100 / 140

第100話 抗えない現実

「リク…」  バタン  「はぁ…もう…面倒くせーな。」  篠原のアプローチが加速して、リクはそれに苛立ちを愁にぶつけていた。二人の中で何かあったのか、突如リクに無視され、避けられ続けていた。Altairの忙しさに加えて、家でもピリピリと張り詰めた空気、事務所での篠原のアプローチ。愁は自分の余裕が随分前から失われつつあるのが分かった。頼れる人はリクだけだった愁は逃げ場を失っていた。  「長谷川さん、これ、良かったら」  「っ!?透…ありがとう。こんな気遣いできるようになったんだな、嬉しいよ、ありがとう」  透にはドッキリやら過酷ロケばかりを入れていたが意外にもきちんと付いてきた。最近はスタッフへの気遣いや声かけも良く、イメージが改善されつつある。  「長谷川さん、いつも俺たちのために、ありがとうございます。返せているか分かりませんが、頑張ります」  困ったように笑う透に、頑張ろうな、と笑った。  今回の心霊ロケでは、ビビリを発揮してくれて、スタッフが大笑いするほどのリアクションを見せてくれた。もちろん、幽霊も出ないが、虫や物音だけで、半泣きで帰ってきた。  「透さん!撮れ高最高っす!」  「よ、良かったです…あーびっくりした…」  まだドキドキしてる透に、頑張ってるな、と嬉しくなった。芸人さん達からも気に入られ初め、アイドルじゃないといじられはじめて結果オーライだった。レイとの出演も増え、先輩が雛壇にいる事でさらに笑いにつながった。 透という問題児の成長に、気を抜いていたのかもしれない。今、思えば。  思わぬ刺客は近くにいたのだ。  契約満了まであと半年近くなった頃、社長室に呼ばれたのは愁と透。  「社長、何か?」  「あぁ。これは、なんだ?」  バサッと投げられたのは週刊誌の記事。  『Altairの不仲説』  『Altair格差問題』  『Altairリーダー透の支配』  2人は目を見開いて固まった。  「記事は、内部でしか知り得ない情報ばかりだ。そして、透のゲイ説。メンバーへ手を出した事など事細かく書いてある」  社長は頭を抱えてため息を吐いた。  「透、これは、事実なのか?」  社長がペンでトントンと指した文章は、Altairしか知らない事実だった。  「そんなわけありません。社長、これは誰かの憶測に過ぎません。事実かどうかではなく、誤報として対処できませんか。」  長谷川は透が答える前にすぐにもみ消しを依頼した。こんなことは噂話として処理できる。  「長谷川、今は透に聞いている」  「なぜ、そこまで真意に拘るのですか?これは大きくするような内容でもないし、事務所がコメントするような記事ではないと思われます。」  「長谷川、なぜそこまでして透を庇う?」  「タレントを守ることは普通のことです。社長、話が見えません」  「長谷川、Altairの存続か、透の退所かを選びなさい」  「……はい?」  透は目を見開いて記事を見つめていた。  「事実であるならば、事務所としていいイメージはない。透の後輩いじめは事務所内では有名な話だ。これ以上、守る義理はない。再三の注意をしても、こうして表に出たのであればグループ脱退、退所をしてもらう。」  「そんな!!!」  「ただ、Altairの他のメンバーは契約を更新することを約束する。」  ドタン!カランカラン  「長谷川さんっ!!」  「長谷川!!」  目の前が急に真っ暗になったのは覚えている。ただの悪い夢だ、気にし過ぎてこんな夢まで、そう思って目を開けた。  「先輩、大丈夫ですか?…良かった、社長に連絡しなきゃ」  「篠原…?」  「先輩、ここは病院です。過労だなんて…。少し休んでくださいな。」  心配そうに頬を撫でられ、まだ目眩がして目を閉じた。 「んっ、っ?」  「っ、先輩、僕を選んでくれてたら、こんなこと避けられたのに。まだ、間に合いますよ?」  柔らかな感触の後、唇が離れて篠原が苦笑いして囁やく。  「なんの…話?」  「先輩の眠っていた2日間で、話が進んじゃいましたよ。」  「え…?」  