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第九話 自覚 /1
深夜の大病院は、がらんとして生暖かった。異様な静けさに、急に頭が冷静になる。
自分がここに来てどうなるというのだろう。
痛みを引き受けることなどできず、心を支える自信もない。
何の心構えもないまま、聞いていた部屋を訪れる。
テーブルやソファが備えられたやや広い個室、父親と母親は神妙な表情で付き添っていた。兄は、眠っている。
兄は手を負傷しながらも加害者からすぐに凶器を奪った。しかしその後、先の尖った靴で蹴られた際に肋骨が折れ、肺を損傷したという。
それでも兄は加害者を逃さなかった。人通りが多い場所なのに、負傷者は兄だけだった。
厚手のコートを着ていたことと、加害者が刺すのではなく切りつけたことが幸いだったそうだ。
水色の病衣が兄を弱々しく見せる。その袖、右手から腕にかけて包帯が巻かれている。見たこともない医療器具がいくつか身体に繋がっているのが痛々しい。
顔色は悪くはなく、穏やかに規則正しい呼吸をしているのを見たが、安心することができなかった。
泊まることはできないため、両親は一旦家に戻るという。匠も来るように言われたが、まだ親には抵抗があったので断った。
兄が匠に、精神科に一人で忘れず行くように言っていたことを聞き、いつもの兄だと少しだけ安堵する。
救急外来のガラスで隔離された待合室に吸い殻入れを見つけて、立ち寄る。
長椅子に掛けて煙草に火をつけ、不安を少し、煙と共に吐き出した。
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