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第126話 やる気の源

バシン!!  「あいた!!〜〜〜っ!!」  竹刀を落として、叩かれたおでこを押さえる。受けると思っていたレイが慌てて誠に駆け寄った。  「マコ!ごめん!大丈夫か?」  「痛い〜!」  「あちゃー…大きなたんこぶ…」  「うぅー」  先生は呆れて、氷を準備してくれた。誠は泣きそうになりながら青木とレイの殺陣を見つめる。  (かっこいいなぁ…出来る気がしないよ…)  練習を開始して3回目。数多の青痣が痛々しい。誠が詰まると全部が狂ってしまい、レイや青木も失敗してしまう。  「マコ!大丈夫だから!俺を信じろ!」  「いや、レイさん!マコちゃんが自分自身を信じなきゃダメだ!」  「マコ!俺はあと10分でここを出なきゃならない!一回だけでも通したい!」  2人に励まされ、しぶしぶ立ち上がった。  バシンッッ!!  「痛ーーッ!!」  「はいはい、お疲れお疲れー」  「うー大河さーん…」  大河が舞台の台本を読んでるのを邪魔して、大河の膝に顔を埋める。全身が痛くて、おでこのたんこぶが気になってグリグリと押しつけると後頭部を叩かれた。  「大河さんまで叩かないでよ!どんどんバカになっちゃうよ!」  「もうバカだからいいだろー?」  「ダメー!」  大河はクスクス笑いながら、やりたいようにさせてくれる。包容力に安心して甘え、気が済んだら構成の仕事に戻った。  「チッ…もう行っちゃったのか…。あのマコ可愛いのになぁ…」  少し寂しがる大河に気付かず、映像の案を調整していた。  メンバーにオープニング映像を見せることになり、緊張して早めに会場に向かう。映像制作会社のやけに手厚い歓迎に、映像に自信があるのかと期待していたが、その逆で半分も仕上がっていなかった。  「あの…何か手違いがありましたか?」  「いえ、いま調整中で…」  「え?スケジュール間に合いますか?今日メンバーに見せて、修正点のミーティングですよね…。これは…意見が出しにくいというか…」  特殊な演出を頼んだ覚えはないが、進行具合に不安になる。念のため他のものも確認すると、全てが形になっていなかった。  「おはようございます」  「RINGさん入られます」  メンバーの到着にドキリとして焦りが出てしまう。誠の様子にやっと慌てた制作会社がバタバタと動き始めた。  「わぁー!広い会場!なんか…グッとくるよね!」  優一の嬉しそうな声も、耳に入って来ず、ひたすらメインステージのモニターを見続ける。  (メンバーが立った時にどう見えるのかまでやりたかったのに…どうしよう。)  スケジュールを見ながら、無い頭で必死に考える。いよいよ見せる場面になって、照明が消される。  「「「「?」」」」  みんなが不思議そうに誠を見るが、誠はスケジュールや、修正箇所をメモするのに必死だった。  「えー、この後こういう映像が流れる予定となります。」  「…あ、はい」  誰もイメージできないまま、この回が終わった。  その後のミーティングでは見ていない分、何も意見が出てこないメンバーたちに、スタッフは修正がない、と判断して進めようとしていた。  「すみません。少しいいですか」  ずっと黙って見ていたが、気持ちに温度差があるように感じた。  まだ、知名度が足りなくて、知らないアイドルなのかもしれない。だからか、なんだか愛を感じられなかった。  「進行速度、大丈夫ですか?」  「修正箇所がないようなので、当初の予定通りで行けば問題ありません。」  「見てないので、修正しようが無いですよね。お手間かもしれませんが、これは俺たちの初のドーム公演なんです。ご協力いただけないですか?」  「マコ!」  伊藤が止めるも、誠はスタッフを見て気付いた点をすべて細かく指示した。  