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第131話 修羅場
「え?楓さんと大河さんが?」
思わず聞き返すと、ルイは激しく首を縦に振った。
「ここだけの話だよ?大河の腰をこう…抱いてさ、隠れるように楓の部屋に行ったんだ」
「まさか!大河さん、楓さん苦手なのに…」
「そう!楓も、マコちゃん大河にとられて嫌いなのにさ!変だよね!」
ルイは自分のバイクに腰掛けながら、タバコの煙を吐いた。
「ルイさん、ペース早いですよ。タバコ、アカペラで辞めてたんじゃないんすか?」
「辞めてたよー。昨夜の見るまでは」
バイクの灰皿は綺麗だったのに、そこに灰が積もった。
「なんかね、似合わないって思った。」
「たしかに」
青木は相続して苦笑いしながら同意した。ルイは真顔のままで新しいタバコに火をつけた。
「ルイさん、吸いすぎです」
「何だろ?マコちゃんでもサナちゃんでもイライラしなかったのに。他の女の子でも。なんかさ、すっっごく嫌だったんだけど。俺っちも大河嫌いなのかな?…うーん、やっぱり嫌いじゃないなぁー…むしろすきだけどなぁ。あ、大河が好きなのかな?うー…でも楓の方が好きだしなぁ…うーん。」
ハンドルにもたれながら、うーん、うーん、と唸りながら自分の苛つきの元をたどっている。青木は付き合ってあげながら、本当に大河だったのかを信じられなかった。
(大河さんに聞いてみよう)
一生懸命考えているルイに微笑んで、満足するまで付き合ってあげた。
結局、悩んだ結果、「分かんない」で幕を閉じ、ルイはバイクから降りて部屋に戻った。
青木:大河さん、昨日うちのマンションにいた?
大河にメッセージを送ると、珍しく着信がきた。
『青木、まさか、見たのか?』
「え?本当にいたの?」
『あ…。そんな訳ないだろ?どうかしたのか?』
「大河さんこそ…。どうしたのそんなに慌てて。ルイさんが変なこと言うからさぁ」
『な、なんて?』
「楓さんと大河さんが寄り添って楓さんの部屋に入ったって」
『……』
「そんなわけないよねー!あはは!ルイさんってば、さすが天然だよね?」
『…そうだな。俺が行くわけないだろ』
当然の答えに満足して、電話を切った。ルイにも人違いだとメッセージして正樹の帰りを待った。
ピリリリリ ピリリリリ
料理をしているとケータイが鳴り、火を止める。着信はルイからで慌てて電話に出た。
「お疲れ様で…」
『うそつき!大河はうそつきだ!』
「ルイさん、本人が言ってるんですよ?」
『だって!楓が抱いたって言ってるもん!』
「えぇ!!?」
『楓がっ、っ、』
プツンと電話が切れて首を傾げた。
(楓さんが、大河さんを?意味わかんない)
また揶揄われているんだろうと気の毒に思い、また火をつけると、インターホンが鳴る。
(正樹?鍵忘れた?)
また火を消して、ニヤニヤしながらドアへ向かった。
「正樹、まーた…っ!?」
「っ、っ、」
「ルイさん?ルイさん!?どうしたの?!」
タックルするように押しかけてきたルイは、声を殺して泣いていた。初めて見る泣き顔に慌ててドアを閉める。
ガチャ
「ただい…まー…」
「あ、おかえり」
「なんだ?修羅場?」
「分かんない、先輩が泣いちゃって」
正樹は面倒くさそうに苦笑いして、スタスタと中に入っていった。
「っ、っ、大地の、彼氏、やっぱイケメン」
「あはは!ありがとうございます!」
帰ろうとしないし、話そうともしないルイに困って、とりあえず夕食に誘った。正樹は営業スマイルで外向けの対応をしてくれた。
「ルイ…さん?嫌いなもの、入ってますか?」
「ううん」
「ほら、ルイさん食べて下さいよー。大地のシチューは最高ですよ」
「うん」
一点を見つめてぼんやりする、泣き腫らした目が痛々しい。改めて子どもみたいな先輩に苦笑いする。正樹も気まずそうなので、楓にメッセージをした。
青木:楓さん、ルイさんいじめないでくださいよ。うちに来てだんまりです。回収お願いします。
楓:すぐ行く
楓の返信にほっとして、正樹にもメッセージを見せると安心したようだ。
ピンポーン
上の階から降りてきた楓は部屋着のままだったがそれもオシャレだった。
「ルイ、いるか?」
「楓さん、やりすぎですよー?泣いたり黙ったり…こんなルイさん対応できません。」
「え?泣いてた?」
「号泣ですよ…いじるのもほどほどに。ルイさーん、楓さん来たよ」
青木がルイに声をかけると、ビクッとした後、下を向いて首を横に振った。
「楓の顔見たくない」
「あぁ?なんだよお前!迷惑かけてんだよ!早く来い!」
「いやだ。楓じゃいやだ。」
「わがまますんな」
楓が腕を掴むと、ルイは勢いよく振り払って、全員が唖然とする。
「触るな!汚いから!」
「ルイ…」
「俺に…触るな…っ、」
「行くぞ。大地、彼氏さん、お邪魔しました。」
無理矢理楓が引っ張って行って、静まり返った。
「正樹の言う通り修羅場だな」
「あぁ。何、あの2人できてんの?」
「いや?後から来た先輩が、片想いかな」
「え?どう考えても、あの泣いてた先輩が好きそうだったけど。」
