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第七話 狼狽 /5

 ホテルのロビーで待つと、野木崎はすぐに現れた。息を切らして拳をさする。 「匠、目つき悪いからいつも絡まれるだろ」 「初めてだよ」  平然としているこの男が、何故だかとても苛だたしい。 「さっきの奴ら、まだ俺に何もしてなかったんだけど」 「(から)んでただろ、正当防衛で合法的に殴れるチャンスじゃねーか」  つまり、助けに入ったのではなく、殴りたくて殴ったということか。 「怪我したり、通報されたらどうするの」  その問いに、野木崎は事も無げに言った。 「俺見てわかんねーの? 警察なんてしょっちゅう世話になってんだよ」  イライラする。  不謹慎な人間だと認識している。 『死ねばいい』などという単語をためらいなく使い、他人を物理的に攻撃できる人間だとしても、何もおかしくはない。  だから、それが不快だとは一切思わない。  ただ、何故か律儀な人格が垣間見えるから、反社会的な行動が彼を社会的・肉体的に傷つける可能性が惜しまれる。  その気持ちに気付いて、不愉快になった。  野木崎は、自分が身を案じる必要などない人間だ。

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