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第98話 仕事のもらい方

「え!?マコちゃんのご両親ってデザイナーだったの!?」  青木が驚いて後部座席から身を乗り出した。大河は、簡単に頷いては緩む筋肉が制御できない。  (やっと、マコの心が開いた気がする)  青木ほど愛情は欲していないように見えたが、本当は欲しくて欲しくてたまらなかった誠。依存や執着、自分を抑える癖は幼少期にあったようだ。結局耐えられないから自分や他人を傷つけては落ち込んでという負のスパイラルだ。  「マコのモデルセンス見たら納得だよ。スタイリストと同じ目線で話すから。」  「マコ、両親のブランド知らなかったみたい」  「あえて触れないようにしてたんだろうな…。マコらしいよ。」  伊藤の言葉に、大河と青木は目を合わせ、ニヤリと笑った。  「あ、大河さん同じこと考えた?」  「おう。たぶんな。取りに行くか?」  「取りに行こう!だって俺たち2人はRINGの看板だから!」  大河は伊藤に誠の両親のブランドの仕事を取るように依頼した。  この日は青木との撮影だ。各グループの顔が揃う事務所の写真。新しいアーティスト募集のための撮影だ。ブルーウェーブからはタカとシュウト、78からは楓とルイ、Altairからは翔、そして、サナと、ダイアモンドからは都姫とレミ、ブラックパールからはマリンとレナが揃った。  サナ以外はグループだが、Altairは1人だけだった。青木が翔に話しかけるとすぐに隣に来た。  「長谷川さんも意地悪だよなぁ。他のメンバー無しなんて…。」  「みんな忙しいの?」  「はぁ?1番忙しいのは、オレ!!」  「あ、ごめん」  青木は物凄く噛み付かれ、苦笑いしていた。青木がマネージャーの長谷川を見ると、その隣の人と楽しそうに話していた。  「翔くん、あの人だれ?」  「あぁ、ブラックパールのマネージャーだってよ。なぁ?うちの事務所のマネージャーもビジュアルいいよな?見て!圧巻じゃない?」  その声に大河もマネージャー陣を見ると、たしかにと笑った。翔太、リク、伊藤、雪乃、長谷川、篠原で並ぶと美男美女だった。  「伊藤さんもかっこいいもんね!」  青木は嬉しそうに言うと、翔がすぐに食いついてきた。  「は?長谷川さんが綺麗だろ?」  「伊藤さんの方が肌綺麗だもん」  「分かってないなあ、長谷川さんはまつ毛も長くて…」  大河は2人のやりとりに呆れてパイプ椅子に腰掛けた。周りを見ると、みんな個性がある。大騒ぎするルイと楓、それに加わる女子達。シュウトとタカは待機室だし、RINGはこうしてお喋りしている。  「新しい後輩楽しみだな」  思わず声に出た呟きが、2人の争いを止めた。  「わ、珍しい。後輩とか興味あるんだ」  「翔くん、そんな言い方しないで」  「楽しみだよ。刺激になるし。原石がいるかもしれないだろ?ユウみたいにプロデュースなんかできないけど、新しいグループには興味あるよ」  「1位とったから余裕だねー」  「お前らはもっと多く1位取ったから、もっとゆとりあってもいいんじゃねーの」  「いや?今後はソロかもしれないから。」  2人でえ?と固まると、翔が撮影に呼ばれて行ってしまった。  「解散かな?」  「さぁな。人気絶頂だろうに。事務所の考えはわかんねぇな。」  「俺たちも急にそんなこと…あるのかな?」  「あったとすれば退所するよ。ここにいる意味ないから。」  「ふふっ!俺も!」  嬉しかったのか青木が抱きついてきた。珍しいこともあるもんだ、と受け止めてやった。  2人の撮影になると、テンションの上がった青木はずっと大河を笑わせてきて、涙がでるほど笑った。その間もたくさんシャッターが切られて、真剣でクールな写真にしたかったのに爆笑する2人の写真が出来上がった。  