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第十一話 得心 /4

 問うと、賢一は煙草を捨てて起き上がり、クッションを抱えて項垂(うなだ)れる。頭を上げると、一つ深呼吸をして口を開いた。 「俺がやってる世間体の悪いコトは、煙草と一緒なんだよ。悪いってのはわかってるけど、吸った後の気分がいいから、やめられない。やめたいとも思わない」  とても慎重に言葉を吐き出したように見えた。  煙草と同じだと言うなら、自分にもわかる。吸っていることに罪悪感がないうえに、自分にとって必要なものだ。自分の中の苛立ちや不安を、少しでも吐き出して楽になるためのものだった。やめることのほうが、自分にとっては損害だ。  賢一の行動が、緩やかに、腑に落ちる。  やりたいことを好き勝手するほうが、きっと自分の信頼を損なうことよりも重要な行為なのだ。やっていることはとても理解できないが、思いとどまるほうが大きなストレスになるのだとしたら、そのツケを払ってでもやってしまったほうが良いと考えているのではないか。 「煙草を吸うのが悪いと思ってるなら、身体を壊したり周りに迷惑かけるの覚悟してるんだろ。なら、世間体の悪いことして、相手からの評価を落とすのも覚悟して、それでもやってるってこと?」  賢一はテーブルに肘をつき、目を(つぶ)る。ややあって、苛立たしげに匠を睨め付けた。 「そうなんだけど? なのに匠の俺への評価がそんなに落ちてないように見えるのは気のせいか?」 「気のせいじゃないよ」 「俺はおまえの女とヤってるんだぞ? 普通ぶん殴るだろ?」 「別に彼女じゃないし。藤花のほうにイライラしたから、俺が賢一にされたこと教えてやった。縁、切れたと思う」  賢一は、自分ではなく藤花を切ったと聞き、気のせいではないと納得したようだった。匠はどうして賢一の評価が落ちていないのか、考えて、言葉にする。 「俺も最初は賢一にがっかりしたけど、実際は俺、そんなに酷いコトされてない。兄貴に、賢一との関係、知られてない」  彼女を寝取られてもいない。暴力を受けたりもしていない。むしろ、兄に対する考えを客観的に聞いてもらったり、絡まれたところを助けられたりしている。 「俺ほら、メンヘラビッチなんだろ。賢一を嫌いになるより、身体を必要とされてるほうが優先されたんだ。一緒にいても、賢一が最低なのはわかってるから、それ以上は失望とかしなかった 。逆になんで、俺と違って社会に適合できる人間なのに、こんなもったいないことするんだろうって腹立った」  自分が()んでいなければ、賢一の真っ当な部分を見る前に、不当な部分に嫌気が差していたかも知れない。

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