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第十一話 得心 /2
『そうだけど、遊んでる時はすごくいい人だったんだよ?』
良い人間だというのも知っている。酷い人間だというのも知っている。だから忠告したというのに、それでも会ったのだ。自分のことを棚に上げて他の女に取られたと文句を言う筋合いはないはずだ。
藤花は反省などしていない様子で言葉を続けた。
『でもさすがに酷いでしょ? あの人、今まで他になに悪いことしてきたの?』
匠は、無性に苛立ちを覚えた。藤花は、匠が全ての人物と繋がりがあるから、共感して欲しくて電話をかけてきたのだ。匠の立場を全く無視して、自分本位で立ち回っている。
それでも、匠は藤花が尋ねた件を回答した。
「脅迫とかして、男と無理矢理寝たりしてた」
『えっ、ちょっと引くんだけど。最悪。それ早く言ってよ』
言う暇もなく行動を起こしておいて、こちらが悪いような言い分。その上、『引く』と、『最悪』。
「男って、俺のことだけどね」
『えっ?』
絶句の後に、電話が切れる。自分は聞きたくない話を律儀に聞いたのに、この女は断りもなく切ってしまうのか。
絶望的に気分が悪い。
同じ気分にさせたくて、自分の身の上を話してしまった。
でももう、いい。長引かせていた無意味な関係が、やっと切れた。
匠は今すぐアパートへ帰ることにした。
このような気分は、賢一と過ごせばきっと、忘れさせてくれるだろう。
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