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第六話 日常 /4

 駅裏のロータリーに降りると、匠は黒のBMWの助手席に乗り込む。運転席の野木崎はスマートフォンをダッシュボードに乗せると、 「毎度おまえ、よく来るなぁ。バカじゃねーの」  と言い捨てながらウインカーを出す。  近郊のホテルで高級な部屋に入るなり、 「すっかり忘れてたけど、匠と初めてヤった時、録画はしなかったけど録音はしたんだよな」  などと言って、おもむろにスマートフォンから情事の音声を流し始める。  匠がスマートフォンを取り上げようと手を上げると、野木崎は上機嫌に声を上げて笑った。  行為は激しい時と優しい時がある。  猛烈に羞恥心を煽ったり、ただ無言で匠を愛でたりする。  彼は精力旺盛に見えながら日に一度しか自分を抱かない、その理由はなんとなくわかった。  先週、野木崎は行為の途中で仕事の電話を取り、意外にも未練もなく中断して部屋を出て行ったのだ。  野木崎が自らの行動を『全部本当だ』と言ったのは、嘘ではないのかも知れない。  初めて彼に対して感じた『責任感のある大人』という印象は、間違いではなかったのだろう。  誰でも良かったと言い、ストレスの捌け口として自分を抱いている。  だが今は、実際に自分の身体を気に入って、自分を抱きたいと感じているのではないだろうかと、匠は不本意にもうぬぼれる。  野木崎の善意と悪意の源にある感情はわからないし、その意思が生まれるタイミングが全くもって計り知れない。  それでも。  情を返すことも求められず、過剰な返報も与えられず、偽りなく身体を必要とされているようなこの感覚。  それは匠にとって、不愉快ではなかった。

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