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第121話 焦りの見え方
ピアノの音が鳴るスタジオ。
練習に付き合ってくれたのは、青木と優一。
「レイさん!いいよ!音域広がったね!」
優一の笑顔につられて笑う。青木もピアノを弾きながらすごい、すごいと褒めてくれる。
次の新曲までに、ステップアップしたくて、ドラマで忙しい青木のスケジュールに合わせてボイトレの時間を作っている。
はじめは優一に相談してみた。すると、もの凄く喜んでくれて、調整も優一がしてくれている。
「レイさん、ここの…青木、音もらっていい?…そう、そこの音から上がる時にちょっと力んじゃうからリラックスしてみて?」
「確かに!そこ不安なんだよなー。出ないかもーって」
「大丈夫大丈夫。リラックスしたらもっと出しやすくなるよ!」
優一のアドバイスも的確で、日々学ぶことが多くて楽しかった。1人では気が付かないところを気付いてくれる。いい所も悪い所も。
大河とタカのユニットを見て、正直焦った。あれが、大河のレベルなのだ。何の心配もなく、自分の実力を思う存分発揮している姿に今のままじゃダメだと思った。
「レイさん…?どうして焦ってるの?」
片付けを終えて、青木を見送った後、優一に問いかけられて言葉に詰まる。
この大きな澄んだ瞳を躱す方法はない。
「…大河とタカさんのユニットさ、すごいなって思ったんだ」
「ねー!俺も思った!」
「大河が、もっとのびのび歌えるようになりたいんだ」
「?どういうこと?」
「大河に寄り添うように歌うんじゃなくて、大河の隣で歌いたいんだ」
「あはー。なるほどね」
優一は近くのベンチに腰掛けて、ポンポンと隣を叩いた。大人しく座ると、ニコッと笑われた。
「大河さんは、隣だと思ってると思うけどなぁ」
「え?」
「俺は、どちらかと言うと、緊張して見えたよ?大河さん下ハモあんまりやったことないでしょ?」
「大河が下ハモだったのか!?」
「そうそう。タカさんもダンスに挑戦だったけど、大河さんも挑戦だったんだよ」
知らなかったことに、ぽかんと口を開ける。
「大河さんが1番リラックスしてるのはRINGの時だと思うよ。引っ張って行くっていうより、みんなで、の方が合うと思う」
優一は足をぶらぶらさせながら、前を向いた。
「でもね、俺も悔しかった。あのユニットは、悔しいくらいよかった。所謂天才コンビでしょ?本人達は否定するけどさ、紛れもなく天才だよね…追いつけない気がして、焦って泣いたこともあるよ」
「そうなのか?」
「恥ずかしいし、バカみたいでしょ?焦らないでいいって言われても気持ちは追いつかないよね。レイさんの気持ち、すごくわかるよ」
優一が儚く見えて、頭を撫でてやると、へへっと嬉しそうに笑った。
「レイさん、一緒に頑張ろ!もっと上手くなって驚かせちゃお!」
「おう!頑張ろうな!」
ピンク頭をわしゃわしゃすると、くすぐったそうに笑ってご機嫌だった。優一の焦りも分かって、支えてやらなきゃな、と気合いを入れた。
ーー
「ただいまー」
「レイ!やっと帰ってきた!…あまりにも遅いから連絡しようと思ってたよ」
「ごめんなさい」
何本も仕事をした後に、ボイトレや歌の練習を入れる日々。
帰ってくるとクタクタで、伊藤と話すことも少なくなった。
「レイ」
「ん、もう眠い…風呂行って寝る…」
「レイ」
「ん?」
半分も開かない目で伊藤を見ると、ぎゅっと抱きしめられてきょとんとする。
「レイ、頑張りすぎ」
「え?…あはは…そんなことないって」
「レイ…」
「ん、もう、いい?疲れたから…」
身体を離そうとすると、更に強い力で抑え込まれ、服の中に手が入る。
「ん!ッいやだ!!!」
「…あ、ごめん」
「ご、ごめん…響、疲れてる…から…」
「あ、そうだよな、ごめん」
気まずくなって急いで風呂場のドアを閉めて鍵までしめた。
(響が、求めてくれたのに…)
洗面台に写る自分の顔は真っ赤で、少し嬉しそうだった。
風呂上り、やっぱり伊藤が気になって伊藤の寝室に行く。
(あ…起きてる)
電気も消えて、目を閉じていたが、起きているのが分かって、隣に潜り込んだ。
「響、さっきはごめん。」
「…別に、気にしてないよ」
「少し、焦ってたんだ…仕事のことで…ごめんな?…でも、とっても嬉しかった」
「ん」
「今は…シたいって思ってる。」
そう言うとガバッと布団を取られ、噛みつくようなキスをされる。
「っ!?んー!んー!」
「っは、ごめん、レイ、我慢できない」
熱い舌が唇から顎、首筋へ降りていく。Tシャツを脱がされ、乳首をちゅぱちゅぱと吸われ、レイは性急な伊藤に戸惑った。
(嬉しいけど、恥ずかしい)
どこもかしこも敏感になって、腰を触られると、力が抜ける。下着ごとジャージが抜き取られ、痛いほど勃った熱が伊藤の口内で攻められる。
「はぁっぅ!っあ、っあぁ、気持ちっ」
「じゅるっ、じゅ、っ、」
「やぁ!っあ!出ちゃ…う、ひびきっ」
伊藤の髪を握りしめて、目を閉じる。下半身が無意識に動いて、伊藤の口内で腰を振る。
(どうしよう、イく!!!)
