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第102話 愛されるということ

5人体制のAltairの準備に集中する日々。苦しいほど何もできず、長谷川にだけ負担を負わせてしまったことを後悔する。長谷川も人間だったんだ、と思わせた今回のできごと。  翔は打ち合わせを終えて、事務所ロビーで長谷川を待つ。連日の愛希の騒動と突然の脱退・退所に、また倒れてしまうんじゃないかと不安になる。  (俺がしっかりしないと。)  リーダーは不在になったが、事実上のリーダーになっている翔は張り詰めた糸が切れないようギリギリの調整をしていた。 恋愛なんかしているヒマは無くて、グループでの立て直しに必死だった。そして気がついた。  (俺、セナさんのこと、なんとも思わないや)  努力してくれているのも分かるが、目の前のことに必死すぎて、グループ内で関係を結ぶのが翔には気が引けた。  (もうグループを壊すわけにはいかない)  遠くから疲れ切った長谷川が、無表情でやってきて、局に送ってくれた。  個人個人の仕事を手配していた長谷川だったが、今はグループと翔のことだけしか出来なくなっていた。  「翔!お疲れ!愁におかしなところがあったら、俺に伝えてね?」  局ですれ違った相川に言われ、コクンと頷いた。状態は良くないのだろう。  (なんか…怖いな…)  先が見えなくて、不安で押し潰されそうだった。誰かそばにいてほしくてケータイの連絡先を見るも入ってこない。  (誰も…いない…)  そばにいてくれる人がいなくて、心臓がバクバクと煩い。  (誰かといたい。)  「っ!!」  浮かんではいけない人が浮かんで、思わずパタパタと涙を零す。  会いたくてたまらないのは、会ってはいけない人。  「ジンさんっ…っ、会いたいよぉっ…」  メイク前の楽屋でひたすら泣いて、ついに連絡をしてしまった。  翔:カナタさん、お疲れ様です。すごく、言いにくいお願いがあります。ジンさんに会いたいです。  カナタ:本人に直接連絡したら?  翔:連絡先がわかりません。お願いです。俺、もう壊れそうです。  カナタ:分かった。伝えるね。  どこまでも優しいカナタは、了承してくれた。少しほっとして涙を拭いた。  翔:22時に俺の家って伝えて下さい。  カナタ:分かった。お仕事頑張って  申し訳ない気持ちを隠しながらも、ジンと会えることへのワクワクに変わっていった。  (久しぶりのジンさんだ…)  自然と嬉しさで口角が上がった。 ーーーー  「ジンさん、これ見て」  翔からの連絡に吐きそうなほど動揺したのを隠して、ジンにやりとりを見せた。心配そうにした後、行ってくるね、とやっぱり言った。 (行かないでほしい。もう、俺のなのに)  22時にならなきゃいいのに、と時計を睨みつける。ソワソワして、でも言えなくてぎこちなくなる。ジンは準備を終えて、遅くならないようにするね、と笑った。  ドアを開ける時に、勝手に身体が動いてその背中に抱きついた。  「カナタ…?」  「……。」  「どうしたの…?」  「……行かないでほしい」  「え?カナタが伝えてくれたから…」  行ってほしいのかと、と顔だけ後ろを向いたジンに噛み付くようにキスをした。キスしながら体ごとこちらを向かせて、必死で舌を絡める。  ドサッ  「はっ、ぁ、ジンさん…」  「カナタにもやっと、嫉妬の感情が芽生えたんだね。嬉しいよ」  「ン!っ、ぁ、っ、ぁん」  玄関の廊下に押し倒され、嬉しそうに服の中に手を入れ、首筋に噛み付いてくる。  (どうしよう…行かせなきゃなのに…シたくてたまらないっ)  「カナタ…っ」  「ジンさんっ、抱いてよっ、」  「うん、もちろんだよ」  ピリリリリ ピリリリリ  鳴り出したカナタのケータイに、2人はハッとして固まった。  カナタのケータイには、翔からの着信。  「あ…そっか。