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第113話 安らぐ場所
グッタリした優一を預かって、そっとベッドに寝かせる。久しぶりにここまで疲れ切ったのを見た。伊藤が言うにはバラエティーを頑張っていたこと、そしてヤスに会ったことが多少なりストレスになったようだ。
「優一、よく頑張ったな」
愛しくて抱きしめると、くんくんと匂いを嗅いだ後、そっと目を開いた。
「ん…?タカさん…。あれ、お家だ…」
寝ぼけた顔でぼんやりと周りを見回し、タカの胸に顔を埋めた。
「疲れた…」
「よく頑張ったな。」
「……。」
久しぶりに神経を使ったのだろう。黙ってしまった優一が心配になる。顔を見ようとすると、すやすやと眠っていて、ふふっと笑いが漏れた。しっかり服を握ってくる手をそっと外して布団をかけた。
「おやすみ、優一」
頬にキスして作業部屋に戻った。
今作っているのは、Altairの新曲。
サナと楓が別れたのは報道で知ったが、サナの気持ちが詰まったいい曲だった。ダンスナンバーへの編曲希望が、楓との一緒だったことが残ると考えた。そこから78の曲を初めから聴き、また、Altairの楽曲も全て聞いた。
(78にしてはダメだ。Altairらしくて…。)
翔が目立つ構成がほとんどだったが、歌唱力のあるメンバーを発見した。
(ヒカルは上手いな。なんでパートが少ないんだ?)
声量を翔に合わせているような気がした。そして、晴天の声は耳に残るから使いたいとも思った。セナは音があまり取れないだが、リズム感はとても良いからラップを任せようと考えた。陽介はもう少し練習すれば、レイや誠くらいにあげられそうだと、歌詞割りまで細かく指定した。
(こいつらボイトレ入ってんのか?)
Altairの曲は最近のものになればなるほど、違和感を感じた。78とはまるで違い、だんだんつまらなくなってくる。
(ロングヒットがない理由かもな…)
「また聞きたい」とは思えず、一回で満足してしまうのだ。ユニゾンパートが多いのも気になった。
タカ:翔太さん、明日の俺の空き時間にAltair全員集められない?
翔太:長谷川さんに確認します。
今の実力を知らなきゃ完成はできないと踏んで、タカはヘッドホンを外した。作業部屋を出ると優一のことが気になり、寝室にいくと真っ暗な部屋でケータイの灯りに照らされていた。
「起きた?」
「うん。」
優一はケータイでヤスのミュージックビデオを見ていた。スッと流れた涙が儚くて、ベッドに横になって優一を抱きしめた。
「やっぱり、いい曲。大好きな曲なんだ。」
「だよな」
「ヤスさん、俺と一緒なの」
「え?」
「やっとの思いで、毎日外に出てるんだって。…この間のこと、謝りに来てたの、楽屋に。」
「へぇ」
「仲良くなれるかもって、思ったけど、マネージャーさんは、お互い刺激になってしまうから…って断られちゃった」
悲しそうな顔をしているのかと思った優一は、苦笑いしていた。
「大丈夫だって思ったのに、今は、確かにそうかもって思うんだ。…まだまだ万全じゃないのが、今日分かって…。これで大河さん達とヤスさんのとこ行ってたら、もっと疲れてたかも」
「うん。ゆっくりでいいんじゃないか?ヤスさんもきっとお前のこと気になってるはずだ。お友達になれるさ。」
そう言うと嬉しそうに笑って胸に顔を埋めてくる。仕草一つ一つがいつでもキュンとして強く抱きしめる。
「何でこんな可愛いの、お前」
「可愛くないし。こんな…病気のやつ」
「こーら。何でそんなこと言うの」
「だって俺…普通じゃない。みんな頑張ってるのに、俺だけ疲れたみたいに」
「人それぞれペースがあるだろ。お前が俺の立場なら同じこと言うと思うよ。」
「迷惑なんじゃないかって…思うんだ」
相当疲れたのか、調子がかなり悪い。それでも愛しくてたまらなくて、顔中にキスをすると、くすぐったいと笑い始めた。
