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第九話 自覚 /3

「去年も今年も健康診断引っかかってたんだけどさ、面倒で行かなかったら急に腹痛くなって。紹介状書かれてソッコー入院させられた」  自分と会う暇があったら病院に行けば良かったのにと、匠は(あき)れる。一昨日連絡が来なかった理由、それ以前に睡眠障害を訴えたり、夜遊びが激しそうでいて控えめだったのは、本当に体調が(すぐ)れなかったからではないだろうか。 「匠のほうがこんな朝っぱらからココにいるとか、おかしいだろ」  問いに、匠は煙草を水の入った吸い殻入れに落として、答えた。 「兄貴が昨日、通り魔事件に巻き込まれて、ここに入院してるんだよ」  野木崎は驚きも(あわ)れみもしなかった。 「その通り魔、勇者だな。俺だったらあんなデカいヤツ襲わねーよ」  こちらは兄の加減が気になって身動きが取れないというのに、非常に調子が狂う。でも、それなら。 「兄貴が落ち着いたら、部屋に行ってやってよ。あんたが行ったら、いい気分転換になりそう」  きっと野木崎なら、変に相手に同情せずに、悲惨な出来事を忘れさせてくれるのではないか。 「匠が気分転換させてやれよ」 「俺は、何もできない」  ずっと、そうだった。兄の望むことなど今までにできた(ためし)がない。兄は大勢の人間を守ったのに、自分はこんな時なのに兄一人を支える力すら持ち合わせていない。

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