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第34話

 詰め込んだ感じはするものの、きれいに整頓された色彩溢れる明るい室内だった。  リビングのソファに腰かける涼の隣に座る。すると、タオルで水気を取った腕にジャンボサイズのキズパワーパッドが貼られた。傷口は怖くて見ていない。 「大丈夫ですよ。この傷なら目立つ跡は残りません」  テーブルの上には水の袋がハンドタオルと一緒に置いてある。元は氷水だったのだろう。それを使っていたはずのナツは涼の背中にしがみついているので、こちらからは見えない。 「葵さん、あの、撮影の方は?」 「ああ、今日で終わった。疲れてたし、このまま寝ちまいそうなくらい眠い」 「たぶん眠気で痛みが軽減されたんですよ」 「普通痛みで眠気が飛ぶんじゃねェの?」 「その前に体力使っていたでしょう」  確かにろくな抵抗すら出来ないほど体力は削っていた。体力と聞くと、涼の引き締まってはいるものの、細腕からは想像出来ない力を考えてしまう。もしかすると空手などの武芸でも嗜んでいたのかもしれない。  氷が溶けていることに気付いたナツがそれを手に取り、涼の後ろからキッチンの方へと行ってしまった。その後ろ姿を見つめる涼の視線はどこまでも優しい。 「よくあそこにいるって分かったな」  怒らないでくださいね、と前置きがかかる。 「以前葵さんのスマホを借りたじゃないですか」 「ああ」  「その時にGPSのアプリを入れていまして……昨日のナツくんのことがあったので、今日は一日葵さんがどこにいるのかずっと見ていたんです。すみません」  決して謝る必要などない。追跡機能のアプリは消させてもらうが。 「俺の心配までしてくれて、ありがとう」  撮影が入っていることは店側にも伝えていた。そのため、位置情報を見ていた涼が長時間の拘束の後にビルから出た直後に細い路地に入り、動きのないことを不審に思ったのだろう。念のために店に電話をかけてから現場に向かったそうだ。  氷入りの麦茶を入れたグラス三つをトレイに乗せて戻ってきたナツが、葵の横に座った。  涙が拭われた顔は痛々しさだけが残っている。 「怖い思いさせて、ごめんなさい」  小さく絞り出された声に胸が掴まれる。  その小柄な体躯をつい抱き締めたい衝動に襲われてしまう。その代わりに彼の頭を撫でると、そのまま葵の胸に顔をうずめ抱きついてきた。  

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