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第九話 自覚 /2
結局帰る気になれず、朝まで待合室に居座った。
いつの間にか夜がだいぶ明けている。
病院内に響く足音が増える。
面会時間は何時からなのだろう、家族なら今日も時間外でも構わないだろうか。
また一本煙草を吸い始める。残り少ない、売店はいつ開くのだろうか。病院に煙草などは売っていないだろうか。
「おまえいいトコに来た! 煙草よこせよ」
突然聞こえるはずのない声がして、匠は心底驚いて顔を上げた。
野木崎だった。兄と同じ病衣を着て、手のひらを合わせて喜色を見せている。匠は戸惑いながら、長椅子に置いた煙草とライターを渡す。野木崎は上機嫌でそれに火をつけた。
「アイコスだから部屋で吸ってもいいかなーと思ったんだけどさー、何回か看護師に見つかって、昨日取り上げられたんだよね」
煙草を吸っている人間がいたらわけてもらおうとここに来たらしい。喫煙を止められたわけではなく、場所が悪かったのだろうか。判断できない。それよりも。
「何で、ここにいるの?」
何がどういうわけでここにいるのか、寝ていないこともあって可能性が一つも思い浮かばない。野木崎は煙を吐き出して、言った。
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