20 / 38

第20話

 大声で人の名前を呼ぶのはいったい誰だと、目線だけ声のする方へ向けると、そこにいは尻尾を振る幻影。  大型犬の印象を抱いていたヨシが駆け寄って来ていた。  世間は狭いと思い知ったばかりだというのに、この確率の高さに驚かされる。 「何してんスか?」 「……買い物以外に見えないだろ。それよりデカい声で呼ぶな」 「ぁ、え、えっと、すいません!」 「……今日休みなのか?」 「はい」 人懐こさが全く変わっていないヨシが葵の後をついてくる。それはまるで忠犬みたいだ。  レジカウンターで会計を済ませると、葵のやけに多いビニル袋の荷物を持ち、駐車場まで運ぶのを手伝ってくれた。基礎体力はある方だが、あまり重いものを持ちたくない本音もあった。 「うわ、これジャガーですか? 凄い格好いい!」 「……乗りたいか?」  こくこくと首肯するので、その過剰な反応につい笑ってしまう。飲み物だけを購入しているところを見る限り、もしかすると近所に住んでいるのだろうか。 「葵さんに外で会えるなんて思いませんでした」 「呼び方は教えただろ?」 「葵さん相手に“くん”付けなんて、出来ませんよ」 「なんでだよ」 「や、遠い人のイメージしかないんで」 「同じ職場で、今は隣に座ってんだから近いだろ」 「そうなんスけど、有名雑誌に載っていたの俺でも知ってますよ」 「知ってるなら、外で名前呼ぶのは控えようぜ?」 「……はい」  しゅんとうな垂れる様子は、耳も尻尾も力をなくしたようだ。  いつでも渋滞がノーマルモードの車道は、相変わらずのろのろとしか進まない。  

ともだちにシェアしよう!