101 / 140

第101話 進んだ道

タカとのダンスレッスンを終えてスタジオを出ると、思わぬ人物に大河はさっと目を逸らし、ペコリと会釈して立ち去ろうとした。  「待って!!ユウのことで聞きたいことがある!」  Altairの愛希は大河の腕を取って、必死の様子だ。ため息を吐いて、離してくださいと言って向き合った。  「優一のことなら、俺も入る。愛希、あいつに何のようだ?」  タカは嫌がる大河を察して隣にいてくれるようだった。  「別に…タカさんには関係ないんですけど。」  「優一は俺の同居人だ。」  「え!?そうなんですか?…なら聞きたいことがあります。」  ロビーのベンチに腰掛けて、愛希の言葉を緊張しながら待つ。大河にとって愛希はナイフのような人だった。美しいけど人を傷つける存在なのだ。  「ユウがやってた仕事ってなんですか?」  「「え?」」  「AVって本当ですか?」  「この話に意味はない。大河、行くぞ」  表情を瞬時に変えたタカに、愛希は慌てて止めた。  「お願いします!もう、愛希にはユウの穴埋めしかないんです!!」  「はぁ!?」  「愛希、たぶん、クビになります。」  「え?ど、どうしてですか?透さんの脱退と関係が?」  「愛希が…Altairの内情を記者にバラしたんだ…だから、透さんが責任をとって…記事もみ消しと条件に退所になったんだ…。でも、愛希が漏らしたことが長谷川さんにバレた…処分を覚悟しとけって。愛希は芸能界以外で生きていけない!」  「知るか。仲間を売ったやつに喋るかよ。」  「タカさん、お願いします!!ユウの仕事を教えてください」  苛立つタカに気付かず必死に縋り付く愛希にハラハラする。タカがキレてしまうんじゃないかと怯えた。  バン!!  「喋らねぇって言ってんだよ!!しつこいなっ!!お前みたいな信用ないやつに言わねーよ!また記者に漏らすんだろーが!ネタにするためか!?あぁ!?」  「っ!」  「お前にだけは言わない。覚えとけ!干されるなら干されろ。自業自得。」  「大河っ、」  「俺も、話すことはできません。」  「愛希、もう…AVしかないもん…。お仕事なんだってする。誰に紹介してもらったかを知りたいだけなんです…。長谷川さんはもう愛希に仕事をくれないはず…もうAltairにいられない…。ヒカルにもブロックされて…もう、居場所がない。それしかないんだもん」  震えて泣く愛希に困って、タカと視線を合わせた。タカが長谷川に連絡し、しばらくすると呆れたようにやってきた。  「愛希」  「ぅっぅ、っ、ぅ」  「他のグループを巻き込むな」  「だって…愛希、Altairにいられないよっ」  「…お前も辞めるのか?」  「ヒカルにも嫌われたし…透さんもいない…もういる意味ない」  「愛希がそう思うなら、辞めたらいい」  「え…?止めてくれないの?」  「もう疲れたよ…自分の人生だろ。自分で選べ。…AVやるならここを退所しなきゃできないからな。」  「でもユウはやってたんでしょ?!」  「この2人の前で言うなよ。お前本当空気読めねぇバカだな。」  長谷川は心底疲れ切った様子だった。タカは今回の件でボロボロになった翔太を見ていた分、同じようにボロボロな長谷川を複雑そうに見守った。  「僕にできることは、Altairを本当にやりたい人だけをサポートすること。もう…こんなことたくさんだ。ただ、どちらにしても、透は最後までやり切って送り出す。これは約束してくれ。」  「愛希には、愛情ないのっ!?ねぇ!」  騒ぐ愛希に、長谷川の疲れ切った目が、怒りに変わって、タカと大河は息を飲んだ。  「あるわけねぇだろ。」  「っ!」  「てめぇの情報を漏らした理由、セナを辞めさせたかったんだろ?もうお前にAltairへの愛情なんかないだろ。そんな奴をどうやって愛せばいいの?僕には分からないんだけど。」  「ひどいっ!愛希のことを分かってくれないの?!なんで分かろうとしないの?」  「ん?知りたくないから。怖いもん、お前。」  長谷川はケータイを操作して愛希に送った。  「マツリさん。可愛がってくれるんじゃない?愛してもらいな。…言っとくけど、お前が辞めるって言っても卒業ライブなんかさせないからな。タカ、大河、忙しいのに悪かった。お疲れ。」  まだ不調なのかフラフラと去っていく長谷川。