そんな不謹慎な嘘つくはずない!」  「甘いよ、カナタさん。僕だって会いたいならなんだってするよ。」  タカとシュウトの言葉に固まる。  岡田は苛つきながらジンに電話をするも、繋がらなくてイライラしていた。  「カナタ、お前がわざわざジンを危険な場所に送ったんだ。」  「そんな!きっと大丈夫だよ!」  「馬鹿野郎が!!そんな普通のやつなら監禁なんかしないんだよ!わざわざ家まで探さないんだよ!!家まで来ないんだよ!!」  「っ!!」  「お前の大事な人だろ!?俺にとっても、タカやシュウトにとっても大事な人だ!なんで得体の知れないその1人のためにっ!!信じらんねぇよ!あの現場にいながらなぜ行くことを勧められるんだ!?お前頭大丈夫か!?」  「翔太さん落ち着いて!」  岡田は心配のあまりカナタに怒鳴る。その間もずっと電話をかけ続け、祈るように電話に出てくれと呟いていた。  (人として、そんな嘘つくはずない。きっと最期に挨拶をしているだけだ)  結局この日、連絡は取れず、家にも帰ってこなかった。岡田は社長に報告すると思いっきり殴られて怒鳴られていた。  「ふざけるな!!」  「申し訳ありません!必ず探し出します」  「当たり前だろうが!謝っている暇があるならさっさと探せ!」  おどおどするカナタの前を通り過ぎて、心配で顔面蒼白になっている岡田の手を取ると思いっきり振り払われた。  「カナタ、お前の話だと最期の別れをして、もうここに戻ってるはずだ。…でもジンは戻ってこない。いいか、これが現実だ。お前の脳内お花畑を全部焼き払え。」  ギリっと睨まれ、猛スピードで車が出ていった。  (そんな…こと、ある?)  腰が抜けて、廊下に座り込んだ。 やっと、ことの重大さに気付いて、唖然とした。そう、普通じゃなかった。  ジンが帰ってきたら報告するように指示されたカナタは静まり返った部屋にいた。時計の針の音と、自分の心臓の音がやけに響いて耳を塞いだ。ケータイを握って、ジンに電話をかけてみると、電源が入っていないようだった。 深夜3時。  突然電話がなってすぐに飛びついた。未登録の番号に目を見開いた。  「もしもし!ジンさん!?」  『っ、ーーっ、っ、』  「ジンさんなの!?ねぇ!?」  『ほら、声出してあげなよ。不安そうだよ?』  ゾクッとした聞き覚えのある声と、息を詰めたような声。  「ジン…さん?」  『余命半年だと心配してくれたんだよね?優しい子だ。ただ、覚えておくといい。本当に余命半年になったら私は待ったりしない。すぐに迎えにいく。そして、一緒に連れて行く。』  「っ!?」  『この子は私がいないとダメだからね。』  『コンサートも集中したいだろうからきちんと見守ってあげたよ。すごく素敵なステージだった。もう悔いはないはずだ。だからこうして私の前にやってきた!自ら!これは求めていたに違いない!』  『っぅああああー!っぁああ!!っあああーーッ!!』  ジンの嬌声が突如聞こえ、目を見開いた。  『も…っ、高野さん…っ、っぁあ!無理っ!もうできな…っ、っ、ッァアアーー!』  「ジンさん!ジンさん!」  『高野さんっ、イっく…ぅ、っ、ーーーーっ!!』  ブツンと切れた電話に固まる。電話を落とし、ガタガタと震えた。  「お、おかださん、っ、おかださん、」  『帰ってきたか!?』  「うそ、だった。ジンさん、っ、っ、どうしよ、っおれの、せいで」  『連絡あったのか!?』  「高野、さんのから、ジンさん、抱かれて、た。」  『は!?』  呼吸ができなくなって、必死に伝えようとするも止まらない涙と嗚咽。電話を切られ、ひたすら必死に呼吸をした。  ピリリリリ ピリリリリ  意識を失っていたカナタは慌てて電話に出た。  「岡田さん!」  『回収完了』  「岡田さ…ん、、っごめんなさいっ」  『警察に通報した。ジンは寝てる。もう大丈夫だ。』  「うんっ、ありがとうっ、ありがとう」  しばらくして玄関のドアが開き、ジンと岡田のほかに社長もいた。  