「なんなんだよ!お前!今日!」  「大河さん可愛いっ!大好きっ!」  「あっはははは!うるせー!マジなんなの」  ツボにハマって、青木が何を言っても面白くて、最終的に伊藤に2人とも怒られてスタジオを後にした。 廊下を歩いていると、強めの言い争いが聞こえ、3人は足を止めた。  「78を近づけないで下さいってお願いしてますよね!?ご協力いただけないなら社長に言います」  「あぁ!?いいだろ、この時ぐらい!コミュニケーションは大事だろうが!」  「分かりました、ご納得頂けないので社長に」  「社長、社長うるせぇな!自分で解決できねーのか?」  「お言葉ですが、僕は社長から副社長候補と聞いています。口答えは後に響きますよ?」  「どういう意味だ?周りくどい。はっきり言え」  「僕が副社長に就任したら口答えは許しませんし、いかなる懲戒も与えます。社長はあなたに甘すぎます。勘違いしないでください。相川さん、あなた、今はアーティストではなく、マネージャーです、会社員なんです。組織の一員としての自覚は必要だと思いますが?…今は、ご協力依頼、次は社長に指示として出してもらいます。」  「そうですか、ご勝手に」  「指示を破ると命令になります。命令を破ると罰がつきます。お気をつけて」  「はいはい、わかりました。ご忠告ありがとうございます。……お前みたいな奴が副社長になったら、俺はここにいないからご自由にどうぞ」  言い放った後、くるりとこちらに歩いてきたリクは見たことないぐらい怖い顔だった。3人には目も合わせず、ズボンのポケットに手を入れたままズンズンスタジオに歩いて行った後、大声が聞こえた。 「楓!!ルイ!!帰るぞ!だらだらすんな!」  「「は、はい!」」  リクの後をドタバタと慌ててついていく2人をみて気の毒に思った。  (長谷川さんも怖いけど、相川さんも怖すぎ…)  「伊藤さん、あの人誰?副社長なの?」  「篠原さん。新しいマネージャーさんだよ。副社長候補なんて初めて聞いた。」  伊藤は首を傾げて心配そうに篠原を見ていた。  (いろいろありそうだな…)  関わらないようにしようと、大河はスタスタと先を歩いた。  数日後、社長に呼ばれて伊藤と社長室に行くと、そこには長谷川と翔が待っていた。  「お疲れ様でーす…」  小さく挨拶して席に着くと、社長からの発表があった。  「大河と翔のユニットでCDを出す」  「「え?」」  「お互いのグループよりも売り上げをとって欲しい」  「社長、俺は今大地とのユニットもありますが…」  「あれは映画の役柄だろ?今回は翔と大河として出す」  「社長…っ、俺、これ以上は無理です」  翔が頭を下げ、長谷川はそれを真顔で見ていた。  「何が無理なんだ?」  「Altairの活動に集中したいんです。今、俺は個人の仕事が多すぎて、寝る時間も少なくて、メンバーとのコミュニケーションもとれていません。…余裕がありません。やるなら完璧でないと…」  「大河がカバーするから大丈夫だろう?日程は…」  「勝手に進めないでください!!!!」  勢いよく立ち上がって叫ぶ翔に、長谷川は座れと静かに言った。  「長谷川さんっ、無理だよ!俺のスケジュール分かってるでしょ?」  「翔、これはチャンスだ。僕がフォローするから」  「でも!」  「なるほど、なら翔はAltairメンバーから外そう。そしたら個人の仕事に集中できるな?」  その社長の言葉に全員が固まった。  「社長…?何言ってるんですか?」  「お前の体調を考慮してだ。希望通りだろう?」  「社長、大丈夫です。翔はやれます!今は疲れが溜まっていて…」  「今年度いっぱいにしようか。もともと翔のソロ活動を考えていたんだ。いいタイミングかもしれない。」  