「あ、マネージャー代行は僕がさせてもらいました。先輩、働き過ぎです。少しの期間でも僕は倒れそうでしたよ。とんだブラック企業ですね」  「あ…マネージャー代行…ありがとう」  追いつかなくて、とりあえずお礼を言った。2日も寝ていたなんて恥ずかしくて起き上がろうとすると、左手に点滴が通されていた。  「もう少し休むよう、医者から社長に指示がありました。あとは任せてください。」  「大丈夫…。あ、もしよかったら、Altairのことは翔太に聞いて…」  「岡田さん、口出ししてきて大変でした!社長に言って、関わらないよう指示してもらいました!」  「え?」  聞き返すと、篠原は大変でしたよ、聞いてくださいよ〜と苦労話を楽しそうに話しはじめた。 「透がいなきゃAltairじゃない、ファンの気持ちを考えて下さいって、社長に掴みかかって熱くなって怒って喚いて、大変でしたよ〜」  「…なん…だって?」  「長谷川さんがいないのに、勝手に判断するな、何様なんだとか、僕にも口悪く絡んできてました。グループは残るんだからそんな荒れなくても…」  「ごめん、篠原。理解が追いつかない。」  悪夢だと思っていたことが、現実味を増した。緊張して心拍数が上がっていく。  「透の脱退と退所が決まりました。メンバーにはお話済みです。透は大人しく事務所の意向を飲みましたが、メンバーはやっぱり長谷川さんから聞かないと信じないと騒いでいます。」  「そんな…そんなこと、そんなこと」  「透は、これ以上長谷川さんに迷惑をかけられないって、そう言ってました…けど、」  何か言いたそうな顔に、篠原を見る。 「透、先輩のことが好きだったみたいですよ。だから、ごめんなさい、潰しちゃいました。」  目を見開いて篠原を見た瞬間、怒りが瞬時に向かった。  ガラガラッ! ビー ビー ビー  「せっ、先輩っ!?」  「ふっざけんな!!!どこまで邪魔したら気が済むんだよお前は!!」  「お、落ち着いてください!!だれか、誰か!」  「仕事にまでしゃしゃりでてきやがって!!今まで!何のためにやってきたと思ってんだよ!!!!」 点滴を無理やり取って、床に叩きつける。パタパタと血が垂れるのも気にせずに篠原に怒鳴り散らす。  殺意に近いものを感じて篠原に殴りかかろうとする時に、後ろから強い力で腕を取られた。  「愁。落ち着け。」  「あ、相川さん…っ、相川さんっ!」  ガタガタ震える篠原を冷たい目で見たあと、リクは静かに愁に向き合った。  「愁…もう少し寝ろ」  「うっっ!!」  鳩尾を思いっきり殴られて倒れ込んだ。  リクは意識を失った愁を抱えてベッドに寝かせて、ナースコールを押した。左手から滴る血をぼんやりと見つめたあと、ため息を吐いて篠原を見た。 「何怯えてんの?」  「はっ、はっ、はぁ、知らない、あんな先輩、知らないっ」  「あぁ。知らなかったの?…あれが愁だよ。見かけによらず、すぐ手が出るから気をつけてね」  「うっぅ、っぅ、っぅ」  「怖いの?好きな人なんだろ?そこも愛してやれねーの?」  「ちがうっ、こんなの、先輩じゃない、先輩はもっと、温和で、優しくて、秀才でっ、」  ナースが来て慌てて処置をしている中、状況をリクが説明し、子供のように震えて泣く篠原と一緒に廊下に出た。 「表面上は篠原が見えていたように取り繕うさ。大人だからな。誰でも表と裏がある。」  「信じられないっ、こんなの、先輩じゃない、きっと、Altairのことで、余裕がなくて、」  「そう。篠原、お前入り込みすぎたな。」  「僕は、先輩の代わりにと…」  本気で言っている篠原に、リクは大きなため息を吐いた。 「それを、愁は望んでたと思う?愁はさ、Altairのメンバーが変わらず、あのグループで活動することを望んで、そのためにメンバー個人個人に課題を出して売り込んでた。篠原が社長に言われて進めた透の退所は、メンバーも、愁も、そして俺たち他のマネージャー陣も誰一人望んでいない結果だ。」  「へ?」  「後から入ってきたから、分からなかったかもしれないけど、愁の努力と倒れるほどの過労と頑張りは全部、透を含めたAltair存続のためだった。