「粗探しではありません。現状だけでも俺にはこんなに穴があると思っています。途中経過しか見せられないなら、こちらから指示を細かくさせていただきます。次回は本番同様の、もちろん修正点なしのものを見せてください。ちなみに、メンバー達もイメージが湧くようにとこのスケジュールにしたんです。それが…今日はできませんでした。…俺は、俺たちは、一緒にいいものを作りたい、それだけです。…よろしくお願いします。」  言葉を選んで、でも、分かってほしくて厳しいことを言ったし、たくさん注文した。思い入れが強い分、温度差を埋めたかった。  「マコの言う通りです。今日は全員のスケジュールを合わせてここへ来ましたが、正直無駄足です。次回は本番のような形でお願いします。俺たちも仕上げてきますんで期待してください!」  レイも同意してくれて救われた気がした。その後からは、気を遣っていたのか、メンバーがそれぞれ意見を言い始め、スタッフにも火がついたようだった。1番刺さったのは、優一の言葉だった。  「ドームなのに、どっかの体育館みたいでした。」  さすがに反省した様子にほっとして、メンバーが帰った後も打ち合わせを重ねた。  「ただいまー…」  明け方に帰宅して、静かに風呂場に向かう。  湯船に浸かりながらタブレットで細かいところを詰めて行く。朝日が登って、慌てて寝室へ行き、数時間ですぐ仕事に向かった。  コンコン  パソコンに向かう日が続く中、ノックの音にハッと顔をあげる。  ガチャとドアを開けたのは愛しの恋人。  思わずほっとして微笑むと、真顔の恋人はスタスタと近付き、後ろからそっと抱きしめてくれた。  「…?大河さ…んっ、んぅ」  後ろに顔だけ向けるとキスされて、思わず口を開くと熱い舌が口内を擽る。  (何!?どうしたの大河さん)  風呂上りなのか少し湿った髪からは、シャンプーのいい香りがして、ほかほかした肌が気持ちいい。  椅子を回転させられ、向かい合うと膝に乗って首に腕が回る。長いまつ毛が近くて、呼吸が直に伝わる。全てに興奮して、服の中に手を入れ背中を撫でる。気持ち良さそうに薄く目を開き、少し微笑んだ顔が妖艶でたまらない。  「大河さん…」  「マコ…」  膝から降りた大河は、ゆっくりと服を脱ぎ始める。目は逸らさないまま、ゆっくりと、挑発するように笑う。 生まれたての姿は本当に綺麗で目を奪われる。ゆるく反応した熱に、倒れそうな程興奮した。  「マコ、おいで」  ブチン!!  何かが切れた音がして、勢いよくベッドに押し倒す。首を噛んで、熱を扱いて、粒を弾く。  「ンッ…イイよ…マコ…最高」  セクシーな声で褒めてくれて、必死に欲望のままに動く。  ベッドサイドの引き出しからローションを取ったが、焦って大河のお腹に零す。  「あーぁ、お前…全部使うの?もったいない」  大河の手が、自分の体を弄るように動き、艶かしく光っていく。厭らしく光る突起も、腹筋も全てに興奮する。 それを見ながらローションを絡めて穴をほぐしていくと、ビクビクと大河が跳ね、この日初めて少し焦った顔をした。  (はぁ…たまんない)  余裕があったはずの大河が、快感に引っ張られはじめた。リードしていたのが形勢が変わって可愛く声を上げる。  「あっ!んぅ…っはぁ!!あぁあ!」  イイところに当たれば眉がさがり、顎が上がる。 「はぁっ、ん、もぉ、いいだろ…?」  「…っ、どうしたの、今日」  「っ、別に…っ、も、入れたいだろ?」  「ん…いいの?」  「言ったろ?…おいでって」  「今いくね」  下を脱いで、熱を擦り付ければ、たまらなさそうに目を閉じた。頬にキスしながら中に入ると、ローションで一気に奥までいった。  「ーーッ!?」  背を反らして、刺激に耐える大河が可愛くて、小刻みに腰を揺らすと、頭を振って叫び始めた。  「ぃやぁああ!ダメ!これっ!やだぁ!!」  