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第119話 熱い手

あの事件の後からこんな日が来るとは思わなかった。隣にいるのは紛れもないタカ。2人で歌える日がくるなんて。 (タカさん…めっちゃ緊張してる…)  そして、とんでもなく緊張しているのが伝わる。ずっと振り付けの動画を見てはため息を吐いている。  「あー…できる気がしねぇ…。」  小さな呟きが可愛く感じて思わず笑うと、やっとこちらを見た。  「お前はすげーよ。普段から歌って踊ってるもんな。」  「タカさんもできてますよ!大丈夫です!」  「大河に励まされる日が来るとはな」  困ったように笑う顔は、ダンスが始まってからよく見る顔になった。大河はこの顔が好きでふわりと笑い返した。  「タカさん自信持ってください!振りは入ってますし、何も問題ありませんよ」  「いやー…実はタイミングが微妙なのよ。この…あ。」  「?」  手を握る前の振り付けをした後、タカはピタリと止まってニヤニヤし始めた。  「ど、どうしましたか?」  「この振り付けあるだろ?優一が嫉妬してくれてさ…いやぁーあいつは何であんな可愛いかな?相変わらず俺のツボというか…」  「あははっ!へー!まだ手握るとかでも嫉妬するんですね」  「マコちゃんは大丈夫か?」  「マコは今はだいぶ落ち着いてますよ。ユウは可愛いですね」  大河は、誠がカッコイイと騒ぐだけだったのを思い出す。昔ならずっと不機嫌だっただろうが今は頑張ってね、と背中を押してくれる。  「へー…嫉妬深そうなのに」  「いろんなことありましたけど、大人になってますよ。俺より落ち着いてるかも。」  「マジか。優一はなー…焦りもあるよ。早く元に戻らなきゃ、仕事しなきゃってさ。ゆっくりでいいんだけど…もともと真面目なところあるから。急に落ちるから、落ちた時は落ち着くまで歌わせてやって」  「歌…ですか?」  思わぬ解決法に首を傾げると、優しい笑顔が返ってきた。  「大河も優一を音楽の世界に戻しただろ?それと同じ方法でいい。あいつを癒すのは慰めや優しい言葉じゃない。音楽だから。」  思い出しているのか、ふわりと笑っているタカが、優一の恋人で良かったと、大河もつられて笑った。  スタンバイお願いします、と声がかかり、大きなため息を聞いて楽屋を出た。スタジオで軽くトークをした後にステージに上がる。  「タカさん」  「ん?」  緊張しているのかと声をかけると、別人かと思うほど表情が異なった。驚いて固まっていると、懐かしい、あの大きな手で頭を撫でられた。  「どした?」  「えっ…と」  「頑張ろうな」  いつもの、頼れる先輩の顔になったタカにドキドキしてしまう。この曲の世界観にスイッチが入ったのだと、大河も気合を入れた。  音が鳴れば世界観に浸る。 最後の手を握る振り付けで、一瞬タカが素に戻ったような気がした。 (あれ?どうしたんだろ)  パシンッ  指を絡めて手を握る振り付けが、手首を強く掴まれた。歓声が上がって、動揺を隠してそのまま続けた。大きな拍手と歓声とともに、お辞儀をしてステージを降りると、悔しそうなタカがいた。  「うわぁー…最悪。一瞬飛んだ!」  「タカ!大河!お疲れ〜!タカ、お前アレンジかー?余裕だな!」 「アレンジじゃないっすよ…あーもぅ…」  悔しそうなタカに、大河はニヤリと笑った。  「ユウが見てますもんね?」  「はぁ?!」  「なになに!?ユウがダメって?」  リクが楽しそうに乗ってきて、タカにギロリと睨まれるも、楽しくて仕方ない。  「タカさん一瞬、素に戻ってましたよ!ユウが過ったんですよね?ユウが嫌な気持ちになるかな?って」  「過ってねーし!タイミングが遅れただけ」  「またまたぁ!練習でそこミスしたことなかったのに?お前本当ユウにゾッコンだなぁ?可愛い奴!よし、次回からは今日ので行こう!」  悔しそうなタカにニヤニヤしながらテレビ局を後にした。伊藤にも良かったと褒められ、誠や優一からも、良い感想のメッセージが入っていて、達成感に浸って家へと戻った。  「ただいまー!」  「おかえり!」  玄関に迎えてくれた恋人にぎゅっと抱きついた。強く抱きしめてもらって幸せを噛み締める。  「大河さん、よく頑張ったね!かっこよかったよ!」  「ん。頑張った!」  「よーしよーし!偉いぞ〜」  わしゃわしゃと後頭部を撫でられ、気持ち良くて目を閉じる。 「大河さんが下ハモだったんだね。今日知った」  「あ、そうなの?言ってなかったっけ?」  「うん。俺も思い込んでたから聞かなかったのかも。すごく勉強になったんだ。すごいね、大河さん。タカさんとでも全然差が無かったよ」  素直な感想が嬉しくて、恥ずかしくて、誠の胸に顔を埋める。