スタジオの戸締りを終えて、リクが廊下に出た瞬間、慌てて長谷川を支えていた。  「…愛希さん、じゃ、俺ら行きます」  「みんな、大っ嫌い。」  「…自業自得だろ。愛されたいならそれなりの行いをしな」    後ろ髪ひかれながら愛希のそばを去った。  「こんばんは…Altairの愛希といいます。マツリさんですか?」  ーーーー 『皆さん、今まで応援して下さってありがとうございました!ファンの皆さん愛しています!メンバーのみんなも、マネージャーさんも、事務所のスタッフのみなさん、お世話になりました!これからも、Altairを宜しくお願いします!』  卒業ライブは再生数が記録的な数字を出した。最後は笑顔で、と長谷川は笑って全員で写真を撮って見送った。  「お疲れ様、透!ずっと応援してるからな!頑張れよ!」  「ありがとうございます!本当に!お世話になりました!」  大きな花束を長谷川から受け取って、透は笑顔で手を振って去っていった。 全員が見守る中、透が見えなくなったところで泣崩れた長谷川をリクが抱きしめ、翔太、伊藤、雪乃が続いた。少し離れた所で篠原も涙をこぼした。Altairのメンバー達も号泣する中、愛希だけが顔面蒼白のまま突っ立っていた。  「レイ、泣きすぎ」  「だって…っ、いいライブだった…っ」  号泣するレイを慰めながら、伊藤も涙を拭っている。Altairの本気が見えるライブだった。RINGは最後のライブを見た後からレイ以外は無言だった。 「ねぇ?誰か抜けるならさ…解散するって約束しない?」  その発言をしたのは後部座席に乗った青木だった。  「賛成」  すぐに大河は同意した。このメンバーじゃなきゃ意味がない。  「俺も。」  誠も静かにそう言った。レイも頷いたが、優一だけが同意をしなかった。  「…俺がいなくても、頑張ってほしいって思う…透さんの気持ち、すごく分かるな」  「ユウ!やめろよ、そんなこと言うの!」  「そうだよ!優くん!」  悲しくなって後ろを振り向くと、静かに泣いていて思わず固まった。  「それぐらい、グループが大事なんだよ、透さんは。みんなを守りたかったんだろうなって、思ったんだ。」  「……」  「何があっても、RINGというグループが残っていたらいいなって思うよ。どんな形であれ、それで救われる人がいるなら。Altairもそうであってほしい。長谷川さんは…もう見てられなかったけど…。」  「何だよ、お前、抜ける予定あるのか?」  伊藤が恐る恐る聞くと、涙を拭いてニコリと笑った。  「無いよー!!伊藤さんに、長谷川さんみたいな気持ちにさせるわけにはいかないもん!」  ねー、と隣の青木に笑う優一に全員がほっとした。 大河は社長の言葉を思い出して、頑張らないと、と気合を入れ直した。  ピリリリリ ピリリリリ  「ユウ、電話?」  「うん、でも誰だろう?登録してない人」  「無視しろ。」  「でも…」  切れた電話はまたかかってきて、急ぎなのかと優一は電話に出た。  「はい?もしもーし、どちら様ですか?」  『愛希だよ』  「え?愛希さん?お疲れ様です!」  (はぁ!?なんでユウに!!)  この間のことがあり、大河は慌てて電話を切るようにジェスチャーをした。誠も振り返り、切っていいと合図したが、時すでに遅かった。  「ユウ?」  「優くん?」  目を見開いたまま、歯がガチガチと震えている。まさかと思い、大河が電話を奪った。  「愛希さん!」 『あれ、もしもーし?この声は…大河くん?』  「マツリさん…?」  大河の声に全員が大河を見た。優一は耳を塞いでガタガタ震え出したのを青木が心配そうに強く抱きしめた。  「何の用ですか?愛希さんに代わってください!」  『愛希くんが、ユウの仕事がしたいっていうからさぁ。そういえばユウ元気になったかな?って。』  「ほっといて下さい。愛希さんに代われませんか?」  『本当RINGは僕に手厳しいよねぇ。みんなでユウのボディーガードしちゃってさ。』  「もう失礼します。」  『あ、ユウのデータ愛希くんに見せていいかな?』  「事務所で対処します。」 すぐに切って着信拒否に入れた。優一は涙を流して青木にしがみついていた。 大河が優一の耳にイヤホンを差し込んで、ブルーウェーブの曲をプレイリストから流した。