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第十話 転機 /1

 匠は兄の病室、木製の椅子の肘掛にもたれながら、無意味に疲弊していた。  兄が何気なくこちらを見るだけで、安堵が(よみがえ)って涙が(にじ)む。  痛み止めが切れてきたと言って表情を歪ませると、不安が押し寄せて一層涙が(あふ)れてくる。  両親が懸念した状態とは多少異なるだろうが、随分と情緒が不安定になっている。今まで感じることができなかった感情が、過去の分まで一気に巻き起こっているような感覚。  泣きすぎて朦朧としながら身の回りのことを手伝って、回診を眺める。九時に近づくと兄に、検査の後に警察が来るから帰って休むようにと(なだ)められ、(うつ)ろなまま部屋を出た。

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