「違います!俺は、グループにいたくて!」  「翔もう黙れ!」  長谷川が翔を黙らせたあと、スケジュール調整後にお返事します、と翔を連れ出して行った。  「全く…長谷川はまだグループに固執しているのか。」  社長は少しぼやいたあと、大河にニコリと笑った。  「いいかい。RINGもないとは言えない未来だよ。引き続き切磋琢磨するといい。大河、君はこの事務所でも私が期待している1人だよ。これからも頑張ってほしい。」  「……はい、ありがとうございます。」  複雑な気持ちのまま、2人のユニットは保留になった。翔のスケジュールの過密さが心配になったことと、意外にもグループに愛があったことが分かった。  そして、社長がAltairに愛がないことも。  (俺がRINGを守らないと)  意気込んだ時に伊藤が肩を揉み始めてハッとした。  「大河、背負わなくていい。互いにカバーし合うのがRINGだろ?」  「伊藤さん…。うん!そうだな!」  「翔みたいに背負えなくなるぞ。みんなに平等に持たしてやろう。」  「あはは!そうだな!」  伊藤の言葉に安心して事務所を出た。  ーーーー  「翔!何で社長にそんなこと言うんだ!僕が調整するから!」  「長谷川さんもほとんど寝てないじゃんか!俺たち2人だけが事務所に潰される!」  「翔のスケジュールを見直すから、な?せめて契約満了までは…っ、お前たち全員が、見たいよ」  長谷川は言いながら込み上げてくるものがあった。どんなに個人に頑張らせても、やる気には差があってグループとしての底上げができずにいた。もどかしくて、焦って翔のオファーを受けて人気を保とうとしたら翔が爆発してしまった。  「俺だってやりたいよ!でも!長谷川さんも最近疲れてるじゃん!分かってる?余裕ないよ?」  「悪かった。だから翔、受けてみないかあの話」  「……大河さんと2人でやったら、俺の実力がバレる」  「え?」  「俺は…Altairにいるから…上手く見えるだけだ…。大河さんとだなんて…比べられる…そんなの嫌だ…社長は、俺を試してるんだ…」  本当の理由がそこにあって、長谷川は翔を抱きしめた。震える体に、そこまでのプレッシャーはかけられないと判断した。 「断わろうか。」  そう言うとコクンと頷いた。  「長谷川さん、俺を守ってよ。俺の居場所はここしかないから。」  「分かった。言ってくれてありがとう」  「他の仕事は、頑張るから。迷惑かけてごめんなさい」  「無理させてごめんな。もう少し俺と頑張ろうな。」  うん、と長谷川の胸で頷き、背中をぎゅっと握られた。  翔を次の現場に送り、事務所の喫煙所でハイペースで煙を入れる。翔に言われた余裕がないという言葉に、ぐうの音も出なかった。  (しんどいな…本当)  長谷川にはもう一つしんどいことがあった。篠原の猛アプローチだ。リクに言われて、有り得ないと笑ったのが遠い昔のようで、今はできるだけ避けているほどだ。 「あ!先輩!ここにいたんですね!」  「篠原…お疲れ。」  「先輩疲れてる!大丈夫ですか?」  「大丈夫だよ。じゃ、行くな…」  「先輩。」  パシンと腕を取られる。ため息を吐いて、その腕をどかす。  「僕が昇格したらAltairを救ってあげます」  「…頼むぞ」  「でも、その条件覚えてますか?」  「それと、これとは別。僕はリクだけなの」  「あの人のどこがいいんですかー?仕事もあまり…」  「篠原?それ以上リクを侮辱するならお前だろうが許さない。」  「先輩、冗談ですよー!余裕なくなってきてますよ、心配です。飲みに行きますか?」 「そんな時間ないよ。」  副社長候補だと言い始めた篠原は、それを上手く使ってくる。策士のように頭がキレるが厄介な奴だと思った。 (「Altairを救うので、リクさんを捨てて僕に全てをください」)  息が止まりそうなほど驚いた篠原の告白。