2人で首を傾げて、食器を片付ける。洗い物をしている間、正樹が後ろから抱きついてきた。
「正樹、どうした?」
「あの先輩たちも、俺たちみたいに幸せになれるかな」
振り返るとふわりと笑う正樹が綺麗すぎて、唇を奪う。待っていたかのように受け入れて、熱を絡める。キスしながら正樹のベルトを外して、シャツはそのままにスラックスと下着を落とす。シャツの裾から、硬さを持ったものが顔を出し、理性がとんだ。
「ンッぅああ!ん、っぅ、んぅ、っああ、」
グチュグチュとなる音に満足しながら手の動きを早めると、だんだん前屈みになり、シンクの縁を掴み、体を支えている。気持ちよさそうな顔がたまらなくて顔にキスしながら手の動きに力を加えると、大きく跳ねて白濁を飛ばした。
「はっ、はっ、…大地、」
「ん、ベッド行こ」
キスしながら寝室に行き、2人とも焦ったように服を脱ぎ、ベッドへと沈む。
「大地の…んくっ、んっ、んぅ」
「っ!っ、ぁ、正樹っ、無理しない、で」
正樹の口内に包まれ、力が抜ける。苦手なはずなのに、どんどん上手くなっていく口淫に青木はたまらずに声を上げる。
「っぁ、気持ちいいっ、正樹っ、」
素直に快感を受け入れると、嬉しそうにこちらを見てくる。
(エロ…っ)
ぶるっと震えて、腰が痺れそうなほどの快感を味わった。
「ゴホッゴホッ、うー、やっぱ苦い…」
「ごめ、っ、気持ちよすぎて…」
「大地可愛いかった…たまーに抱きたくなるけど…僕はもうコッチを覚えたからなぁ…」
引き締まったお尻がこちらを向いて、フリフリと揺れる。ベッドサイドからローションを取って指に零し、そのお尻の中にゆっくりと入れた。
「んぅ…っぁああ!!キタぁ、っ!」
ぎゅっとシーツを握ってとたんに甘い声が漏れる。目を閉じて気持ち良さそうな顔を後ろから見て、正樹の前立腺を攻めるとガクガクと腰が跳ねた。
「はぁっ!ん!んぅ!ンッ!!」
「気持ちいい?」
「や…ばいっ、っ、んぅ、気持ち、い、」
「は、はぁ、っ、正樹、可愛い」
「は、っ、大地、っ、もぉ、」
指が3本ほど入ると、涙を浮かべた目がこちらを見つめた。
「大地、も、大丈夫、」
「うん」
「…なんで?ゴムつけんの?」
「明日、会議なんでしょ?無理はさせられない」
きついゴムを付け、ふぅっと息を吐くと、正樹が静かできょとんとする。
「正樹?」
「ーーっ!イケメンっ!」
「は?」
「なんだよ大地!今キュンとした!僕のこと考えて?…やっば…惚れるー」
顔を真っ赤にして照れている正樹に笑って仰向けに押し倒す。
「正樹、幸せだね」
「幸せすぎるって。追いつかないよ」
「愛してるよ」
「あははっ!もう!やめろよ!好きすぎてヤバいから」
「正樹も言って」
「愛してる」
きゃっきゃっしていたのが、フッと微笑んで、潤んだ目で言われた。言葉よりも体全体で伝わってドキドキした。
「大地、愛してる」
「正樹…」
「こんな居心地のいい場所…幸せだよ」
キスしながら、ゴムのついた欲を刺激されながら言われ、呼吸が荒くなる。催眠術みたいにどんどん落ちていく。そのまま解れた正樹の中に入れば、どちらも呼吸ができないほどの快感に襲われる。
「ーーっ、はぁ、っ、はぁ、」
「はっはっはっ、はっ、」
ここからは本能のまま、お互いを求め合う。1秒も待てないほどお互いを欲して、激しく体をぶつけていく。
(好きだ、好きだ)
「あっあぅ!?っぁああ!!」
「くぅ!」
「はっ!っぁああ!」
突然中がギュッとしまって、正樹が目を見開いたあと、目を閉じて首を振る。余裕がなさそうに必死に声を上げる正樹に興奮して青木もそれを追う。
「あっあっあっ!ーーーーッ」
「正樹っ!ま、さき、っ、ん、」
「っ、っ、っ、っぁあああ!!」
「くぅっ!ーーっ!」
ドサッと正樹に倒れ込んで、必死に呼吸をすると、頭をサラサラと撫でてくれる。
「ん、正樹、気持ち良かった」
「ふふっ僕もー」
2人でお風呂に行って、今日の話をしながらまったりと過ごした。
(本当、幸せだな)
何でもない1日のわずかな時間が、2人の癒しとなる。
「なぁ?あの先輩たち大丈夫かな」
「さぁー?ノリなのかガチなのかたまに分からないから…」
「後から来た先輩、マジかっこよかったな。」
「は?浮気?」
「バカだな。大地が1番だよ」
「良かった…。楓さんには勝てないから」
「楓さんを知らないけど、そんなことないと思うよー。あ、泣いたり黙ったりの先輩は?」
「あの人は永遠の少年の異名があるよ。ふだんは明るくてムードメーカーだよ。…でも泣いたの初めて見た…」
少し心配になったけど、正樹の知らない話だからすぐに打ち切った。
『ドアが開きます』
「あ、楓さん!おはようございます」
「おう」
「楓さん?体調悪そう…大丈夫ですか?」
「眠い…。大地、事務所まで乗せてくれね?」
「もちろん!」
今にも寝そうな楓を助手席に乗せると、すぐに寝息が聞こえた。
(楓さん…疲れてる)
昨日のことが心配だったが、事務所に着くといつも通り去って行った。
(仲直り、してますように)
広い背中を見送って、青木も気合いをいれた。
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