27 / 54
第九話 自覚 /3
「去年も今年も健康診断引っかかってたんだけどさ、面倒で行かなかったら急に腹痛くなって。紹介状書かれてソッコー入院させられた」
自分と会う暇があったら病院に行けば良かったのにと、匠は呆 れる。一昨日連絡が来なかった理由、それ以前に睡眠障害を訴えたり、夜遊びが激しそうでいて控えめだったのは、本当に体調が優 れなかったからではないだろうか。
「匠のほうがこんな朝っぱらからココにいるとか、おかしいだろ」
問いに、匠は煙草を水の入った吸い殻入れに落として、答えた。
「兄貴が昨日、通り魔事件に巻き込まれて、ここに入院してるんだよ」
野木崎は驚きも哀 れみもしなかった。
「その通り魔、勇者だな。俺だったらあんなデカいヤツ襲わねーよ」
こちらは兄の加減が気になって身動きが取れないというのに、非常に調子が狂う。でも、それなら。
「兄貴が落ち着いたら、部屋に行ってやってよ。あんたが行ったら、いい気分転換になりそう」
きっと野木崎なら、変に相手に同情せずに、悲惨な出来事を忘れさせてくれるのではないか。
「匠が気分転換させてやれよ」
「俺は、何もできない」
ずっと、そうだった。兄の望むことなど今までにできた例 がない。兄は大勢の人間を守ったのに、自分はこんな時なのに兄一人を支える力すら持ち合わせていない。
ともだちにシェアしよう!