その後キスされたのを振り払って帰宅した。リクは機嫌が悪くて触らせてもくれなかった。あの日からリクともシていない。  「本当…しんどいな…」  相当な覚悟でここに来た自分。リクを追って、人生の全てを賭けた。だから、篠原の気持ちも痛いほどわかる。全てを賭けたのに、ダメだったら…?自分に置き換えるだけでも目の前が真っ暗になる。…ただ、いまの篠原には副社長候補がジョーカーみたいなものだった。  (社長に気に入られてるもんな…あいつ)  大きなため息をついた。  ーーーー  「え?白紙?」  大河は伊藤の言葉に驚いた。伊藤は苦笑いして、翔のスケジュールの都合上と言った。  「それでな、タカとのユニットはどうだって」  「えー?もういいよ、ユニットは。グループで精一杯。社長は何がしたいの?」  「さぁな。とりあえず期待しているメンバーを組み合わせて出したいんだろうな。」  「バラードならいいかな。」  「な?そう思うよな?だけど、社長はタカに踊らせたいって言うんだ」  「え!?見たことない!!」  「だよな?社長もニヤニヤして、マネージャーに圧をかけてたなー、OK出させろって」  大河は爆笑して、快諾した。タカが嫌ならまた白紙になるだろうと踏んだ。  ーー数週間後  「翔太さん、話が違うよな?」  「さぁ!タカ!お前ならできる!」  「大丈夫!タカ、俺も教えるよー!」  「カナタさんがやればいいだろ!?何で俺!?俺忙しいんだけど!?案件溜まってるのに!」  スタジオに集まったタカは激怒して騒いでいた。翔太は念のためカナタを連れてきていて、2人で宥めている。  「翔太さん、見たことないからそんなこと言えるんだよ!!先代の社長から申し送りなかったのか!?ふざけやがって!!」  ブチ切れるタカに、カナタは笑いを堪えて頑張ろうと言った。それで大河は察した。  (タカさん…まさかダンス苦手?)  もう嫌だ、と顔を両手で覆って小さくなったのに、伊藤も大河も思わず笑った。  コンコン… 「お邪魔しまーす。」  静かに覗いたのは、ピンク頭の優一。優一を見た瞬間、タカは走って抱きしめて帰ろうと言った。  「待て待て待て!ユウ!ここに連れてきて!」  「え?なに?どうしたの?」  「優一、翔太さんが嘘ついた」  「翔太さん!嘘はダメだよ!」  「ウソじゃない!詳しく聞かなかったのはタカだろ?」  ずっと優一にくっついて、絶対やるもんかと不貞腐れていたタカはある人物の登場で優一から離された。  「はい。ダンス素人のタカのために、基礎から行きます。」  リクが入ってきた瞬間ピリついたスタジオ。優一やカナタも一緒に参加してくれた。 軽くリクが動くのを真似する3人と棒立ちのタカ。  翔太は笑い転げて指差して笑っていた。  「タカ、大丈夫。」  リクは真剣でゆっくりと教えていた。先に大河に振り付けを教えて、あとはタカに付きっきりだった。  「うー!タカさん可愛い!どうしてあぁなっちゃうんだろ!」  「見た目ワイルドだから最高に面白い」  「タカさんに苦手なものなんてあったんだな」  「練習生時代は、シュウトとタカとジンさんはダンス居残り常連組。リクさんはそれを知ってるから来てくれたんだ。1番面白いのはシュウトだけどね!本当のロボットダンス!」  大河は一通りマスターして、優一とカナタがタカのパートを覚えて、いつでも練習できるように備えた。  足のステップだけでレッスン時間が終わり、リクは大丈夫大丈夫と、笑顔で元気付けていた。  「マジ公開処刑。なんなの、こんなに事務所に貢献してるのに。」  タカはぶつぶつ文句を言いながら去って行った。  「ただいまー!」  「おかえり大河さん!どうしたの、ご機嫌だね」  嬉しそうに抱っこしてくれる誠の首筋にすりすりと顔を押し付けた。  