「はっ、…は、気持ちい…でしょ?」  「ァアァア!!こわ…い!ッぁああ!」  「怖くないよ、大丈夫大丈夫」  ギシッギシッとベッドが軋んで、大河の体が跳ねる。目の前の人しか見えずに高みを目指す。なす術なく揺さぶられる大河は、伸びてきた髪が汗で張り付いて色気が増す。  暑くなってきて上着を脱いで、強く腰を振ると、目を見開いて体が浮く。  「ッァアァアーー!!」  「はぁはぁっ!気持ち、よすぎ!」  「ん!!イっ…た、イったからぁ!止まってぇ!」  顔を真っ赤にして、嫌々と首を振るのも可愛くてまだ奥を刺激する。涙が溢れるところを見てゾクゾクと腰に電流が走った。  (やばい!イく!!)  「ッぃやぁああ!まこ!!まこ!!とまって!」  「くっ…ぅ、ーーッん!!!」  ドクドクと吐き出して、まだうるさい心臓を落ち着かせる。ガクガクと震える大河から出て、足を開いて腰を持ち上げる。  「…っ、やだってばぁ…いつも見るなよ」  「はぁ…エロっ」  大河の中にいたという証拠がたまらなくて気が済むじっくり観察する。 (最高…っ)  まだゾクゾクするのを堪えていると、大河がふわりと笑った。  「息抜き、できた?」  「え?」  「集中するのもいいけどさ、余裕ないの分かってる?」  「そうだった?」  「うん。もう限界だっただろ。気付いてないみたいだけど。」  「??」  「ほとんど寝てないくせに、寝たら寝たで俺のケツ触ってくるし…仕事中はずっと俺の腰さわるし…離れたら俺見てぼーっとしてるし…見てられないっつーの。」  「ぅえ!?う、嘘でしょ!?」  「それに!お前さ、2週間もセックスしてねーよ?この感じじゃ自分でも抜いてないだろうからさ。お誘いしてみた。」  顔が熱くてたまらない。  気がつけば2週間もたっていたようだ。それにしても恥ずかしい。  「仕事だから、って言われたらどうしようって、少し緊張したけど…。まぁ…結果オーライだな。めちゃくちゃ腰痛いけど。」  悪戯っ子みたいに笑う大河が可愛くて強く抱きしめる。  「ありがとう。気持ち良かった」  「リフレッシュも大事。分かった?」  「はぁい」  「おい!もう終わりだぞ!?擦り付けんな!」  嬉しくて、愛しくて、好きだなって思うと体が反応した。  大河はすぐに気付き、嫌そうな顔をしていたが、求められると応えてしまう性格を知っている。  「足りないよ、もっと大河さんがほしい」  「ずるいよなぁお前は。そんな顔、断れるわけないだろ」 困ったように笑って、キスしてくれる大河に幸せを噛み締める。年上の恋人はこうして甘やかしてくれたり、支えたりしてくれて、もっと好きになった。  「ッ!…ッぁああ!まこ!まこぉ!!」  「いいよ!っ!イって!」  「んぅッーーッ…ッァアァアーーッ!」  勢いがなくなった精液を吐き出して、大河は微笑んだ。そんな大河を抱き上げて風呂に行き、後処理をするとだんだん瞼が重くなる。  「マコ、今日は仕事も終わり。寝よ」  手を引かれて、ぼんやりしたまま着いていく。大河は汚れたシーツを剥ぎ取って床に捨て、誠を寝かせた。その後、ソファーに置いてあった大河のお気に入りのブランケットがかけられ、隣に大河がきた。  「た、大河さん!腕痛くなっちゃうよ!?」  「いいからいいから。寝よう。マコ、頑張ってくれて、ありがとうな。おやすみ。」  大河の腕枕と、優しく髪を撫でられて瞼が落ちた。  「全く…世話やけるなぁ…。って、俺がもう限界だったんだけどな…」  大河は少し笑って満足そうに整った寝顔にキスをした。  「おはようマコちゃん!…復活したね!」  「本当だ!お肌ツヤツヤ!」  青木と優一に言われて顔が熱くなる。2人はニヤニヤしてからかってくる。  「ずーっと大河さん見てたよねー…怖かったぁ」  「本当!何あの目!エロい手つき!そのくせに大河さん放置でしょ?