行かなきゃだったね…断わろうか?」  ジンは完全に忘れていたのか、苦笑いした。 ーーーー  (遅いな…)  風呂にも入ってお酒を飲んでジンの到着を待つ。カナタは電話に出なかったためひたすら待つ。  (23時…来ない…のかな)  だんだん悲しくなって、強い酒を煽るように飲んだ。熱くて、ふわふわして、涙が流れるのをそのままにぼんやりと机に伏せた。  ピンポーン  (きた!!)  オートロックを解除してして、フラフラした足取りで玄関に向かう。もう一度インターホンが鳴った瞬間にドアを開けてぎゅっと抱きしめた。  「遅いよ…ジンさん。」  「ん、ごめんね。…泣いてた?大丈夫?」  親指でそっと涙を拭ってくれた優しい顔の後ろで、複雑そうなカナタが立っていた。  「え…?」  「あ、カナタも一緒に来てもらったよ。僕が来てって言ったの。カナタは遠慮してたけど。いいよね?お邪魔しまーす。」  ジンは有無を言わさないまま、スタスタとリビングに向かった。  「あ…いいよ。ごめんね。俺は外で待ってるから。」  「ダメ。カナタ、おいで」  「ジンさん…っ、俺は…」  「翔くん」  「あ、カナタさん上がって下さい」  居心地悪そうなカナタを見て、モヤモヤとしたものが一気に湧き上がる。  発散できると思っていた翔は、それが叶わないことを知って、感情のコントロールができなくなった。  「翔くん、どうしたの?」  「やっぱり…いいです。」  「え?」  「来てもらったのに、すみません。もう…大丈夫なので。」  「大丈夫には見えないよ。お話なら聞くから。」  優しく微笑むジンに甘えたかった。なのに、ジンがずっと愛してやっと実った彼氏も一緒だった。  (やっぱり、頼っちゃダメな人だった。頼れる人はいない。)  「っっ、ぅ、っ、ふぅぅ、っ、ぅぇぇっ」  「翔くん、よしよし。お疲れさま」  ジンにハグされて背中を握りしめる。独り占めしたいほどの包容力に、愛されたいと願ってしまう。  「ジンっ、さん、っ、もぅ、苦しいよっ」  「翔くんは頑張ってる。みんな分かってるよ」  「この、ポジションが、重くて、っ、誰にも、頼れなくて、っ、おれ、それで、」  「僕が浮かんだの?」  コクンも頷くと、カナタはゆっくりとダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。  「ジンっ、さん、抱いてよっ」  「っ!」  カナタのことなど気にならないほど、ジンにしがみ付いた。何もかも忘れさせるあの快感に酔って眠ってしまいたかった。  「それはできないよ。根本の解決にならないでしょ?」  「意地悪…しないでよ」  「僕にできることは、翔くんのお話を聞くこと、アドバイスをすること、それだけだよ」  「っぅ、ぅっ、寂しいんだもん。全部忘れたいのっ、お願い」  カナタは耳を塞いで下を向いていた。先輩を気遣う余裕なんかなくて必死だった。  「翔くん。君を安心させる存在を見つけよう?それは、僕じゃないよ」  「ジンさんしか、浮かばなかった」  「翔くん。信じなきゃ。ちゃんと向き合ったの?頼れないって思い込んでるんじゃないの?」  「だれも、頼れない」  泣きじゃくって困らせて、思いの丈をすべて吐き出した。  Altair5人体制での再出発。  実質的なリーダーの役割。  個人の仕事やメンバーのケアと底上げ。  課題はありすぎて、メンバーに足を引っ張られている気さえして、他の4人に相談することもなかった。  「長谷川さんもっ、もう、壊れちゃった…っ、1人で、グループを背負えないよっ!怖いよっ!ぜんぶ、俺ばっかり!」  「まずはメンバーと話さなきゃ。ね?これが解決しなきゃ、翔くんはこのままだよ。」  「だれも!頼れない!!頼れる人なんかいない!」  「翔くんが信じないからでしょ。メンバーは待ってるよ。翔くんが荷物を分けてくれること」  そんなわけない!