固いリングの感触があって、歯で服の上から噛み付いた。  「あーこら!やめなさーい。チェーン切れたらどうすんの」  「んー」 「もー…こんな甘えん坊さんだなんて、ファンは知ってるのかな」  「知らなくていいよ。ファンはこんな俺求めてないんだから。ファンの前ではちゃんとファンの好きな俺なんだから。」  いいだろ?と、下から誠の唇に自分の唇を重ねる。柔らかな感触が気持ちよくて、ペロリと舌で舐めると、舌が温かさに包まれる。  「ンッ…ッ…はぁ…んん」 力が抜けそうで、誠の腰にしがみつく。目を開くと、熱のこもった瞳に捕まってゾクゾクする。  「マコ…しよ?」  ギシッギシッ  「ッァアァアーー!」  「はぁ、ここ?」  「ハッ、まっ…ッァアァア!!」  どこを向いているのか分からないほど激しく突かれて、強烈な快感に涙がこぼれる。中の刺激は逃すこともできずに良いところを狙っては押し潰され、そのたびにチカチカと視界が歪む。指を絡めて握られる手は、タカとは違い熱くて、しっかりと握られる。  (マコの手だ…好きだな…)  「ぅあっ!!ーーっ、大河、さんっ」  きゅっと中に力を入れると、誠が慌てたように声を上げ、抱いているときは呼び捨てなのに、素に戻ったのが可愛くてキュンとした。  (やばいな…俺、こいつのこと好きすぎない?)  どんどん膨張して、必死そうな声から、イくのを我慢している誠が可愛くて、自分の中で気持ち良くなってくれたことが嬉しくて、余裕のない姿がたまらなくエロくて、なのにしっかりと握られた手に安心して、誠のことしか考えらえられない。  (マコが好きだ。絶対、離せない)  ググッ  「ッア!?大河さんっ!!」  「ンっ…ーー」  ドクドクと流し込まれる誠の熱。受け止めて、また出さなきゃ行けないけど、少しでも長く留めたくて腰を上げ、足を巻きつけて奥まで流し込む。  「はーっ、はぁっ、はっ、はっ、」  「まぁこ、気持ちよかった?」  「はぁっ、はっ、はっ、うん、気持ち良すぎた」  見上げた顔は、恥ずかしそうな、それでいて嬉しそうに見つめてきた。  「大河さんにイかされちゃった」  「ふははっ!どうだ?気持ちいいだろ?」  「うん…まだドキドキする。ほら触って」  左手が解かれて、誠の胸に手を当てる。ドクドクと激しく胸を打つ鼓動が、生きてる、と感じてジワリも目が潤む。  「あぁ…どうしたの、泣かないで?」  「マコっ、マコ」  「どうしたのかなぁ?本当に。よしよし、大河さん、そばにいるよー」  「俺、マコが好き」  「わぁ!嬉しい!俺も大河さん大好きっ!」  頬に勢いよく頬擦りする大型犬に笑って、触れるだけのキスを繰り返す。だんだん深くなって、中の質量が増して、また2人に熱が篭る。  「次はイかせてあげる」  「ッア!!そこはっ…」  「イイでしょ、ここ。大河さんここ、めっちゃ乱れちゃうもんね」  また新たに開発された場所。すぐにでもぶっ飛びそうな快感に首を振って腰を引く。  「っぁあああー!!やだっ!やっ!」  「ふぅ…きっつぃ…」  「マコぉ!ッ!ッァアァア!ーーッァアァア!!」  猛スピードで絶頂を迎えて、必死に呼吸をする。中の熱が注がれ、それにもビクビクと体が跳ねる。  「気持ちいっ…」  「うーわ、エロいな大河さん…こんな顔、誰にも見せちゃダメだよ?」  「お前がそんな顔にさせたんだから…お前しか見れないだろ…」  そう言うと恥ずかしそうに笑って、腰を持ち上げ、恒例の観察の儀が始まった。いい加減慣れたいところだが、やっぱり恥ずかしくて顔を隠して、誠が気が済むまで足を開いて誠の白濁を吐き出した。  「大河さん、タカさんとの2人きり、もう慣れた?」  「そうだな…いつの間にか平気だ」  「良かった。はじめは心配だったんだ。フラッシュバックしたらどうしようって。それこそ、優くんも心配してた。けど、良かった、楽しそうだし!」  風呂上りの頭をタオルでわしゃわしゃと拭かれながら、心配していたことを打ち明けられた。  「タカさんがダンスできるように、ってそれしか無かったかな…。でも…越えられたなぁって改めて思うよ。楽屋にいても平気だった」  「良かった」  「今日さ、手を繋ぐ振り付けあるだろ?あれ、タカさんは間に合わなかった、って言ってたけどさ…たぶん、ユウのためだと思う」  「優くん?」  「ユウが嫉妬したらしいよ?可愛いよな」  2人でキャッキャと騒ぎ、可愛いと悶えていた。それでも誠は嫉妬している様子はなく、少し寂しくもあるが、誠の熱い手を思い出して、コッソリと笑った。 

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