「優一、そばにいてくれてありがとう」
「タカさん…」
「優一の存在が、誰かに幸せとか、生きる希望とかを持ってもらうことに繋がってるんだよ。」
「……。」
「少なくとも俺は、優一がいるから生きてる」
「……。」
「お前がいないと、意味ないから。重いと思うけど、分かっといて。」
「…嬉しい。ありがとう。俺も、タカさんのために生きるね。」
ゆっくりキスをして、頭を撫でる。シたがる優一を宥めて、キスで寝かせた。
(疲れが溜まってたのかな…。無理させられねぇな。)
タカは優一の寝顔を見ながら気を引き締めた。
ーーーー
「ダメだダメだ!なんだこのザマは!」
タカはイライラしてペンをテーブルに落とした。頭を抱えて下を向くと、黙りこくったAltairメンバーと長谷川、ボイトレ講師、そして翔太が息を飲んだのが分かった。サビの歌詞を指で叩く。
(せめてここだけでも…)
まずは歌わせてみようと、軽い気持ちで向かったことを反省した。なぜ売れていたのか考えさせられ、音源は相当調整していたことに頭を抱えていた。サビさえよければ、と妥協するしかないと判断して、翔に檄をとばす。
「翔!お前こんなもんか?!もっと腹から声出せるだろ!」
「…すみません、もう一度お願いします!」
他のメンバーがビビる中、翔だけは目をしっかりと見てすぐに歌い出した。心意気だけは伝わって少し落ち着く。
「…いいぞ、翔。座って。……これから音域チェックをする。いいか、1人でも妥協したり手を抜いたりしたら俺はこの曲から外れる」
「「っ!!」」
「お前らの本気を見せてくれ」
翔は自分から、と立候補するのを止めて、タカはヒカルを指名した。長谷川も、ヒカルも驚いたようだった。
「ヒカル、誰にも合わせなくていい。お前の歌い方と音域を知りたい。」
「は、はいっ!よろしくお願いしますっ!」
音域は高い声の方が伸びた。そして、デビュー曲を歌わせてみると、やはり遠慮が見えた。タカがピアノを強めに弾くとだんだん声量が上がっていく。メンバー全員と、長谷川も唖然とそれを見ていた。
(うん、ヒカルは大丈夫だな。今まで抑えていた分伸び伸びしてる。)
汗だくになるほどの渾身の歌に、翔は目を輝かせてヒカルに抱きついた。
「ヒカルさんっ!すごいよ!カッコイイ!」
「いやいや…恥ずかしいよ、こんなバテバテで…」
長谷川も拍手をして喜んでいる。少し元気を取り戻した長谷川にタカも翔太もほっとした。
「ヒカル…こんなに歌えたんだ…」
「知らなかった…」
「すごい…圧倒的な声量じゃん」
セナや晴天、陽介も驚きを隠せないでいた。
「勿体ねーよ。めちゃくちゃ歌えるやつを使わないと。ヒカル、みんなに合わせてたろ。」
「いや…そんなことは…」
「お前は絶対音感もあるはずだ。今までよく我慢できたな。ただ、言わないのはお前の責任だからな。」
「はい。すみません。」
タカはこの歌唱力を聞いて、長谷川に提案した。
「長谷川さん、リードボーカルをヒカルにしない?翔はメインボーカル。2人が主に引っ張っていく。翔、どうだ?」
「嬉しいです!」
翔は嬉しそうにヒカルの手を取った。笑顔の翔を見て、困ったようにヒカルはメンバーを見た。
「僕なんかが目立っていいのかな…」
「はぁ?!ヒカルさん!当たり前だろ!」
「僕は愛希とセットだったから…正直2人で1つのような気がしてたんだ…。1人でやることにも不安なのに…」
「1人で?違う!今は5人だろ?ヒカルさんはずっと、ヒカルさんだよ!」
翔は怒ったように言ったあと、ニカっと笑った。
「長谷川さんは?」
「あぁ。ヒカル、リードボーカルやってくれないか?」
「長谷川さんが言うなら…やってみます」
ふわりと笑う長谷川に安心して、ヒカルはうん、と頷いた。
「次は、晴天。いいか?お前らしくていい。邪魔してもいいから気持ちよく歌ってみて」
