10 / 38
第10話
「僕は何で受付なんてやっているんだ」
「受付のバイトから始めたからだろ?」
「人手不足が原因だよ葵さん!」
「そりゃそうだ」
ドライバーですら足りていない状態だというのだから受付くらいで何を言うのかと、夕方からの出勤早々、涼のぼやきに付き合う。ロッカールームで私物を置いていると、バイトとの交代で入る彼と時間帯が重なり鉢合わせたのだ。あまり縦社会に厳しい店舗ではない。そのため、経営陣以外とは和気藹々としている。この雰囲気はとても居心地が良かった。
各人に与えられているロッカーは適度な大きさがあるので、全く息苦しさがない。
「何かあった時のために監視カメラの映像を見ているのはいいんですけど、遣る瀬無い気持ちが募るばかりで」
「……そうだな」
店内でのプレイは厳重にカメラが回っているため、安心することは出来た。外泊や出張サービスの場合はその枷が全くないので、客側との信頼関係が何よりも大切になる。だから、新規の場合は必ず店舗での予約が必須になるのだ。そして、順守してもらうマナーの説明が徹底して行われる。働く者の安全を第一に考えている主旨は分かるが、それを監視する立場としては辛いところだろう。
涼が受付の仕事に不満を洩らすのは、おおよそいつもナツが関係していた。
現在№3の位置にいるナツは、学生ということで出勤日数こそ限られているが、入る時間には予約が必ず埋まっていた。彼はウィッグと軽い化粧でも施せば女の子に見えるくらい整った造作の顔をしている。その顔立ちは愛らしく、性格や口調も年齢相応の真っ直ぐさがあった。
そのせいもあってか、たびたび変質的なストーカー被害に遭うと噂で聞いている。
ともだちにシェアしよう!