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第5話

 まるで南国を思わせるような天蓋がついたベッドと、ふんわりと大きなクッションがたくさん転がった室内。白い木目の壁紙に、天井には濃い藍色に金銀の箔押しが贅沢に施された天体が大きく描かれて煌めく。そして、部屋の隅には広い葉が特徴的で、トロピカルな雰囲気を演出させるオーガスタの観葉植物。  その部屋のベッドにヨシと共に並んで腰かける。所在なさげにしている彼を見ると、やはり懐かしいなと葵は思った。本当にここにいて良いのだろうかという不安と、これから変わる期待を同時に胸の内に抱えている。そして何より自分で選んだ分岐点のレールに戸惑いを覚えているのだ。  柔らかなベッドへ後ろ手をつく。ややスプリングが効きすぎるくらいのそこへ軽く体重を乗せる。少しだけ後ろから見るヨシの背中は広くも狭くもなく、極々平均的だ。その背をゆっくりと撫ぜると、ぴくりと反応された。くすくすと小さく笑えば、なんだかバツの悪い顔でヨシがこちらを振り向く。 「襲ったりしないから安心しろよ」 「……逆にどきどきするんスけど」 「はは、いいぜ。もっと、どきどきして?」語尾に向かうにつれ少しずつ吐息を混ぜた声を出す。  すると、見る見るうちにヨシの顔が赤らんでいく。浅黒い肌のためそこまで目立たないが、そんな小さな差異でもすぐに分かる。  ゆるゆると撫でていた手をするりと服の中へ忍び込ませた。意外にも皮膚が薄く滑らかだ。そこへじわりと指を這わせていく。その筋肉は緊張しているのか、強張っていた。 「触られるの、慣れてない?」 「……はい」 「そっか。少しずつ慣れていけば大丈夫だ。接客して満足してもらうことが一番だが、最初から上手く出来ないのはどの仕事でも同じだからさ。相手がどんなことをして欲しいのかを考えて動くことが一番。完璧であろうとはしなくていい。もし駄目だったとしても、失敗を踏まえて次はこうしていこうっていう向上心さえあればやっていけるし。まずは折角の仕事なんだから、楽しもうぜ」  いずれにせよ、人と人との関わり合いである接客業に違いはない。  商売道具がこの体であるというだけ。たったそれだけの違いだ。  覚悟を決めて入って来ただけはあり、ヨシはようやく微笑んでくれた。硬い表情が崩れるとやはり大きな犬のようだな、と改めて思う。項垂れていた耳と尻尾が元気を取り戻している。  リラックスさせるために触れていた彼の背から手を離す。そして、身軽に体を起こそうとすると、逆に掴まれた手首に力が籠められ、気付けば押し倒されていた。レースの天蓋がまるで羽衣のように視界を舞う。  葵の上に跨りベッドへ膝をつくヨシが見下ろしてきていて、その困惑した表情に葵は酷くそそられた。  したいのに出来ない、出来ないのにしたいという相反する欲求を押し留めることを課している。そういった葛藤のリボンを一つずつほどいて中身を取り出すのが楽しいと思うようになったのはいつからだったか。 「……してあげようか?」 「え、でもさっき、予約があるから駄目だって」 「うん、だから……最後までは出来ないけど、君もこんなんじゃ外出れないだろう? それともここで抜いてから出るか? ベッドサイドにコンドームの箱なら入っているし、シャワールームはすぐそこ」  膝で相手の股座をまさぐると、予想通りにジーンズの布地を押し上げる熱を確かに感じた。  そして、葵がそこと指し示したのは衝立にもならない観葉植物の奥。そこはガラス張りのシャワールームだった。 「一人でして、戻ります」 「そう?」ついつい笑いが混じる。  彼の行動と言葉はまるで合っていない。未だしっかりと掴まれた手首から伝わる掌が熱い。  葵が身を起こすと、渋々と離される手がなんとなく申し訳ない気持ちにさせる。そんなヨシの中心へ手を伸ばして、柔らかく揉んでやる。小さい声は漏らすが、彼は抵抗も拒否も、ましてや嫌悪さえも示さない。 「……葵、さん」 「口でするだけ」  襲わないなど安心させるための抗弁に過ぎず、行動と言葉が合っていないのは葵のほうだった。彼のジッパーを下ろし、下着から取り出した性器にしゃぶりつく。手で扱いてやるのと同じくらいの強さと緩急をつけて裏筋から舐めた。そして、窄めた咥内で上下に擦り上げる。彼の熱はどんどんと硬さと質量を増して咥内を満たしていく。熱い吐息と、葵の髪を掴む躊躇するヨシの手付き。その初々しさに欲情しているのは自分の方だった。  滲み出てくる先走りを舌先で舐めては、カリの先端を執拗にぐりぐりと刺激を与える。上からは葵の名前をうわ言のように呟く声ばかりで、静止の言葉は一向に聞こえてこない。 「ッ……、葵さ、ん」  どくりと強く脈打つと同時に口の中へ青臭い苦味が広がっていく。それを少しずつ飲み込んで、汚れた性器も舐め取った。喉の通り道に粘液が絡みつくさまが、逆に潤いを保っているようにさえ思える。  一つ息を吐く。  跪いた体勢から体を正す。すると、ヨシは慌ててベッドサイドのティッシュボックスから数枚引き抜いて、汚れた口元を拭ってくれた。その動作に、よく出来ましたと、心の中で呟く。 「あの」 「……急に悪い。練習の一つと思って水に流してくれ。また何かあったら気軽に声、かけて」  何か言おうとする彼を残して部屋を出た。  

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