「はい!やってみます!」
晴天は顔をパチンと叩いて気合を入れたあと、ニカっと笑った。
(まずは基本。楽しむことから)
タカも笑顔で、軽くなるように晴天に合わせて弾いた。音楽的なセンスを感じて、面白いなと思った。
「晴天、お前の歌い方、個人的に好きなんだよね。次の曲のここは…今みたいに…」
イメージ通りの晴天に、新曲の課題だけ与えた。やる気が出たのか、歌詞カードをみながら口ずさんでいた。
「次は陽介〜。」
「う…緊張する…」
緊張しまくった陽介をみると、誠みたいで少し面白かった。
「はい、お疲れ。緊張しすぎ。声はいいんだから自信持て。ヒカル、毎日音チェックしてあげて。陽介は下のハモリとAメロで使うから」
「分かりました!陽介さん頑張ろうね!」
「よろしくなーヒカルー!お前に一生ついていくよー」
縋るようにヒカルに抱きつく大男に、全員が笑った。
「最後、セナ。」
「はい!よろしくお願いします!」
セナが立つと、翔はなんだかソワソワしていた。タカはその理由を知っている。
「はーい。お疲れ。セナ、まず、音を聞こうか。」
「え?あ、はい…」
「分かってないだろ。お前この音なのに、この音の声出すのよ、分かる?」
「え?!」
「セナもヒカルと音チェックね。リズム感はいいから、ラップやってみないか?」
「僕がラップですか…?」
「英語の発音も綺麗だし、どう?」
「やります!」
「よし!じゃあ、ハモリから外すな?ハモリは基本、陽介とヒカルで再構成する。」
メモをとって長谷川に渡すと、翔が慌てたように自分の音域チェックをお願いしてきた。
「翔、お前はリラックスするだけだ。メンバーがついて来たら落ち着いて向き合えるはずだ。今はまだグループのことで頭がいっぱいだろうけど、安心して自分のパートと向き合えたら…大河だって越せる」
「へっ?」
「だから、大河になろうとしなくていい。お前はお前だ。」
以前長谷川から聞いた「大河と比べられる」という言葉をタカは覚えていた。名前を出した瞬間に動揺したかと思えば
「翔…」
「おいおい泣くなよー。おいメンバー達。分かったか?翔が背負ってるものの大きさが。俺が関わった以上、妥協は許さない。ついて来れないメンバーはパートを減らしていく。いいな?」
「「「はい!」」」
長谷川が翔の頭を撫でると、長谷川にしがみついていた。翔の涙に全員が奮い立った。
Altairを見送って片付けをしていると、長谷川が戻ってきて頭を下げた。
「タカ、ありがとう。音楽的なことは僕は全く分からない。具体的なアドバイスと、先輩からの指導は強く響いたみたいだ。あと、翔のこともありがとう。」
「長谷川さんっ、いつでも頼ってください。だから…」
「うわっ」
「肩の力抜いていきましょう?ほら、翔太さんみたいに!」
「はぁ!?俺肩の力ガッチガチだけど!?」
「いつも飄々としてるじゃないっすか」
「ふざけんな!問題ばかり起こしやがって」
「それはシュウトとカナタさんでしょ?」
「ブルーウェーブ連帯責任だ!」
ギャーギャー騒ぐと、長谷川はクスクス笑ってくれた。
「本当にありがとう、2人とも。少し…安心したよ」
そう言ってドカっと座って机に伏せた。
「「長谷川さん?」」
「んー?」
「体調悪いですか?」
翔太が慌てて長谷川に駆け寄る。タカも心配になり翔太の後ろから覗き込んだ。
「いや、大丈夫」
「なら…いいですけど…無理しないで下さいよ?」
「翔太…。Altairが動き出したらさ…透も愛希も喜んでくれるかな?」
長谷川は机に頬をつけたまま、翔太を見て不安そうに尋ねてきた。
「「っ!!?」」
「そんな訳ないか…。でも、届くといいなぁってさ…」
「「…っ」」
ふわりと笑う長谷川に、2人して顔を真っ赤にして見惚れていた。
(待って待って!長谷川さんやっば!何この色気と可愛いさ!)
(あれ、どっちが抱いてる方だっけ??)
