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第118話 その手は予約済

「1.2.3…そうそうそう!いいよ!タカ!」  「あーもう!無理ー!!」  タカはスタジオの床に大の字になって目を閉じた。  リクが褒めてくれたが、全く手応えがないまま、音楽番組での初披露が近づく。この日は何故かRINGやカナタとジンも見に来ていて消えたい程だった。  (うー…優一のいる手前…カッコイイところ見せたいのに)  鏡越しの恋人はニコニコしてこちらを見ているのが居た堪れない気持ちだ。  (どーせまた可愛いとか思ってんだろうな…。情けねぇ…)  立ち上がってもう一度やろうとリクを見る。リクも相変わらずニコニコしていて怖い。大河は前ほどタカに構わなくなり、自分の動きを確認している。  「タカ、そろそろ見せ方にいきたいんだけど。もう振りは入ってるだろ」  「入ってないよ。1つやったら1つ忘れるんだよ」  「じゃ、通して、間違えたらそのままな。」  大河も呼ばれ、立ち位置につく。みんなが見守る中、目の前の鏡だけを見つめる。  (集中、集中)  曲が流れると、頭をフル回転させ、同時に歌も大声で歌う。一緒にやらないと本番でパニックになるからだ。大河もそれに合わせてくれて、同じぐらいの熱量で歌ってくれる。いつの間にか苦手なところも通り過ぎて、一曲通し終わった。  「おおおーーっ!!」  「タカ!すごいじゃん!」  「驚いたね、形になってる!」  はぁはぁ呼吸していると、カナタとジンに褒められ、RINGにも拍手された。リクはニヤリと笑い、次行くな?と新たな課題を出した。  褒められて安心して優一を見ると、つまらなさそうに見ていて落ち込んだ。  (優一の満足まではいかないか。頑張らないとな)  この日のレッスンは、最後まで優一の目はつまらなさそうだった。  「優一、もう終わった?今帰るけど帰る?」  「仕事はないけど、やることあるから。」  「…?打ち合わせ?」  「ううん。後で帰る。」  「後でって…伊藤さんの送迎ないだろ」  「タクシーで帰る。」  目を合わさない優一の肩を強く掴んで目を合わせた。  「なに」  「え?」  「言いたいことあんの?」  強めに言うと、目を逸らした。こんな時は何かある時だ。  「優一。」  「……。結局、タカさんは何でも出来ちゃうんだなって…悔しくなっただけ。だから、さっき伊藤さんにも仕事増やしてってお願いした。…今日はダンスのレッスンしようかと思って残りたい。」  「はぁ…」  なんだかんだで負けず嫌い。少し昔の優一を思い出して苦笑いする。根本は変わっていなくて嬉しさ反面、焦りを心配した。  「ダンスなんか全然出来てないよ。お前ならもっと出来るし、こうしたいな、とか案があるんだろ?そんな余裕ありませーん。」  「プランがあっても発表できる場所がないもん。大河さんやタカさんは表現できる場所があっていいなぁ。」  口を尖らせて拗ねる優一の頭を撫でたあと、肩を抱いて歩き出した。嫌がる優一をしっかり掴んで駐車場に向かう。  「ちょっと!タカさん!」  「はいはい。拗ねる前にしっかり準備しな。」  「してるよっ!」  「ゆっくりでいいんだよ。なに焦ってんの」  「タカさんになんか、分かるわけないじゃん!!」  強く振り払われ、優一を見るとボロボロに泣いていた。  (感情をコントロールできるように準備しなきゃだろーが。)  「俺だって!早くお仕事したい!ゆっくりっついつまでだよ!いつまでも気を遣われて!俺は早く、出来るところを見せなきゃいけないんだ!何でもできるタカさんには分かんないよ!」  廊下で大声で泣く優一はタカしか見えていないようだった。他グループのマネージャーが何事かと見に来たのを、笑って追い払った。