だんだん呼吸が落ち着いてきた優一に全員がほっとし、青木がノンタンの動画を見せると、きゃっきゃと騒いで一安心だった。  (愛希さん、何考えてんの…)  伊藤から長谷川に指導してもらおうとしたが、伊藤曰く、愛希のマネジメントから外れたと言ったそうだ。管理は社長にあると言われ、社長に聞くと、当面の仕事は無く、契約満了後に更新しないことが分かった。  (契約後の仕事探しってわけか…)  誠にユウとキャラが被ると文句を言っていたが、結局ユウの穴埋めに奔走するのがくだらないと思った。  (ユウを巻き込むなよな…)  何かと事を大きくする先輩に大人しくしてくれと願った。  優一のあの怯え方を見ると、フラッシュバックしていないか不安だった。さりげなくダンスレッスンでタカに聞くも、問題はなさそうで安心した。  しかし、事を大きくする先輩が、仕事無しで大人しくしている訳が無かった。   『Altair愛希、ゲイバーで豪遊』  『リーダー辞めてやる気なし』  『追っかけ脱退か?Altair愛希の目論見』  たくさんの写真が週刊誌に上がり、楽しそうに酒の瓶を持って笑う記事が数多く出ていた。ファンからの批判で大炎上し、記事は連日愛希を追いかけ、事務所が火消しに苦労していた。 「伊藤さん、長谷川さん大丈夫?」  「大変そうだよ。ずっと徹夜続き。愁くんへの反発だと言ってたけど…社長ももう切ったらいいのに…愛希は芸能人の自覚ないよ」  「俺、愛希さんが怖いんだよ。ユウのこと言わないかって。」  「それだよな。愁くんも心配してた。たぶん今は記事のネタ提供でお金貰ってるはずだから、高額なら関係なく情報を売るはずだって」  「それは怖いな…」  そんなことを話していた後日。  マンションの前に不審な車が止まっていた。何度も撮られた大河はすぐに分かった。  (なんで張り付いてるんだ?)  大河:伊藤さん、記者が待ち伏せしてる。  伊藤:あぁ、今、青木のマンションにもいるみたいだ。まだ動くなよ。  大河:ユウは?  伊藤:ユウは今日オフ。部屋にいろって指示した。  スケジュールを動かせるものは動かし、様子を見ると、やはりまだ待機していた。結局、RINGは念のため全員待機になった。  数日後。  週刊誌の発売日にはRINGの見出しが一気に出た。  『RINGは異常な仲。全員がユウのボディーガード』  『なぜ?守ってあげたいユウの魅力とは?』  『男性一本釣り。ユウのサービスショットをおさらい』  ついに、ユウが売られた。  マツリの仕事を頑張っていた時の写真が公開され、話題になってしまった。 メンバーも実際には知らなかった、女装姿やホステスみたいな仕事の数々。ユウなのが信じられないほど、女の子にしか見えない美少女だった。 それと合わせて、ライブでのメンバーとのハグや、タカや大河とのキスもでかでかと載った。  「社長!対応をお願いします!やっとユウは復帰しつつあるんです!事前連絡はなかったんですか!?」  「無かった。今文書で抗議をしている。法廷でも闘うつもりだ。」  社長もさすがに怒り心頭でマスコミにコメントを流し、放送や話題を取り上げることを禁止した。そして、愛希の契約解除を同時に流し、こっちを話題にするように依頼した。  愛希の炎上商法に、ファンもグループの名前を汚したと怒り、逆に優一への関心が増えた。  『可愛いすぎる』  『モデル級の可愛いさ』  『メイクを知りたい』  など様々で、女性ファンが増えた。  しかし、優一は過去が流れたことでショックを受けて、また実家に戻ってしまった。  『人に見られたくない。怖い』  振り出しに戻ったことに、大河は怒りで震えた。やっと、表に戻ってきたというのに、愛希の生活費のためだけに、関係のない優一が晒され、またあの時に戻ってしまった。 大河はこの優一の過去を、上手くいい方向に変えなければと、考えた。  (そうだ!みんなやればいいんじゃない?)  敢えてみんなで女装をすることで、楽しかったイメージにしようと提案した。 「え!?女装?俺たちが?」  「あぁ。ユウの過去を楽しいものに変えたいんだ!」  「大河さんに賛成!」  「あー…マコちゃんコスプレ大好きだもんねー?」  「どうしよう、すね毛剃った方がいい?」  意外にもメンバーは前向きで、大河はよし、と気合を入れた。 伊藤にも話して、ファンイベントで女装をしての曲を一曲入れようと提案した。