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第120話 欲しい

(一緒に住んでるのに会えない)  青木はドラマの台本を丸めて空を見た。あの浮気からの仲直りの後からお互いに忙しくなってほとんど会えなくなった。  (正樹不足だぁ…)  スタンバイの声に笑顔で返して、ネクタイを締め直す。  今回の役柄は正樹と同じエリートサラリーマン。このために久しぶりに黒髪にしたが、それも正樹には見せられていない。  仕事一筋のエリートサラリーマンが、ど天然新人と奮闘しながらだんだん恋に落ちるというもの。お茶を溢されるシーンは本当に熱くて、正直にイラッとしたのが監督に褒められた。  「カット!!本日は以上です!」  「お疲れ様でしたー!」  見上げていた空はいつの間にか真っ暗で、時間は深夜だった。  (今日も会えないかな…)  家に着く頃には朝になっているだろう。すると正樹はもう出社しているのだ。  (1日でいいから、1秒でもいいから会いたい)  車を駐車場に入れると、まだ正樹の車があった。  (あれ?今日は電車?…っていうことは飲み会か…)  ため息を吐いて部屋に行くと、ノンタンがニャーと嬉しそうに飛び乗ってきた。  「ただいまーノンタン」 抱き上げキスをすると、大きなイビキが聞こえた。  (あれ!?まさか!)  ノンタンを抱いたまま寝室へ行くと、気持ち良さそうに眠る正樹。  (俺の枕…抱き枕にしてる!!!)  可愛さに悶えていると、フガっと鼻を鳴らし、目を開けた。  「ん…ぅ…。……だいち…?だ…おかえり」  「たーだーいーまー!!」  「うわっ!何だよっ、飛びかかってくんな…ノンタン、おはよう」  正樹がノンタンの顎を撫でると、ノンタンは気持ちよさそうに目を閉じて満足するとリビングへ行った。  「大地、久しぶりだな…黒髪なんて新鮮…やっぱ芸能人は何でも似合うな…んー!よく寝た!」  「久しぶり!嬉しいっ!」  「あははっ!可愛いやつ」  「可愛いのはどっち?俺の枕抱いて寝てさ」  「…?あー…本当だ。無意識だった。可愛いな僕」  「自分で言うな」  あははと吹き出して、そっとキスをした。久しぶりの体温に止まらなくなる。  「は…正樹っ」 「ん!ん、ん、…おい、ヤんのか?」  「仕事?」  「午後から前乗り」  「え?」  「明日から、1週間出張」  「えぇーーー!?」  あまりのショックに落ち込むと、眉を下げてこちらをみる正樹。  「僕だって、大地といたいよ」  珍しく弱っている正樹が不思議に思い、髪を撫でると、ノンタンみたいに目を閉じて気持ちよさそうだ。  「正樹?なんかあった?」  「んー?……なんでも」  「嘘だ。言って?」 「いや、ダサいから…」  苦笑いして誤魔化そうとする正樹の頬を撫でると、不安そうに見つめてきた。  「プレッシャー…」 「プレッシャー?」  「新店舗の売り上げを取ってこいって言われてるから…。店長以外全員新人だし…。」  不安で吐きそう、と漏らす。会社ではきっと一瞬も見せない不安は青木の前だけでポロリと落ちた。  「とりあえずはオープン前日から動きを確認して、店長と挨拶まわりして、新人教育して、オープンの数字上げて…」  「そんなに仕事が?分散できないの?」  「できないよ、それが僕の仕事だから。成果を上げられないなら、簡単に仕事はなくなる。そんな危機感を持ってやってるんだ…」  嫌だぁ…と抱きついてくる正樹を強く抱きしめて背中を摩る。きっと大丈夫だよという気持ちを込めた。  「大地、僕に元気をちょうだい」  エロい顔して舌を出す正樹に、1秒も待てずに飛びかかった。  「早くっ…してよぉ!」  「だめだよ、まだ…解さないと…焦らないで」  「だって…時間が…」  「空港までおくってあげるから…っもう少しだからっ…」  「ッぁああ!んもぉ!っ!焦らすなぁ!」  「…時間じゃないな?…欲しい?」  「ッン!んっ!だれがっ…言うか」  「ならもっと丁寧にしなきゃね、久しぶりだし」  急いで解した割にはもう大丈夫そうだが、ギリギリまでまで正樹を焦らしてみる。もう今にも爆発しそうな正樹のものは、大きな刺激を待っている。  「ッだいち!」  「ん〜?」  「…っ、我慢、できないよっ」  「っ!」  涙目の上目遣いに一瞬息が止まった。でも、あの言葉が欲しい。  「じゃあどうしたらいいの?正樹、言って?」  「ッ!っぁ、っん、もぅ、ばかぁ…」  「正樹」  「大地っ、大地が欲しいっ!」  「よくできました」  「ッァアァア!?ーーーッ!!!」  入れたと同時にイった正樹は枕を噛んで声を殺してしまった。少し残念で枕を床に捨てて、更に追い詰めていく。  「やっ!イった、ばかりっ!止まって!ッだいち!ッァアァア!!っぁあ!!」  「声聞かせて、正樹」  「っぁああ!ぁっ!あっあああ!もぉっ!っ!っぁああ!ダメだっ!また!」  ぎゅっと中が締まって、青木も耐えきれずに中に注いだ。  