と騒いで、ずっとハグしていた。ジンの心臓の音を聞いて、酔いも回って、そっと目を閉じた。  「ん…ジンさん?」  「ジンさんじゃなくてごめんな。」  聞き慣れた声に飛び起きた。  「セナ…さん?」  「この酔っ払い。先輩まで呼び出して…全く。」  呆れたように言った後、ぎゅっとハグされて目を見開いた。  「不安がって泣いてるって、ジンさんから連絡貰った。翔に全部背負わせてごめん。4人で話し合ったんだ。このグループも、長谷川さんも、翔も僕らが守るから。」  「セナさん…」  「ヒカル、別人のように努力してるよ。愛希に戻りたい、ごめんって言わせるんだって。晴天も陽介も、そして僕もボイトレに通い始めたよ。…今更かもしれないけど、原点に帰ろうと思って」  「そっか…」  「翔。…頼れないかもしれないけど、頼ってほしい。信じてほしい。翔は1人じゃないよ、僕らがいる。まだ足を引っ張ってるけど必ず翔に追いついて、一緒に走るから」  「ぅっ、ぅっ、っ、」  「翔。今までありがとう。いつも頑張ってくれてありがとう」  優しい声と言葉。メンバーの意識の変化に、嬉しくなって涙が止まらなかった。 「まずは翔と長谷川さんに、4人の成長を見せるからね!楽しみにしてて!」  「ふふっ…。うん、分かった」  「翔、やっと笑ってくれた。」  つられて笑ったセナを見つめると、ふと、表情が変わった。  (あ…キスされる…)  柔らかな感触にドキドキした。触れるだけのキスの後、グレーの綺麗な瞳に見つめられる。  「翔…辛い時は、ジンさんじゃなくて、僕を呼んでよ」  「…セナさん、でも…」  「分かるよ、怖いんでしょ?グループ内でもうゴタゴタは…って?」  「うん、どうしてそれを?」  「ジンさんが、泣きながら言ってたって。…翔、僕は同じ過ちはしない。こんなに大切にしたいと、思う人は翔しかいないんだ。」  ゆっくりと指を絡めて握られる。目を逸せないほど綺麗な瞳は吸い込まれそうだ。  「翔。僕に任せてほしい。僕に頼ってほしいし、甘えてほしい。全部、受け止めるから。」  「セナさん…」  「頼れる翔も、こうして1人で泣いちゃう翔も、愛しくてたまらないよ。」  初めて見る、男らしい表情。自信のなかった前とは違い、今ははっきりと愛を伝えてくれる。 (なんか…雰囲気が落ち着いた感じ…)  握られた手はそのままに、反対の手が翔の顎に添えられた。  「好きだよ、翔」  「んっ…」  触れるだけのキスから、温かい舌が絡められ、ビクッと体が跳ねて唇が離れた。  「翔、好きだよ。」  「セナ…さんっ」  「愛してるよ、翔。大好きなんだ。」  酒で酔っているのか、愛の言葉に酔っているのか、ふわふわして目の前の綺麗な顔に見惚れてしまう。  「翔…付き合って、僕のものになって」  「酔ってる時に、言うの、ずるい」  「酔いが覚めても言うよ。この気持ちはずっと変わらない。大変な時だからこそ、翔のそばで支えたいんだ。翔、僕に任せてみてくれない?」  真剣な眼差しに、不安がドキドキに変わる。  「頼っても、いいの?」  「いいよ」  「俺、わがままだよ」  「知ってるよ」  「頼れなかったら、ふっちゃうかも」  「そしたら出直して、また告白する」  「ふふっ、そんなに俺のこと好きなの?」  「うん。翔が思っている以上に、僕は翔が大好きで、翔のために頑張りたいんだ」  「俺のため?」  「そうだよ。翔に見てほしいから」  「…見ないように、してた。」  「どうして?」  「だって…もうグループ内は嫌だったから」  「嫌って言っても、僕は翔が欲しい。」  「ふふっ、頑固」  「意外でしょ?好きなことは譲らないよ。だから翔、諦めて僕の彼氏になって。」  「…うん、わかった」  そう言って笑うと、噛み付くようにキスされて、気持ち良さに目を閉じて、セナの首に腕を回した。  ベッドでお互い裸になって、翔はセナに体を預けた。