社長と闘うために。」  「……」  「愁は社長に認めさせるために、頑張ってきた。それが愁のいない、たった2日で全部水の泡だ。」  「……」  「社長のイヌが、愁のことも、Altairのことも、何も知らないのに首を突っ込んだから。マネージャー陣はみんな言ったよな?今回の件は、翔太に任せろって。翔太は元Altairのサブマネージャーだ。愁から聞いたこと無かった?…その翔太を、お前が飼い主に言って黙らせたんだろ?もう俺たちはお手上げだ。愁のために、何もしてあげられなくなった。」  「……」  「どうだ?翔太や俺に勝った気分は。気持ちいいか?好きな人は喜んでくれたか?篠原の動きで喜んだ人を教えてあげるな?」  「……」  「お前の飼い主と、透の記事を売った奴だけだ。」  リクはそれだけ言うと、愁の病室に戻った。  「愁、愁。」  窓を見てひたらすら静かに涙を流す愁に心が痛んだ。今、どれだけ自分を責めているのかが手に取るようにわかる。悔しかっただろう、寝てる間に全てが終わってしまったこと。  「リク…。ごめん、一人にして。」  「ダメ」  「出て行けよ!!」  「やだ」  「ぅっ、ぅ、ぅ、っ…っ」  「ごめん、俺たちは、何もできなかった。翔太…めっちゃ闘ってたよ。初めて見直した。」  「ぅっ、っ、っ、ふぅっ…」  「響も、雪乃ちゃんも、抗議してくれてた。社長からするとあの記事は理由付けになったみたいだな。」  「ぅっ、っぅ、守れなかった…僕のせいだ.っ、メンバーにも、ファンにも、っ、っ、」  「愁はよくやった、よくやったよ」  「僕のせいだ…っ、なんで、っ、なんでこんな時に、っ、」  倒れた自分を責めて、点滴を抜こうとする手を止めて、手を握った。  「透はお前にものすごく感謝してる。本人は納得してる。」  「……」  「卒業、という形にはしてくれるらしい。だから、他にもいきやすくなる。記事は透が脱退すると決めたから、社長がもみ消した。」  「…リク…重いよ…」  「そうだな…今回のは…重いな。」  号泣する愁に心が痛んで少しでも軽くなれば、と手を握り続けた。 ーーーー  「愁くん!良かった!体調は?」  「大丈夫。心配かけました。」  「長谷川さんっ、長谷川さん」  愁が出勤すると、マネージャー陣が駆け寄ってきてくれた。そして、翔太はボロボロと泣き始めて、無理させたなと、抱きしめた。  「翔太、ありがとうな。リクから聞いたよ。お前が闘ってくれて嬉しいよ。」  「長谷川さんっ、何にも、何にもできませんでしたっ!申し訳ありませんっ!」  深々と頭を下げるのを見て、愁は頭を撫でて、もう一度お礼を言ったあと、メンバーと社長が待つ部屋に向かった。  「お疲れ様です。ご心配をおかけしました。」  「「長谷川さんっ!!」」  泣き出すメンバー達に申し訳なく思いながら、社長にも頭を下げた。  「リクから詳細は聞いたな?」  「はい。」  「透は、急だが今月付けの退所だ。」  「はい。わかりました」  「これからは、6人でやっていく。」  「はい。」  「透の残りの仕事が終わったら卒業ライブを無料配信する。」  「はい。」  「よく努力してくれた。透も懸命に応えていたのも分かる。が、過去が流れる可能性は今後もある。過去を修正することはできない。その為の対応だ。理解してくれ。」  「はい。」  無表情で社長の話を聞く。透は下を向いたままだった。メンバーも机を見つめたままだ。  「長谷川からは意見はあるか?」  「決定事項に口出すことはありません。」  「そうか。体調が回復しない間、篠原が対応に入った、お礼を言うといい。」  「分かりました。」  「あの!」  翔が目に涙をいっぱいに溜めたまま、社長に向かった。  「これからっ、意見が覆ることは…ないんでしょうか!?俺は…っ、透さんも、一緒に、やりたいです!メンバーの、意見は、聞いてもらえないんでしょうかっ?」  1番嫌っていたはずの翔が涙ながらに訴えるのを、社長は無表情でばっさり切った。  「それはありえない。」  「…この度は、俺のためにこんな時間をありがとうございます。