「タカさんとのユニット!?わぁ!大物だね!バラード?」  「ふふっ!俺もタカさんもそう思ってたけどまさかのダンスナンバーだよ!」  「タカさんのダンス見たことない!」  「ふふっ!超可愛いよ!苦手なんだって!今日はステップだけだった」  思い出して笑うと、微笑む誠に固まった。  (あ、タカさんの話すると嫌がるんだった)  どうしようと慌てると、誠は微笑んだまま、大河の頭を撫でた。  「楽しかったんだねぇ。良かった。」  そう言ってチュッとキスされ、離れて行った。  (怒らないのか…?)  キッチンで作業するようすも微笑んでいて、むしろ機嫌が良さそうだ。 「マコ?怒らないのか?」  「へ?どうして?怒る場面あった?」  「いや…いつも嫉妬して…」  「あ、そうだったよね。もー、ごめんね。恥ずかしいや」  赤面して苦笑いするのが、大人になったように見えて後ろから抱きついた。無理矢理、顔だけ後ろを向かせて背伸びしてキスをした。  「んっ、大河さん?」  「やだ、嫉妬してよ。」  「あはは!可愛い」  料理の手を止めて、大河に向き合ってニコリと笑った。  「ご飯食べたら、エッチしようね」  ボンッと顔が赤くなるのがわかって俯くと、可愛い、とキスされた。  すっかり落ち着いた誠にドキドキしながら、美味しい夕食を食べた。  「電気は?」  「ん、消す」    バチンと消された電気が合図となって、ベッドで求め合う。愛撫がたまらなく気持ちよくて、声が上がる。色っぽい顔で見つめてくるのが恥ずかしくて目を逸らすと、胸の粒に歯を立てられ、涙がじわりと浮かぶ。  「マコっ、下も、っ、触って?」  「ん…いいよ…こう?」  「っぁああっ…はぁっ…はぁっ…んっ!」  「いい声…もっと聞かせて…俺だけに…」  声を出すと嬉しそうにするから、安心して声を出した。しっとりとした肌が触れ合うのが気持ちよくて、奥に入る長い指が中をくすぐって腰が跳ねる。  (どうしよう…っ、気持ち良すぎる)  「可愛い…っ、大河、愛してるよ」  「ん、俺もぉ、マコ、愛してる」    嬉しそうに笑って、固い熱を擦り付ける。  (あ…っ、クル…)  ぎゅっとシーツを握り、息を吐く。すると、グググと大きな質量が入ってきた。  「っぁあああーーーーッ!熱いっ!」  「まだ半分…いくよ」  「うそっ?…ッ!っぁあああん!!んぅ!あっぁあああ!」  「はぁっ…、ん、気持ち、動くよ」  「あっぁあああ!待って!待ってぇ!だめぇ!」  慣れる間もなく、動き出したら腰にたまらずに声が出て行く。 (はぁっ、マコ気持ち良さそう…よかった)  思わず微笑むと、誠もにこりと笑ってくれた。  「気持ちいね、大河さん」  返事ができなくて、必死に頷く。愛おしそうに見つめられて恥ずかしい。 「マコっ、っぁ、っぁ、まこっ、」  イきそうになって、名前を呼ぶ。幸せそうに笑って腰をさらに奥に入れてきて、目を見開いた。  「ッィアアアーー!だめぇ!だめぇ!」  「はっ、はっ、はっ、大丈夫っ、大丈夫」  「もぉ!っぁああ!っぁああ!まこっ!まこぉ!!ーーッ!」  ぎゅっと締め付けて、絶頂に向かった。  ーー国際線到着口  「マコ!緊張してるか?」  「するよう…何年ぶりなんだろ…」  空港には優一のお父さんと優一、誠、そして大河も一緒に向かった。到着ロビーでそわそわする誠に優一のお父さんはガハハと笑っている。 「父さん、あの便?もう到着になってる。」  「そうだ!あれだな!ユウもほとんど覚えてないだろ?」  「うん、記憶にないかも。」  緊張で冷えていく誠の手を握って、出てくる人の波を眺める。  「お!きたきた」  優一のお父さんが笑って手を振った。振り返した2人を誠が見た瞬間、大河の手を離して駆け寄って行った。  