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第122話 サポート

「うー、つられちゃう」 ルイの練習に付き合って、深夜1時。篤は真剣に見てくれている。はじめは、メインボーカルが選ばれなかったことを、リクに相談にきていた。  「どうしてルイなんですか?僕を推薦してくれなかった理由はなんですか?」  「こればっかりは作曲者の指示だ。本人も、俺も、お前と同じようなリアクションをしたさ。…でも挑戦させたいメンバーらしい」  「…挑戦?…ルイはもう踊れるからいいじゃないですか!僕には歌しかありません」  「そんなことねーよ。焦んな」  珍しく不安そうにする篤に笑って、2人で飲みにも行った。  しばらくダンスメンバーしか絡んでやらなかったことをリクは申し訳なく思った。 「リクさんはダンスが好きだから…力を入れてるのは分かります。でも、僕らだってもっと見てほしいです。」  「そうだよな、ごめん。」  「……。ごめんなさい。責めたかったわけじゃないんです。ただ…悔しかったんです。歌で、選ばれなかったことが。」  言ったことを後悔して落ち込む篤の肩を叩く。「歌しかない」と言わせたのはマネージャーとして失格だと思った。  「今回のは、どのチームのメインボーカルもいないぞ?」  「…っ!あ、本当だ…」  「カナタも、大河も、翔もいない。そしてお前もな。だから挑戦なんだ。メインボーカルを頼ってきたメンバーだけでどこまでの音が出せるのか。」  篤は心なしかホッとしていた。  「…あと、ここだけの話、もうルイにアクロバットは無理だ」  「え!?」  「故障は騙し騙しやっても痛みはある。だからあいつも焦ってる。…ステップや歌を勉強しはじめたのは、あいつが1番分かってるのさ。」  「そんな…っ」  「アクロバットで沸かせるのが好きなルイが、グループにいるために、芸能界で生き残るために、あいつなりに動いてるのさ。今回は手伝ってやってくれねーか?」  篤は、知らなかった、と下を向いた。  ルイが大技を決めたり、ダンスが好きだと知っているからこそ、心が痛んでいるようだった。  「ルイは、誰にも言ってない。もちろん、俺にも。…でも無意識に腰を庇うのさ。動きを見てりゃあ分かる。ただ、ダンスバトルで細かい動きで沸かせられることが分かったからまだ余裕はあるけどな。本人が言ったのは、歌を真剣にやりたい、だったかな」  「へぇ…歌に興味あったんだ…」  「お前知らないのか?熱狂的なブルーウェーブファンだぞ?普段はバラードばっか聞いてるよ」  「えぇ!!?意外!!!あれはネタかと思ってた!」  心底驚く篤に爆笑して、まだまだだな、と言い放つと苦笑いした。  「リクさん、ルイのお手伝いに入っていいかな?」  「お願いしまーす。俺ダンス以外は知らねーから。」  ーーーー  「篤〜ここやってみてー?」  「ここはね、あぁ…裏声がいいかも…」  技術的なアドバイスはさすがだな、と見ていた。ルイもいつもみたいに騒がずに、ひらがなで「うらごえ」とメモをしていた。  ルイは感覚派だから篤の説明は理解できないと思っていたが、篤が説明の後にすぐにやってみせるのが分かりやすく感じているようだ。  「篤が言ってくれたらすぐ分かるー!シュウトさんは難しいんだぁ…。マネして、ってしか言われないから…。ヒカルは無視してるし、ユウはすぐ出来ちゃう…。うわーん、篤も一緒にいてよぉ」  篤にしがみつくようにハグして、一瞬見えた顔は泣きそうだった。  (さすがにプレッシャーだろうな)  あまり弱音を吐かないルイに篤も驚いて背中を撫で、困ったように、心配そうにリクを見た。それに苦笑いで応え、ルイが気が済むまでそのまま放置した。  ーー  「最近あいつら仲良すぎじゃね?」  「確かにー!キャラ違うのに…」  「篤取られたぁ…」  「どういうテンション?篤ついて行けてる?」  ルイは、楓とセットだったが、この企画からとなりには篤がいた。篤は自分がサポートする、という使命感が強すぎて異常にそばにいた。リクは苦笑いしながらそれを見て、異色のコンビに見慣れはじめていた。  「おっはー!」  「おう!…って、また篤も一緒かよ!仲良すぎ!」  楓はさすがに調子が狂うのか、指摘するとルイが篤の肩を組んだ。  「篤が俺の支えだもん!ねー!」  「なんだよ、ねー!とか。気持ち悪い!」  「何で怒ってんのさ?楓ー?」  「うるせぇゲイ共!向こう行け!」  楓はイヤホンをさして1人でダンスの練習をしはじめた。ルイはそれを見て楓に飛びつき、ニシシと笑って構ってもらっていた。  「篤、そんな寄り添わなくていいよ?」  「んー…なんかほっとけなくて。」  「分かるけど…」  「歌以外でも支えてあげられるんだって、思いたいだけです。」  「そっか」  リクはやりたいようにさせようと、スルーした。