なんだかくすぐったくて、恥ずかしくて、いつも快感にすぐ呑まれるのに、なんだかまだ理性が残っていて緊張する。 中を刺激する指が、いい所を何度も攻めて、切ないような、気持ちいいような、訳が分からなくてセナの白くて細い腕に爪を立てる。 「あぁっ…セナさん…そこ、だめ、すぐ出ちゃう…」  「出ないでしょ、お酒で全然反応しないし。落ち込むなぁ…」  「でも、でも、出ちゃいそうなのっ!ヘンだからぁ!やだ!」  翔は反応してないのに、セナの細い指に、顔を真っ赤にして震えた。  (知らないこの感覚…っ、おかしくなりそう!)  必死にセナの名前を呼んで、絶頂への大きな波を耐えながらしがみつく。味わったことのない、じわじわと上がってくる波に、どうすることも出来ずに、ひたすらセナの名前を呼んで頭を振る。  (なにこれ…っ、こわいっ…)  「翔…?…イきそう?」 「ーーっ!!っぁ、っっ!」  「はぁ…可愛い…翔、大好き。やっと、僕のもの」  「っ!!っ!っあぁ!ーーっ!ぁっ!」  「僕しか見えないように、してあげるね」  「ーーっ!ッ!っぁあああーーーッ!!」  ガクンガクンと異常なほど腰が跳ねて、ズルリと指を外に出した。余韻で震える身体を落ちつかせるために、必死に呼吸して目を閉じる。もちろん、精液は出ないままの絶頂。  (どうしよう…気持ちよかった…)  久しぶりの快感が、思った以上に気持ち良くてぼんやりと天井を見た。ちゃんと待ってくれるセナにほっとして自分から抱きついた。  「翔、落ち着いた?中だけでイったの…嬉しい。」  「言わないでよ。なんか恥ずかしいじゃんか」  セナが幸せそうに笑う。  綺麗な笑顔にドキッとして目を逸らす。心臓がうるさくて恥ずかしくて、反対側を向いた。  (なんか…恥ずかしい…)  「翔、こっち見て。」  「やだよ…なんか、変なんだもん」  「可愛い顔見せて。僕の翔なんだから、ほら」  くるりと元に戻されると、幸せいっぱいのセナの笑顔に胸がキュンと締め付けられて苦しい。言い表せない感情が初めてで、また薄い胸に顔を埋めた。  「翔〜、まぁた隠れた。」  甘さを含む声を聞くのも初めてでどうしたらいいか分からないまま、顔が熱くなるのが分かる。  (分かんないよ、どうしたらいいの!?)  愛されて抱かれるのが初めての翔は、こんなに愛を伝えられたのに対応ができなかった。今までは、身体だけの関係がほとんどで、スポーツみたいなストレス発散のセックスだけだった。  (愛されるって、こういうこと?)  恐る恐る顔を上げると、やっぱり愛おしそうに見つめるセナと目が合った。今度は逸らすことが出来なかった。その目の奥に、翔への欲情が見えたのだ。  (俺を…欲しがってくれてる。)  愛されたいと願い続けた翔は、その願いが突然叶って涙が溢れた。いつもなら慌てるセナは、優しく笑って涙を拭いてくれた。  「情緒不安定だね、大丈夫?」  「ちがっ…おれ、愛されたくて…っ」  「うん」  「ずっと、愛されたかった…っ、でも、愛してもらえなかったから…」  「そっか、僕が初めてかな?」  「嬉しくて…っ、幸せで、どうしたら、いいか、分からないっーーんっふぅっっふっ」  泣きながら話していると、噛み付くようなキスをされて、気持ち良くて涙が止まった。熱を高めていくキスに止まらずに、翔はセナの熱を握って動かした。  「ぁっ…翔っ…」  セクシーな声に目を開けると、恐ろしくエロいセナが気持ち良さそうに潤んだ目でこちらを見た。  (エロッ!!!抱かれる方だったのが分かる気がする!)  もっと顔が見たくて強く、激しく動かすと、眉を下げて声が漏れる。腰もビクビクと跳ねてセナは歯を食いしばっている。今は抱く方になりたいから頑張っているのが分かって、小さな抵抗が可愛かった。 「なに…っ、笑って、んの?」  「ん?可愛いなぁって」  「翔の、っ、っ、方が、っ、可愛い、し」  「抱かれる方が好きじゃないの?