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第十一話 得心 /5
賢一は苛立った表情のまま、テーブルに伏して匠から目をそらす。
「俺はどう考えても社会不適合者だろ。今まで連 んだヤツには、もれなく暴言吐かれるかボコられるかしてんだぞ」
「そんなことされてたの? けど俺は、賢一が自分でやったことに自分で責任取るなら、好きなようにすればいいって思った。満足する生き方をしないほうが、賢一にとってはもったいないことなんだろ」
賢一はしばらく無言になる。伏したまま目を瞑 り、溜息を吐く。それからやっと、口を開く。
「正直言うと」
居住まいを正して、面倒そうな表情で続ける。
「今まで好き勝手やって、愛想尽かされてリセットして、リスタートしてまたやらかしての繰り返しだった。リセットされないと、この先どうしたらいいのかわからない」
賢一はゆっくりと立ち上がると、ベッドに腰掛けた匠を押し倒して馬乗りになる。ただ、何かをしようという意思は感じない。
「この先さぁ、俺が匠に本気になったらどーする気?」
本気になるとは、遊び相手ではなく恋愛対象になるという意味だろうか。賢一が、無能で薄情な自分に間違いで惚れてしまったら、どうするか。
「本気になるとか、ありえるの?」
ありえない。自分の中に、他人に好まれ得る要素が全く見当たらない。それに、身体だけの関係だから今が成り立っているのだ。賢一からの愛情が欲しいとは思わないし、自分が賢一を愛せるとも思えない。
賢一は一転、驚いたような情けないような表情になった。
「えぇー……? マジで? 散々誘惑しといて、心当たりないとか言うのか?」
「ない、よね?」
「えぇー、マジかよ」
匠から降りると、賢一は背中を向けて座り込み、電子煙草をセットし始める。匠は起き上がり、乱れた前髪を耳に掛ける。
薄い煙を吐いてから、賢一は、
「まぁ、俺もどうすればいいか困ってたから、放置でいいか」
と呟 いた。
匠は、この件が現状維持になったことに安堵する。
賢一がもし本気になった時、過去に藤花へ感じた『愛せない罪悪感』を覚えることが、怖かった。
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