「社長…」  「カナタ、君がジンに行くように強く勧めたと聞いた。」  「申し訳ありません!!」  「ジンは行かない選択をしていたそうだが、カナタが無理矢理行かせたんだ」  「はい、おれのせいです。」  頭を下げたあと、社長は静かに話し始めた。 「余命半年の宣告は、本当だったそうだ。」  「へ?」  「だからジンも動揺した。それに、見事につけ込まれた。回収した時は死ぬまでそばにいると、そう言うくらいにな。」  「ジンさん…」  「ジンは泣きながら…回収された。今回はジンが自ら選んでそばにいることにしていたようだ。」  ジンを寝かせてリビングに来た岡田はカナタを見て微笑んだ。 「…高野さんは会えたことに喜んでいたよ。療養を拒否していたが、社長や警察も含め説得して今朝入院した。」 「海外の病院で余命半年だと言われたそうだが、検査をすると、もしかしたら完治の可能性もあるそうだ。」  「そう…ならよかった。」  「早く俺たちがが関わったから、まだ治療も間に合いそうだという。今回ばかりは結果オーライなだけだ。」  デコピンされ、おでこを抑える。  「カナタ、怒鳴ってごめん。ジンが心配だったんだ…お前は、高野さんのことを思ってのことだと思うが、そうじゃない場合も、今後あるから、これっきりにしてくれ」  「はい」  「不思議だ。普通はメンバーを守りそうだが」  「すみません」  社長にも首を傾げられ、俯いた。  (なんで…こんなに行って欲しかったんだろう)  自分が最期だと知って会いたい、と思うならと感情が動いただけだった。  「お、おはよう」  「…あれ、カナタ…。おはよう」  いつものように笑ってくれて涙が溢れた。今になって安心して涙が止まらなかった。  「ジンさんっ…」  「ごめん、心配かけた…。病気が本当だったから…行ってよかった…ありがとうね」  「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」  「僕より岡田さんに謝って。1番心配してくれたから。」  「ジンさんっ、そばにいてくれてありがとう」  「うん!…行かなかったら後悔してたかも。なんだかんだ、お世話になってたもんな…。これがきっかけで日本の病院で再検査もできるし!一安心だね!」  いつも通り笑ってくれて抱きついた。 「でもさ、毎日、電話が欲しいって言われたんだ…?いい?」  「ジンさんがしたいならいいよ」  「うん、ありがとう。」  幸せそうに安心したジンを見て、初めて心が痛んだ。  (あれ…なんで不安なんだろ…)  抱いて欲しくてハグすると、ポンポンと背中を叩かれて離された。  (ジンさん…?)  いつも通りだけど、雰囲気が違う。  「高野さんに連絡してくる。検査結果はまだかもしれないけど、不安だと思うから」  「今…?」  「ダメかな?高野さんの声が聞きたいんだ」  愛おしそうに笑う顔に、目を見開いた。 (ジンさん…高野さんしか見えてない)  泣きながら回収されたと、そばにいることを選んだと聞いた。  「ジン…さん?」  「高野さんには、僕が必要だから…」  先ほどの顔のままケータイを操作するのに焦って手を取り、ベッドに押し倒した。  「?カナタ…?どうしたの?」  「ジンさん、俺を見て」  「え?見てるよ?」  「高野さんしか見てないじゃんか…!」  「カナタも見てるよ。ほら、どいて?連絡してくるから。」  目の前で服を脱ぐも、ジンは付き合う前みたいに、どうしたのー?と笑うだけだ。  (恋愛感情…なくなった…?)  「ジンさん、触ってよ…」  「え?今?」  「今」  「……」 「ジンさん…っ」  困ったような顔で何も言わないジンに、目の前が潤む。自分が行かせたら、恋人はまるで、変わってしまった。何故行かせたんだと怒鳴られたことが、今になって分かった。  「カナタ、ごめん。今日は…気分じゃない」  「っ!」  「高野さんのことで、頭がいっぱいなんだ…心配でたまらない。あの人、僕を抱きながら、来てくれてありがとうって、泣いてた。あの人には、高野さんには僕が必要なんだ。」  