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第103話 無自覚な恋人
(この恋人いつも自分を後回しにする。)
過呼吸になりそうなほど号泣している恋人の正面に座り、頬杖をついてため息を吐く。
今回もまた、カナタが行ってほしいのかと思ったら思わぬ嫉妬に嬉しくなった。やっと、嫉妬してくれたんだと喜んだはいいものの、断るのは忍びないと、嫌がるカナタを無理矢理連れて行った。
(何もない、と伝えたかっただけなんだけど…逆に傷つけちゃったかな…)
行き場がなくなって追い込まれた翔は、縋るようにジンを求めた。カナタなんか目に入っていないほど求められて、躱していたが、それさえもカナタには見たくなかったようだ。
「カナタ、もう落ち着いて」
「ぅぅっ、ぅーっ、ぅ」
こんなに泣くのを久しぶりに見て、それでも可愛いなぁと思うのはなぜだろうと微笑む。普段は明るくて世話焼きで他人優先のカナタが、処理できない感情に溺れていた。
見かねたジンはそっと抱きしめて、背中をゆっくり摩った。
「ジン…っさん、」
「んー?」
「…ぅっ、ぅー…っ、」
「ゆっくりでいいよ」
「自分がっ、許せなくて…っ、つらいっ」
「えぇ?」
思わぬ言葉に頭をに沢山の疑問符が浮かぶ。
(また変なところ行ったかな?)
カナタの思考回路はジンでも分からない。どこまでもお人好しで、傷ついたのも気付かない時があるのだ。
「後輩がっ、苦しくて、っ、悲しそうっ、なのに、助けて、あげられなくてっ、」
「うん」
「ジンさんも、っ、渡したくなくてっ」
「うん」
「見せつけに行ったみたいでっ、恥ずかしくてっ、翔の方が、辛いのにっ、俺が、泣いちゃって…っ、助けてあげられないまま、っ、帰ってきて…っ、俺っ」
「うん」
「何で…っ、ジンさん渡してあげられなかったんだろって…っ、俺が、我慢すればっ」
(やっぱりなぁ…変なところに思考がいったね」
ジンは抱きしめた体を離して、正面に座り直した。
「ジンさん…?」
まだ抱きしめてほしかったのか、涙をそのままにこちらを見るカナタに笑う。
「カナタ、僕にも僕の考えがあるの、分かる?」
「そんなことっ!」
「うん。僕、翔を抱きたいなんて言った?」
「…言ってない」
「翔に伝えたのが、僕の意思。」
「……」
「カナタは僕の意思を考えるところにはまだ来てくれないよ。カナタにとって、僕はカナタの一部だからなのは分かるよ。でも、僕がどうしたいのかを少しでもいいから考えてほしいな」
カナタはハッとしたように聞いて、ごめんなさいと頭を下げた。
「僕がカナタを連れて行ったのは、翔くんに、僕にはカナタがいるから、翔くんを抱くつもりはないと分かって欲しかったから。」
「そっか…」
「そして、カナタに、僕が甘えられたら誰でも抱くと思って欲しくないから。こんな慰め方は何も解決しないから。それを見せたかった」
「うん、ごめんなさい」
テーブルの上で手を握ると、カナタは癖のようにジンの指に絡めた。
「カナタの独占欲や嫉妬は、普通の感情だよ。これが悪いことじゃない。愛するが故だから、罪と思わないでほしいんだ。」
「うん、分かった」
いつものように指で遊び始めたカナタにクスクス笑うと、きょとんと見上げてきた。
「何?」
「いや?落ち着いてよかった。」
「ぅ…辛かったぁ…」
「もう…カナタ、今まで恋したことないの?」
「んー?よく分からなかったから。付き合ってと言われれば付き合ったし、別れようと言われれば別れてた」
ジンは苦笑いして、指で遊ぶカナタを見つめた。
(カナタの方がシュウトより変だな…。だから惹かれたのかもしれない)
純朴で、ありのままを受け入れる。愛されていることに気付かず、人に無償の愛を捧げるカナタ。その優しいところと、飾らないところが居心地がいい。
「好きだなぁ…」
思わず出た言葉に、カナタは指から目線をジンに合わせた後、ボンッと真っ赤になった。
「な、何?急に…」
「カナタ、大好きだよ」
恥ずかしそうに目を逸らして、手を握られる。
「俺も、大好き。ジンさんをとられたくないよ」
ジンは自分が真顔になるのが分かった。その手をそのままに寝室へ連れこんだ。
「わぁ!?ジンさんっ?んっ!!」
「どこまで無自覚なの?」
「へ?ぅあっ!待って、まだお風呂っ」
「そんなのいいから」
「ふぅ…んぅっ、ぁっ、ぁあっ」
無理矢理脱がして、反応してないものを口に含んで転がすと、たまらないという顔で腰が浮く。純粋なこの人の気持ちよさそうな姿を誰が想像するだろう。誰にでもお母さんのように優しく包み込むカナタが、ただの1人の人間になる瞬間。
「ァアァア!!っあ!気持ちぃっ!ジンさん!ジンさんっ!」
今のカナタの頭の中には、自分しかいないと優越感でゾクゾクして熱いため息を吐いた。気持ち良すぎて泣いてしまうカナタに、もっともっと快感を送りたくて、指でじっくりと慣らす。
(いつも最初は痛そうだもんね)
凶器と言われる自分の熱がスムーズに入るように入念に中を広げていく。
ビクビク!!