その中のリクは、頭を抱えたあと、ごめん、と合図してきた。  (リクさんがRINGを誘ったんだな…。でも、やる気になったからこうして騒いでる。良い事ではあるんだけど)  大丈夫、とリクに口パクで笑って、優一に向き合う。  「優一、カラオケ行くか」  「え?」  「ま、スタジオだけど。何でも弾いてやるから発散しな」  「え?え?どういうこと?」  「エネルギーが有り余ってんだろ?気が済むまで歌え。」  リクにスタジオを押さえてもらい、手を引いてズンズン歩く。  「ちょ、ちょっとタカさんっ」  「はい、マイク。…何歌いたい?」  「へ?」  「ほら、じゃーこの曲」  「え!?柚子の歌はキー高いよ!」  「はーやーくー!」  「あ、え、っ、歌詞歌詞…」  慌ててケータイで歌詞を探すのが面白くて笑いながら弾いた。一生懸命歌う優一は、だんだん楽しくなってきたのか、次はこれ、とリクエストしてきた。  (ふーん。明るい曲が多いな。つーことは、本当にやる気になったんだな)  タカはAltair新曲を渡してみた。  「何この曲。俺歌ったことないよ」  「歌ってみて。」  「えぇ〜…。」  渋々だが歌い始めた優一は、感覚で翔よりもいい仕上がりになった。  (優一の仮歌なら歌いやすくなるかも)  「ごめん、優一。もう一回歌ってもらえる?この曲、あいつら苦戦してるんだ」  「え?難しいところあるかな?」  「無いんだけどさ。上手くいかないの。優一の仮歌ならイメージつくかもしれないから…いい?」  お願いすると、嬉しそうに頷いた。  (誰かの役に立ちたいんだろうな…可愛い奴)  すっかりご機嫌になった優一は、体を揺らして音楽を楽しんだ。  「音楽って不思議だね。こんなに元気になったり、優しい気持ちになる。」  ふふん、と笑って抱きついてきた優一を受け止める。  「ごめんなさい」  「いーよ。」  「ダンス、かっこよかったよ」  「…ありがとう」  「あー!信じてないなー?」  「マジでお蔵入り狙ってるんだけど」  苦笑いして優一を見ると、チュッと触れるだけのキスをされる。  「カッコイイからずるい」  「は?」  「手足が長いから綺麗。あと、本当はね…大河さんに嫉妬しちゃう。手握る振り付け見たくない」  「え…」  指を絡めて、握った手をそのままに、下から見つめてくる。  「っ!」  大きな目に釘つげになり、ドキドキして固まってしまう。 (やっぱりあざといな!分かってやってるだろ!)  「タカさん…お家帰ろ?」  (これで落ちない人、いる?)  ガチャン  ドサッ  「ふっ!んっ、ン!んぅっ」 寝室に突き飛ばして小さな唇を塞ぐ。あんな風に誘われて、家までが遠く感じた。泣いたり笑ったり、感情が忙しい恋人に振り回されているのも幸せで、好きで好きで堪らない。キスでリードしてるはずなのに、優一の手は積極的にタカの熱を攻める。唇を離すと、積極的な手つきとは違う、トロンとして受け身の表情で見つめてくる。  「タカさん、気持ちぃっ」  弱々しく笑って、舌を伸ばしてくる。見ているだけで呼吸が荒くなり、思春期の時みたいに衝動が抑えられない。  (煽りすぎだろっ!!) 舌を絡めて服を剥ぎ取っていく。白い肌に手を這わせると、その手が取られて絡められる。  (そんなに嫌か…あの振り付け)  「優一、かわいがってあげるから…手離して?」  「んー!っ、やっ」  「優一」  「絶対離さない」  「ふふっ、かーわいー…」  絡めた手はそのままに、愛撫をすると嬉しそうに笑う。  「なーに?」  「あははっ、タカさんっ、っ、ん、タカさんの、手、あったかく、なってきた」  「そう?…優一のここは?」  「ンッ!!…っ、っ、」  「あったかいな?」  