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第114話 大好きだから

「あ!翔くん!お疲れ様!」  「あー大地!ひっさしぶり!」  再出発に忙しい翔を見つけて声をかけると、キラキラの笑顔でこたえられ、眩しく感じた。翔とはドラマも期間限定ユニットも過ごし、身体の関係まで持った。  (なんか、キラキラしてる)  あの時には感じなかったものを感じ、不思議で見つめた。  「な、なんだよ大地?」  きょとんとして見上げてくる翔に、やっぱり可愛さや色気を感じた。  「翔くん、なんか…綺麗になった?」  「は?」  「恋してる?」  「はっ!?はぁあ!?何だよ!」  「だって…」  頬に触ろうとした時、その手を取られる。  「大地くん、お疲れ」  「セナさん!お疲れ様です!」 「大地くん、翔に何が用?」  「え?」  優しい微笑みから、スッと表情が変わる。ゾクっとして、伸ばした手を引っ込めた。翔も固まってセナを見ている。すると、セナは力強く翔の肩を抱いて引き寄せた。  「ごめんね大地くん。翔は僕のだからさ、気軽に触んないでくれる?」  「っ!!!!」  射抜くような目と、しっかり翔を抱く細いけど引き締まった腕。意味を理解した翔は顔が真っ赤になって、パクパクと口を動かした。  「バ!バカ!セナさん!何言ってんだよ!」  「本当のことでしょ?」  「そ、そう…だけどっ、あの、っ、大地はそんなんじゃなくて、っ、」  恥ずかしさに憤死しそうな翔を見てクスクス笑う。 (翔くんも幸せになったんだね)  「翔くん、おめでとう」  「大地っ…」  「セナさん、すみません!綺麗になったなぁ、と思ったら…セナさんに愛されてるからなんですね」  「え?そうかな」  セナはいつもの調子に戻って、翔の顔を見ようとするも、翔は恥ずかしがって逃げていった。  「あっはは!可愛いー!大河さんみたい」  「大地くん、それ、翔に禁句だよ?無意識に比べては勝手に傷ついてるから…。良かった、大地くんもライバルかと思っちゃった、ごめんね、変なこと言って」  「変じゃないですよ。お幸せに」  ありがとう、とデレデレしたセナを見て嬉しくなった。きっと、誠と大河みたいなカップルなんだろうと思った。恥ずかしがりやでプライドの高い人には、好き好きアピールが強めで、依存性が高い優しい人が合うんだろうとニヤニヤした。  (うーん。惜しいことした、かな?)  翔が自分に気持ちがあったことは気づいていたが、優一しか見えなかった青木には全く眼中にもなかった。こうして見ると可愛い人なんだと今更ながら気付いた。  (健気だろうなぁ…)  叶わなくても想い続ける翔。ああ見えてガツガツしないでひたすら相手に合わせたり、振り向いて貰えるのをずっと待つのだ。  (プライドの高い人って、落とすの大変そうに見えるけど、強引にきたら意外にすぐ流されちゃいそう。)  誠が大河に一直線だったのを思い出して仮説に納得がいった。  ヴーヴー ヴーヴー  誰もいなくなった廊下で考え事をしていると、ケータイが震えた。  正樹:遅くなる  大地:頑張って  (またか…)  青木は大きなため息を吐いた。  プライドの高い人よりも、難しい恋人。  告られて付き合った青木だったが、正樹のフラフラ感に困っていた。掴み所がなくて、仕事モードとプライベートモードの差がすごい。かと思えば惚れやすく、タイプの子は口説いてしまうし、付き合いで夜の店に行くし、女の子の名刺はテーブルに置きっぱなしだし、気分が乗れば連絡も返してしまう。  今日もお付き合いでの夜の店に行くだろうと、嫌な気分になる。  青木も遊べばいいのだが、78はダンスバトル世界大会後から、全員遊ばずに集中するようになった。RINGはもともと夜遊ぶことは少ない。  (寂しいなぁー)  不貞腐れて家に戻る。適当に料理をして、晩酌をする。母は仕事に出てしまって、話す人もおらず、ノンタンとひたすら遊んだ。  (健全すぎ!