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第十話 転機 /6

「誰かに必要とされたいけど何もできないから、どうにか対等になれるセックスって手段に出てんだろ」  そこは納得できた。自分にできることは、それだけだった。 「自分が嫌いだから、不道徳なコトして自分を傷つけて、満足もしてるんだろ。合ってる?」 「たぶん、合ってる」  自分を傷つけないと、相手の損失と釣り合わない。身体を傷つけるとまた兄を失望させる。だからきっと自分は、心のほうを傷つけた。  なんて虚しいことをしているのだろう。それでも傷つけることで、救われていた。自分はどうしようもなく無能であると絶望まではせずに、生き続けることができていた。 「でも匠がビッチで良かったよ俺は」  起き上がった賢一が匠に手を差し伸べる。ベッドに引き上げられて、不自然な姿勢のまま向き合う。 「すげーヤりたかったから、簡単にできて助かった」  賢一の表情の意味は、読み取れなかった。無表情だったが、(いつく)しまれたようにも感じたし、(さげす)まれているようにも感じた。そのまま、ベッドに伏される。賢一はベッドに腰掛け、電子煙草を取り出した。 「眠いなら寝ろよ、寝たらイタズラしとくから」  匠はダウンジャケットを脱いで、掛布団を肩まで引き上げる。  言われた通りに目を閉じると、すぐに睡魔が訪れた。

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