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第七話 狼狽 /4

 店を出て、徒歩で近場のホテルに向かう。  匠は憂鬱なまま、野木崎の背中を追った。あちらこちらで人溜まりが行く手をさえぎる。  野木崎を見失う。場所はわかっているから急ぐこともない。雑踏がやや解消して、目を細めて再び野木崎の背中を探した、その時。  ダウンジャケットのフードを勢いよく背後に引かれた。振り向くと、同年代の派手で高圧的な男が二、三人、明らかに自分を敵視している。 「何見てんだよ」  定型句を口走るのがドラマのようで、恥ずかしくないのかと匠は変な心配をしてしまう。このようなものに初めて遭遇したので、現実味がなかった。 「別に見てないけど」  答えるとテンプレートのように胸倉を掴んでくる。揺さぶられてやっと、緊張が走った。両脇で怒鳴る声音がどうしてか恐怖心を煽る。何を言えば話が通じるのだろうと、怖気付き余裕のない頭で考える。  だが間を置かず、胸倉を掴んだ男が急に激しくよろめいて、匠と共に地面に倒れこんだ。いましめが取れて振り仰ぐと、逆上した左右の男たちが一人、一人と野木崎の蹴りと拳を受けていた。 「喧嘩とか久しぶりー」  倒れた男に更に追い討ちをかけ、拳を構えて笑いながら言う野木崎が、一瞬匠を見る。多分、今のうちに逃げろと言うことだろう。  周囲が野木崎達を傍観する中、匠は何者にも見咎められずにその場を離れた。

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