…みんなの活躍をずっと応援しています。今まで…ごめん。気付くのが遅かった…。長谷川さん、叱ってくれてありがとう。翔やセナも、気付かせてくれてありがとう。」  透が一人一人にお礼を言って、この会が終わった。魂が抜けたように、感情を失った気がした。喫煙所でタバコを吸っていたが、ぼんやりして火傷した。内出血した左手が戒めみたいでタバコの火をそこに擦り付けようとすると、偶然入ってきた楓に止められた。  「長谷川さん、それはやめときましょう?」  「楓…。はは、そうだな、ごめんな。ぼーっとしてた」  「そうっすか。」  ケータイをいじって無言になった空間。もう一度タバコを吸おうとすると、リクが慌てて入ってきた。楓を見ると、苦笑いして、念のためっす、と言った。  「愁、帰ろう!」  「いや、仕事あるから。」  「今のままじゃ仕事にならねーって!」  「なるよ。タレントの前でそんなこと言わないでよ。」  「楓、ごめんはずして?」  「うっす…」  ペコっと頭を下げて去っていったのを確認したリクはそっと愁を抱きしめた。  「愁。大丈夫だよ、大丈夫。」  「何が?」  「Altairはやっていける!透も!大丈夫だ!俺たちの中ではAltairは揃ってる!全員応援することには変わりない!」  「……。」  「愁!」  「リク…。そんなこと言っても、現実は…透は退所なんだ。現実を受け止めなきゃ。これは、僕と、Altairメンバー、翔太にしか分からない痛みなんだ。」  「愁…」  「ごめんね、ありがとう。」  喫煙所にリクを置いて、卒業ライブのセットリストを話し合う会議室に向かった。メンバーと自分しかいない空間が貴重で、大切にしようと思った。 会議では、翔が積極的に意見を出し、透が目立つ曲を中心に提案をした。透は少し嬉しそうにしながら、セットリストが完成し、リハーサルのスケジュールなどを伝えて解散となった。  「あ、タブレット忘れた」  やっぱりぼんやりしているな、と会議室に戻ると、愛希とヒカルが何やら言い争いをしていた。ドアを開けようとすると、その内容に愁は固まった。 「愛希!本当やり過ぎだよ!!退所まで…っ、」  「違うもん、愛希はセナさんにお仕置きしたくて…」  「あんなこと、わざわざ言う必要ないよ!なんで外に漏らすの!?バカなの!?」  「だって、グループのバランスを崩したのはセナさんだから、セナさんに責任を取って欲しかったの!こんなになるなんて思わなかったんだもん!」  「みんなまだ、本当は透さんのこと好きだったのに!愛希のせいでいなくなっちゃう!メンバーでいれるだけ幸せだって言ったじゃん!!変な彼氏にいいようにされて!どうせスクープがないとか言われたんでしょ!?」  「だって…困ってたから…」  「いくらで売ったの!?」  「20万…」  「たったの!?たったの20万で透さんがいなくなっちゃうんだよ!!?分かってるの!?」  ガチャ  「愛希、歯ぁ食いしばれ」  「「え?」」  ドカン!!!  「愛希!!」  「愛希お前だったのか。やってくれたな?」  「長谷川さん!落ち着いてください」  「覚悟してリークしたんだよな?」  「ひぃっ、っ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!!!」  「これは、お前のシナリオ通りなの?なぁ?教えてよ愛希。」  「違います、違います」  鼻血を出したままガタガタと震え、涙を流す愛希に殺意しか湧かない。全員で同じ場所を見ていたはずがどこかでズレていたようだ。  「セナさんっ、が、辞めたらいいと、思ったんですっ、」  「へぇ」  「彼氏に、まだ、透さんが、好きって、言っちゃったから、嫉妬して、透さんが、悪いって書かれて…っ、抗議したけど、そのまま出されて、っ殴られて、別れた。」  ゆっくりと、服をあげ、背中と内腿にもの凄い青痣。利用されるだけされて、捨てられた愛希は泣きながら謝っていた。  「彼氏、いたけど、やっぱ、透さんが好きだったから、告白したら…好きな人がいるって言われて…セナさんだって、勘違いして…」  ありえなさすぎて、愁はどかっと座って、頭を抱えた。  