可哀想だったな」  「え、そうだっけ?」  「仕事に集中してるくせに体は正直なんて…まこちゃんてば」  キャーと頬を押さえる優一に苦笑いして、反省した。  「行き詰まってたところでリフレッシュ出来たでしょ?さぁ、今日は午後の殺陣の練習頑張ろうね! 」 「頑張る!!」  浮かばなかったアイディアもどんどん浮かんで、苦手だった殺陣も落ち着いて出来た。頭がスッキリして身体も軽い。  「お前さ…発散したら調子良くなるとかすごい体質だな。大河に感謝だな」  レイにも呆れたように笑われて恥ずかしくなった。この日のレッスンは全て上手くいって頭が冴えたようだった。  「やっとリラックスした?」  「わぁ!大河さん!稽古お疲れ様。」  「お疲れー。調子良かったんだって?優一が爆笑してたぞ。」  「優くんめ…。レイさん呆れてた…悶々としてた理由が欲求不満だったなんて…」  改めて恥ずかしくなると、大河が誠の手をそっと握った。  「マコ、俺も。」  「え?」  「今日、調子良かった。ありがとうな」  恥ずかしそうに笑う恋人が可愛くて思わず頬にキスした。  「あーら。イチャついてんの初めて見た」  「うわぁ!リクさん!」  「へー。大河可愛い顔すんのな」  「〜〜っ!」  リクがニヤニヤして、持っていた資料をまるめて2人の頭を軽く叩いた。  「気をつけな?お前らバレだらとんでもないことになるぞ。」  「「すみませんでした」」  「家で思う存分ヤりゃあいいだろ?中学生じゃないんだから。」  リクがドカッと誠の隣に座った後、2人を見た。  「グループ内恋愛、しんどくないの?」  「?…いや、別に…」  「そっか。」  「どうかしました?」  「んー?まぁちょっとね」  ありがとう、と立ち上がった後、くるりと振り向いた。  「お前らのこと、初めからみんなは応援してくれたの?」  「えっ…と、俺の一目惚れってことはみんな知ってました…」  「そう。大河は知っててそのままにしてたの ?」  「…正直言って…初めて会った時から…俺も…」  「え!!?本当!?本当なの!?」  「あぁもう…うるさいな!」  誠は真っ赤になる大河に舞い上がりすぎて、見えない尻尾がブンブンと左右に揺れた。  「お前の歌と目線にやられたんだよ。落とすつもりで歌ってたくせに」  「やばい…死にそう…っ」  誠は顔が熱くなり話を振ってくれたリクに感謝した。  「惚気はいいの。…まぁどちらも脈ありだった…ということね。良かったな」  「良かったです!!」  「うははっ!まぁ…結果オーライよな。両思いなれたんなら。」  リクはニコリと笑って、ご馳走様とウィンクして去っていった。  「何だったんだろうね?」  「さぁな」  「そんなことより!さっきの本当!?」  「…嘘つくわけないだろ…」  潤んだ目で見つめられ、腰がゾクゾクと震える。そんな誠に気付いてないのか、わざとなのか、大河が手を強く握ってきた。  「あの日に捕まったんだよ、俺は。捕まえたくせに自覚なかっただろ。」  「全く無かった…」  「自信持てよなぁ…全く。」  クスクス笑う顔が幸せそうで、この顔にさせたのは自分だと思うとたまらなかった。  「あー!伊藤さんまだかなぁ!?」  「あっはは!もうちょい我慢。」  満面の笑顔が隣にあって、心が満たされる。 「お前が思ってる以上に、俺はマコを求めてるよ」  「うぅー!!なんのご褒美!?」  「演出頑張ってるからご褒美」  「やっててよかったぁあああ!!」  「頼むぞー!ドームはお前にかかってるぞ」  こんなプレッシャーさえも、愛の言葉に聞こえるほど舞い上がり、俄然やる気が出た。  (やってやるぞ!)  気合いを入れ直す誠の隣で、同じく幸せそうに見つめる大河だった。 

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