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第十話 転機 /2

 エレベーターを待ちながらスマートフォンの通知を開く。藤花からは実家に帰るので鍵を返したいとの連絡、野木崎からは四○六号室に来い、とだけ表示される。  匠は両手で目を(こす)りながら四階に降りた。藤花に十二時までに戻ると手短に返信して、エレベーターホールを出る。  ナースステーションで面会申請書を書こうとしたが、野木崎の下の名がわからない。だが、部屋番号を知っていたので面会証を受け取ることができた。  四○六号室。六人部屋で、『野木崎賢一』と記された札が掲げられている。  野木崎は開いた入り口間近、右手のベッドの上で、私服で転がりスマートフォンを眺めていた。ノックをすると起き上がり、匠を凝視する。 「おまえは俺を誘惑してんのか!」  この男が人の表情の変化に敏感であることを忘れていた。自分は泣きすぎて、酷い顔をしていたのだろう。 「なに泣いてんだよ」 「兄貴が元気だったから、安心したら涙が止まらなくなった」  正直に言ったが、野木崎は馬鹿にはしなかった。何の言葉もなかった。 「あんたの名前、賢一って言うんだね。知らなかった」

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