ファンは安心だろうなぁ)  ストーカーファンも刺激にならないし、いいか、と苦笑いした。  ノンタンはエサをあげたあと、うとうとして眠ってしまった。青木の枕がお気に入りで丸くなって寝ているのを写真を撮り、優一に送るも返事がないため、もしかしたらタカとイチャついているのだろうと凹む。  (もう…寝ちゃおうかな)  正樹用の食事を冷蔵庫に入れ、ノンタンの隣で目を閉じた。 ガチャン  ドタン   (ん…正樹…?今帰ってきたんだ…)  ケータイを見てみると3時だった。  (明日も仕事なのに…正樹ってば)  ソファーで撃沈しているであろう恋人にため息を吐いて寝室のドアをあける。  「ンッ…はっぁ、ぁ、っ、ん、」  「は、部長…っ、っ、可愛いっ…」  ソファーで濃厚なキスをする恋人。  頭に血が上って壁を殴る。  ドカン!! 「おい。」  「「っ!!?」」  「あ…大地、ただいまぁ…」  酔っ払いの正樹は、大地を見て嬉しそうに笑うも、殺意しか湧かなかった。  「出てけ。」  「だいち?」 「え、部長…?部長の家じゃあ?」  正樹の上に乗っていた男がソファーから降りた。正樹や大地より年上そうに見えた。部長と呼んでいるのなら年上の部下なのだろう。  「もう一度言う。お前ら2人出てけ」  「え?大地…」  「ラブホでも行ってこいよ。気持ち悪いの見せんな。明日、俺が出て行くから、そちらさんとお幸せに」  「え?…あ、へ!?…待って…大地っ」  「出てけって言ってんだろ!!!!!」  青木の怒鳴り声に、部下の人は、部長、出ましょうと焦っている。寝室からノンタンの声が聞こえて、寝室に戻ると正樹が酔いでフラフラしたまま追いかけてきた。 「だいち、違うんだ」  「正樹、お前何回目?もう付き合ってらんねーよ。ふざけんな。」  「ちがう!ぼくっ、」  「汚ない手で触るな!!!」  「っ!!」  「お前なんか、何処にでもいけよ。いらない、正樹なんかいらない。」  「…っ」  「二度とツラ見せんな」  寝室のドアを勢いよく閉めて、ノンタンを抱きしめる。だんだん呼吸ができなくなって、必死で息を吸う。  (なんで、なんで、なんで)  あまりのショックに、一晩中泣いて、荷物をまとめた。  朝日が上りきらない時間に荷造りを終えて、母親が帰ってきたタイミングで運ぼうと寝室のドアを開けると、正樹が転がっていた。  (まだいたの…)  正樹を跨いで玄関に荷物を運ぶ。  寝かしておこうなんて1ミリも思わなくて構わず音を立てる。可愛いと思っていた寝顔さえ、イラつく原因だった。  「ん…ぅ…」  正樹が起きそうな声がして、一瞬止まってしまう。やっぱり可愛くて好きで、幸せな気持ちになってしまう。首を振って、全てを纏め、今度は外の廊下に出す。  「大地?どうしたの?」  帰宅したのか、母親の声に振り返る。笑おうと思ったのに、視界が歪む。  「大地?!」  「ママ…っ、ママ…っ」  何も言えなくなって下を向いた。訳が分からない薫は困り果てて、中に入ってて、と言った。薫は荷物を見て、察したようで、一緒に荷物を持ってくれた。  「待って!大地!…あ、薫さん…」  「正樹、少し頭冷やしなさい」  「っ」  「うちの子を泣かさないでちょうだい」  「すみません…っ、大地はっ」  「大地から会いに来るまで来ないで。」  「そんなっ、薫さん!話をさせてください!」  「ちゃんと話していたなら、こうはなっていないはずよ?これは大地が出した答えなの。何があったのかは知らない。私は知りたくもないわ。」  「薫さん…」  「私は何度も大切な人に裏切られてる。息子にまで同じ気持ちにはさせたくない。自分の行いを見直してみたら?」  青木はドア越しにこの会話を聞いて、涙が止まらなかった。 ガチャ  「大地、これでいいのね?」  覗き込む母親の顔は心配してくれていた。ぎゅっと抱きついて頷いた。  「私たちはどうしてこんな目に遭うのかしらね…」  薫もきつく抱きしめてくれて、背中をポンポンと叩いてくれた。  ーーーー  「青木…どうした?その顔?泣いたのか?」  