「はぁ、はぁ、元気あげるつもりが…バテちゃった?」  「余裕…。っ…っ、はぁ…は…っ、気持ち良すぎてヤバいけどな…」  タバコを吸って満足そうに笑う正樹には、先ほどの不安そうな顔はなかった。  空港へ行く道へは、手を繋いで、2人は無言だった。落ち着く空気感だけを堪能した。  「わざわざロビーまで…ありがとうな」  「ううん。俺がギリギリまでそばにいたいだけ。」  「……」  「正樹?どうした?」  「…どうしよ、キスしたい」  照れたようにそんな事を言われて、我慢できる方法があれば教えてほしい。トイレの個室に入って、時間ギリギリまで唇を重ねた。  「じゃあ行ってくる!着いたら連絡するから!大地も寝ろよ?ありがとうな!」  「はぁい!ダッシュ!乗り遅れるなよー」  慌ただしくゲートを潜って行ったのを見送って暫く見つめていた。  (わ…どうしよう。思ったより、寂しい。)  正樹に連絡しても機内モードになってしまった。暫くすると、飛行機が見える展望デッキに移動した。  (どの飛行機か分からないや…)  出発時間が過ぎるまで、たくさんの飛行機を見送った。  (俺、ツアーとか始まったら耐えられるかな?)  苦笑いして空港を後にした。  ーー  「違うんだよ大地くん!ここは、そうとうなプレッシャーを感じてるのに、部下に伝えられないジレンマを表現してるんだ。ただ怒るだけじゃないんだ」  監督からの檄がとんで、ハッとした。正樹を思い出してもう一度台本を読む。   (成果を上げなきゃ仕事はなくなる…) 思い出した言葉に顔を叩いて監督に頭を下げた。 「もう一度お願いします!!」 集中を切らさずにこのシーンを撮り終えた。  カットがかった後、監督からは褒められ、少しほっとしたと同時に正樹が心配になった。  見送った日から、返事はない。忙しくなるのは分かっていたから、青木も遠慮した。 (正樹、俺も頑張るよ)  空を見て、正樹に届くように願って笑った。  ヴーヴー ヴーヴー  深夜3時。  ケータイが震えて、手探りでケータイを取った。  「ん…はい…青木です…」  「寝てた?ごめんな」  「正樹!わぁ!正樹」  「ははっ!寝起きいいな?」  明るめの声に安心して口元が緩む。  「正樹、連絡嬉しいよ」  「ごめんなー。やっと落ち着いた。って言っても明日帰るけどな」  「お疲れ様〜」  「ありがとう〜調子もいいし。成果もあげられたから一安心。新人もいい子たちでさ、さっきまで飲み会だったんだ」  「そっか!良かった」  「大地の女装の写真を使わせてもらってるよ!綺麗だってさ?ふふっ男だっつの」  「良かったー渡してて。」  「その新人の中の1人がさ?RINGのファンだって!レイのファンらしいけど」  クスクス笑う声に血の気が引いた。  「そ、その子にも見せたの!?俺の女装」  「ん?あぁ。だってお前が見せろって」  「やば!あれ特典なんだよ…どうしよ」  「妹から借りてるって言うわ。お前な、そんなヤバイもん持たせるなよ!」  青木はホッとすると、正樹の後ろの音が気になった。  「正樹、お風呂?」  「いや?」  「…何してんの」  「ん?大地の声でヌいてんの。ほら、なんか喋ってて」  何でもないように言って、よく聞くと聞こえる水音が青木の顔を真っ赤にした。  「昨日まではさ、死んだように寝てたんだけどさ、安心したら…治らなくて…酒も飲んだのにギンギンよ。」  電話からビデオ通話に変わると、更にドキドキした。  「大地ー?見える?うわぁ、やっぱイケメンだなお前」  「そ、そっちこそ。」  「大地もしよ?どうせ勃ってんだろ?」  「うるさいな…っ、ん、っ」  「声、聞かせて?大地」  「んっ、正樹、のも、聞かせて」  「はっ、はっ、んっ、」  だんだん早くなる正樹の手に合わせて、青木も早くしていく。余裕のない顔がたまらなくて、触りたくて、感度があがっていく。  「大地っ、欲しいっ」  「っ?!」  「大地っ、大地っ、ッァアァア!!」  絶頂を迎える直前の言葉と、正樹の絶頂はどんなAVよりも気持ちよくヌけた。  「また明日ね」  恥ずかしくなったのか、急に切れた通話。余韻に浸った後に一気に寂しくなって正樹の匂いがしなくなった枕を抱いて眠った。  ーーーー  「大地っ!ただいま!」  「おかえりっ!」  到着ロビーで迎えると、人目も気にせずに抱きついてきた。  「早く帰って、ヤろ」  耳に囁いてニヤリと笑い、スタスタと先をいく恋人を追いかけた。  「正樹っ、待ってよ」  「無理だよ、我慢できない。大地が欲しい」  妖艶な笑顔で言われて、青木は鼻を抑えた。  「大地、ご飯…っ!?まぁた鼻血か?全く…」  正樹は苦笑いしてハンカチを差し出した。そのハンカチは血の匂いと混ざって僅かに正樹の香りがして、いよいよコントロールができそうになかった。  (欲しいのは、俺の方だよ)  前を歩く恋人に微笑んだ。 

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