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第十二話 厚謝 /1

 賢一が病院に戻った翌々日、匠は兄の見舞いの後、兄と共に賢一の病室を訪れた。  賢一は入院している身なので長居はしないが、何度か兄の元を訪れていたらしい。匠が賢一の見舞いに行くと言うと、兄も話があるからと同行した。  この兄が賢一の悪事を見逃せるのかと気になり、それとなく尋ねると、賢一の評判が落ちたのは大学に入ってからだと言った。  基と高校の三年時のみ同じクラスだった賢一は、成績が良くサッカー部の部長でもあったので、教師や同級生、後輩からも評価が高かったらしい。大学でやんちゃをしていたと聞いたが見たわけではないし、今は人並みに働いているようなので評価は高校の時のままだと兄は言う。  このまま賢一が兄の前で失態を見せないことを、匠は密かに願った。  賢一は以前と同じくベッドに転がってスマートフォンを眺めていたが、以前と違って点滴に繋がれていた。ただ、具合が悪いようには見えない。起き上がり、スマートフォンを枕元に投げると、 「どうした?」  と、普段と変わらない声音で聞いてくる。  匠が丸椅子を基に譲ると、座った基がそれに答えた。 「俺、あさって退院になったから」  兄の怪我は非常に幸いなことにそれほど酷いものではなく、自宅療養が可能になったのだ。聞いた賢一は不機嫌な顔をして食いついた。 「なんで通り魔に襲われたヤツが、五体満足の俺より先に退院すんだよ。俺なんか退院する日、延期になったんだぞ」  点滴をするほど症状が悪化しているのだろうか。外泊時にやはり無理をさせるのではなかったと、匠は自分の配慮のなさを悔やんだ。好き勝手してもいい、責任を取ればいいと言ったが、賢一が辛い思いをするのはやはり良い気がしない。 「心配、なんだけど」  思わずそうこぼすと、賢一は心配の質に反してやたら活発に反応した。 「あ! 感染(うつ)る病気じゃねーから、匠は心配すんなよ」  その不遜な態度が感染する経路に関していると思い至ると、匠は焦った。兄が隣にいるのだ。 「自分の心配じゃなくて、賢一の心配をしてるんだけど」  慌てて心配の対象を詳細に伝え直す。しかし、次に反応したのは兄だった。 「賢一じゃなくて、賢一さんだろ」

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