「この間、みんなで話し合った時に、もう一度みんなの前で…告白した…。まだ見てくれるなら謝ろうと思ったけど、やっぱりダメで…っ、」  「透さん、長谷川さんが好きだってみんなの前で言ったんだ。」  「は?」  「長谷川さんが好きで、これ以上長谷川さんに迷惑をかけられない。こんな俺に、初めて向き合ってくれた人だから、恩を別の場所で返していく、だから長谷川さんの大好きなこのグループを守ってくれって。」  目を見開いて、愁はヒカルを見た。  「翔は、好きなら自分で守ってよって抗議してたけど、透さんはみんなに任せる、って退所にサインしちゃったんだ。…そしたら今日愛希が僕だけに話し始めて…信じられない!愛希は仲間を売ったんだよ!?」  「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」  「出て行って。」  「「え?」」  「お前2人、出てけ。頭冷やす。愛希、お前は処分の覚悟しとけ。リークするってのはそう言うことだ。」  「はい…」  「行こう!」  2人が出ていくと、愁は言い表せない感情で泣き喚いた。  コンコン  ノックされ、慌ててマスクをした。入ってきたのは透だった。  「この度はご迷惑をおかけして申し訳ありません。」  「透、助けてやれなくて、悪かった。」  「長谷川さん、責任を感じないでほしいんだ。俺のせいで仕事もたくさん…本当にごめんなさい」  「いや…結局…」  「長谷川さんがいたから、Altairで頑張れました。わがままな俺をここまで連れてきてくれてありがとうございます。」  「ううん、よく頑張ったな。」  「あと少しですが、大切に、全力でやっていきます。最後まで一緒に、歩いてくれますか?」  「当たり前…だろっ…そんな…のっ、」  「泣かないで長谷川さん、ごめんなさい、俺のせいで」  そっと抱きしめてくる透の背を握った。ごめん、ごめんと言葉が溢れた。 「長谷川さん、泣かないで、いつもみたいに笑ってください」  「笑えないよ、こんな、っ、状況で…っんぅ、んっ」  壁に押し付けられて、マスクを取られ、透が口内を侵してくる。リクとも最近キスしてなくて、久しぶりの濃厚なキスに身を委ねた。  ガタガタ  「んっ!…まっ…ん!」  長テーブルに押し倒されて、抵抗すると、手首を抑えられ、ドキッとする顔で見つめられた。  「あなたが…大好きなんですっ…」  「透…っ」  「それを…篠原さんに、言ったら…篠原さん、彼氏だったんですね?…知らずに俺…。篠原さんの逆鱗に触れてしまって…取り返しのつかないことになってしまいました…ごめんなさい。」  「取り返しのつかないこと?」 「篠原さんに、絶対にお前は救わないって言われてて…タイミング悪く記事も出て…本当、俺…バカすぎて自分がムカつきます。ただ、そばにいるだけで幸せだったのに。もう会えなくなると思うと…さすがに辛いです。」  透がモテるのが分かる気がして、見上げたまま、笑った。  「透。気持ちはありがたく受け取っておくよ。あと、勘違いしないでな。僕の彼氏はリクだよ。」  「え?あ、相川さん!?」  「そう。ちなみに、僕はタチだから…ごめんな?」  想像したのか真っ赤になって、ごめんなさいと、身体を離した。 「透、話してくれてありがとう。悔いのないように楽しもうな!」  「はい!残りは長谷川さんの笑顔がたくさん見たいです!」  「おう、見せてやるさ」  頭をわしゃわしゃと撫でてやった。  デスクに戻ると、マネージャーたちがこちらを見ていた。首を傾げると、小さく怯えている篠原の姿があった。みんなが様子を見る中、篠原の隣にドカっと座った。  「篠原、いろいろ対応ありがとうな」  「は、はい。」  「何びびってんの?」  「え?いや、ビビってないです。」  「そう?透の退所までの段取り完璧じゃん。困るよ、退所させたかったわけじゃなかったから…。もっとさ、コミュニケーションとらない?篠原さ、僕と社長としか話してないでしょ」  「そうかもしれません。」  「副社長は秘書じゃない。