繋いでいない方の手で優一を解し、そっと指を差し込むと息を詰めて眉が下がった。  「ぁっ、ぁっ、ぁっ」  「はぁっ、はっ、優一、気持ちいいの?いい顔してる」  小さく息を吐く唇を舐めて、指を増やす。たまらなさそうな顔が、タカを更に興奮させた。指先に触れた前立腺を刺激し始めると、目を見開いて嫌々と首を振る。  「ぁああ!っ!あっ!ぁああ!」  思わず離されそうになった手を握り直して、ベッドに押さえつける。指を抜き、片手で下着ごと脱いで優一に跨る。目を閉じて快感に浸る優一の足を開いて腰を上げ、すでに露を零す自分の熱を擦り付けると、優一はゆっくりと目を開いた。 「タカさん、激しくして」  「ん、いいよ」  「求めて、ほしい」  「求めてるだろ?俺はお前しかいらないよ」  「あの曲の時、大河さんしか見てないくせに」  「まぁー…そういう曲だからな」  「やだ」 お互いを求めるけど、隠しているという歌詞。振り付けは離れと行こうとすればどちらかが引き止めるように何かと大河に触れることが多かった。  タカにとってはそれが、タイミングがズレないようにと、神経を研ぎ澄ませているが、見学していた優一は嫉妬していたようだ。 「わがまま言うな。仕事なの」  「じゃあ青木との曲作る」  「え?」  「艶かしくカップルダンスする。」  「オファーないだろ。」  「タカさんのためにやるんだもん、オファーなんかいらない。」  「は?」  「タカさんに選んでほしいもん。追いかけてほしい。求めてほしい。俺にだけ振り回されて、俺に夢中になってほしい。」  優一は本音を言った後、後悔したように自由な片手で顔を隠した。 「足りない、なんて言ったら怒る?」  指の隙間から不安そうに見つめる目に射抜かれるように息が止まった。タカさん?と、不思議そうに首を傾げる優一に我にかえり、熱で中を思いっきり貫いた。  「ッぁあああーーーッ!!」 「足りないなら、満たして、やるよ」  「ああぁっ!!はぅっ、ン!ンン!」  相変わらず相性抜群で、気持ちよくて何も考えられない。欲のまま優一の唇を塞ぎ、激しく腰を振り、胸の粒で遊ぶ。  「ン、ン、ンっぅ!!っんぅ!!ーーッ!」  お腹にかかった熱に、キスをやめて確認すると、優一の熱がプルプルと震えていた。激しく呼吸する優一を待たずに、先ほどのように律動をはじめた。  「ぃやぁああ!やだ!やだぁ!ダメッ!まだ!ダメ!!おかしくなるっ!おかしくなるっ!」 「足りない、んだろ…?満たしてやるって」  「ぁあああ!!!どうしよぉ!また!また!」  涙をポロポロながして、必死に訴える優一にゾクゾクして、狭い奥に向かう。  「やぁ、ダメなのっ!タカさん!おかしくなるってばぁ!!」  「えー?今日は入れてくんないの?この、っ、奥」  「だって、っ、んぅっ!ぁああ、っ、だって、ぇ!」  「ん〜?」  「気持ちよくて、どっか、いっちゃいそうに、なるからっ…」  「いいよ?一緒にどっかいっちゃお」  「タカさんも?」  「うん、お前だけ1人にはしないよ」  そう言うと嬉しそうに満面の笑顔を見せてくれた。握った手に力が入ったあと、キテ、と口が動いた。  「あっ…ッぁああああああー!!」  「はっ、はっ、はっ、はっ」  「ぁあああっ!あっ!んぅ…ッぁああああああー!!」  優一が背をそらせて、溜まっていた涙が溢れた。中がギュッとしまって、思わぬ刺激に目を閉じる。 「くぅっ…っん、」 「はぁあん!!ァアァア!!ッッ!!ーーッ!!!」  ビクビクと跳ねて、絶叫の後、薄い液が飛んだ。 「は…はぁ、優一?…っ、」  先にイッた優一に微笑んで、タカも熱を解放した。  ーーーー  「ブルーウェーブのタカさんとRINGの大河さんのユニットとは驚きですね!アイドル界で歌唱力トップクラスのお二人ですが、今回のユニットで苦労したことはありますか?」  