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第十話 転機 /5
賢一は匠のベッドに勝手に横になり、片肘をついて部屋を眺めていた。
「なにもねー部屋だな」
テーブルに食料を置きその場に座り込むと、匠は部屋を見回した。私物は全部クローゼットに詰め込んだ。テーブルとベッドとテレビの他には、部屋を彩るものなど何もない洋間。
「いつ死んでもいいようにしてたから」
そんなに家が苦痛なら家から離れてみればよい、とカウンセラーに言われるままに、このアパートを借りた。体調と精神状態が悪かったため、親と兄が資金を出し、自分はアルバイトもしなかった。心苦しかったが、いつか自分に平穏が訪れるのではないかというわずかな望みにすがった。同時に、自分が死ねば、家族も自分も救われるのではないかと感じていた。
今は、瞼 が重く、何も感じない。
「さっきの女とヤってんの?」
不躾に賢一が尋ねる。
「うん、ごめん」
賢一との付き合いと並行して、藤花を抱いていた。いくら賢一が非常識でも、この状況は不快だろう。
「別に。おまえみたいなのはメンヘラビッチって言うんだろ」
何となく違うのではないかと感じたが、否定はしなかった。
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