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第九話 自覚 /5
兄の望みを何も叶えられないけれど、自分に寄り添ってくれていることに感謝しているということ。
それを理解して欲しかった。
少しでも行動で示して、わかっているよと、言って欲しかった。
「は? 基、愛されすぎてて腹立つんだケド」
突き放すような野木崎の物言いで、匠は不意に、我に返る。
自分は、兄を愛せているのだろうか。
愛しているなら自発的に、積極的に、相手の喜ぶ行いをするものなのだと思っていた。
それができなくても、愛していると言えるのだろうか。
「これもらってくぞ。向かいにコンビニあるから、新しいの買ってこいよ」
二、三本しか残っていない煙草とライターを手に、野木崎はその場を離れていく。
匠はその姿を見送ることは、しなかった。
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