いいの?」  「っっ!っ、っぁ、ぁあっ!」  余裕がなくなってきたのか、目を閉じて集中し始めた。翔のお腹にトロリと垂れる熱が嬉しくて、ぎゅっと力をいれて握り込む。  「ぁあっ!!!」  ピュッピュッと出された熱に、翔は何とも言えないほど幸せに感じた。 (イってくれた…嬉しい)  やっぱり笑ってたのか、セナが悔しそうに自分の飛ばした熱をタオルで拭いていた。 「セナさん…」  「えっと、質問のやつ。僕が抱く。」  「いいの?」  「透と会うまでは普通に抱いてたし。」  「そうなの?セナさん抱かれたら超エロそう。」  「翔は抱きたいの!変な想像しないで。」  珍しく怒り始めて意地になってるのも可愛いくて笑う。 「透さんは上手かったの?みんな虜になっちゃって」  「…まぁ…ね。はい、この話はおしまい!」  「えー!知りたい!」  「…はぁもう。セックスは上手かったよ。ただ、透は不安定だったんだ。愛されたいけど人を愛するのが怖い、そんな人。みんなに好きだと言ってもらいたくていつも不安を抱えてた。急に落ちる時があるから心配で、お前しかいないって言われたらその気になるじゃん?そんな感じ。助けなきゃって。」  「へぇー…不安定に見えなかった。自信満々なのかと…」  「全然。1番じゃなきゃ気が済まない性格だから、1番じゃない現実に何度も潰れそうになってた。だから、僕やメンバーの中では1番だと思われたかったんだと思う。」  苦笑いしてセナは翔を見た。  「全員苦しかった。でも、バランスは取れていた。壊したのは僕だから一生背負っていくよ」  「セナさん…」  「透を1人にしたのも僕。自分が進みたくて振り払ったけど、罪悪感しかなかった。でも、ほっとしてるよ」  「何に?」  「透が、1人の人を愛したから。叶わなかったけど、それでも嬉しかった。」  「長谷川さんに?」  「そうそう。好きな人のために、っていう感情が生まれて、努力したのを見れたから。それで愛希が爆発しちゃったけど…。透はもう大丈夫、1人でも歩いていける」  ニコリと笑ってセナは翔の手を取った。  「僕は、翔と歩いていくから。」  「なんか、くすぐったい」  「あはは!…ジンさんに負けないようにするから」  「あ…ジンさんは、そんなんじゃなくて…」  「そんなんじゃないのに、1番辛い時に呼ぶの?…悔しかったなぁ、ジンさんからの連絡。翔の家に着いたら翔は寝てるし、カナタさんは号泣してるし…カオスだったよ」  「え?カナタさんが?」  「そうそう。ジンさんは翔のそばにいてあげて、俺は1人でもいいからって。ジンさん曰く強がりらしい。僕が来たらすぐに帰って行ったよ」  自分より他人を優先するカナタらしい発言と、それを体は拒否して号泣という形になった先輩に心が痛んだ。  (また傷つけてしまった…)  翔には気遣う余裕がないほど限界だった自分を責めて謝らなきゃとケータイを取り出した。  「待って。向こうも愛を確かめ合ってるはずだから、邪魔しちゃダメ」  「あ、そっか。」  「ジンさんの包容力…身に付けたいなぁ」  「セナさんもあるよ。落ち着いたもん」  不安そうなセナにニコリと笑うと、真っ白な肌が真っ赤に変わった。 「セナさん?」  「ヤバイな…耐えられるかな…」  「え?何に?」  「翔の可愛さ」  ベッドに押し倒されてジッと見つめられると、だんだん翔も顔が熱くなった。  「良かった。翔も僕を意識してくれてる」  「そりゃそうだよ。…初めての彼氏だもん」  「え?そうなの?」  「セフレしかいなかったもん…失恋しかしてない」  「そっか…。ごめん、無理!嬉しいっ!」  「あっははは!重いーっ!」  翔が夢にまで見たイチャイチャを味わって、2人は笑ってキスをした。 「翔…いい?」  「うん。…セナさん、キテ」  セナの瞳は分かりやすいな、と翔は欲情に変わった目を見て思った。 「っ!ーー!