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第八話 非日常 /4

 母親からは度々(たびたび)かかってくるが、父親からは恐らく一度もかかってきていない。年末だから帰って来いと言われるのが目に見えていたが、藤花に対して付き合うか否か答えることを先送りしたくて、思わず電話を取る。  ──父親は、夕方からニュースを見なかったか、( もとい)が怪我をした、と言った。  母親と共に酷く動揺したため、匠の情緒を懸念して連絡することを迷っていたと言う。  処置は終わっている、意識もあって通り魔から連想するほど悲惨な事態ではないと言う。家族なら顔を見ることができると言う。  病院の場所を聞く。ターミナル駅から普段乗らない路線で二駅ほど先。 「今すぐ行くから」  言って、電話を切る。  幸い、まだギリギリ電車が通っている時間。  急いで着替え、藤花に鍵を渡してアパートを出る。送る時間の余裕はない、だが通り魔事件があって一人で帰すわけにもいかない。  電車に乗り込む。  終電間際の上り電車はほとんど人がいなかった。  座席に身体を沈める。  電話を取ってから初めて身体が止まったように思う。  全身から血の気が引いて、呼吸をすることすら忘れそうなほど頭が働かない。  匠は両手で顔を(おお)って、目的地までの道のり、寒心を耐えた。

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