「俺だってジンさんが…」  「カナタは大丈夫でしょ。でも、高野さんは…」  「ジンさん!ちがう!そういう意味で行って欲しかったんじゃない!」  「気持ちはカナタにあるよ、ただ、今は高野さんでいっぱいだから…整理したい。」  ジンはベッドから抜け出して、リビングに向かいながら電話をし始め、寝室に裸のまま取り残されたカナタは、パタパタと涙を零すだけだった。  この日から、誘うのも触れるのも怖くなって、ジンとヨソヨソしい会話だけをして過ごした。仕事帰りに病院に通い病院に泊まる日さえあった。どこまで言っていいか分からないまま、ギリギリの状態だった。  (フラれるかもしれない…)  毎日怯えて、当たり障りない会話だけをし続けた。気持ちがなくとも、そばにいてくれるだけで幸せだと言い続けた。  「はい、シーン32OKです。」  監督からOKを貰えてほっとする。録音ブースを出ると、180センチの長身の声優、五十嵐葵が話しかけてきた。  「カナタさん、慣れてきました?」  「…少しだけ…。」  「何かありました…?リアル神宮寺みたいじゃないですか!」  豪快に笑う五十嵐に救われ、気晴らしにと、何名かの声優を誘ってご飯に行った。さすがというほど話術があって、涙を流して笑った。  「ただいま…」  「おかえりー」  いないと思っていたジンがいて、驚いた。  「あ…今日病院は…?」  「行ってきたよ。完治できそうだって。」  「そう…良かった」  目を逸らして夕食の準備をしていると、後ろからそっと抱きしめられて、久しぶりの体温にドキドキした。  「カナタ、お待たせ」  「っ、」  「今日、高野さんとも、ちゃんと、お別れしてきたから。」  「っ…ぅ、っ」  「高野さんのそばには小林さんがいてくれる。僕はカナタのそばにいたい。」  「ジン…っ、さんっ」  「たくさん話をして、ちゃんと向き合う時間が、僕らには必要だったんだ。待っててくれて、見守ってくれて、ありがとう。不安にさせてごめん。高野さんには、僕が必要だった…。でも、僕には、カナタが必要なんだ」  「っ!」  「カナタにはそうじゃなくても、僕はカナタがいなきゃダメなんだ。」  目の前の食材たちに涙が落ちる。安心する言葉と、嬉しい気持ち、選ばれたという優越感、ぐちゃぐちゃになる感情にひたすら泣いた。  「うーんまっ!久しぶりのカナタのご飯だ!」  「そんな…普通だし…」  「美味しいよ!いつもありがとう」  ジンの好きなビーフシチューをおかわりまでしてくれて内心嬉しくて小躍りしたいほどだった。  「カナタ…隣…いい?」  「う、うん」  あれからソファーで寝ていたジンが、風呂上がりに寝室を覗き込んだ。カナタも少し緊張していつもの場所にジンを通した。  「ジンさん…」  「ん…?」  「どうしようっ…緊張して…」  「大丈夫だよ…待たせてごめんね…僕に任せて」  「でも…っ、んぅ…っん、はぁっ」  久しぶりのキスに驚くほど高まって、痺れたような感覚になる。 「カナタ…っ、ごめん、余裕ない…っ」  性急に服を脱がされ、肌に熱い舌が這う。興奮しているジンは獣のようで、もう首を噛み切ってほしいとさえ思う。  「カナタっ、好きだっ、好きっ」  願ったように首筋を噛まれ、久しぶりに中を刺激され一瞬浮いたような感覚になった。ジンの指が中のシコリを押すと絶叫と共に熱が散る。  「はぁっ!はぁ!ジンさんっ!ジンさんっ!」  「ん、いいよ、任せていいから、カナタは気持ちよさだけ、感じて。」  「っぁあああ!!っあああっ!!ああーーっ!!」  叫ぶことしかできないほど、快感が次から次へと送られて訳がわからない。必死にしがみついても、快感から逃げられることなく、狂ったように絶頂を迎える。  (何これ!怖いっ!気持ちいいしか感じないっ!!)  涙を流して、まだジンが入っていないのにたまらない気持ちでふわふわする。  「ジンっ!さぁん!!こわいっ!!」  「あらあら、ごめん、加減してあげたらよかったね、泣かないで」  ふわっと抱きしめられて、よしよしと頭を撫でられ、ゆっくりと呼吸する。  