送迎車に乗ると、大河が心配そうに尋ねてきた。大きな目が自分を見てくれて、揺るがない瞳が羨ましかった。 (正樹も、こんなだったらいいのに。俺だけ見てくれたらいいのに。)  「青木…っ?んー!んー!!」  「おいこら!青木!なにやってんだ!」  大河の顎を掴み、噛み付くようにキスすると、驚いた大河が逃げようと胸を叩く。バックミラーで見ていた伊藤が慌てて声を上げると、唇をはなした。  「青…木…?」  「ぅっ、ぅ、っ、〜〜〜」  「あぁもう!!どうしたんだよ!?調子狂うな!」  大河はイライラしたように強く抱きしめた。 今日は誠の両親のファッションショーだ。大河が専属にして下さい、と直接依頼したことで、見学に招待された。楽しみだったのに、泣き腫らした顔が惨めだった。  誠は先に会場に居るそうで、先に大河本人にキスを謝罪した。  ファッションショーの会場はライブとは違う雰囲気で少し緊張した。誠と合流し、ご両親に挨拶をと思ったが、ショーの前でピリピリしてるからやめた方がいいと聞いた。それを言う誠はなんだか誇らしげだった。  ショーは深海のような雰囲気の会場。綺麗な青がその中を舞う。モデルさんが歩いてくるのが迫力があって圧倒された。  (かっこいい…)  目を奪われるとはこういうことかと、逸らすことは出来なかった。 終わった後に挨拶に行くと、大歓迎されてうれしくなった。  「大地くんのだとこれがいいよね」  「私、大河くんのイメージがあるの、これなんだけど…」  仕事モードの両親はデザイン画を見せてくれた。誠は幸せそうにそれを見ていて、幸せな空間だった。  (早く着てみたいな…)  「大地くん、髪色はこのまま?」  「え、あ、変えても大丈夫です。」  「デザインによってはお願いするかもしれないな。宜しく頼むよ」  誠の父親は、誠のコピーだった。大人の男性になった誠を想像してやっぱり羨ましく思った。  「青木?」  「ん?どうしたのマコちゃん」  「飲みに行こう!」  「え?」  「久しぶりにレイさんと3人で飲もう」  「マコ!俺は?」  「大河さんはダメ!お留守番!」  拗ねる大河に苦笑いして、誠は伊藤にもレイを借りることを告げた後、パパッと居酒屋を予約した。  ーーーー  「「「乾杯」」」 ジョッキをぶつけてゴクゴクと飲み干す。  「くぅー!最高っ!!」  「青木、飛ばしすぎだよ!」 「いいじゃないか、青木も飲みたい時があるんだよなぁー?」  「さすがレイさん、仕上げてきたね!飲み会前に飲んでくるなんて」  一通り騒いだ後に、年上2人が優しい顔で見つめてくる。  「青木、どうした?」  「頼りになるか分かんないけど、心配だよ。話せそう?」  2人の優しさに、鼻がツンと痛んだ。  「昨日…、正樹がさ…」  「正樹?」  「あぁ、青木の彼氏」  「昨日、家でさ…部下連れ込んでキスしてて」  「「うわぁ〜…」」  2人のリアクションに、やっぱりあり得ないんだ、と涙が溢れる。  「女の子の名刺も、よく散らかってるし、付き合いも多いし、夜も遅いし…」  「まぁ…サラリーマンは大変だよな…」  「本当に正樹が連れ込んだの?」 「へ?」  誠の言葉にレイも青木も誠を見た。  「正樹は前科があるから…正直何とも言えないけど…。正樹が万が一、襲われてただけだったら?」  「そ…れは…」  「家まで来たんなら…俺だって、連れ込んだって思うけどな…」  レイの言葉に、涙を拭いて頷いた。  「仮説だよ?…部下に送ってもらったけど、部下も酔ってた…。お互い誰かと間違えて、なんて…」  「部下の人は冷静だった。部長の家じゃないんですか、とか、俺が出てけっていったら正樹を連れて出ようとしてた」  「…正樹さん、狙われてない?」  レイまでもそう言い始めて、ドクンドクンと強く心臓が鳴り響く。聞き間違いかと聞き返した。 「え?」  「そうかもね。…完全に狙って送ったでしょ。その部下の人。正樹はどんな様子だったの?」  「正樹は…キスされてて、その後、俺見て普通に、大地ただいまっ…て」  青木を見て、嬉しそうに笑った顔。