社長のことばっかりじゃなくて、社員にも目を向けないと。」  「はい。ありがとうございます。」  いつまでも目を合わせない篠原に、ため息を吐くと、ビクッと肩が跳ねた。  「翔太見習えよなー?あいつは一度怒られたところで懲りないぞー?篠原は怒られ慣れしてないのか?」  頭を撫でると涙目でこちらを見た。 「面倒かけたな、ありがとう」  「先輩っ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」  「もういいから…いつまでもビビらないで篠原らしく仕事しな」  宥めてると、遠くで翔太がじろりと見ていた。  「俺の時と対応ちがーう!」  「お前は怒られ慣れてるだろ?篠原はたぶん人生で初めてだったから…怖かったろ?よしよーし」  「むかつく!!なんすかそれ!よしよーしなんかされたことないし!」  「誰がお前にするか!鳥肌立つよ」  「きぃーーー!相川さん!長谷川さんが差別します!!」  「ははっ!愁らしいな!」  「仲間がいない!!」  フロアに笑いが起こって愁は苦笑いした。  (よし、篠原のフォローも終わった。空気も良くなった。)  病み上がりに気を遣いすぎて、フラフラ廊下を歩いていると、リクに車の鍵を取られた。  「リク?」  「乗れ。俺が運転する。」  「ありがとう。」  助手席に座ると、意識が遠のいた。  「愁、ついたよ。お疲れさん。」  「ん、ありがとう」  半分寝たままリクに手を引かれて付いていく。ドアを閉めると、久しぶりの我が家に癒され、リクを後ろから抱きしめた。  「リク、無視しないで」  「ごめん、苛立ってたから」  「辛かった」  「うん。ごめんな、倒れたって聞いた時、お前を追い込んじゃったって反省した。愁が甘えられるのは俺しかいないのに。」  「そうだよ…リクしかいないのに…無視は嫌だ」  「ごめん…ふふっ、ごめんな?」  ぼんやりしたまま言うと、リクは可愛いと抱きしめてきた。 「今日さ、透に告白されたよ」  「あぁ、そうなの?篠原の透排除スイッチだったらしいよ」  「みたいだね。…はぁもう。ややこしい。」  「愁モテすぎ。嫌だ」  「僕、リクしか見えないのに。」  久しぶりにリクの香りを胸いっぱいに吸って、甘えた。やりたいようにさせてくれるリクに安心して、何度も何度もキスをした。 (本当に癒される…)  生き返ったような感覚に、リクをぱちくりと見つめた。  「どした?」  「なんか…元気になった」  「なんだよ、下ネタかよ」  「あはは、こっちもだけど、気持ち的にも!」  「あーはいはい。ヤりたいだけだろ?ほらおいで。」  「ん〜〜リクー!!」  「避けててごめんな。俺も愁不足。」  ニカっと笑うリクが可愛くてベッドに沈めた。  「リクっ!もっ、まって!まって!病み上がりだからっ!」  「はぁ?まだまだイけんだろ??おら、ついてこいよ」  「ーーっ!!はぁ、リクっ、腰、ゆっくり、っくぅっーーッ!」  「んぁっ、っああ!っあああ!ん、もぉ、最高っ!っぁあああー!!んっ、んぁ、っ、気持ちっ!しゅう!しゅう!」  搾り取られてグッタリする隣で、満足そうにタバコを吸うリクが笑って髪を撫でてくれた。  『Altairのリーダー、透さんがグループ卒業と、事務所退所を発表しました。透さんは事務所移籍後、タレント業を中心に活動していく予定です。事務所とは円満退所ということで次の活動も応援していくとのことです。』  『いやぁ〜透くんは今やバラエティーで引っ張りだこですからね!活躍に期待したいです!お笑い事務所からのオファーが凄かったそうですが、タレント事務所でしたね』  『最終日にはインターネットで卒業ライブを無料公開する予定です』  「透さん抜けるんだな…」  「なんか…事務所長かったから不思議な感じだね」  「レイはバラエティーで会うんじゃね?」  「うん!たぶん!芸人さんたちも気に入ってるよ」  「そっか、なら、良かったのかな」  「気を引き締めないと、だな!」  「そうだな!頑張ろうな!」  レイと大河は気を引き締めなおした。 

ともだちにシェアしよう!