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第20話
大声で人の名前を呼ぶのはいったい誰だと、目線だけ声のする方へ向けると、そこにいは尻尾を振る幻影。
大型犬の印象を抱いていたヨシが駆け寄って来ていた。
世間は狭いと思い知ったばかりだというのに、この確率の高さに驚かされる。
「何してんスか?」
「……買い物以外に見えないだろ。それよりデカい声で呼ぶな」
「ぁ、え、えっと、すいません!」
「……今日休みなのか?」
「はい」
人懐こさが全く変わっていないヨシが葵の後をついてくる。それはまるで忠犬みたいだ。
レジカウンターで会計を済ませると、葵のやけに多いビニル袋の荷物を持ち、駐車場まで運ぶのを手伝ってくれた。基礎体力はある方だが、あまり重いものを持ちたくない本音もあった。
「うわ、これジャガーですか? 凄い格好いい!」
「……乗りたいか?」
こくこくと首肯するので、その過剰な反応につい笑ってしまう。飲み物だけを購入しているところを見る限り、もしかすると近所に住んでいるのだろうか。
「葵さんに外で会えるなんて思いませんでした」
「呼び方は教えただろ?」
「葵さん相手に“くん”付けなんて、出来ませんよ」
「なんでだよ」
「や、遠い人のイメージしかないんで」
「同じ職場で、今は隣に座ってんだから近いだろ」
「そうなんスけど、有名雑誌に載っていたの俺でも知ってますよ」
「知ってるなら、外で名前呼ぶのは控えようぜ?」
「……はい」
しゅんとうな垂れる様子は、耳も尻尾も力をなくしたようだ。
いつでも渋滞がノーマルモードの車道は、相変わらずのろのろとしか進まない。
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