酔っ払ってトロンとした表情に、赤い頬。舌ったらずな声。普通浮気なら焦るはずだが、部下の存在を忘れているような、いつもの正樹だった。  「青木、優くんが…マツリさんに襲われてた時と同じじゃない?」  「っ!」  (「お疲れ様ぁ」) (「青木だぁ…」)  レイは優一が襲われていたことに驚いていたが、青木には完全に一致していたように思った。  (俺が都合よく解釈してる…だけかも…)  ハイボールを3つ頼んで、下を向く。レイはモグモグと唐揚げを食べながら、お箸で青木を指す。  「はなひはひはふは?」  「汚っ!レイさん!飛んだんだけど!」  誠が怒るのを涙を流して爆笑した後、レイはいつもの優しい顔になった。  「話はしたのか?」  「ううん。一方的に…出て行けって言って…今朝、俺が前の部屋に戻った。ママが察してくれて、正樹にも厳しく言ってくれた」  「そっか…」  「でも、たしかに話は聞いてあげなかった。ショックで…」  「分かるよ〜青木!あの衝撃は。…たまに思い出して泣きそうになるよ。」  「そうなんだ…見てられなかった。心臓が抉られたみたいに苦しくて、殺意しかなかった。」  怖っ、と苦笑いするレイは届いたハイボールをチビチビ飲んだ。  「正樹は浮気もするし、フラフラしてるから…ずっと不安だった。…もう、許すのが疲れちゃったんだ。」  「青木…」  「流れで付き合ったし、お互い好きかも分からないまま、なんとなく一緒にいて…。だから、俺が本気になったのが重たいのかな…。きっと舞ちゃんみたいに、正樹が本当に好きな人なら、こんなこと、しないと思うんだ。俺だから、俺のことなんか友達の延長だから…だから、こんなこと…」  自分で言って、どんどん辛くなる。眉を下げるレイを見て、きっと自分も同じ顔をしているのだろうと思った。  「人を好きになるって…しんどい。誰も好きになりたくない。」  ハイボールを見つめて、ぼんやりとそう呟いた。すると、誠がケータイを机の上に置いた。  「正樹、ここまで言わせたかったの?」  「「え?」」  『違います!…あと少しで着きます!マコさん、ありがとうございます!』  「マコちゃん?」  「お互い話してないなら、まずはそこからでしょ?俺も…話を聞かないで、みんなを傷つけたことがある。ずっと後悔するから…青木には、って。正樹の連絡先を優くんに聞いたの。メッセージでやりとりしてたけど、青木の声を聞かせた方が早いなって。」  レイは口笛を吹いて、やるじゃん、と誠を褒めていた。  「あと少しで着く」という言葉を思い出して、青木は現金を多めに取ってテーブルに置いた瞬間、その手をレイが強い力で握る。  「逃がさない。しっかり向き合え」 「そうだよ、青木がちゃんと聞いてあげて」  「だけど…っ、嫌だっ、もう、怖いんだ」  「ダメだ。また逃げるのか?また失うのか?」  「また」という言葉に怯む。今を逃したら戻れないことも悟った。それでも、臆病な自分は逃げることを望んだ。 「でも!お願い!離して!」  「嫌だ」  すると、誠のケータイが震えて、誠は簡単に文字を返した。  (もう、着くかもしれない)  「お疲れ様、ですっ、はぁ、はぁっ、」  「「お疲れー」」  呼吸を整えて、顔をあげた正樹を見て青木は戦意喪失して、レイが手を離したことにも気がつかなかった。  「正樹こっちおいで」  「あ、はい!」  青木の正面に座らせると、誠とレイは席を立った。  「「え?」」  「あとは2人でごゆっくり」  「青木、ちゃんと向き合ってから、また飲もうな」  レイと誠に頭をわしゃわしゃされながら、2人を唖然と見送った。  「「……」」  沈黙の後、観念して正樹にメニューを渡した。  「何か飲めば」  「え、あ…うん。ありがとう」  ぎこちない会話をして、珍しく烏龍茶を頼んだ正樹のドリンクが到着したところで、正樹は口を開いた。  「大地、戻ってきてください」  「……」  静かに頭を下げる正樹。顔を上げると、泣きそうな顔に驚いた。  