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第二話 雀荘の男 /1

「ロン。国士無双だ」  オーラスだった。匠は男の言葉を絶望的な思いで聞いた。どうしてここで役満か。白はもう三枚出ているから安全だと、何の警戒もなく捨てたら、これだ。 「二十万。あるのか、君」  銀縁眼鏡をかけた頭の良さそうな若い男が、立ち上がって匠を見下ろす。スーツを着ているから会社帰りのサラリーマンかも知れない。両脇で打っていた男達は、関係ないと言わんばかりに席を離れていく。匠はふてくされた表情で男を見上げた。 「……ないよ」  賭麻雀だった。最初は負けても千円程度だったのだが、ツいていたからレートが上がっても付き合った。自業自得だ。 「じゃあ、体で払ってもらおうかな」  男は小賢しそうに笑う。ついてこいと促す男に、匠は大人しく従った。漫画の世界なら暴力を受けるのだろう。常識的に考えれば、労働を課せられる。どうでもよかった。抵抗するのは面倒だ。  小奇麗な車に乗せられ、到着したのは高級マンションだった。居住地だ。働く場所など見つからない。エレベーターで五階へ上がり、男は通路の一番奥の扉を開ける。

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