「ダンスですね。一応アイドル事務所なので若い頃少しはやりましたが…まぁー大変でした!大河の邪魔をしないように、とだけ考えています!」  「初めは苦労されてましたけど、今は苦手なの?っていうくらいですよ!皆さん、タカさんのダンスも期待してください」  「今回息を合わせなきゃ難しいところもあって…。」  心底嫌そうなタカがテレビに映る。優一は大きなテレビの前で正座をしてみつめた。  「それではスタンバイをお願いします」  送り出されたタカと大河はにこやかにお辞儀をしてスタンバイに向かった。  黒いシャツとパンツ、黒のジャケットに身を包む恋人と、親友と言ってもいいほど大切なメンバー。誇らしい気持ちで、ワクワクが止まらない。 「っ!!」  (うわぁ!鳥肌!!)  曲が流れると自信なさそうだったタカは、紛れもなく“アイドル”だった。カメラに向かって妖艶に笑って見せ、目線にも拘りが見えた。  グループ以外で歌う大河は、今回のコンセプトに合わせて大人っぽく、いつも以上の色気だ。そして何より、2人の圧倒的な歌唱力にゾクゾクと震える。  (こんなに踊ってるのに全くブレない。目も合わせてないのにハモリも綺麗。お互いを信じきってるんだな…)  『キャーー!!』  テレビからの歓声に、ハッとして画面を見る。優一が嫉妬したあの振り付け。練習では指を絡めて手を握っていたのに、タカが大河の手首を掴んでいた。それの乱暴そうに見える演出にファンや観客は更に歓声をあげた。表情は2人とも変わらずに、最後までセクシーなまま曲が終わった。  誠:優くん、見た!?超かっこよかったね! 誠からのメッセージに思わず微笑む。興奮していることが伝わって急いで返した。  優一:見た見た!歌唱力は圧巻だね!タカさん無事に踊れていてよかった!  誠:踊れなかったのが嘘みたい!これはお仕事増えちゃうね!  優一:たしかに!今日は褒めてあげなきゃ!  誠:そうだね!俺も大河さん褒めちゃお!  ニヤニヤしながら部屋の掃除をはじめて、タカを迎える準備をした。しかし、思い出してはドキドキして手が止まり、あまり綺麗にならないまま時が過ぎた。  「ただいまー…」  「タカさん!お帰りなさいっ!」  「うぉっ!?お前な!突進してくんな!」  「えへへ〜」  耐えきれずにデレデレすると、ムニっと頬を引っ張られた。  「振り付け間違えちゃった」  「ほほはほ?(そうなの?)」  「間に合わなかったー…大河の手掴むの遅れた」  悔しそうにするのが可愛いくて笑うと、掴まれた頬が解放された。 「そういう振り付けに見えたよ?」  「みんなそう言うけどさぁ…。あー…悔しい…」  「大河さんも普通だったからいいんじゃない?」  「後でめっちゃいじられたよ…お前の話した後だったから。」  「俺の話?」  「あぁ。…手を繋ぐ振り付けに嫉妬してくれたってさ。うわぁ…はずっ…。言わなきゃよかった。」  話を聞いた後、理解が追いつくと、優一も顔が真っ赤になった。  「ユウが見てますもんね?だってよ、あいつ。一丁前にいじりやがって。終わったらずーっとニヤニヤしてさ…。リクさんも今後はこれでいいって言うし…。」  「……」  「こーら。お前まで恥ずかしがるなよ。2人きりで照れてアホみたいだろ。」  「だって」  「ん?」  「手、繋がないでいいんでしょ?嬉しいって言ったら…嫌?」  「…バーカ」  タカが楽しそうに笑って、頭をぐしゃぐしゃにされた。嫌なわけあるか、と照れ隠しで背を向けてリビングに向かう背中に飛び乗った。  「タカさん、ダンスかっこよかった」  「ありがとう」  タカに手を握って貰って、笑うとゆっくりキスをした。

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