「僕…大地じゃなきゃダメなんだ。」  「……」  「大地が好きなんだ」  「……」  「昨日の、話を聞いてほしい」  必死な顔に、心臓がうるさい。まさか、まだ好きだなんて…と、喜んでいる自分に驚いていた。  ーーーー  3軒目から、上司たちや、部下の対応がおかしいなと、正樹はふわふわする意識の中で思っていた。全員が距離が近くて、腰や肩を抱かれていた。  (帰りたい…あと少し)  帰ったら大地に抱きついて、上に乗って驚かせてやろう、とか、お土産どうしようとか考えていた。  珍しくキャバクラじゃないのが不思議だったが、カラオケという個室で、事実上の最年少である正樹が歳上の部下たちよりも接待を頑張った。 男しかいない空間はエゲツないもので、女の子がいなくて良かったと安心していた。代わりに、女の役として遊ばれながらも頑張って笑っていた。  「も、もう飲めないですよー」  「嘘つくなよ正樹ー。ほらもう一杯いけんだろー?」  必死に飲むも溢れていく赤ワイン。  (あーあ、このシャツもおさらばだ。)  「はぁっ…やっぱ正樹はエロいよな」  「あははははっ!部長たちのキスシーンみたいなぁ」  「お?そうか?正樹!こっちへ来なさい!こら、佐野課長、そろそろ正樹を譲りなさい」  赤ワインが回って、ゆっくりと部長の所に行くと、激しいキスとソファーに押し倒される。みんなの口笛や歓声が聞こえて、とにかく早く終わればいいと耐えた。  「はい、お開きになりまーす!」  そう言われて、ほっとした。グルグル回る視界で立てずに、1番年上の上司が支えてくれた。全員先に1階のフロントまで降りたようで、2人でエレベーターに乗る。  「正樹…っ舌出して」  「?ンッん、ふぅ、っんぅ、」  おじさんの激しいキスと髭があたるのが嫌で、されるがまま、目はエレベーターの階を盗み見た。  (あと少し、あと少し)  『1階です』  (終わった!お疲れ僕!よく耐えた)  「ん…ブロック長、ほらみんな待ってますから…降りましょう」  何でもないふりして、握られた手をやんわりと離すと、強く押さえつけられ、開いたドアが閉まった。  「っ!?」  『上へ参ります』  「ブロック長っ、んっ!んぅ!!」  膝で刺激されながらネクタイを緩められ、首筋に顔がうまる。 (マジかよ!?このおじさん!!)  必死に抵抗しても、どんどん鼻息が荒くなるのに、身の危険を感じた。   『9階です』  薄暗いビルのフロアに着いて、引き摺り出されて壁に押しつけられる。エレベーターは無常にも1階へ降りてしまった。  脱がされそうになりながら、必死で背中を壁から離さないようにした。  「うわっ…!」  非常階段のドアが開いて、動きが止まった。その隙に手を握って、興奮するおじさんを見つめる。  「今日はここまで。帰りましょう、みんな待ってますから。」  ギリギリまで手を繋いであげるというサービスをして無理矢理タクシーに押し込んだ。ホッとすると酔いが完全に回った。  ーーーー  「部屋に着いて、安心したら…睡魔に襲われて…。キスされてるのも、気付かなかったんだ…ごめん。あの部下は、前は僕のポジションにいた人…。僕と交代で降格したんだ…。気まずかったから…話さないようにしてたけど…」  青木は、正樹の職場環境に唖然としていた。若くして出世した正樹は業務外でも闘っていたのだ。  「あの人、僕が部下の時、何度も何度も触ってきてんだ…。抵抗したら、自分より偉くなってから言えって。あの時は必死だった、あの人を抑えてやるって。」  「正樹…」  「昨日寝室から追い出された後、あの人は逃げてた。僕は信頼回復がまだ出来ていないから…大地と話さなきゃって必死だったけど、酔いが回って寝ちゃって話もできなかった。薫さんにも…怒られて…でも、ちゃんと自分から話しなさいって。」  正樹は、また大きく頭を下げた。  「戻ってきて大地。僕、大地がいなきゃ…無理だよっ…大地が好きなんだ」  顔を上げ、何も発しない青木にみるみる目が潤んでいく。  「あんな奴と浮気するわけないだろう!