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第二話 雀荘の男 /2

 普通の家である。自分は何をしにここへ来たのか。匠は無言で男を見る。男はリビングに鞄を置きスーツの上着を脱ぐと、匠を振り返った。 「逃げたりしないんだな。顔に似合わず馬鹿正直なんだか」  男が匠の長い髪にさらりと触れる。これから何が起こるのか、わかった気がした。それでも無表情で匠は男の後についていく。寝室だ。窓の向こうから月明かりが差し込んでいる。電気もつけられない暗い部屋、肩に手を掛けられてよろめき、ベッドへと倒れ込む。 「二十万分、払ってもらう」  始まりはキスだった。男のキスなど初めてだった匠は、わずかに嫌悪を感じ、そこでやっと抵抗する。押し退けて、後ずさる。男の顔は暗くて見えない。だが余裕の声音は変わらない。 「払うのか?」  もう、逆らいはしなかった。ただ、初めての痛みと感覚に素直に反応していた。 「確かに、貸しは返してもらった」  タオルケットをかぶせられ、匠はベッドに静かに横たわっていた。男はその隣に座り、匠の前髪を優しく横に梳く。 「名前は?」 「……齋明(さいみょう)(たくみ)」 「本当に馬鹿正直だな。俺が極悪人だったら、君の人生滅茶苦茶になっていたかも知れないぞ」  それでも構わない。いっそ滅茶苦茶にして、この世から消して欲しい。 「齋明、またあの雀荘に来るか?」  行こうか、行くまいか。考えは定まらない。どうでもいいからだ。 「俺は来て欲しいな。また賭けよう。君が負けても、金を払う必要はない」  男は匠の顎をとらえて深く口づける。そしてまた余裕の声音で告げた。 「体で払ってもらえれば」  この男は、自分の体に金銭価値があるというのか。愛しそうに自分の髪を撫でる男を、匠は闇の中でぼんやりと見上げた。  来て欲しいと、男は言った。匠の足は、再びあの雀荘へと赴く。彼が望むなら、この体は動き続ける。

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