「ッァアァア!!」
我慢できずに口内に放って、ぼんやりと天井をみた。
「は、はぁ、レイ…」
上から見下ろす伊藤の顔にレイは息を飲んだ。
(響…興奮してる)
「可愛いよレイ…好きだ」
「っ!」
「レイ…ここに…入れたい…」
膝を立てられ、敏感なそこに舌が入って目を見開く。
「やっ!響!」
「いいから…力抜いてて」
「やぁ、やめろよ!汚いからっ!」
「風呂入っただろ?」
「入ったけど…っんぅー!」
「はは、可愛い、恥ずかしいんだろ?」
「当たり前だろ!もう嫌だ」
からかわれたことにムカついて、ゴロンと寝返りを打つ。うつ伏せになった瞬間、しまった、と思った。
「なーに、もっと欲しいって?」
「ちがっ」
「いいよ、もっとシてあげる。」
「あっ…」
また熱を持ち始めて、悔しくて歯を食いしばる。
(うー…気持ちいい、気持ちいい)
だんだん力が入らなくなって、もっと奥まで欲しくなる。
(足りないっ、早く)
「ッぁあああ!?っぁああ!」
「欲しかったろ?」
「はっ、はっ、ぁああん、っんぅ」
絶妙に焦らされたあと、1番欲しい時に指が入ってきた。見透かされているのも、見てくれてるんだと嬉しくなる。
「はぁ…可愛いな、お前は本当に」
(今日…響がデレデレだ…どうしたんだろ)
嬉しいけど不思議で、後ろを向くと、目が完全に据わっていた。
(あの時みたいな…目だ)
「なに?もっと?」
「あっ」
「ほしい?」
「ほし…い」
そう言うと、指をぬかれ、一気に杭を打たれた。
「ッァアァアーー!」
「んっ…はっ…」
「ッァアァア!ひびきっ!ッァアァア」
「気持ちいいな、レイ」
うんうん、と首を縦に振って答える。耳元で気持ち良さそうな伊藤の声を聞きながら、レイは絶頂を迎えた。
「レイ、どうした?……無理させたな、ごめん」
「え?あ、ううん、大丈夫」
後処理を終えて、ぼーっとしていると、苦笑いで頭を撫でてくれた。その後ぎゅっと抱きしめられて、レイはドキドキしっぱなしだった。
「好きだよ、レイ」
「俺も、響が大好き」
「ごめんな、疲れてるの分かってたけど…抱きたくて仕方なかった」
久しぶりに求められ、嬉しい言葉に驚いて伊藤を見る。優しい顔に照れて、すぐに目を逸らした。
「レイ?お前さ、たまーに…なんだろな、フェロモン的なの垂れ流してるんだけど…どうにかなんないの?」
「なにそれ」
「なんか、エロいんだよね。その時のレイは、仕草も目線も、笑顔も全部エロい」
「響が欲求不満なんじゃないの?」
「や?マコも言ってたんだよ。レイさん今日色気すごいねって。…定期的にあるよなー。疲れが出たら…なのかな?」
「知らない。」
首を傾げて、響の胸に顔をつけた。心臓の音が早くて嬉しくなった。
「響に好きって言ってもらえて、俺すっごく嬉しいよ!明日も頑張れそうだっ!」
ニカッと笑うと、また噛みつくようなキスをされ、この日は明け方まで抱かれた。
「ふぁぁああ〜!」
「うはは!なんだよレイ!大あくびだな!」
「眠っ…やばい。意識とびそう」
「伊藤さんもあくび止まんなかったけど…そーゆーこと?」
「まぁ…。な、大河?俺、最近変だった?」
「変?……あー、よくあるやつだけどな。伊藤さんとマコがさ、エロいエロいって騒いでたよ。」
伊藤と同じことを言われて、首を傾げると、大河は苦笑いした。
「レイはいつも元気な笑顔だろ?だけど、最近忙しいみたいで笑顔が少なくて…なんだか遠くを見ているような表情ばっかりだし…。俺は心配だったけど、お前の彼氏はエロいって言ってるから大丈夫かなって。」
「うわぁー余裕なかったからかぁー」
あからさまに悩んでいたのが恥ずかしくて凹むが、恋人にはいいように見えていたのなら結果オーライだった。
「でも、最高に気持ち良かった」
「おい!そんなこと言うな!」
思い出して思わず出た言葉に大河が顔を真っ赤にして吠えた。
ケタケタ笑って収録スタジオに入る。
(早く、恋人の響に会いたいなぁ)
マネージャーの伊藤を見て、ニッコリ笑った。
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