31 / 54
第十話 転機 /1
匠は兄の病室、木製の椅子の肘掛にもたれながら、無意味に疲弊していた。
兄が何気なくこちらを見るだけで、安堵が甦 って涙が滲 む。
痛み止めが切れてきたと言って表情を歪ませると、不安が押し寄せて一層涙が溢 れてくる。
両親が懸念した状態とは多少異なるだろうが、随分と情緒が不安定になっている。今まで感じることができなかった感情が、過去の分まで一気に巻き起こっているような感覚。
泣きすぎて朦朧としながら身の回りのことを手伝って、回診を眺める。九時に近づくと兄に、検査の後に警察が来るから帰って休むようにと宥 められ、虚 ろなまま部屋を出た。
ともだちにシェアしよう!