「「マコ!」」  「おかえりなさいっ!!!」  きつく抱き合って、誠の母親は涙を流した。誠の父親を見た瞬間、大河は息を呑んだ。  (えぇっ!?マコじゃんか!!) 隣の優一も口を開けて固まった。  「はっはっは!こうして見ると本当ソックリだなぁ!」  高らかに笑う優一のお父さん曰く、小さな頃から似ていたようだ。誠の母親も美しい人で、背も高い。そして、何より驚いたのは (ラブラブすぎじゃね?)  涙を零す母親の頬にキスして、親指で涙を拭ってあげている。  (マコみたいなこと、すんのな)  幸せそうな家族に微笑んで眺めた。優一はもらい泣きして、良かった良かったと呟いた。  誠は両サイド両親に挟んでもらって子どものように笑っていた。  カシャカシャ  「父さん?」  「基調な佐々木家の家族写真だろ。撮っとかないと」  優一のお父さんは一眼レフでシャッターを切っては満足そうに笑った。  「全く…世話が焼けるよ。」  「ふふっ、本当だね!」  優一も笑って家族を眺めた。  その日から一週間ほど、誠は実家で過ごしていた。仕事でも会うことはあったがすぐに自宅に帰っていた。  (家帰ってもヒマだな…)  そう思ってマンションの鍵を開けると、話し声。  「マコ?」  「おかえりなさーい!」  「「お邪魔してます!」」  「うわっ!こ、こんにちは!!」  まさかの佐々木家がいて、勢いよく頭を下げた。  「いつもマコの世話をありがとう」  「私、大ファンなの!握手してください!」  「真奈美?俺の前で浮気か?」  「もう!いいでしょ?今日くらい!」  「パパ、嫉妬深すぎー」  「こんな綺麗な真奈美を世の中の男がほっとくわけないだろう?」  誠の嫉妬深さは父親譲りだと知ってクスクス笑った。 「大河くん、マコのそばにいてくれてありがとう。これからも、よろしくお願いします。」  「いえ!こちらこそ!」  「お前は俺に似て見る目があるな!こんな綺麗な人。しかもRINGのセンターでメインボーカル!よく落としたぞ!息子よ!」  「えへへっ」  「来月のコレクションが東京であるの。それまでは日本にいるから、いつでも遊びにいらっしゃい」  誠の母親がにこりと笑うと、大河はハッと思い出した。  「えっと、そのコレクション、モデルさんは決まってますか?」  「えぇ。マコが他のブランドの専属になっちゃったから…残念だわ」  「だって知らなかったから…」  「もし、次回でもいいので、俺と青木、使えませんか?」  「「「え?」」」  3人がきょとんと大河を見た。  大河は真剣に伝えようと、誠の父親を見た。  「俺や青木は何度もマコに助けてもらいました」  「大河さん…」  「少しでもマコに関わりんです。」  必死に伝えると、誠の父親は母親の肩を抱いた。  「新作、出しちゃえば?」  「え、でも…」  「大河くんが似合うようアレンジしよ。春のコレクションには間に合うんじゃないか?」  「そうね!やってみる。」  快諾してもらって嬉しさを噛み締めた。誠も嬉しそうに大河を見ていた。父親はその誠を見てお邪魔虫は帰ろうと母親の手を取った。 「大河くん、楽しみにしていてね!」  「真奈美、デレデレしすぎ!」  最後まで嫉妬していた父親に笑って、ドアが閉まった瞬間、誠からの熱いキスをもらった。  ーーーー  「マコ、幸せそうだったな」  「うん、良かった。」  「これから、伝えきれなかった分、マコに注いでいくよ。1番そばにいてほしい時期にいられなかったから…。」  「そうね。…マコってばあなたにソックリで驚いたわ。」  「俺やっぱイケてるよなぁ」  「さぁ?どうかしら」  クスクス笑って2人は手を握った。

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