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第8話
ブランド物のロゴが大きく印字されたしっかりとした厚地の紙袋を肩から下げてホテルを出る。夢の残滓を引きずったような朝は、空から柔らかい光を発していた。小鳥が鳴いているのが聞こえる。ごくありきたりな日常。
ふわりとあくびをする。
一夜を過ごし朝食まで払ってくれたのは、まだ年若い三十代の建設関係の役員だった。大抵泊りがけの予約を取り、決して安くはない品物を渡してくれる。そして毎回飽きもせずに“一緒に暮らさないか”と同じ台詞を残していく。それらは全てありがたい純粋な好意だと受け取っていた。
言葉の裏を読むスキルが低いので、それくらい慎重に生きていてちょうどいいのだ。
彼はほとんどの時間、後孔へ玩具を挿入れるプレイを好んで行う。そのため、ホテルの外に出た時にもまだ違和感ばかりがつき纏っていた。
「ちょっと限界近い」
「体、無理すんなよ」
「そっちじゃない」
「はいはい」
理性が飛ぼうとも、しっかりと店のルールは伝えているので、今のところ中出しをされたことは一度もない。二度と会えなくなるリスクを避けたい気持ちの方が強いのだろう。それも相俟って、いくら店の仕事をしても空腹が満たされることはなかった。
葵のその異変に気付いているのも、自ら体質を教えたのも、守代一樹ただ一人だけだ。
ホテルの駐車場へ迎えに来ていた守代の車の後部座席へと乗り込み、そこへ遠慮なく横になる。軽い言葉の応酬と共に、ブラックのレクサスが走行音も静かに滑るように走り出した。
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