それぞれのキャラクターと設定を青木が作り、衣装は誠が張り切って提案していた。 ドジっ子メイドのマコ  意識高い系メイドの青木  ベテランメイドのレイ 天然系ドSメイドのユウ 新人メイドの大河  この案を優一に見せると、さすがに笑って、何それ〜と乗ってきた。そして、髪型はー、と優一もアイディアを出し始めて、大河は心の中でガッツポーズをした。 「大河さんは、ツインテール!高めのやつ!マコちゃんはふわふわボブ!青木は三つ編みで、レイさんはポニーテール!俺はロングで毛先巻いたやつ!どう?」  「いいじゃん!」  「メイクした大河さん早く見たいなぁ!柚子も喜びそう〜!」  興奮してくれた優一に、リハーサルが始まるからとタカの家に戻るように言うとアッサリ戻ってきた。  「大河、ありがとうな。いろいろ企画案出してくれたみたいで。優一はヘアアクセサリー選んで楽しそうだよ。」  「いえいえ!公式に女装するだけです。ハロウィンみたいな感覚です!なぜかレイが張り切ってます!」  「レイ、筋肉ムキムキだけど…ちゃんと可愛いか?想像つかねー」  優一が戻ってきてご機嫌になったタカは、初めの頃が嘘のようにダンスが上手くなっていた。コツさえ掴めば応用ができるのか、振付を覚えるのも早くなっている。  「あのさ、ここだけの話。あの女装の優一、本当に美少女だと思わないか?」  「はい、驚きました!」  「ちょっと公式で見れるの楽しみにしてていい?」  「ははっ!もちろんです!期待を超えて見せます!」  少年みたいにニカッと笑うタカに、やる気が出た。  けど、いざ衣装を目の前にすると躊躇する自分がいた。  「お前らなんでそんなノリノリなの!?」  「「「「え?」」」」  大河以外は着替え終わり、ウィッグを綺麗に整えたり、メイクしたり、全体をチェックしたりと発案者の大河より楽しんでいた。 「大河さん!早く!ほら、バンザイして!」  見かねた優一が衣装を持ってプリプリ怒るも、女の子にしか見えなくて目を逸らした。  (やっば!こいつ可愛すぎる)  白に近い金髪のロングのウィッグ。前髪は短めで優一らしい。毛先は自分で巻いたのをヘアメイクさんに褒められて大喜びしていた。  「なぁ?なんで俺とユウだけミニなんだよ!お前らだけズルい!」  大男達はロングスカートだから足を開いても楽そうに座っていた。大河は黒いストッキングを履いているが優一は生足ニーハイソックスだった。  「もうっ!たぁ子、そんな事いいじゃない!早く着替えなさいよっ!」  優一は完全になりきっていてクルクル回転しながらメイクに入った。  (スッピンであのクオリティかよ)  驚いてそれを見送った。  「たぁ子終わった?」  「うるせーよ。お前までたぁ子言うな。」  誠がにっこりと微笑んできた。大人しそうな見た目に変わって、それが大河の好きなタイプにドストライクだった。 「大河さん?」  こてんと首を傾げるのも可愛くて、思わず顔が真っ赤になった。  「あれ。俺、タイプだった?…そっかー、こんな感じの子が好きなんだね?」  誠がそこにあった丸メガネをかけて、座り込んだ。  「ご主人さま?」  上目遣いで見つめられ、大河は真っ赤になって、走ってレイのところに逃げた。誠は大爆笑してあぐらをかいて座っていた。  「終わったー!どう?可愛くない?1番可愛い気がする!」  くるりと振り返った青木に全員が見惚れたが、青木はツッコミ待ちだったのか、滑ったと凹んでいた。  「ちぃー!可愛いー!」  大地の「ち」を取った、コントの役名を早速呼んで優一が抱きついていた。抱き合う2人は百合小説のように綺麗だった。  「レイ、座り方。」  「あら、いけないわ!」  「気持ち悪いな、お前!あっははは!」  レイはヘアメイク待ちで、短髪のままロングスカートを着ているからアンバランスだ。  「なんかレイ巨乳に見える」  「やー、苦しいよこの衣装。あっついし」 「怖いな、裏設定通りになりそうだな。」  「あー、巨乳とか貧乳な。」  「えっと、俺と青木が貧乳で、レイとユウとマコが巨乳な。」  「気持ち悪いよな、青木の裏設定。性癖でるよな!」  あはは、と爆笑しているレイもメイクで呼ばれ、ロングスカートを持ち上げてドスドスとメイクルームに向かった。  ーーーー 「はーい、目線くださーい!」  