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第7話
接客の合間は体を休める時間に使う。そのため、フロアで他のスタッフと擦れ違う以外は空き部屋で横たわっていた。ろくにヨシに構う時間を作ることもままならない。もう写真撮影は終わったのだろうかと、頭の片隅でぼんやりと考える。
店舗での予約をもう一件こなし、挨拶回りをするヨシを掴まえて仕事の説明をした。顔を合わせた時には気まずそうに固まられたが、しばらくすると真面目に話す葵の話をきちんと聞いていた。中々に順応性があるようだ。
それから、また空き部屋で一人横たわる。
浅い眠りを漂い、急に手の中に握っていたスマートフォンの端末が震える振動に気怠く瞼を開いた。そしてスライドさせた画面を耳元へ近付ける。
「あと十分ぐらいで店に戻るから、準備をしておくように」
「了解。……一樹さん、お願いがあるんだけど」
「あ? ああ、わかった」短い応答。
ごろりと転がっていた体をゆっくりと起こして、外出する準備のために寝乱れた髪を整えに立った。
葵は同性の体液を自分の体内に注いでほしいという欲求を常に抱いている。普通の食事で生命維持活動はできても、精神的な物足りなさばかりが押し寄せてつい欲してしまう。これは今に始まったことではなく、ここ数年改善の予兆すらない、セックス依存症よりも性質の悪い――精液依存症だった。
精液依存症と言ったところで、店内では性病を防ぐためにコンドームの装着が義務付けられている。生出しを一度許してしまうと、他のメンバーにも害がおよぶ可能性があるのだ。だから自分自身の体の安全も含め、その点は順守していた。
それでも、飲食だけでは足りない欠乏症が、喉と腹に出される精液が欲しくてたまらなくなる時がある。この異常な体質とつきあい始めた年月は長い――
始めは気紛れに、しだいに競うように、泊りがけで指名をしてくれるお兄さんはプレゼントをしてくれることが増えた。それに対してお礼のブログを更新すると、気を惹こうとまた物品を渡される。そのたびに記憶が上書きされていく。
人間の記憶とは時と共に忘れるように出来ているものだが、六乃瀬葵にとって一度覚えた記憶はなかなか消えないものだった。
そのため、渡された品々と相手の顔を完璧に一致させることが出来た。
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