「落ち着いた?」  「うん…ありがとう。」 「ごめんね、悦ばせたくて頑張りすぎたね」  「ん…気持ちよかった…気持ちよすぎて怖かった…」  ふふっと幸せそうにキスして、ジンが下着をおろす。  「っ!!?」  「ん?カナタ?」  (うわっ!久しぶりに見るとビビる…)  凶器のような熱に、少し固まっているとジンはそれに似合わない、いつもの笑顔でカナタの頭を撫でた。 「怖がらないで?最高にヨくしてあげるから」  優しい笑顔に頷いて、力を抜いた。ギチギチと入ってきて、汗が止まらない。  (切れちゃうよぉ…っ、)  腕に爪を立てて、腰を引くも、体重をかけて、一気に入り込んできた。  「っぁあああーーーーッ!!」  あまりの衝撃に目を見開いて絶叫する。ビクビク震えながら落ち着くのを待とうとしたその時。  「いくよ」  「えっ!?ーーッぁああ!!っあああ!!」  「すごい締め付け…」  「ぃやぁあああ!っぁあああー!」  「イってる?いいよ、たくさん出して」  イってるのかも気付かないほど、ひたすら気持ちいい感覚に襲われる。涙で前が見えないまま、ジンの声かけにさらにドキドキして、たまらなくなる。  (ジンさんの声…ヤバイ)  そう思うと、何か言われるたびにゾクゾクして目の前がチカチカする。 「っんぅーーっ!!っぁあああー!!」  「ここでしょー?好きな、ところ、んぅ、いいね、締め付け…気持ちいいよ…」  「ンッ!っぁ、はぁっ!もぉ!イっく!」  「どーぞ」  「っぁあああー!!!…っ、っ、」  ガクガクと腰が跳ねて、欲を飛ばす。ジンが嬉しそうに見てるのがくすぐったい。 「可愛い…カナタ。」  不安な日々が嘘みたいに幸せを送り込まれた。 「完全な悪役っていないと思っていて…。この神宮寺も、神宮寺なりの正義と信念があると思うんです。だから、主人公から見たら敵でヤバイやつなんですけど、神宮寺からみたら努力した恋なんです。」  アニメ雑誌の取材を終えて、岡田の元へ戻ると、岡田は、なるほどね、と言ってきた。  「何が?」  「神宮寺と高野さんを重ねたのか?高野さんにとってはむしろ自分たちが邪魔ものなんじゃないかって?」  「……そうかも…」  どかっと隣に座った岡田は苦笑いしてカナタの頭を撫でた。  「やっぱ、お前いいな」  「え?」  「いつも他人優先で、何考えてるのか分かりやすそうで、周りには全く分からない。ジンやシュウトがミステリアスって言われるけど、俺にとってはカナタがそうだよ。」  「そうかな?」  「今回のことも、もしかしたらジンが出てこないことや、高野さんに気持ちが移るかもって思うだろ、普通。」  「そうだよね…。俺何考えてるんだろ…」  「あの一途なジンでさえ、今回は正直揺らいでたぞ。」  「うん、一回拒否されたから。」  寂しさを思い出していうと、岡田は驚いたようにこちらを見た。  「本当か?」  「うん。今は高野さんで頭がいっぱいだからって。…あの時に初めて自分の立場が分かったというか…」  「なんだろなー…。変わってるよ本当に。シュウトの方がより人間味あるよな」  「え!?シュウトは宇宙人だよ!」  「じゃあお前も宇宙人だよ。ジンしか対応できないな。」  クスクス笑って、帰ろうと手を差し出してくれた岡田はなんだか綺麗に見えた。  「岡田さん…?なんか、良いことあった?」  「あ?お前のせいで社長から目をつけられてるのに?」  「なんか…カッコイイ」  「おいおい!そーゆーところ!本当意味わかんねーやつだな!」  嫌そうな顔をした後、ニカっと笑ってくれた。  「ただいまー!」  「おかえり!今日はアジフライでいい?」  「うわぁ!美味しそう!」  ありがとうと抱きついてくるジンに幸せを噛み締める。  (大好きだなぁ)  カナタからキスをすると、一瞬驚いた後、幸せそうに笑った。 

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