カシャッ カシャッ  (おお!本気出したらマジで美女軍団だな)  伊藤はメイクするまでは笑っていたが、だんだん完成していくうちに声をかけにくくなるほどのオーラだった。  (メイクと髪型でこうも変わるのか?女性ってすごいな)  新しいアイドルグループの宣材写真みたいにクオリティーが高い。キャラクターに合ったポージングや表情が面白い。  そして今回はメイドだけではない。ご主人様バージョンも予定されている。 ファンイベントでランダムに配布されるポストカードで楽しんでもらう作戦だ。メイキングカメラも入り、楽しそうにしているメンバー達にほっとした。  (良かった。ユウも落ち着いたかな?)  女装のまま、もぐもぐとカステラを頬張り、幸せそうに笑っていた。食べ終わると、誠と話している青木の膝の上に、向かい合って座り、ニコリと笑った。  「俺のご主人さまー!」  「っっ!!」  「もう!優くん!今お話し中でしょー?…あ、青木っ!!鼻血!衣装汚れるっ!!」  「うわ!青木、大丈夫?!」  「大丈夫だから、ユウ降りて」  メイクさんも慌ててやってきて、優一はぽかんと口を開けてそれを見ていた。  優一の言う『俺のご主人さま』とは、それぞれメイドのキャラクターとご主人様のキャラクターでカップルを作ったのだ。  これは青木考案で、見事に優一をカップルに選んだ。優一は今、メイドの役になりきっているから構わずベタベタしてくるのだ。  (青木、自業自得だな)  「青木、大丈夫?」  「マコちゃんヤバイ、絶対領域の生足はヤバイ。」  女装のまま鼻にティッシュを突っ込む青木はなんだかシュールだった。  メイドの後ろ姿を先行公開したところ、大きな話題になった。  ファンイベントのチケットはすぐに完売し、RINGは準備に追われ、愛希のことを考える時間さえなかった。  ーーーー とあるマンションの一室。 「っぁ!!あぁんっ!!ーーッ!あ!あ!んぅーーッ!」  「はは、可愛いよ愛希くん、今度はこっちむいてね。ほら、カメラ見て」  「やだっ!…もぉ、っ、やだ!できないっ!やめてよぉ!んぅっーーっ、んぅーー!!」  「可愛いお口にいっぱい。苦しいの?愛希くん?あぁ…泣く顔も可愛いよぉ?」  「んぅー!んーーっ!!」  「こらこら、今攻めたらさすがに可哀想だよ」  ぶっ飛びそうな意識の中、マツリの熱が口から出て行って咳き込んだ。 「めっちゃ締めてくるからさぁ…マツリさんよく見つけたよなぁ、こんな人材」  「自分から来たんだよねー?気持ちいことが大好きな愛希くん」  ズルリと後ろも抜かれてベッドに倒れ込んで懇願した。 「ぷはぁっ、ぁっ、無理っ、もぉ、無理ぃ、嫌だよぉ…」  「えー?こんなんじゃユウの期待値超えられないよ?いいのー?ガッカリされちゃうよ。まだ頑張れるよね?」  (ユウを越えないと…。愛希にはこの道しかないのに。ここでもユウと比べられる…)  「ん…愛希がんばる」  「偉いよ愛希くん。素直で可愛いね」  「ユウより可愛い?」  「もちろんだよ」  その言葉に縋り付いてひたすら欲を吐き出された。  「どーよ、新人は。売れそう?」  「んー。中の上くらいかな。締まり具合は最高だけど、思ったより体力ないし、ユウより年上だからか可愛いさじゃなくて必死さが出過ぎてる。まぁ、好みじゃないから。」  「ひどい奴。可愛い可愛い言ってたくせに」  「魔法の言葉なんだよ。ユウより可愛いって言えば喜んて腰を振るよ」  「へぇ〜…。その言い方、マツリさんはまだユウを諦めてないんだな?」  マツリはタバコを咥えたままカメラのデータをチェックした後、パソコンを閉じて、灰皿にタバコを押し付けた。 「ユウは売るつもりなんかなかったんだよ。僕や僕の周りのやつらだけで楽しむ予定だったのに、あの制作会社が早まりやがって。まぁ、しばらくは愛希くんを可愛いがるよ」  「このドラッグ使ってみたら?愛希くんもハマるかも。」  「おいおい、それいくらすると思ってんの?こんな高価なモノ、ユウとのためにとっとくの。」  「じゃー愛希くんは俺が貰っていい?」  「どーぞどーぞ。可愛いがってあげて。事務所に捨てられた可哀想な子だから。でも撮影の仕事の時はよこせよ。そーゆー契約だからな。」  「はいよー。」  マツリは愛希を起こして、大量の札束を渡し、部屋を去った。 

ともだちにシェアしよう!