「サナちゃんの曲、いい曲だよね…。リクは楓のことを考えて泣いてた。絶対上を目指そうなってさ。みんながAltairに関わってくれて…どこまで助けられてるんだろう、僕たちは。…翔太もありがとう。」
「っ!そ、そんな、長谷川さん…なんか…調子狂いますっ」
「ははっ!確かに、いつも怒ってばっかりだからなー。だってお前弄りがいがあるからさ…ごめんな」
「いえっ!」
長谷川はアタフタしている翔太に気付かないまま、起き上がってタカを見た。
「タカ、忙しい中、本当にありがとう!」
「っ!いえ!」
綺麗な笑顔にドキッとして目を逸らした。
ガチャ
「愁〜〜!帰ろうー!…って何この空気。」
「「いやいや!何でもないです!」」
「リク、お疲れ。帰ろうか。2人ともありがとうね、お疲れ様」
帰って行った2人を棒立ちで見送って、タカと翔太はドカっと腰掛けた。
「「やっばーー!!可愛いすぎ!!」」
「翔太さん、長谷川さんの可愛さ知らなかったんですか?」
「知らねーよ!いつも俺には殴る蹴るの暴行と、無視されたり、怒鳴り散らされたり、悪戯されたり、淡々と詰められたりとかしかねーし!」
「ヤバかった!ギャップにキュンとくる!なにあの弱々しい笑顔。顔は綺麗だなぁとは思ってたけど!」
「いやー、やばいな、今の長谷川さんなら抱けるわ」
2人はドキドキしながら帰宅した。
「優一、ただいま」
静かな部屋に、仕事中かと寝室に行った。落ちた布団を見て、慌てて出て行ったのが想像できてクスクスと笑った。布団をベッドに上げた時に香る優一の匂いに、腰がゾクンと震えた。
(は…?ウソだろ…)
熱を持ち始めたものに唖然とする。本人の面影を探してベッドに座った。
(…やっば…。思春期じゃあるまいし)
ベルトを外して、ゆっくりと脱ぐ。固さをもつ熱に手を触れると、目を閉じて息を吐いた。
(優一…、優一)
声を殺して必死に慰める。その頭の中には優一でいっぱいになった。
(もうイきそ…っ)
ティッシュを取ろうと目を開くと、ドアノブを持ったまま、パチクリと固まる本物の優一。
「あ…、お、おかえり」
「…っ!た!ただいま!…ごご、ごめんなさいっっ!」
声をかけるとハッとして一瞬で顔が真っ赤になって逃げた優一を追いかけ、廊下で捕まえた。
「逃げんなよ…」
「だっ、だって…、」
後ろから押さえつけて行手を阻んだ。
「なぁ…?慰めてくんねぇの?」
「へ?!」
「熱いよ優一…。気持ちよくして」
「…ん。分かった」
振り返った優一にも欲情が見えた。声で落ちてくれたことに内心大喜びして、何でもないように優一の頭を熱に近づけた。
「んぅっ、んっ、んくっ…っちゅるっ、ん」
「はぁっ…ん…ン…」
先ほどイく直前だったこともあり、苦しいくらいの快感に襲われる。気持ち良さそうに頬張ってくれる優一の髪を撫でて、目を閉じて快感を追う。
「っ、んっ、ぢゅるるるっ」
「ぅぅっぁあああ!!」
優一の舌技に抵抗もできずに、思いっきり吐き出した。
(やっばい…気持ち良すぎ…っ)
優一の髪を握りしめて、吐き出しながら天を仰ぐ。
「んっ。…はぁ、タカさん、だいじょーぶ?」
「ん…気持ちよかった」
「…なら、よかった」
「こーら、どこ行くの?」
「も、もう慰めたから…いいでしょ?」
「なに照れてんの?おいで」
目も合わせず、顔を真っ赤にしたままな優一を捕まえる。
「優一」
「やだ…なんか、恥ずかしいっ。もしかして…俺で…抜いてくれてたの…?」
「当たり前だろ」
「〜〜〜っ!」
「優一?」
「どうしよ…嬉しい」
抱きついてきた優一を受け止めて、そのまま深いキスをして、裸で重なり合う。廊下で背中が痛いだろうと、優一を上に乗せるとさらに真っ赤になった。
