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第九話 自覚 /4

 野木崎は煙草を捨てて、不機嫌そうな表情をした。 「あぁ? 俺が知る限り、匠が熱くなって何かしてんの、(もとい)のことだけだぞ」 「何もしてない」 「俺と(つる)んでることバレねーようにしたり、こうやって朝まで近くにいたり、全部基のためじゃねーか」 「こんなの、兄貴には何の得にもなってない。兄貴のためになるようなことしないと、意味ない」  匠のために自身を消耗する両親に、兄に、藤花に、匠は自身を消耗し返すことができない。  人を愛することができないから、愛を返すことができない。愛する力が不足した自分が、情けなくて、恨めしい。  どこにいても、誰といても、常にジレンマのようなものがつきまとう。  だから、この世界は生き(づら)い。 「なんだおまえ、基がありがたがるようなコトしてやんないと気ぃ済まねーの? 恩着せがましいな」  野木崎の言葉が痛い。  兄に感謝されたい、でも違う。 「恩に着せたいんじゃない。俺は恩知らずなことをしてるけど、でも兄貴のこと、ちゃんと好きなんだって、恩を返して、わかってもらいたいだけなんだ」  野木崎の言葉を否定したくて、思ったままに、その言葉が口を突いた。

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