なぁ!大地!信じてよっ!」  急に大声で訴えてきた正樹は、涙をボロボロ溢していた。  「大地がいるのにっ、そんなわけ…っ、僕っ、大地がいるから…っ、頑張れるのにっ」  ポタポタと落ちる涙が、綺麗に見えて、手を伸ばして頬を撫でた。  「んっ」  「正樹、ごめんね」  「僕も…っ、ごめんなさいっ」  正樹は頬に触れた手を包んで目を閉じた。  「大地、友達の延長なんかじゃない。僕は、大地の優しさに惚れて、一緒にいたいと思ったんだよ。重くなんかない、僕は大地しかいらない。そばにいて?戻ってきて」  「…正樹、怖いんだ。人を好きになること。失うことが…。ちがう世界にいることも不安で怖いんだ。」  正直に話すと、正樹は愛おしそうに笑ってくれて、ドキッとした。  「僕も一緒だよ。でも、大地を見ると全部不安がなくなるんだ。大好き、愛してるでいっぱいになるんだ」  「え?」  「今も、目の前にいるだけで、こうして触れているだけで、たまらないほど好きなんだ。何もかも、全部捨ててでも大地が欲しい」  熱の篭った瞳に息を飲んだ。指が絡められて、手のひらにキスをされる。  「大地、僕を綺麗にして…おじさん達のオモチャのままじゃ…嫌だよ。大地に愛されて、大地の唯一の人でいたい。」  青木は正樹をぐっと引っ張り、キスをした。正樹が手を引いて、お店を出て、正樹の運転で近くのラブホテルに雪崩れ込んだ。  「ンッっ!!っぁああ!くぅっっ」  正樹の乱れる姿がたまらなくて、この姿が会社の人達に見られてないか不安で、噛み付くように痕を残す。  耐えていたことを知らなかった。サラッとしている正樹に気付きもしなかった。もしかしたら激しさを求める夜はセクハラに耐えていたのかもしれない。  (正樹を守らなきゃ)  組み敷かれて、気持ちよさそうに涙を流す恋人を守る決意をして、奥に進むと目を見開いて首を振った。  「ダメッ!だいちっ!なんかっ、それ以上は!」  「正樹、俺を受け入れて」  「ずるいよっ、何それっ…断れるわけ、ないだろっ」  「いくよ、力抜いて」  「分かんない、できないっ」  子どもみたいに不安がる正樹が可愛くて、微笑むと、ホッとしたのかふにゃりと笑った。  (今だね)  グッと腰をいれると、少し緩んだそこは奥まで青木を迎えた。  「ッァアァアーーーッ!!ーーッ!こわっ、こわいっ、だいち、だいち」  「ふぅーーっ、は、は、いくよ」  「ァアァア!!ァアーーッ!!」  「くぅっ!!は、は、ぁっ!はぁ!」  2人は気持ちよさに溺れていった。  正樹の車の後部座席に隠れて、ラブホを出てマンションに着くと、薫が朝ごはんを用意してくれていた。  「良かった、仲直りして。正樹、遅刻じゃない?」  「有給にした。今日は大地と一緒にいる。」  「え、ごめん。俺午後から仕事。」 えーっ!!と拗ねる正樹が可愛くて笑う。薫は心配していたのか、ほっとしたように笑った。  ーーーー  「レイさん、マコちゃん、ありがとう。仲直りしたよ」  「それは良かった!」  「もー!あんなイケメンだったとは!青木すごい人手に入れたな!」  正樹を褒められて嬉しくなる。照れてると、誠が苦笑いした。  「さて、大河さんにキスしたお仕置き」  「痛!!」  「あっはははは!伊藤さんが口を滑らせたんだよなー!大河も隠してたからお仕置きだって」  「羨ましかったの!大河さんってマコちゃんしか見てないじゃん!そんな風に愛されたかったの!」  そういうと、誠の顔が真っ赤になって大人しくなった。レイと涙が出るほど笑って仕事を頑張ろうと気合いを入れた。  大地:今日の衣装。どう? 正樹:カッコイイ!僕も着たい 大地:似合いそうだね  正樹:サービスショット  そう言って届いた画像に鼻を抑えた。  ベッドで裸のままの自撮り。その表情は幸せそうに笑っている。  正樹:お仕事頑張って  しばらく悶えたあと、ご機嫌で撮影を終えた。 

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