「タカさん…っ、恥ずかしくて…無理だよ」
「無理じゃないだろ。はい、腰浮かせて。…そ、いい?力抜いて…」
「っぁああっ!!」
「力抜いてって…くっ…っ、っ」
「ダメダメ入っちゃう!入っちゃう!」
「入れてんだよ。…はぁっ…っ」
優一がビクビクと跳ねたあと、力が抜けて一気に奥まで貫いた。
「ーーーーっ!!!」
タカの顔までかかって、ぺろりと舐める。
「絶景…」
「やだ…もう…っ、恥ずかしい…っ」
顔を手のひらで覆って照れている優一の腰を掴んで大きくグラインドすると、大きな嬌声とともに乱れはじめた。
「優一っ、優一っ!」
「っああ!っぁあああ!!!」
「くぅっ…締めすぎっ…はぁっ…」
「ぁっ!っぁあああ!」
髪をサラサラと揺らして、涙目になっていく。優一の熱も一緒に揺れるのに倒れそうなほど欲情する。その熱を強く掴んで扱き上げる。
「ッッツ!?ッぁあああー!ああっ!!」
ぎゅっと締まったかと思ったら薄い液が飛び出して、優一の身体が跳ねる。倒れ込んできた優一を抱きしめてラストスパートをかけた。耳元で聞く嬌声にタカも追い込まれ、思いっきり吐き出した。
「ふふっ、タカさんの1人エッチ見ちゃった」
「優一の匂い嗅いだらやばかった…」
「あははっ、やだー、ヘンタイ」
「誰のせいだっ!」
「あはははっ!やだやだ離してー!」
優一の匂いのする布団に包まれて、キャッキャとはしゃぐ恋人と戯れて、タカは幸せを噛みしめた。
(優一がいるだけで、幸せだ)
「タカさんって本当ヘンな人。こんな俺なんかに」
「ストップ!俺なんか、って何。俺はどんな優一でも愛せる自信あるけど?病気だって浮気だって…」
「あぁもう!浮気じゃないよっ、気持ちはないもん!」
「まぁまぁ、どんなことがあっても愛するよ。お前から離れていかない限り。」
「離れたら?」
「離れるの?」
「離れない。離れられないよ。」
ふわりと笑う顔に、またキュンとする。優一は少し気持ちが落ち着いてきたのか、いつも通りだった。
ーーーー
「翔太!てめぇ愁をエロい目で見てんじゃねーよ!殺されたいのか!?」
「えっ!?み、見てませんよ!」
「嘘つくな!すぐ分かるんだよ!ふざけんな!愁は俺の!お前なんかにやらねーよ!」
「はぁ?欲しいなんか言ってないです!勝手に怒んないでくださいよ!」
「4分も愁見てただろ!?用もないくせに!」
「ちがっ、だって綺麗な顔だなって…」
「あぁ!?仕事中になんだお前!立てコラァ!」
長谷川が送迎に出た瞬間、リクから絡まれまくり、伊藤や篠原は苦笑いしてこちらを見ていた。普段あまり怒らない人がブチ切れるほど長谷川を見ていたと知って少し動揺した。
バシン!
「痛ぁぁ!!」
「お仕置きだ!バカヤロウ」
「リク!やりすぎだよ!」
伊藤が駆け寄ってくれたのを、リクはフンッと子どもみたいに顔を逸らして喫煙所に行ってしまった。
「あ、相川さんだけは敵に回さない方がいいのが分かりました。」
「やだなぁ、篠原さん敵だったのに」
伊藤が笑いながらサラリと酷いことを言っているのも突っ込めないほど、痛さで悶絶していた。
「だけど今は仲良しだもんね?」
「はい!お世話になってばかりです。」
驚いて篠原を見ると、微笑んでこちらを見ていた。
「岡田さん、僕は相川さんの味方なので…蹴られて仕方ないですね」
「あっははは!」
「やっぱり俺の味方はいない!くそっ!」
ガッカリすると、伊藤と篠原はケタケタと笑っていた。笑いに変わったならいいか、と翔太を苦笑いして仕事に戻った。
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