「ッぁああー!!」
突然、中がギュッと締まり、カナタは欲を吐き出した。顔を腕で隠して必死に呼吸をしている。
「カナタ…大丈夫?」
腕の間から見えた表情はとんでもなく色気を放ち、ジンは指を抜いて衝動のままねじ込んだ。
「ぃやぁあああ!ーーっ!ーーーっ!」
一瞬トんだカナタの頬を叩いて起こし、更に腰を入れると、激しく首を振り、顔を真っ赤にし、泣きながらヤメてと叫んだ。
ゾクゾクッ
(はぁ…たまんない…可愛すぎる)
「やぁああああ!!やめ、っ、だめぇ!」
カナタの足が空を蹴って、されるがまま揺さぶられるが、必死についてこようとする姿は健気で愛おしくなる。
「ゆっくりっ、してぇ!ジンさん!っぁああ!まってぇ!!」
カナタが大声で叫んだところで、カナタは二度目の絶頂を迎えたあと、ガクガク震えながら力なく呼んだ。
「ーーっ、ジンっ、さんーー、も、おかしくなりそぉっ、気持ちいいの、止まらない」
まだ余韻があるのか、少し触るだけでも嫌がって眉を下げた。
「ヘンだよ、ジンさん、もう、また、イきそうだから…」
「ごめん、カナタ。ごめんね」
「え?」
「大事にしたいんだ…けど、ごめん。」
「ジンさん…?嫌いになった…?」
「逆。好きすぎて…もう我慢できない」
グッと腰を持ち上げると、カナタは目を見開いて明らかに怯えた。
「やだっ、やだよ」
「ごめんって。」
「怖いから、やだぁっ、やだ!!」
ものすごく怖がっているのも分かるが、この衝動は凶暴はものだ。
「ごめん、本当にごめん」
「お願い、優しくしてよっ!」
「愛してる。」
「っぅあ!?っっぁあああー!!!」
思いのまま腰を振って、久しぶりに理性が飛んだ。泣き喚いてもドンドン快感があがっていき、たまらなくて強く奥を攻める。
「ァアァア!!ァアーーっ!!」
(はっ…あれ?)
ジンが我にかえると、カナタは失神して、その体には大量の白濁。ゆっくりとカナタから出ると、こちらも同じく大量の白濁が溢れてきた。タオルをお湯で温めて、カナタの身体を拭いていると、ゆっくりと目を覚ました。
「カナタ、無理させたね…わっ!」
「ジンさん」
ギュッと抱きついてきたカナタに驚いて受け止めた。その顔は真っ赤で、こちらが恥ずかしくなるほど初々しい反応だった。
「カナタ?」
「嬉しかった」
「え?」
「あんなに欲しがってくれてるなんて…。俺、嬉しすぎて…恥ずかしい」
幸せそうに笑ってくれて、嬉しくて顔中にキスをした。
眠そうなカナタに布団をかけて風呂に行き、戻ってくるとまだ起きていた。
「カナタ、寝ないの?」
「見て!翔、幸せになったって!」
「え?本当!良かった!あの2人ももどかしかったなぁ」
嬉しそうに見せてきたカナタの頭を撫でてキスをする。気持ちよさそうに受け止めてくれて、カナタのケータイをベッドサイドに置いた。
ーーーー
「おはようございます…あれ、岡田さんは?」
「Altairの代行です。今日からは俺がブルーウェーブサポートに入ります。」
久しぶりの伊藤に、嬉しくなるも、首を傾げる。デスクはバタバタとしていた。
「愁くんがまた倒れたから…。しばらくは翔太がAltairとブルーウェーブ。俺がRINGとブルーウェーブでやっていきます。」
「長谷川さん…大丈夫ですか?」
「大丈夫ではない…ですね。リクは来週からロスだからみんなで見ていきますね。」
事務所から移動しようとした時、リクの大きな声が聞こえた。
「社長!愁に休みをくれるって約束してください!!もうあいつは限界です!翔太が無理なら俺が動きます!」
「休みは検討する。リクはロスの引率だ。」
「でも!…そう、篠原!篠原がロスに…」
「ダメだ!それは許可しない!78はリクしか対応できない」
「言葉が分かれば誰でも大丈夫です!社長!!お願いします!!」
必死に頭を下げるも、社長の意見は変わらなかった。心配で仕方なさそうなリクは悔しそうにしながらも、お騒がせしました、と引き下がった。
「ジンさん、バランスって些細なことで崩れます。気を引き締めていきましょう」
「はい!宜しくお願いします!」
ジンは気合を入れて現場に向かった。
ーーーー
「愁…。頼むから…もう休んでくれよ」
高熱で汗をかく愁のおでこをタオルで拭いて、手を握る。
「俺を追って、慣れない仕事…。お前必死だったんだな?器用すぎて…分かんなかったよ…。もっと頼れよ…なぁ…?お前がいないと…怖いよ…、愁…早く目を覚まして…」
リクは自分が予想以上に不安定になっていることに驚いていた。待ちに待った世界大会でさえもどうでもいいと思うほどに、心配で押しつぶされそうだった。
「愁…。愁…起きろよぉ…もう夜だぞ?寝起き悪いにも程があるだろ…愁…」
リクはそのまま病室で目を閉じた。
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