どちらも大人だからなんとかなるだろ、とほっとくことを決めた。  しかし、ストレスは思わぬところから爆発した。  「お前!ルイに構いすぎなんだよ!こんなことあいつは自分でできるだろ!!自分でさせろ!」  「だって、熱でてるから…」  「あぁ!?あいつか熱なんか出すかよ!」  「見てたら分かるでしょ?!分かんないの?ずっと一緒にいるくせに」  篤も珍しく言い返し、楓の顔が変わった瞬間、ため息を吐いてリクは介入した。  「楓、座れ。篤、出てけ」  「「はい」」  篤を出して、楓の前に座る。イライラして貧乏ゆすりしてる楓にため息を吐く。  「楓、どうした。そんな熱くなって」  「何すかあれ。きもいんですけど」  「何が?」  「急にルイにベッタリ。見てらんねーっすわ」  「ルイを頼んだのは俺だ」  「っ!!」  「だとして、お前がなぜそんな苛立ってんのって聞いてるの」  「知らねーすよ」  「そう?…ならまぁそんなカリカリすんなよ。」  立ち上がると、楓が睨みつけてきて首を傾げる。  「なんで篤なんですか?」  「メインボーカルだから」  「??」  「お前、歌うたえんの?篤より上手いのか?適材適所ってやつよ。今は篤の力が必要なの。ルイが選ばれたのは分かるだろ?あいつなりに今必死なの。だから、お前らと遊んでる余裕もないし、お前に甘える余裕もない。」  「え?」  「お前は本当、構いたがりだよなぁ。うぜー、とか言っといて気になって仕方ないんだろ?面倒なやつだな」  「そんなんじゃないっすよ」  「じゃあほっときな。お前がキレる義理はないだろ?」  下を向いたまま何も言わない楓をほっといて、廊下に出ると、ベンチに座る篤と、話を聞く辰徳。  「たつ、篤、お疲れさーん」  「リクさん、楓…」  「あぁ、ほっといていい。寂しいんだろ、ルイを取られた気がして。」  「でもさ、篤?俺も構いすぎな気がするよ?」  辰徳が言葉を選びながらゆっくりと話しかけている。端正な顔が心配そうに歪む。篤の気持ちを尊重しようと必要なことは言わない。  「ルイや楓たちには、ついて行けないと思ってたから。やっと必要とされた気がして…張り切りすぎちゃったかな」  はは、と苦笑いする篤は、素直に辰徳の言うことを聞き、歌だけサポートすることにしたようだ。  一件落着かと思ったが、今度はルイに誰も関わらなくなった。アホすぎるメンバーにリクはため息を吐いては様子を見た。  「ゴホッゴホッ…ゴホッ」  「ルイ、風邪?」  「ゴホッ…大丈…ゴホッゴホッ」  心配そうに見る楓と篤は、目が合った瞬間2人とも逸らし、何も声をかけなかった。  (本当バカだな)  「ルイ、大丈夫?ほら、お水、ゆっくりね」  「のど飴あるよ」  潤が水を持ってきて、龍之介は笑顔で飴の缶を見せた。  (これぐらいでいいのに…こいつらは…)  ルイは怠そうにありがとうと言って水を飲み、飴は断って眠い、と目を擦った。  「楓ー、膝貸してー」  「は?何でだよ」  「んー…ごめん、じゃあいいや」  ルイは寂しそうにソファーに横になると、変な咳をしながら眠りについた。  「うーわ、意地悪!」  「最低ー!」  「やだー拗ねちゃってさ!」  ルイが眠った瞬間、潤と龍之介が口々に楓に文句を言った。楓が無視していると、篤がブランケットをルイにかけた。  「静かにして」  それだけ言うと部屋を去った篤に、龍之介が口笛を吹いてニヤリと笑った。  「スマートだなぁ、誰かさんと大違い」  「龍之介、そろそろ楓がキレるぞ、やめとけ。」  辰徳が止めるのも待たず、龍之介の鳩尾に拳が入った。  「楓、お前いい加減にしろ。さっさと帰れ」  リクもさすがに苛立って楓に言うと、楓は振り向かずに帰っていった。  「楓は、サナちゃんの次はルイかー?ついに78もグループ内恋愛!」  「潤、お前も殴られるぞ。」  「篤は彼女いるよ」  「え!?本当か?!たつ!!」 驚いて辰徳を見ると、ふわりと笑った。  「RINGのユウのお姉ちゃん。」  「「「えぇーっ!!?」」」  「お、おま、言っていいのか?」  「え?ダメなのかな」  「ダメだろ!わははは!たつは相変わらず天然だな!!」  龍之介が爆笑し、他は驚いていた。  「猛アプローチだったよ。ユウのお姉ちゃんのとこ毎日通ってるし」  「マジかよ…撮られないようにしなきゃ…」  リクは慌てて席を立ち、篤に電話をしようと部屋を出た。  そこには、風邪薬と水を持って立っている楓。  (…可愛いやつ…)  「楓!」  「っ!あ…」  「飲ませてやれよ?頼んだぞ」  「あ!はい!」  (これで、「リクさんに頼まれた」っていう理由ができるだろ?)  肩をポンポンと叩くと、楓はすぐに部屋に入っていった。  (…面白くなりそうだな…)  リクはニヤニヤしながらその場を後にした。 

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