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第21話
ヨシはマンションの地下駐車場に停めた車から大量の荷物を部屋まで運ぶことも手伝ってくれた。このまま帰すなど、どんな力関係が働いているのかと鍵を開けながら葵はあまり考えなしにヨシへ話しかける。
「時間があるならゆっくりしていくか?」
「はい!」
葵が話しかけた内容に遠慮を見せた初対面の一度を除いて、何でも嬉しそうに肯定の返事ばかりを返すので、つい甘やかしてやりたくなる。
日を追うごとに、しだいに明るい時間が長くなっていた。
既に夜へ差しかかる時間帯だというのに、カーテンを開いた先の空は多少陰りを帯びている程度のノスタルジーめいた水色の空だ。
「葵さんって、料理するんですか?」
「呼び方」
「……葵、くん」
「最近はサボり気味だったから、たまには腕を振るおうと思ってな」
運転技術は少しも落ちていなかった。
一度体に刻んだものは時間が経っても定着しているものだとどこかで聞いたことがあるが、どうやら本当のことのようだ。さて、料理の方はどうだろうか。
テーブルの上に買った物を並べていく。適当に選んだつもりだったが、どうやら必要な材料は揃っていた。それを眺めながら問うヨシの言葉に鋭く訂正を入れさせると、渋々と言った呼び方をしていた。
梁木さんは“さん”呼びなのにとぼやかれる。
スタッフとキャストでは立場が全然違うものだと、ゆるりと返す。
そのうちヨシにも分かるだろう。
「人の手料理って食える?」
「はい!」
葵の言うことに対して、必ず一欠片の迷いもなく同意を示してくる。
その絶対感がどこからくるものなのかと、ふと疑問に思う。表面的な大衆メディアで形作られてしまった、名前と顔だけのものだろうか。いつもみたいに。
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