っぁ、っぁ!」  「声…っ、出してっ…」  「っ、っーーっ!ぁ!!」  「ここ?」  体温の低そうなセナからは信じられない熱が翔の中を侵す。想像以上の熱さに持っていかれないように歯を食いしばる。そんな努力も虚しく、セナは見つけてしまった。  (ソコはダメなところっ!!)  ググッ  「ッァアァアーーーッ!!」  「くぅっ…ぁっ…ぁっ…」  「イヤァ!ダメぇ!!ァアァ!!」  「は…かわい…声…やばい…っ」  「やだぁぁああ!セナさんっ!セナさん!ッァアァア!!」  必死にしがみついて腰を引く。涙がポロポロ溢れるのを唇で吸い取られて、腰を押し込まれる。  ビクビクビク!!!  「ッァアァアーーーーッ!!」  「ぁぁっ!!」  しばらく余韻で目を閉じて、目を開くとグレーの瞳が幸せいっぱいで思わず笑った。  翔:カナタさん、昨日は申し訳ありませんでした。また傷つけてしまいました。もう、ジンさんは呼びません。約束します。お2人の優しさに感謝しています。  気持ち良さそうに寝ているセナの隣でカナタにメッセージを送った。 うとうとしているとケータイが震えた。  カナタ:見苦しいところ見せてごめん。翔のことも支えたいし、ジンさんを取られたくなかったし、ぐちゃぐちゃになっちゃった。ジンさんはあげられないけど、翔の幸せを祈っています。  翔:先ほど、幸せになれました。ご心配をおかけしました。  カナタ:え!?セナ!?わぁ!!おめでとう! カナタの声が聞こえてきそうなメッセージに思わず笑う。  翔:はい。メンバーだから、と線を引いてましたけど、その線を越えてきてくれました。  カナタ:よかった!おめでとう!  もう一度お礼と謝罪をして、ケータイを置いてセナの隣に寄り添った。  (幸せってこれ…?最高すぎる。)  最近の辛さや疲れや不安も全部無くなって幸せしかない感情に久しぶりに熟睡した。  ピリリリリ ピリリリリ  ピンポンピンポンピンポン  「翔…起きて、お客さんかな?」  セナに起こされて下着と下だけ着てモニターを見ると、血の気がひいた。  「やっっば!!!今何時!?」  「6時38分」  「起こしてよ!セナさん!今日7時入り!」  施錠を解除して慌てて風呂に行く。  「翔、誰か来るの?」  「長谷川さん!!」  「えぇ!?やっば!!ど、どうしよ!」  2人でバタバタしているとドアが開いた。  「っ!」  「あ、長谷川さん、お、おはようございます。」  「……翔は?」  「今、お風呂に…」  長谷川はクマが凄くて、そうか、と呟いた後ソファーに倒れ込んだ。  「長谷川さん?」  セナはそっと揺さぶるが、応答がない。  「長谷川さん!!長谷川さん!!!」  「セナさんどうしたの?」  風呂上りにセナに聞くとソファーに倒れ込んで動かないと言われ慌てた。  (「愁に何かあったら教えてね!」)  相川の言葉を思い出して事務所に電話をすると、篠原が出た。  『翔、どうしました?』  「相川さんいますか!?」 『あ、代わります。相川さん、Altairの翔からです?』 『翔!どうした!?』  「長谷川さんが倒れ込んだまま動きません!熱があるのかも!」  『翔、入り時間は何時だ?』  「7時です。」  『間に合わねぇな。タクシーで行けるか?』  セナが隣で、僕が送るよと言ってくれて助かった。  『愁は後で回収する。お前はもう現場に迎え』  はいと、答えて長谷川の様子を見る。  (もう長谷川さんは限界だ…)  涙を堪えてマンションのコンシェルジュに伝えてそのまま現場に向かった。  「翔、大丈夫。僕らで長谷川さんを支えよう」  「そうだね」  「いつも支えてくれたから…僕たちが恩返ししなきゃ」  「うん!頑張る!」  この日の仕事はいつも以上に気合い十分で臨んだ。

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