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第十一話 得心 /3

 賢一に今からアパートに戻ると連絡して、実家を出た。  電車に乗り三十分ほどでアパートに着くと、ベッドに伏して溜息を吐いた。まだ、気分が悪い。  複数の人間と寝ている自分に、藤花が責められるのだろうか。そんな資格がなくても、どうしようもなく苛々する。  それほど待たずに、賢一がアパートに到着した。ここから直接病院に帰ると言って、大きめの荷物を手にしていた。  賢一にクッションを差し出して、自分はベッドに腰掛けた。そして、報告する。 「さっき、藤花から連絡きたよ。賢一が最悪だって」  賢一はクッションを抱えて床に転がり、煙草を吸い始めた。 「あっちが俺のfacebookわざわざ調べて、誘ってきたんだぞ。俺、あいつの名前知らなかったからな」 「琴音って子は?」 「藤花が年上の男と遊んでるトコ、見せつけたかったんじゃねーの。自分で呼んだんだよ」  最近まで知らなかったが、藤花はそういうことをする人間だ。今回の件は、自業自得だ。 「琴音も酷いよ。藤花が匠と付き合ってんの自慢するから腹立ってたとか言って、俺のとこ誘ってきてさ。女、怖すぎだろ」  そして賢一は、悪いことをしたとは全く思っていない。ただ、それはわかっていた。 「琴音は普通だったけど、藤花は悪くなかった。痩せてて胸なくて。匠もこの顔見たんだなと思ったら、なんか燃えたし」  一般的に、例えば自分と藤花が真っ当な付き合いをしていたのなら、自分は彼女を寝取られた上に捨てられたという最悪の案件だ。実際には藤花に怒りが向いているので、賢一には怒りを感じないが。 「避妊はしたの?」 「当たり前だろ。匠にも毎回してるだろ」  する意味合いが多少違うのだが、本当に最悪なことにはなっていないようだ。  いつも思う。賢一は悪人なのに、善人だ。  とても、損をしている。藤花も『すごくいい人だった』と言っていた。評価の高い人間なのに、自分で自分の評価を(いちじる)しく損ねていることが気にかかる。 「賢一は、こういうことをして、罪悪感はないの?」  思わず尋ねて、そういえば本人が実際どう考えているのか聞いていなかったことに気づく。誤解している可能性がある、が。 「罪悪感はないな」  賢一は平然とそう答える。そして。 「悪いことだってのは、まぁ、わかってる」  矛盾したことを言い出した。 「よくわからないんだけど」

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